第19話  ダンジョンの恩恵は世界の安寧へと導くのか、はたまた疑心暗鬼の温床になるのか?

ダンジョンを探索すると、いろいろな事が分かるかも。

第1章  初級探索者編

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第19話(その1)

 雫斗は、隠し通路の発見と【叡智の書】を取得したことは、メンバーの皆には内緒にして帰宅した。昨日の今日でまた発見した事を伝えるのに気おくれした事と、鑑定をカードを介さず使える事が出来た経緯を、うまく伝えることが出来そうになかったからだ。 

 隠し通路にしても奥にあるドアにしてもどう説明したらいいのか皆目見当もつかないのだ、それならいっその事、全部検証してからまとめて説明した方が良いかもしれないと思ったのだ。【叡智の書】からうまい説明を引き出せるかもしれないと思ったのも事実だが、取り敢えず黙って居ることにした。 

 夕食も終わり、勉強も一段落していよいよ検証で有る。そのことを考えると勝手に頬が緩んでくる。心を落ち着けて保管倉庫から【叡智の書】を取り出す、タイトルは見た事も無い文字で書かれているが、スキルのおかげで確かに読める。 

 本の中央にはひげを蓄えた男性の顔が描かれていて、結構リアルな写実になっている、高ぶる気持ちを抑えて、最初のページをめくる。 

 最初のページには作者がこの本を作った経緯と使い方が書いてある、どうやら本の中身を見る為には契約の儀式が必要みたいだ。 

 試しに他のページを見てみると全部白紙だった、その時の雫斗は気がせいていて一瞬だけ罠の気配を感じたが、儀式事態簡単だった事も有り注意することが出来なかった。 

 その儀式とは、・・・自分の血を一滴、表紙に書かれている顔の口元に押し当てるだけと書いてあった。物は試しと親指に画びょうを刺して血を少し出すと表紙に書かれている顔の口元に押し当てた。 

 《ペロリ》。雫斗の背中に冷たい衝撃が走る、一瞬で飛びのき本との距離を開ける、指をなめられた気がしたのだ。注意深く【叡智の書】を見ているが、変わったところは無い。・・・いや、なぜか目が笑っている気がする、暫くすると本の中央から光があふれだし瞬く間に強い光で見ることが出来なくなってきた。 

 光が収まっても視力が戻らなくてしばらく無防備の状態が続いた、ほんの数秒間の出来事だが、雫斗には長い時間に感じられていた。 

 机の上には相変わらず【叡智の書】が鎮座している、変わっている様には見え・・・・いや顔が立体的に浮かびあがっているのだ。 

 その顔は雫斗を見据えていた、おかしなものを見る様に若干目元が緩んでいる気がしたが。「うっわ。なにこれ、気持ち悪い」動揺した雫斗は声に出して気持ちを吐き出していた、驚いた事を隠す意味もあったのだが、返事があるとは思いもしなかった。 

 「我に対して気持ちが悪いとは、大層ぞんざいなご主人も在ったものだな」

 喋ったのが本だと気が付いた雫斗は驚きと共に唖然としてしまった。つまり警戒心を解いてしまったのだ。 

 「え~と、本って話せる機能が有りましたっけ?」

 雫斗は気が動転していて、思わず意味の分からない事を聞いてしまっていた。 

 「我が名は、本などと言う陳腐な名ではない。失敬な主人であっても主には変わるまい、教えて進ぜよう。ダンタモルア・スマアセント・ド・ピニエラルソン・ヨアヒムと呼ぶがよい」雫斗は名前を言う前の言葉は理解したが、あまりに長い名前で呆けてしまった。 

