第20攻略の確信と自信は、ダンジョンの揺らぎ(地震)と共に暗雲へと変わるのか?

ダンジョンを探索すると、いろいろな事が分かるかも。

第1章  初級探索者編

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第20話(その1) 

 役場を後にした雫斗達は、沼ダンジョンへと来ていた。百花達は一日でも早くスライムを10万匹倒して鑑定のスキルを取得したい様だ。スライムの討伐に関して一日の長がある雫斗ではあるが、所詮スライムを倒して居れば誰でも鑑定のスキルが取得できるわけで、別に優越感が有るわけでも無い。 

 どうもヨアヒムの言動を聞いていると、その取得したスキルをどう使いこなしていくかで、各々の力と成るかが変わって行く様だ。” そもそも個人が試練を克服するのに条件が同じわけが無かろうに。個々の進化の道筋に近道や定石など無きに等しい、其方たちがダンジョンと呼ぶ深淵の試練に挑みし時から常に試されていると心に刻むがよい”と言っていたのはそういう意味なのだろう。 

 「雫斗、私達の新しい武器を見せてあげる。ふふふふふ、凄いわよ」と百花が自慢気に言ってきた。そのままついて行くと、最初の広間で目に付いた岩に攻撃し始めた。 

 攻撃といっても別段何かするわけではない、保管倉庫から岩の上に筒状の物を出して落とすだけなのだが、破壊力は凄まじい。 

 一回目で岩の各所にひびが入り、二回目で粉々に崩れてしまった。

 「ふふぅん、どう?」と振り向く百花、唖然とした雫斗を見て得意気に話す。 

 「ロボさんに保管倉庫を使った重力兵器が出来ないか相談したら、翌日には材料を持ってきたのよ、流石に一日で作れなかったみたいだけど昨日完成したの。でっ今日のお披露目よ凄いでしょう」といいながら現物を何種類か目の前に横たえる。 

 此れは、軟弱な地盤で建物を支える為に、硬い地盤まで打ち込んで、建物を支えるコンクリートの杭だ。確かに遠心力で固めただけあって、強固なコンクリートを、さらに鋼鉄のベルトで補強して、おまけに底には一点に衝撃を集中させる為に円錐形の鉄の塊が装着されていた。 

 「うっわ!これってビルの基礎に使う杭じゃ無いか?よくこんなの良く思いついたね、しかも大きさが色々あるし」と雫斗が数種類ある事に疑問を口にする。 

 「まだ試作段階なのよ、あまり長いと洞窟じゃー使えないし、かといって短いと重さが減るから使い勝手を色々試しているところよ。ロボさんも自分で試してみるって言っていたわ」と百花。 

 「見た限り結構な衝撃がありそうだけど、僕たちが壊すよりも断然早いし」と恭平が羨ましそうに言うと。 

 「攻撃力は実証済みね、昨日私の家の土塁をボコボコにして、もぐらたたきの穴の様にしちゃって、お爺ちゃんに百花が怒られていたもの」と弥生が百花を見ながら続けて言う。

 「後は耐久性の確認ぐらいかしら」と締めくくった。 

 弥生に自分の失態をバラされた百花は。

 「あれは、つい調子に乗り過ぎたからよ。でも私だけじゃ無いわ、ロボさんと弥生もやっていたわよ」

 と小声で言い訳していたが、大抵やり過ぎて怒られるのは百花だから何時もの事ではある。 

 「僕も欲しいんけど、まだあるかな?」雫斗が聞くと「残念ね、お爺ちゃんも使っていたかロボさんが運んだ分はもう無いわ。二、三日したら新しいけ杭が来るみたいだから、それまで待たないとだめね」と弥生が嬉しそうに言う。 