 「へっ?・・・ダンタモ・・・すみませんもう一度お願いします」

 本の自己紹介と言う、あまりの衝撃に名前を記憶する事が出来ない雫斗であった。

 「・・・・覚えられないのであれば、ヨアヒムで良いぞ。又はグリモアールと呼ぶがよい」

 【叡智の書】の表紙の顔が真面目そうに、そう言ってきた。疑問に感じた雫斗は驚き”えっ?グリモアールって魔導書の総称じゃ無かったか?”そう考えた時。 

 「魔導書とは魔術に関するあらゆる分野の総称だな。我の名に相応しかろう、グリモアちゃんでもよいぞ」

 雫斗は最後の言葉でずっこけった。その拍子に完全に警戒を解いた、茶化して来る相手に、緊張するのが馬鹿らしくなったのだ。 

 「グリモアちゃん、君とコントをしている暇は無いんだけれど?」

 そう言って雫斗は少し怒っているぞ~と気持ちを伝える。するとグリモアちゃんは目玉をグルグルさせて居たが、しばらくして

 「コントとは、笑いを伴う寸劇、又は風刺や社説を機知に富んだ言い回しで、短い物語にしたものだな。ふむ!この世界の道化師は多岐にわたるのだな?」

 ”おお~、叡智の書の名前は伊達ではない様だ。地球の事なのに的確に指摘してくる”と雫斗は感心して聞いてみた

 「流石だね、何処からの情報なのかな?」

 何気なく聞いた事だが、帰って来た答えにげんなりした。 

 「ふふふふ。契約者の知識を拝借するなど、我に掛かれば造作もない事。しかしインターネットなる物の使い勝手の良い物よ、おおおおお~知識が流れ込んでくる~~」

 と恍惚の表情で言うヨアヒムに雫斗が若干引き気味に

 「カンニングかよ、考えている事を覗かれるのは嫌なんだけど? しかし、何処からインターネットに繋がってるの?」と雫斗が聞く。 

するとヨアヒムが考え深げに思案しながら。

 「思考とは己を昇華させる行為に他ならぬ、鍛え抜かれた心を他の者が覗き見ることなど、たとえ神であろうとも出来ぬものよ。しかしお主の様な精神の未熟な者には出来ぬことだな。わが主よ、契約者として忠告しよう。心を鍛える事だな、こう些細な事で動揺している様では、邪な考えが駄々洩れだぞ。・・・インターネットなる物には、ご主人のスマートフォンから繋がる事が出来るでは無いか」

自分のスマホが勝手に使われて居るのだが、その時は考えている事が全て知られて居る事に動揺してスルーしてしまった。 

 しかし的確な忠告ではあるが、雫斗は素直になれない気持ちになる、叡智の書のイメージが、顔の浮き出たおっさんを別にしてもかなり違うものに感じたのだ。 

 「え~と、ヨアヒムさん?。僕の考えている叡智の書と大分ギャップがあるんだけど」

 思った疑問を口にする雫斗。 

 「ふむ、まずはその溝から埋めねばなるまい。なんでも聞くがよいぞ、主よ」

 ドンと来いと強気の叡智の書。 

 「すべての事柄がその本を読めば分かると思っていたんだけど、どうなの?」と雫斗が聞くと。

 「我の本質は知識の探求と蓄積では在るが、知りえた事を無条件でホイホイ伝えているのであれば、主の為には成らぬ。その為わが本の中身は白紙となっている、主が経験した事柄の補完と記録が我の役目と心得ておる。其方が経験したことで疑問に思った事はなんでも聞くがよい、素直に答えるとは限らんが、我は契約上嘘は付けん」と悪戯っぽく答えるグリモアちゃん。 

 いちいち感に触る言葉に少しイラつきながら、雫斗は今日の出来事を聞いてみた。

 「昨日取得した鑑定だけど、LVアップしたわけでも無いのに、今日急に変わったのはどうしてだい?」

 「鑑定のスキルは、物の実体を知りえる事が本質と言える、したがって探知系のスキルとは相性がよい。気配察知と結合して状態が変化しただけであろう、その証拠に情報の深遠は変わらぬ」

 雫斗が思っていたこと大差は無いが、確かに確証を言われて安心はする、しかしこの胡散臭い、オッサンじみた性格の叡智の書の精はいまいち信用が出来ない。ここはヨアヒム自身の言うとおり検証の補完的な使い方が無難だろう。 

 「情報の深遠と言う事は、鑑定のスキルのランクが上がると知る事柄が増えるって事?」と雫斗が聞く。 

 「当然である。ランクアップとは一段上に昇格するのと同じであるからな、ランクが上がっても何も変わらなければ意味が無かろうに」とヨアヒム。

 いい加減頭にきてゴミ箱にでも放り込みたい衝動に駆られる、気持ちを落ち着けて雫斗は今日一番気になることを聞いてみた。 

 「ダンジョンで隠し通路を見付けたんだけど、あれで打ち止めかな?」

 ちょっと不安そうに雫斗が言う、ドアに浮かんだ文字を読んだわけでは無いため、確証はないがお宝が良かったこともあり、一番の不安はもう出現しない事である。 

 「その道は、昇華の路と呼ばれておる。己が躍進するのに必要と感じた事を実態化出来るやも知れぬ可能性を秘めた経路である故。その事からただの一度ということはあるまい」とヨアヒム。

 しかし彼が言うことは、確証なのか、惑わせて居るのか、いまいち信用出来ない言い回しをして来る、要するにまた探せば見つかる可能性があると言っているのか。 

 「ふぅん、そうかまた見つかるのか。明日探してみて見つかったら、今度恭平達も誘ってみよう」と雫斗が独り言を言うと。 

 「それはお勧め出来ぬやも知れぬ。本来自己を強化又は進化させることに於いて、他の介入は不適切である、よって複数人では路は開かれぬものと心得よ」と言うヨアヒムの言葉に雫斗は唖然とした。 

 「じゃーパーティを組んでいたら見つからないって事? 待てよ、今日はパーティを組んでいたっけ。そうか、一人だったから隠し通路? 昇華の路だっけ、その道が発見出来たって事か、見つけられる条件って、やっぱり鑑定スキルの取得かな?」そう聞いてきた雫斗にヨアヒムが答える。 

 「スライムの10万匹の討伐は最低条件ではあるな、その恩恵で鑑定のスキルが付いてくる。そもそも各々が試練を克服するのに条件が同じわけが無かろうに。個々の進化の道筋に近道や定石など無きに等しい、其方たちがダンジョンと呼ぶ深淵の試練に挑みし時から常に試されていると心に刻むがよい」

 そう言われた雫斗は思い悩む、条件が同じなら雫斗がやって来た事を伝えれば済むのだが、其々に条件が違うとなればどう伝えれば良いか雫斗は分からなくなってきていた。 

 不安そうな雫斗を気遣って、ヨアヒムが言う。

 「主人よ、どの道、深淵の試練に挑みし者はそれ相応の力を示さねば、深淵の試練に認められはせぬ。其方が道を示すだけでも攻略の糸口には成ろう」

 確かに知り得た事を其のまま伝える事しか出来ることはなさそうだった。 

 雫斗はもう一つの疑問を聞いてみた。

 「昇華の路の奥にある扉は、やっぱりワープゲートなのかな?。しかも出口が複数有るみたいなんだけど」

 「扉の転送される場所は、主人が次に邂逅した時の為にとっておくが良い。我とて主人の楽しみを奪う程、無粋では無い」

 ヨアヒムはそう言うが、雫斗にしてみたら、正解を聞いた方が楽で良かったのだが。そうはいっても、この臍曲がりのおっさんが、正直に話すとは到底おもえなかった。 

 そういえば、ヨアヒムがダンジョン、つまりヨアヒムの言う深淵の試練が認めるとか言って居たのが気になった。その事を聴こうとした時、接触収納に仕舞ってあったスマホが時を教える、当然バイブである。もう頭の中で鳴り響く音にはこりごりだ。今日の雫斗は【叡智の書】を調べる事に期待が大きかったこともあり時間を忘れそうだと用心してタイマーを掛けていたのだ、残念なオッサンのせいで期待外れには終わったが、知りえた事はかなり大きい。 

 「悪いヨアヒム。もう寝る時間だ」

 慌てた雫斗はスマホのタイマーを止めると、さっさとベッドへと入り寝息を立てる。高崎家は自衛隊にいた父親の影響か寝起きがすこぶる良い、眠った雫斗に机に上に置いていかれた【叡智の書】は一言。 

 「我を放置プレイとは。中々やるではないか、わが主よ」。 

 

第19話(その2) 

 ダンジョンを出て、雫斗たちと別れた百花と弥生が話しながら歩いている。どうやら雫斗の様子がおかしい事に気が付いた様だ、感の鋭い女の子たちである。 

 「今日の雫斗、少し変だったわね。何かあったのかしら?」と百花が言う。

 「そうね、同じことが前にもあったわね、何か見つけたんじゃない?」

 弥生は雫斗が接触収納を取得した時の事を指摘した。 

 「あの子も懲りないわね。どうせ後から皆に話す事に成るなら、最初から話せばいいのに。何を考えているのかしら」と百花がダメ出しをする。 

 「どっちにしても、雫斗の事だから隠し通すことは無いでしょうけど、気に入らないわね。いつか締めないといけないわ」

 百花が物騒な事を言ってくる、そうなると雫斗に逃げ道は無いので、弥生がフォローに回る。 

 「昨日の今日で、見つけた事を話すのに気後れしたのかもね?。どっちにしても何れ話すでしょうし、許してあげなさいよ」言われた百花も考えを改める。 

 「そうね、今回は見逃してあげるわ。それにしてもスライムを10万匹の倒すのって結構な苦行よね、倒しきるのに一体いつになる事やら、じゃーまた明日ね。」

 そう言って百花が家の方角へとわき道を逸れていった。 

 「またねー」

 一人になった弥生は少し考えた、何故スライムなのだろうかと、一階層にいる魔物ではあるが襲われる心配のない魔物の筆頭なのだ。襲われる心配がないとはいえ事故は起こる、纏わり付かれてけがをする人が年間で言えば数名ではあるが出る事はある、しかし亡くなった人がいるとは聞いた事が無いのだ。 

 無視をすれば問題ない魔物が、重要な位置を占めていることに違和感があるのだ。10万匹という相当な数を討伐することに、嫌気がさしている事も有るが他の魔物でもいい様な気がしているのだ。しかしスライム一万万匹で鑑定のスキルが覚醒する可能性があるなら倒すしかないのである。 

 そんなことを考えながら家に着いた弥生は、珍しく早い時間に京太郎お爺さんが帰っているのに気が付いた。

 「ただいま~。あらお爺ちゃん今日は早いのね」

 「ロボのやつがおらんからな、やつに捕まると簡単には開放してくれんからな」

少し嬉しそうに話す、なんだかんだ言っても自分の技術を受け継ごうとして来る人に教えることがうれしい様だ。 

 「そのロボさんからは、連絡は有ったの?」

 弥生が気にした様子で聞いてきた、やはり何処に行ったのか気になるようだ。 

 「おお~連絡があったぞ、明日の昼前には帰って来るそうだ」

 京太郎爺さんが嬉しそうにそう言うと。

 「向こうの会社と守秘義務契約をしてきたようだ、保管倉庫に10tは入ると言っておったぞ。明日は持てるだけ荷物を持ってくるそうだ、他は数日かかるみたいだな、重い荷物は陸送だとやはり時間が掛かるからな」