 「そうか~、無ければ仕方ない来るまで待つか。ところでその杭、名前はどうするの?」と雫斗が聞くと。 

 「名前?確かコンクリートパイルと言っていたような、よく覚えていないわ。名前がどうしたの?」と百花が逆に雫斗に聞いてきた。 

 「名前は大事だよ。しかしコンクリートパイルってまんまコンクリートの杭だね、やっぱり武器として使うなら別の言い方じゃないと」

 名前にこだわりの有る雫斗らしいが、他人が作った武器の為遠慮があるのか名前を思いつかない様だ。 

 「名前って、例えば”パイルバンカー”とかパイルクラッシャー”とか言うの、確かに分かりやすいけど、此れって必要なの?」

 懐疑的な表情で弥生が言うが、名前が違うだけで武器としての認識が違ってくる。 

 「へ~そう聞くと、武器のイメージがしやすいね。”パイルアタック”とか”パイルショット”なんかどうかな?」

 恭平が楽しそうに話す、どうやら名前を考える事が楽しくなってきた様だ。 

 「それだと、武器の名前と言うより技の名前っぽいね、やっぱり”パイルバンカー”の方がしっくりくるね」と雫斗が納得した様に言うと。 

 「どっちにしてもロボさんが決めることよ、それより早くスライムを倒しましょう」と百花が待ちきれないと皆を急かす。

 確かに名前を決めるのはロボさんなので、今僕達が名前の事で騒いでも仕方ない。 

 皆が各々、周回するルートを決めて歩き出す。雫斗もそうなのだが、他の人と違うのは壁や天井を確認しながらの移動である。 

 たまにスライムを見かけると、”プチ・インフェルノ”や”プチ・ストリーム”と言いながら範囲魔法の練習をやりつつ移動していた。 

 ”プチ・インフェルノ”は’’ヘル・ファイヤー’’の縮小版で、’’プチ・ストリーム’’は洗濯槽の中をイメージしている。 

 先日、魔力を使い切って魔力が枯渇するのを初めて経験した雫斗は、戦闘中に魔力が無くなった時の無防備の状態を極力避ける為、範囲魔法の威力を抑えながら使う事を考えたのだ。 

 プチを付けたのは範囲を限定するためと名前を変えたのは威力を抑えるためだ、その方がイメージをしやすいと雫斗は考えたのだ。 

 今の所イメージどおりに魔法が使えているので雫斗にとって正解なのだろう、テンポよくスライムを倒しながら雫斗が周回する場所へとやって来た。 

第20話(その2) 

 今日の雫斗の予定は、一日一回の昇華の道を捜して宝物の間でお宝をゲットする事と、範囲魔法の使い勝手を確認する事を重点にしている。 

 此処に来るまでに合計5回、徐々に範囲を広げながら範囲魔法を使ってきたが、威力を抑えている為魔力枯渇の兆しはない。 

 最後に使った’’プチ・ストリーム’’の範囲は広間の半分ほど、落ちているスライムやベビー・ゴーレムの戦利品で有る魔晶石を集めながら雫斗の頬は緩みっぱなしで有る、此れなら一部屋丸ごと範囲魔法で殲滅しても余裕で周回できそうだった。 

 此処に来るまでの間ヨアヒムの反応がない、今まではうるさいくらいに話しかけていたのにどうしたのかと聞いてみた。 

 「ヨアヒム、寝てるのかい?」

 雫斗にしても人前では独り言に聞こえるヨアヒムとの受け答えは念話で済ませているが、此処には誰も居ないので声に出して聞いてみた。 

 「主よ、我の本質は書物である。寝る事や食事という概念は無い、知識をむしゃぼり食らう事を食事と言うのなら、あながち間違いではないがな」と可笑しな例えで話しかけてくる。 

 「ふぅぅん、そうなんだ。・・・いや、話し掛けて来ないからどうしたのかと思ってさ」

 雫斗は普通にスルーする、最近ヨアヒムの戯言になれてきたようだ。 

 「我とて、むやみに話しているわけではない、主の疑問に答えているにすぎん。今まで駄々洩れだった思考の断片が、今日は漏れ出て来ぬ。喜べ主よ、其方は思考の障壁を手にした、此れよりは気を抜かなければ、其方の邪な考えは其方一人の心に仕舞えるぞ」

 喜んでいいのか、嘆いて良いのか分からないヨアヒムの言動だが、此処は素直に考え事がヨアヒムに読まれない事を喜ぶことにした。 

  昇華の路を探し当てお宝をゲットして、予定通りにスライムを狩るついでにベビーゴーレムやカメレオンサラマンダーを狩り倒していた雫斗は、今更ながらに範囲魔法の効率の良さに驚いていた。 

 このままでは百花達とのスライム討伐数の差が埋まらないと考えた雫斗は他の事を検証することにした、保管倉庫の検証で有る。 

 今の所ランク1で10トンぐらいの重さ迄収納できることはロボさんが確かめたみたいだが、現在の雫斗の保管倉庫のランクはⅣ、ただ単純に4倍の40トンとは考えにくい、そこで検証したいのだがよい事を思いついた雫斗はスライム狩りを早々にやめて沼ダンジョンを出ていた。 