 それが陸の孤島と言われている雑賀村のマイナス点で、人員や軽量の荷物はドローンでの空輸で行えるため不便は感じないが、重量物の輸送が難点だった。 

 しかし保管倉庫に荷物を積んで空輸が出来るとなると話は変わってくる、後は保管倉庫のスキルがランクアップした時どれ程の重量迄詰めるのかが問題となって来る。 

 「そう、明日帰って来るの。う~~ん、じゃー明日は無理かな重力兵器は?」

 弥生と百花の一番の問題点は、打撃武器の調達である。岩に擬態する魔物の話を聞いた事で、注意して見ていた事も有り気配察知のおかげかは分からないが、怪しい岩がいくつか有ったのだのだ。泣く泣く諦めたのだが、よくよく見て核心を掴んだのだ、こいつはベビーゴーレムが擬態している岩だと。 

  

 残念そうに言う弥生を気遣って京太郎爺さんが。

 「明日は無理じゃろう。帰ってきていきなり制作できるとは思わんが、しかしロボの事だから分からんぞ。とりあえず明日聞いてみんことには何とも言えんな」と期待はするなと暗に仄めかす。 

 「分かったわ、でも残念ねいくつかベビーゴーレムが擬態した岩を見つけたんだけど。仕方がないわね、気長に待つ事にするわ」と達観したように言う弥生。 

 「そういう事だな、慌てても良い事は無いからな」

 そう言われた弥生は納得して自分の部屋へと入って行った 

 叡智の書を得てからの雫斗の数日間は困難を極めた、ヨアヒムの的確な助言?(罠なのか正解なのか良く分からない言い回しで答える為)を受けながら攻略を進めてきたが、時にスライムの大量にいる部屋へ誘い込まれ、スライムの大群に飲まれ掛けたり。時に喜び勇んで宝箱を開けたらその宝箱に齧られ掛けたりと、散々な目にあってきた。 

 それでも叡智の書と言うよりヨアヒムの助言には、初めての事象には道がいくつか潜んでいる様だった、要は道を的確に選べと言う事なのだろう。 

 それでも検証と言う意味ではいくつかの事が分かって来た、昇華の道は一日一回だけの邂逅の様だった。どうもヨアヒムの言葉を信じると他のダンジョンに入り直しても探し出せる訳ではないらしい。 

 その奥にあるドアに刻まれている、変化する文字は試練の間と宝物の間の2ヵ所で、嘘か本当かヨアヒムによるともう一か所あるらしいがほぼ開かないらしい。 

 運と実力と何かの気まぐれが無いと行きつく事が出来ないらしいのだが、詐欺の気配がうっすらと見え隠れしているのは雫斗の気のせいだろうか。 

 出ないと分かればやらないが、出るかも知れないと思わせると、つい遣ってしまう何処かのゲームのガチャにお金をつぎ込む心理を利用している気がするのだ。 

 雫斗にしても、ヨアヒムから其の事を聞かされたからには、昇華の道を探し続ける日々に成りそうだった。しかしその詐欺まがいの情報を別にしても取得できる経験値とお宝は魅力的だった、確かに昇華の道の名前に恥じない物だった、経験値を別にしても自分を強化できるものがわらわら出てくるのだ。これは一日一回だけにしたこともうなずける、まるでチートの道と言っても過言ではないと雫斗は思っていた。 

 本日は休日という事も有り、学校も休みでゆっくりダンジョン攻略を出来ると思っていたが、休日出勤している母親の悠美から呼び出しを受けた、どうやらチームSDS(雑賀村ダンジョンシーカ)の全員が呼ばれた様だ。 

 

第19話(その3) 

 村役場に着くと、全員が会議室へと通された。待っていた村長兼ダンジョン協会雑賀支部長の悠美にソファーに座るように言われて皆が腰を落ち着けた時。 

 「今日来てもらったのは、先日雫斗が発見した鑑定のスキルについて決定したことを伝えておきたくて来てもらったの。鑑定スキルの発動条件のスライム10万匹の討伐について、日本支部の一部の協会幹部に対して秘匿することが決まったわ。これは世界ダンジョン協会の認証済みで、つまりしばらくは一般には公開しない事に成ったわけ。そこで鑑定スキルの検証を君達にお願いしたいの、今のところ世界でスライムを一番倒しているのは君達だから」悠美が今までの経緯を簡単に話し終えた、確かに鑑定スキルの取得の為スライムを倒してはいるが、自分達のチームだけでは心もとない。 

 「ええ~?私達もスライムを倒して鑑定スキルのゲットを目指してはいますが。さすがに私達だけで検証する訳ではないですよね?」と百花が聞くと。 

 「当然よ、検証はこちらでもするけれど今は時期が悪いの。この村はそれ程でもないけど、都会のダンジョンでは、接触収納の取得に向けて1階層のスライムの討伐ラッシュなのよね、その上検証スキルの事を知られるとどんな事態に成るか想像も出来ないの。そこで討伐ラッシュが落ち着くまでは秘匿することにしたの」と悠美が答えると。 

 「ですが、出来れば深層を探索している高LVの探索者さんに、鑑定スキルを取得してもらってどんなスキルを取得しているのか確認した方が良くないですか?」そう弥生が言うと。 

 「当然その事も考えているわ、でも高LVの探索者となると時間的に調整が大変なの、どんなに早くても来週からになるわ。そこで鑑定のスキルの取得条件に関してどんな条件があるのか確定してほしいの、本当に誰にでも取得できるのか今のところ誰にも分からないわ」そう言った悠美だったが、胡散臭そうに雫斗を見る。どうも会議室に入ってきてから挙動がおかしいのだ、 

 当の雫斗は、会議室にな入ってから、いや入る前の、悠美に呼び出しを受けた時から嫌な予感がしていた。当然、鑑定スキルのことについて聞かれるとは思っていたが、これ程の大ごとになってしまうとは予想外だった。 

 しかし考え方に寄っては好機かも知れない、鑑定スキルが察知系のスキルと競合する事と、ダンジョン一階層に隠し通路が有る事を話すのは今しかない!!と決意したその時。 

 「雫斗!あなた何か隠しているでしょう?白状しなさい」・・・百花に先制を期された、自分から言い出すのと、問い詰められて言うのとでは雲泥の差がある。しかも隠し事が有る事を見抜かれての追及には雫斗のダメージが大きすぎた、観念した雫斗は冷や汗を流しながらテーブルの上に、今まで集めたお宝を並べ始めた。 

 スキルスクロールが6個、ポーションのカードが4つ、防具の素材のカードが2つとショートソードのカードが1つ。後は言語習得のオーブと火炎魔法のオーブと激流魔法のオーブの三つは使ってしまった為ここにはないが、聞かれたら白状しようと思っていた、最後に【叡智の書】をテーブルの上に置いて断罪を待つ。 

 次々出てくるものを見て、全員が呆れた顔をした

 「雫斗、あなた其れどうしたの?呆れたわね、そんなものを隠していたの?」と百花。

 「いやそれより、一階層からだろう? そこでこれ程のアイテムを三日で集めたのが凄いと思うぞ。これは革命を起こすな、ダンジョン攻略の」と恭平。 

 悠美と弥生は唖然として、言葉に出来ないようだった。桃花と恭平の説明しろと言う催促の形をした強迫に、恐れおののいた雫斗は。

 「ちょっと待って。順を追って説明するから」と一旦気持ちを落ち着けてから話し始めた。 

 「まず鑑定のスキルだけど、察知系のスキルと相性がいいみたいなんだ、気配察知と結合して魔物に関しては直に見た時にその魔物の情報が見える様になるんだ。後、空間把握というスキルとも結合しやすいね、そうすると異常な壁を見つけることが出来る様になるんだ」

 そこまで言ったとき、色々つ込み処が有るのだろう、恭平が聞いてきた。 

 「待て待て、結合って何だい?スキル同士がくっ付いたりするのか、そもそも異常な壁って何だい?」

 聞いてきた恭平には悪いがいちいち話が躓いては説明が終わらない、取り敢えず最後まで聞いて貰ってから質問してもらう事にしてもらった。 

 「最初に見つけたのは、カメレオン・サラマンダーっていう魔物だけど、此れはダンジョンの壁に擬態していて、普通に見ると見つける事が出来ないんだ。僕も鑑定と気配察知が結合して初めて攻撃の糸口を掴めたぐらいだから、鑑定のスキルを取得するまでは無視した方が良いと思う」

 とそこまで話したところで周りを見回す、質問したくてうずうずしている面々には悪いが、本題はここからなのだ。 

 「そのカメレオン・サラマンダーを探している内に通路の壁がおかしい事に気づいたんだ。でっ、その壁をハンマーで壊すとその奥に道が出来ていて、その突き当りにドアが有ってそのドアはワープゲートになっているんだ。取り敢えず二箇所に移動できるみたいなんだけど、その場所が≪試練の間≫と≪宝物の間≫になっているんだ。≪試練の間≫は文字どおり魔物が出てきて戦う事に成るんだけど、倒しきると経験値とドロップ品がもらえるんだ、≪宝物の間≫は文字どおりお宝部屋で宝箱にアイテムが入っているんだ。おすすめは試練の間かな?経験値とお宝がもらえるからね、ただかなり厳しい戦いになると思うよ。この間入った時はスライム数百匹が相手だったけどね」

 その時の事を思い出して雫斗は身震いをする、警戒する雫斗にヨアヒムが事も無げに言う。

 「試練の間とは、挑む者の求める力が何かによってその姿を変える。恐れる事は無い、死ぬるほどの強者が現れることなどない、そうなれば試練とは言えぬであろう」

 そう笑いながら言われたのと。普通の一階層の広間の様にスライムがぽつりぽつりと居たので、完全に無警戒で入ってしまった。 

 様子が一変したのは数匹のスライムを倒した時だった、壁や地面からスライムが湧き出してきたのだ。当然広間の中ほどまで入った時で逃げ場が無かったのだが、雫斗は判断を誤った。奥へ奥へと逃げ出したのだ、しかも普通のスライムではなかった、動きが速いのだ。 