 行き先はダンジョンの入り口の下にある池のほとり、新年度の初めに小学生の高学年の子のダンジョンカードの取得に使った、スライムの討伐をした場所だ。 

 池と言ってはいるが、ダンジョンが出来る前は人が寄り付かず、うっそうとした茂みに隠れて居た為まるで沼地の有様だった事も有り、村の皆は沼と称してはいるが普通のため池である。ダンジョンが発見された後は、村からの道を整備して池の周りをきれいにした事で、ちょっとした公園の佇まいを見せていた。 

 まずは試しと保管倉庫に池の水をそのまま取り込んでみる、確か10㎥で10トンだったか?「えーと、5メートル×2メートルで深さは1メートルでいいか」とぶつぶつと独り言を言いながら範囲を思い描いて池の水を取り込んでみた、・・・結論から言うと出来ませんでした。 

 ま~雫斗もそう簡単に出来るとは思っていなかったこともあり落胆して居る訳ではない。保管倉庫にしろ接触収納にしろ、生き物は収納できない。 

 植物や細菌は収納できるみたいだが、昆虫の一部までは確かめたが、昆虫がどの位の大きさで収納出来るか出来ないかは良く分かっていないのだ。 

 雫斗にしても細かい事まで検証する気は無くて、何れ皆が保管倉庫や接触収納を取得した時に検証するだろうと期待している。 

 今の雫斗は保管倉庫にどの程度の重さ迄入るかといった事が知りたいだけなのだ。

 「ま~すんなり出来るとは思っていなかったけど、次は単純に水だけにするか」と範囲はそのままで純水をイメージして取り込む。 

 すんなり取り込めたことに気を良くした雫斗は後で後悔することになる。収納できない生物だけを除外すればよかったと。 

 収納出来た事で10トン単位で取り込むが2百トンを超えたあたりで終わりが見えない事も有り百t単位で取り込み始めた、収納する時に魔力を使う事は分かっているので当然収納する時に魔力消失の兆しが無いか注意しながらなのだが、終わりが見えない。 

 千トンを超えたあたりで変な汗が出始めて、5千トンを超えると「お願い~~~もう終わってくれ」と神頼みし、1万トンをはるかに超え10万トンにさし掛かるともはや背中に寒気がしてくる。 

 別に魔力が無くなったわけではない、此れだけの重量を収納しているのに魔力は別にして、保管倉庫の底が見えないのだ。

 「これはやばいかも」雫斗は声に出して警戒する。周りの雰囲気がおかしい事に気が付いたのだ。 

 いや周りはいたって平常だが匂いがおかしいのだ、ヘドロの様な嫌なにおいがしていた。そこではたと気付いた、目に見えて池の水が減っているのに。それはそうだ外周一キロも無い貯水池に毛が生えた様な湖だ、その水を米空母並みのトン数の水を取り込んだのだ、しかも純水だけを。 

 当然池の水は不純物がたまって来る、変なにおいが充満してくるのは当たり前だ。慌てた雫斗は水を池に戻そうとして”はたっ!”と気が付く、いきなり10万トンに近い水が一気に池に投入されるとどうなるか?雫斗は少しずつ池へと慎重に水を戻し始めたその時。 

 「何してるのよ!!」いきなり後ろから声がした、百花だ。水を戻すことに集中していた雫斗は百花が近づいて来たことを感知できなかったのだ。 

 「のわ~~」驚いた雫斗は無謀にも一気にため込んだ水を放出した、池のど真ん中の上空へ、幸いだったのか悪夢だったのかは分からないが、距離があったため時間的に身構える事が出来た。 

 しかし純水に押し返された粘着性の有る水が、容赦なく雫斗と百花を襲う。まるで巨大なスライムがのしかかってくるように、津波の様に襲ってきた水は幸い土手を超える事も無く引いて行ったが、汚ちゃない水に揉みくちゃにされた雫斗と百花は堪ったものではない、かろうじて周りに植えられている木にしがみ付いて、池の中には引きずり込まれなかったが、散々たるありさまだった。 

  

第20話(その3) 

 いきなりの事に放心状態だった百花が正気に戻る。

 「なんてことをしてくれるのよ~~~」

 当然諸悪の根源だと雫斗に詰め寄る。襟首をつかまれ思いっきり頭を振り回されるが、大量の水を一気に方出した雫斗は魔力切れを起こして動けない。 

 「大丈夫かい?」

 心配した恭平と弥生が土手から降りてきた、どうやら雫斗が何かやっていることを警戒していた様だ、目に見えて池の水が減っている事と、変なにおいに近寄ることをとどまったみたいだ。 