 善戦した雫斗だが、次第に追い詰められていった。いよいよスライムの大群に飲み込まれるのか? と思われた時、死に物狂いで昨日取得した火炎魔法を使った。 

 取得してすぐに使えるかと思っていた火炎魔法のオーブだが、雫斗は使えずにいたのだ。火魔法の上位互換だと思っていた雫斗は色々試した、”ファイヤーボール”・”ファイヤージャベリン”・”ファイヤーボム”。いくらイメージしても具現化しない、ヨアヒムに聞いても要領を得ない説明で半分諦めていたのだが、死を前にして具現化した火炎の魔法。 

  

第19話(その4) 

 「ヘル・ファイヤー(地獄の業火)」文字どおり火炎のオーブが火を噴いたのだ。思い描いたのは渦巻く業火の炎、自分を中心に紅蓮の炎がすべてを焼き尽くす様をイメージした。 

 普段の雫斗ならそんなイメージはしない、自分を巻き込んで炎が吹き荒れるなんて考えられないのだ、自分がダメージを負っては本末転倒だからだ。 

 すべてを焼き尽くした雫斗は唖然として周りを見回したが、力尽きて崩れ落ちた。両手を付いて力を出し尽くした雫斗にヨアヒムが賞賛の言葉をかける。 

 「ふむ、魔力を使い果たしたか。あの状況ですべての魔力の行使をするとはベストとは言えんが、生き残ったのは称賛に値する。喜べ我が主よ、其方は試練を乗り越えた」とヨアヒムがひょうひょうと話す。 

 雫斗はヨアヒムを地面に叩きつけて踏みつぶしたい衝動にかられたが、力が出ない。初めて魔力枯渇の状態を経験した雫斗だったが、此処はまだダンジョンの中だ、力を振り絞り立ち上がるとヨアヒムに文句を言う。 

 「ヨアヒム!君は嘘は付けないのじゃ無かったんじゃないのか? 死にそうになんだけど」

 雫斗の言葉に、何食わぬ顔で答える。 

 「スライムは強者ではあるまい、多少数が多かったのは其方が殲滅魔法を取得していたからに外ならぬ。そもそも代償の伴わぬ試練など意味が無かろうに」

 確かにいヨアヒムの言っている事は正論ではあるが、多少ではないスライムの多さに納得できない雫斗だった。しかし収穫もあった、火炎魔法が殲滅魔法だと言う事が分かったのだ、なるほど単発のファイヤーボールやファイヤージャベリンが使えないわけだ。 

 範囲魔法と局所魔法で違いが有るとは思わなかった雫斗にとって一番の収穫かも知れない。取り敢えず終わったと安心していた雫斗は中央で鎮座している宝箱によろよろと向かっていった。 

 宝箱に触れる寸前ヨアヒムの忠告が来る。

 「主よ、試練はこのフィールドを出るまで終わらぬ。気を抜くのはまだ早かろう」 

 「えっ?」と雫斗が思った瞬間。

 宝箱が大きな口を開けて襲い掛かって来た。咄嗟に横っ飛びに除けた雫斗は収納からトオルハンマーを出して警戒する、襲い掛かって来た宝箱は大きな目玉をギョロっと雫斗に向けると。

 「ちぇっ」と一事声を出すと光へと還元していった。

 どうやら奇襲に失敗すると消えていく類のモンスターの様だった、後には本物の宝箱が残されていた。 

 トオルハンマーの柄で叩いてみて、普通の宝箱だと確認してからようやく蓋を開けた雫斗は中身に驚いた。1個のスキルオーブとスキルスクロールが3つ、後は防具の材料になる素材のカードが入っていたのだ。 

 スキルオーブは大抵中層以下の階層を守っているボス部屋かダンジョンの最下層にあるクリアルームでしか出てこない。 

 こう一階層でポンポコ出てくると有難みが無くなってしまいそうで少し怖いのだが、出て来たものはしょうがない、使ってみる以外にないのである。 

 スキルオーブは激流魔法のオーブだった、多分火炎魔法と同じで殲滅系の魔法だろうと予測した、当然その場で自分にと取り込んで習得する。今は魔力が枯渇しているので使えないが後のお楽しみである。

 スキルスクロールは剣技系の二つと窮伎系のスキルが一つこれは後から売りに出すので保管倉庫の肥やしになった、防具の材料のカードも保管倉庫に仕舞った雫斗は予想どおり最後は広間から排泄されて沼ダンジョンの一階層へと戻って来たのだ。それが昨日のことで、いつ此の事を話そうかとずーと思っていたのだ。ようやくチャンスが巡ってきて余りの幸運ににやけていると頭に強い衝撃が走る。 

 ”バッコン”大きな音と共に頭の痛みで現実に戻って来た雫斗は、分厚い本を降り抜いた百花を目の当たりにした。説明の途中でトリップしてにやけている雫斗を現実に戻そうと百花が叡智の書で雫斗の頭をはたいた様だ。 

 「やっと戻ってきた様ね、色々聞きたい事が有るんだけど。この本ほとんど白紙じゃないの、しかも読めないわ」と叡智の書をいじり回しながら声を懸ける。 

 雫斗は殴られた事に胡乱な表情で百花を見るが、百花に色々触られて喜ぶ、ヨアヒムの気勢を念話を通して聞きながら、そのことを話して良いのか考えた。 

 しかし百花が鑑定を取得してヨアヒムの存在を認識した時に、今日の事を思い出して報復を受けることを考えると、今言った方がよさそうだ、だが話しても信じてもらえるだろうか疑問だが、言わないより良いだろうと考えなおした。 

 「百花、その本は叡智の書なんだけど。・・・中身は変態のおっさんなんだ、今も百花にいじくり回されて喜んでいるんだけど。…いいのかい?」

 雫斗は百花に殴られた報復のつもりで意地悪く言う、小さな抗議ではあるが百花にはいい薬になるだろう。 

 そう言われた百花は理解が出来なかった、ただ本の中に小さなおじさんがいて本を開くとマラカスを手に持って腰をグルングルン振りながら踊っている様を想像して、”クス”と笑いながら表紙を見る。 

 表紙には見た事も無い文字でタイトルが書かれていて、写実的な立派な髭を蓄えた男性の顔が書かれていた。よくよく見るとなんとなく目がいやらしく笑っている気がしたとたん百花の危険感値が最大限発揮した。 

 百花の背中を電撃が走ったと同時に寒気が襲う、思わず叡智の書をテーブルに叩きつけてソファーから立ち上がり固まる。本を踏みぬきたかった様だが自重した形だ、此処で足蹴にするとテーブルが悲惨な事に成る。 

 叩き付けられたヨアヒムの苦悶の声を聴きながら、雫斗は百花が気持ち悪そうに叡智の書を睨み付けているのを見て感の良い子だなと思った。 

 雫斗は鑑定のスキルが有るから叡智の書の本質が分かるが、持っていない百花が感だけで変態ヨアヒムの正体に迫るとは、末恐ろしい子である。 

 その本を持ち上げてパラパラとめくる勇者がいる。恭平である、男に触られてぶー垂れているヨアヒムだがここは無視だ、最後まで本をめくった恭平が聞いてきた。 

 「叡智の書て、タイトルが読めるのかい?」聞かれた雫斗は最初に見つけた宝箱の話をした、つまり異言語理解のスキルオーブを使用したことを話したのだ。 

 「へ~、じゃー英語とかフランス語とかの言語もすべて理解できるって事?うゎっ英語の授業が無くなるね」と恭平が場違いな心配をする。

 雫斗も当然試した、ネットで見つけた言語のすべてを理解できた時には、ダンジョンの恩恵に喜びよりも恐ろしさの方が強かったが、今ではスキルとはそういう便利な機能だと認識することにしていた。 

第19話(その5) 

 「えっそんな便利なスキルが有るの?」

 百花が食い気味に聞いてきたので、テーブルの上に置いた3つのスキルスクロールを示して。 

 「使ってみる?一応異言語理解のスキルなんだけど多分一つの言語にしか対応していないんじゃ無いかと思っているんだ、オーブだと試した言語はすべて理解できたから多分、最初に聞いた言語はすべて理解できると思う」

 そう言った雫斗におもむろに悠美が英語で話しかけた、それに英語で答える雫斗、途中からフランス語に代わり最後にドイツ語で会話を始めた二人。 

 「驚いたわね、まだ数日しかたっていないのよね? 聞いた事も無い単語でも理解できるっていう事なの?、 今更ながらにスキルの異常性には理解が追い付かないわね」と日本語で感想を話す悠美に。 