 「大丈夫じゃない。魔力切れで動けない」と雫斗が訴えると。

 「百花、辞めなよ。あれを何とかしないとヤバイって」と恭平が対岸を指さす。 

 此処と同じように対岸も津波の被害を受けてるわけで、人が飲み込まれていると一大事だ、4人では対処できずに応援を呼ぶことにした。 

 それからは大変だった、村役場へ連絡して状況を説明するが、沼ダンジョンの池は分かる、だがその池で洪水被害が起こったと言われても理解が出来ないのだ。 

 湧き水で出来ている池だ、大きな川が流れ込んでいるわけでも無いその池で、”大雨も降らないのに洪水とはこれ如何に”とどうしても信じてもらえないのだ。 

 役場の職員に信じて貰えず、半狂乱になる百花と弥生。ただ冷静な恭平の「雫斗案件だ」の言葉で事態は動くことに成る、取り敢えず職員を派遣して現場を見たとたん事態の深刻さを痛感したのだ。 

 村の人数の把握と被害状況の調査で村中が大騒ぎと成り、結構な数の村人が沼ダンジョンへと集まって来ていた。 

 幸いなことに雫斗と百花以外は巻き込まれた人は無く、時間も遅くもうすぐ日暮れとなる事から被害の把握は明日にすることにして、村へと帰ってきていた。 

 さて今の雫斗達の状況はと言うと、村の会議室で4人とも床に正座をさせられ、その前に仁王立ちした悠美村長と後ろでソファーに座ってにやにやしている長老たちが数名居る。 

 村役場の浴室で汚れを落として着替えた雫斗と百花は (濡れた服や汚れは接触収納で分離できるが匂いは無理だった)会議室で状況の説明をし始めた。しかし説明の途中で次第に険しい表情になる悠美村長の額にまるで角が生えた様に見える雫斗は震えあがっていた。 

 会議室の入り口の横に4人並んで正座させられるとき、無謀にも「私たちは巻き込まれただけよ」と訴えた百花の言葉が火に油を注いだ。 

 「黙りなさい。貴方達はパーティを組んでいるんだから一蓮托生よ、それに状況を分かっていないみたいだから、よくよく説明して理解してもらう必要があるのよ」

 悠美が有無を言わせずにそこに座れと諭す。 

 「言い事、あなた達。今朝話した内容は覚えているわね?」と念を押す悠美。

 雫斗達は頷く事しかできなかったが、それを見た悠美が頭を振りながら。 

 「それじゃ、保管倉庫と鑑定のスキルの事はしばらく伏せておくことは理解しているわね?」

 そう言って険しい声で言葉を切ると雫斗を見ながら。

 「じゃー何故あんな騒ぎを起こすの?」と馬鹿なのかお前はという様に呆れた様に話す悠美。 

 雫斗にも言い分はある、保管倉庫のランクⅣでの最大収納力が10万トンをこえそうだなんて思いもしなかったのだ、しかも収納できる水の水質を変えることが出来る事で雫斗は思いっきり舞い上がってしまったのだ。 うなだれて何も言えずにうつむく雫斗に、祖父の武那方  敏郎が助け舟を出した。 

 「まーそう頭ごなしに怒らんでも、十分反省しとるよ。これに懲りて雫斗も慎重に成るじゃろう」という敏郎に悠美は肩を竦めて。 

 「そうじゃ無いと困るわ、此れからの事を考えると頭が痛いわね。報告しない訳にはいかないし、どう説明した物やら?」と困り顔の悠美。 

 「幸い、事が起こった池の上にはダンジョンが有るからのう、ダンジョンがやらかすことにいちいち説明も要らんじゃろう。事情を知る面々はここに居るだけじゃ、口裏を合わせればいくらでも煙に巻ける」と敏郎が悪い顔で話す。 

 「村の連中も、下手な事は話さないはずだからな。確かにダンジョンがやった事で此方が責任を負う話には為らんだろうしな」と麻生 京太郎が追認する。 

 「それよりも信じられん話だ、保管倉庫に10万トンの水が入るとは。これは物流がおかしなことになりそうじゃわい」と問題は収納できる量だと京太郎は言う、確かに今までは大量の物を運ぶときは巨大な船で時間とお金を掛けて運んでいた物が、高ランクの保管倉庫スキルを取得したの人が数百人いるだけで賄えてしまうのだ。 

 しかも高ランクの保管倉庫を取得するのに、特別な事はいらないのだ。ただスライムを倒していくだけで取得できるのだから。 

 例えば大阪から東京へ数万トンのコンテナを運ぶとして巨大な船を使う必要は無いのだ、一人の人間が運搬契約で一時的に預かって保管倉庫に仕舞えば身一つで新幹線や飛行機を使って目的地まで運んで其処で収納から出せばいいのだから。経費と時間の削減どころか物流の確変が起きてしまう。 

 それを考えた雫斗は今更ながらに自分の発見した事の重大さが分かって来た、此れからの事を思い浮かべて”プルプル”と少し震えている雫斗に恭平が言う。

 「別に雫斗が悪い訳じゃ無いよ、何れ誰かが保管倉庫の取得条件を発見していたはずだから。たまたま雫斗が見つけただけだし、それよりも、今まで見つかって居なかった事に驚きだよ」

 そう言って雫斗の気持を落ち着かせる。 

 恭平に言われて落ち着いてきた雫斗は”そうだった自分は保管倉庫の取得条件を発見しただけで、そのスキルが世間を混乱の渦に巻き込もうとも其れは必然で自分に責任はない。たまたまそのスキルが高性能すぎてだけだ”と思う事にした、切り替えの早い男の子である。 

 落ち着いてくると周りの話が気になって来る、正座させられて忘れられた四人はいい加減足がしびれてきた。事件の張本人を蚊帳の外に置いて、物流の事を話し合っている大人たちにおずおずと手を上げてアピールする。 

第20話(その4) 

 「あの~~、持ち逃げされることを心配しているなら契約で縛ればいいと思うけど」雫斗の何気ない発言に注目を浴びる四人。

 「契約で縛るって、どういうこと?」と悠美が聞くと、しめたと雫斗が話し出す。

 「そもそも自分の所有物以外は収納出来ない収納系の仕組みだけど、契約っていう縛りでいくらでも応用が利くと思う、”う~ゎ~、足が”(小声)。配達先の場所と責任者の許可が無ければ収納から出すことが出来ない条件とかを付ければ、持ち逃げされる心配は無いと思う、後は罰則の整備だね」

 そ言って足がしびれたアピールで、もぞもぞと足を動かしながら訴える。 

 それを見ていた悠美がクスっと笑いながら言う。

 「いいわ、そのソファーに座りなさい。詳しく聞きたいわ」と正座の計の終了を告げる。

 「やった~~」と四人共に喜んで立ち上がろうとするが、足がしびれて動けない。 

 這いずり回り、小鹿の様に足をプルプルさせながらようやくソファーに座ると悠美が紅茶を四人の前に出してくれる。 

 「じゃー雫斗は、保管倉庫の配送でトラブルは起きないと思っているのね」と悠美が言うと、そうじゃないと雫斗。 

 「そもそも収納系のスキルは収納する時に持ち主を明確に識別するんだ。それは保管倉庫も例外じゃない。条件で所有権が移るとしても、その条件を間違えなければ大丈夫だと思うよ。後は法律として罰則の整備だね、運んだのはいいけど条件がそろわなくて収納から取り出せないってなったら問題だしね」と暗に大人の仕事だと言葉ににじませる。 

 「それよりも、お母さんもう一つ紅茶のカップをもらえるかな?」とからのカップを要求する。訝しながらもカップを手渡しながら。

 「どうするの?」と聞く悠美。 

 からのカップを受け取った雫斗は「うん、ちょっと待ってね。・・・今日の顛末の報告と実験」とつぶやくと、湯気の立っている紅茶の傍にからのカップを置いて、両方に指を添えて集中する。 

 固唾を飲んで見守る中、紅茶の入っていたカップの中身が消えて隣のカップに透明なお湯が出現した。「ふ~~、やっぱりできるんだ」と一人納得する雫斗をよそに疑問の表情で見ている人達。「今、何をしたの?説明しなさい」と悠美が諭す。 

 「えーと、今紅茶の成分を水と分離したんだ。接触収納でも出来るみたいだね」と得意げに話す雫斗を胡散臭げに見つめる面々。 

 其れに気付かず、得意げに話し始めた雫斗。

 「今日沼ダンジョンの池でやっていたのは、保管倉庫の総重量の検証だけど。その時収納する時に条件を指定と言うか想像したら純水だけを収納出来たんだ。でっ今度は接触収納で紅茶を取り込んで水と分離して分けたんだ」と話す雫斗。 