 「今更ダンジョンのバカげた機能を論じても仕方がないわ、それよりほんとに使っても良いの?」

かなり切実に百花が聞いてきた、百花は英語の成績が思わしくないのだ、スキルを使って英語が話せて理解できるようになると勉強せずに済むと、かなり期待している様だ。 

 「いいよ、使った感想を聞かせてくれたら十分だよ」

 雫斗に言われた百花は嬉々としてスクロールを一つ取り自分に取り込んだ、スキルオーブは使った事が有る雫斗だが、スキルスクロールは使った事がない、そこで聞いてみた。 

 「どんな感じ?スキルオーブは使う時、使用するかどうか聞いてきたんだけど」

 聞かれた百花は不思議そうに答えた。 

 「聞かれて無いし、手ごたえが無いわね。どうやって分かるようになるの?」と百花が恐る恐る聞いてきたので。 

 「取得したい言語を読むか聞くと良いよ、最初は良く分からないけど何度かやっていると分かるようになるから」と雫斗が教える。 

 「何の言語を覚えたいの?」

 おもむろに悠美が聞いてきた。するとすかさず。

 「当然英語よ、話せるようになると便利だもの」と百花が答えた。 

 するとおもむろに悠美が英語で話しかけた、最初はたどたどしかった受け答えが次第に流暢に話せる様になってくる、暫く百花と英語で話していた悠美が呆れたように言う。 

 「今まで、私がやって来た努力を一瞬で超えてしまうのねスキルって、何か馬鹿らしくなってくるわね。貴方達はどうするの?」

 弥生と恭平にあと二つあるスクロールを見ながら聞いてきた。 

 顔を見合わせた二人は、使っていいのと雫斗を見て目で訴える、雫斗にしたら検証の意味で使ってほしいので頷くと。 

 「出来たら別の言語にしてほしいかな、僕の予想だけど異言語理解のスクロールはかなりよく出そうなんだ。まだ宝箱を開けるのは3回目だけど、それでもオーブは別にしても異言語理解のスクロールが三個は出過ぎじゃ無いかと思うんだ」と雫斗は実感として感じた事を口にする。 

 「何故そう言い切れるの?異言語理解は確かに有能だけど、ダンジョンの攻略にはあまり関係ないと思うけど」

 悠美が聞いてきたので、雫斗はほとんど自分が感じた事だけどと断って話し始めた。 

 「ダンジョンてこの地球の産物じゃないのは確かだと思うけど、この前昇華の道を探し当てて、扉の前に立った時、その文字を見て別の世界の物だと確信したんだ。誰が何の為に設置したのかは分からないけれど、言葉の壁は大きいと思う。だけどその壁を取り払うかの様にスキル迄用意されている、こんな便利なスキルは無いと思うよ。だって紛争で破滅一歩手前まで来ていた人類に執って、お互いの言葉が分かりあえるだけで話し合えるチャンスがあるんだから」

 話終えた雫斗を悠美は静かに見ている、確かに言葉が分かるのと分からないのとでは友好を築くのに天地の差があるだろう。しかし外務省に勤務していた経験のある悠美にしてみると、相手と話し合える事が分かりあえる事だと単純に思えないのも事実だ。 

 「そう単純な話でも無いと思うけど、私は前の職場の関係で国と国との折衝で苦労してきたから、話し合いでなんでも解決できるとは思っていないわ」

 悠美はやんわり注意する、海千山千の外交官達のまるで軟体動物の様な掴みどころの無い交渉には辟易していたのだ。 

 「国と国との折衝なら利益や面子や建前が絡んで複雑になるけど、僕たち探索者の相手はダンジョンだからね。攻略情報が即安全な収入に結びつくから、その情報が直接聞けるのは有りがたいと思うけどね」と雫斗が断言して言う。

 確かに今のダンジョンの時代は、贅沢を考え無ければ、その地域で生活に必要なものはそろえる事は出来る。生活する上では他地域との交流ですら必要とはしていない。 

 「ちょっと、話が脱線していない?その言語理解のスクロール誰が使うのか決めて貰わないと収まらないわ」と言う百花。

 どうやら百花が自分にも”異言語理解”のスクロールを使用する権利がまだあると主張する、雫斗がフランス語とドイツ語を話しているのを見てどうやらもう一つ言語理解のスクロールを使ってみたい様だ。その理由が同じスクロールを多重使用できるかどうか試さないといけないらしい。 

 それを聞いた恭平は泣く泣く言語理解のスクロールの使用を諦めた、百花には誰も頭が上がらないのだ。結局百花がスクロールを2個使用して英語とフランス語を取得した、弥生はドイツ語を取得してその日は解散となった。 

 言語理解のスクロールを取得できなかった恭平を”大丈夫だよ、すぐ手に入るから。恭平も鑑定のスキルが使えたら宝物の間に入れるって”と慰めながら出ていく息子を何気なく見ていた悠美はふと旧約聖書のくだりを思い出した、散り散りになる事を恐れた人々が結束するために神域に至る塔を作るが、神は民が一つにとどまる事を良しとせずその塔を打ち砕き、言葉を違えて各地に送り出した。 

 各々の地で繁栄を遂げた人類は多様性を手にしたが、同時に人権や迫害といった争いの種を撒いていた。その人類がダンジョンというおかしな産物によって今度は意思を通わせ合おうとしている、その意味を考えてみるがどうしても分からない。 

 悠美は考えても分からない物はしょうがないと、気持ちを切り替えた。

 「まずは中央の官僚の対応ね、下手をすると疑惑の種を持ち込みかねないわ」と一人語を言って立ち上がる。 

 雫斗の言葉ではないが、確かに今の時代、中央集権的な政治の在り方は瓦解している。そのことを理解できない、かつての官僚が今の日本を動かそうとしているのだ。 

 雫斗が集めた情報を政府に秘匿している今、下手に動こうものなら国家反逆罪を適用されかねない。 

 今日雫斗がもたらした情報は”単純に発表すれば社会が混乱するから”では済まされそうにないのだ、何か対策を講じなければ疑心暗鬼の温床になりかねないのだ。 

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