 よく見ると元の紅茶が入っていたカップの底にうっすらと茶色い粉がたまっていた。 

 「へぇ~、紅茶を濾し取ったと思ったらいいのかしら?それにしても簡単に出来るものね」と山田 洋子医師が感心して言う。 

 「そのカップに入っているのは純水だと思う。大気に触れているから多少は汚染されているけれど、CO²をイメージしたから。調べてみないと何とも言えないけどね」と雫斗が自重して言う。 

 山田医師は呆れて唖然とした、雫斗はこともなげに言っているがそれは純水が、しかも100%の純水がいとも簡単に手に入ると言っているに等しい。 

 「えっ?じゃー池のひどい匂いの原因は不純物の塊なのね。その成分も分ける事が出来るの?」と悠美が聞くと。 

 「う~んどうだろう。僕じゃ無理だね、壊滅的に知識がない、何をイメージしたら良いのか見当もつかないや。その道の専門家なら理解できると思うけどね、もしかしたら収納の中で分子や原子といったものをくっ付けたり離したりできちゃうかもね。うっわ魔法みたいだね」と雫斗がとぼけて言うと。 

 「雫斗、あなた良く分からない事をイメージだけでやったの?よくできたわね」と悠美が感心して言うと。 

 「あやふやな知識だから出来たのかもね、分子とか原子とかの知識のある人からしたらバカみたいな現象かもしれないし。僕たちみたいに魔法で出来ましたで片付かない気がするよ」と雫斗が言うと 。

 「そもそもダンジョン関連なんて魔法でしょう?常識なんて通用しそうに無いもの」と弥生が締めくくった。 

 子供たちが話している内容は、大人たちからしたら夢物語でしかないが、そもそもダンジョンがこの世界に現れてから常識なんて吹っ飛んでいるのだ。 

 子供たちが言っていたように、もしかしたら魔法という不思議な現象で”核融合”や”核分裂”といったことが日常的に出来てしまうかもしれない、そもそもダンジョンの中は現実世界とかけ離れているのだから、何が起こっても不思議ではないのだ。 

 一人の医者として分子力学や高分子、原子力学の事を、ある程度学んできた山田医師にとって、子供達のほほえましい夢物語を、子供の空想の世界として受け入れ切れていない自分を感じていた。 

 そもそも保管倉庫の事でも訳の分からない現象でしかないのだ、子供たちは受け入れているが。10万トンの質量を一人の人間が持ち運ぶ?自分の理性が常識と共に崩れ落ちていくのを感じながら、此れから事態の収束に向けた話し合いに身を投じていくのだった。 

 取り敢えず、今日の事は池の上にあるダンジョンがしでかした事で、雫斗達は無関係だったと言う事にして、政府から調査に来る人を誤魔化す事で一致した。しかし保管倉庫や検証のスキルのポテンシャルを無視するわけにも行かず、大学の研究者や科学系の企業の研究者を中心に法整備の草案の作成やスキルの可能性の検証を調べることになった。 

 当然悠美や山田医師や他の長老達の知り合いの伝手を駆使して秘密裏の内に進めることにした様だ。 

 時間も遅い事も有り、その日は解散となったが後日そのプロジェクトの規模の大きさに雫斗達は愕然とすることに成る。 

第20話(その5) 

 その日、家に帰り着いた雫斗の元に荷物が届いていた、自分の部屋の机の上に置かれているのは魔導書と言われている本だ。 

 最初の魔導書との邂逅で(ヨアヒムと契約した事)げんなりした事も有りその日はスルーしたが、一日開けてヨアヒムの戯言に慣れてくると魔導書の文字を読める雫斗の優位性に気が付いた。 

 ダンジョンが出来て5年が経過した今、それなりにダンジョンからの取得物も増えてきていた、その筆頭に挙げられるのはスキルなどのオーブやスクロールだが、本や石板といった読み物も数多く出てきていた。 

 しかしその文字の解読は進んでいない。異言語理解のスキルスクロールがあまり出回らない事で読める人が少ない事も有るが、完全に未知な特殊な文字と、ページを捲るたびに字体が変わる特殊な本やら、触った人が後日体調が悪くなる呪われていると言われる石板など曰くつきのダンジョンからの取得物が文字の解読の障害となっていた。 

 その中で雫斗が購入したのは比較的安全な本だ、ネットオークションに出品されていた物で、危険な本を販売することを許可するダンジョン協会ではない事を信じて、購入したので多分大丈夫だろう。 

 最初の頃は高価な値段で取引されていた本だが、今は大量にダンジョンから出る事も有り、内容が同じものなら比較的安価に購入できる。 

 その中で文字が読める雫斗の強みを生かして選んだ本だ、”魔道の書”何か中二心をくすぐる本だ。多分魔法関係だろうと予測してぽちった。 

 もう一つは”錬金術の書”これは現在で言えば元素変換と言う事か? 物質の属性を変えるのはこの世界では大事に成るが、ファンタジーあふれる魔法の世界では比較的簡単に出来るのではないかと、完全に興味本位だけで購入を決めた。 

 最後の本は”魔術冶金の心得”表紙だけを見ると胡散臭いのだが、本を紹介するために中身を映した写真の中に魔法陣の様なものが書かれていて、その魔法陣に興味を持ったので購入を決めた。他の本のタイトルは”オキちゃんの初めての旅行記”だの”簡単男飯”だの暇な時の読書本でしかない為敬遠したのだ。 

 机の上に包装を解いた本を並べる、まずは”魔道の書”。表紙は読める”叡智の書”と違って嫌らしさはない無い完全に普通の本だ。 

 まずは表紙を捲ってみる、目次は無くいきなり本文から始まっている。読める事は読めるが言い回しが完全に昔の言葉だ、理解するのにかなりの時間が掛かる。 

 ”叡智の書”のヨアヒムに聞いても要領を得ない、かえって邪魔でしかない。どうにか理解した事を要約すると。 

 【一つ、魔法あるいは魔術とは、体内もしくは周りに在る魔素を使って思い描いた事象を現実の世界に顕現させる行為である】。 

 要するに魔素という不思議な力を使って自分が想像した事が現実世界でも想像したとおりに起こる現象らしいのだが、その行使には制約があるらしい、というより困難と言う方がしっくりくる。 

 【一つ、魔法は言葉による詠唱あるいは念唱により、魔力を思い描いた事象を顕現せしめる行為である】。 

 つまり、詠唱魔法と無詠唱魔法という事かな? 詠唱魔法の方が簡単そうだけど雫斗自身、想像力の塊である、無詠唱魔法の行使に関してあまり心配はしていない。 

 【一つ、魔術の行使とは、魔素が事を行い易くする場とその行為を行う状態を図形と魔法言語を使って再現する方法である】 

 魔法陣の図形が舞台でその間に埋め尽くされた文字が命令言語と理解すればいいのかな?。 

 どうやら”魔法の書”は魔法を使う上での概要で、”錬金術の書”は具体的なやり方が幾つか載っていた、”魔術冶金の心得”はその名の通り魔術を使った金属の取り出し方だ。 

 どうにか大まかな事は理解できたが、詳しい事は実際に遣りながら覚えていくしかないみたいだ。 確かに自身の覚醒には、近道はない様だ。地道な努力の結果が力となって己に返って来る様だ。・・・頑張ろう。 

 雫斗が鑑定のスキルを覚醒してから半月あまり、ようやく百花達も鑑定が使える様になった。早いか遅いかは別にして、誰でも保管倉庫と鑑定のスキルを使える事が立証できたわけだ。 

 この日は百花達も、検証のスキルと察知系のスキルの合成を目指してダンジョンで訓練する様だ。雫斗が取得したやり方は教えているが、こればっかりは感覚的なもので各自が習得に頑張るしかないのだ。 

 その日のノルマ(昇華の路でお宝と経験値をゲット&スライムの討伐)を終えてそろそろ帰ろうかと思ったときそれは起こった。 地鳴りの様な音が聞こえてきたのだ、只ならぬ気配におののきながら入り口を目指していたらいきなりダンジョンが震えだした。 

 立って居られないほどの揺れに這いつくばりながら、地震が収まるのを祈る。動けないのでそれしかやる事ないのだ、それにしてもダンジョンが揺れるなんて聞いた事が無い。崩壊するでは無いかと慄きながら揺れが収まるのを待つ。 

 しばらくして揺れが収まると、雫斗は急いでダンジョンの入り口を目指す。空間把握の感触では、あれほどの揺れがあったのに崩壊している所が無い様だ、さすが不破壊属性だと感心しながら歩いていると、水たまりに何やら黒い布の塊が落ちていた。 

 見た事の無い物体に用心しながら近づいて行くと、どうやら大型の肉食獣の子供の様に見える。死んでいるのかとびくびくしながら、木刀を保管倉庫から取り出してつついてみる。 

 「びぎゃ~~」

 弱弱しい声と共に少し身じろぎする、へっぴり腰の雫斗が思わず飛びのいて警戒する。 

 雫斗をチラつと見て、すべてを諦めた様な瞳で。

 「みぎゃ~~」と泣いて目を閉じた、すると雫斗異言語理解のスキルが仕事を始めた。

 「みぎゃ~~」と泣いた声に重なって「腹減った~~」と聞こえてきたのだ。 

 「大丈夫かい」と恐々尋ねる雫斗に反応して。

 「言葉がわかるの?どうして?」とその生き物が話す。 

 どうやらモンスターの類ではない様だ、意思疎通の出来る魔物は聞いた事が無いのだ。

 「其処から出すから動かないでね」と念を押して雫斗は水たまりから大きな猫を助け出す。 

 濡れた毛をタオルでふきとって「水を飲むかい?」と聞くと。

 「欲しいです」と嬉しそうに言うので、マグカップを取り出して水をペットボトルから入れてあげる。 

 地面に置くと、そのままぺろぺろと猫の様に飲むのかと思いきや、正座して器用に両手で挟んで、コクコクとカップを傾けて飲み始めた。呆気に取られている雫斗をよそに。

 「有難うございました」と丁寧にカップを返してきたするとその猫のお腹が鳴た。 

 お腹を押さえてキョロキョロと周りを見回している大きな猫に、軽食用に持ってきたサンドイッチをラッピングを外して渡してあげる。 

 器用に両手でサンドイッチを持ち上げた猫がクンクンと匂いを嗅いだ途端、ハムハムと食べだした。正座した猫が両手でサンドイッチを持って食べている構図は、大きさは別にして違和感しか無い。 

 その大きな猫が落ち着いたところで雫斗は聞いてみる。

 「君名前は有るのかい?僕は雫斗。高崎 雫斗」するとその猫は首を傾げて。

 「たかさき しずと」とよっくり発音する、暫く声に出していると、ニコッと笑って。 

 「私は、ミーニャってお母さんから呼ばれているの」と言う、良かった名前は有るみたいだ。

 どうしてここにいるのか聞くと、人間に追われている内に洞窟に迷い込んで気が付くと出られなくなって、さまよっている内に力尽きてしまったみたいだ。 

 「お兄さんは狩り人なの?。 ミーニャは売られて奴隷になるの?」と悲しそうに聞いてきたので。

 「安心して、此処では奴隷とかそんなものは無いから、ところでこういうのは持っている?」とダンジョンカードを見せる。 

 「お兄さん、潜る人だったんだ。初めて見たよ、潜る人には悪い人はいないってお父さんが言っていたけど、本当だった」と嬉しそうに言う。

 どうやら持っていないみたいだ。取り敢えずダンジョンから出ることにして一緒に来るように促す。 

第20話(その6) 

 ダンジョンの入り口には百花達がなかなか出てこない雫斗をイライラしながら待っていた。

 「何をしていたのよ?心配して探しに行くところだったじゃない」と凄い剣幕で怒る百花に、びっくりして尻尾を膨らませて警戒するミーニャ。 

 雫斗は百花の姿と入り口が何時もの様に存在していることに内心ほっとしていた、ミーニャの話を聞く限りどうやら別の世界と繋がったようだ。 

 一時的につながったのかミーニャが運ばれて来たのかは分からないが、ミーニャ自体この世界の住人ではない事は事実だ。 

 雫斗の後ろから現れた黒い猫、いや猫というよりクロヒョウの子供の佇まいで、威嚇している姿は野生そのものだ。 

 ミーニャを目にした百花が歓声を上げる「ま~~、なにこれ可愛い。雫斗何処で見つけたの?」

 物おじしない百花が近ずくと 。

 「誰だ?・・近ずくんじゃない!!近ずくとケガするよ」と牙をむきだして総毛立ち爪を出して威嚇するミーニャ。 

 「待て待て、ミーニャ。その子は僕の知り合いだから大丈夫だよ、そんなに怒らないで。百花もむやみに近付かないで」とミーニャをなだめると。 

 「雫斗、何”ごにゃごにゃ”言ってるの。その子どこの猫なの?」と弥生が言う。

 そこではたと気が付いた。言語理解の事を、雫斗はミーニャと普通に話している気になっていても、百花達には”ごにゃごにゃ”言い合っている様にしか聞こえないらしいのだ。 

 「ミーニャ、ちょっとついて来て」

 ミーニャを連れて池のほとりに降りていく、ヘドロの波で酷い有様だった池のほとりはきれいに片付けられて元の姿によみがえっていた。 

 「あっ、いたいた。」

 スライムを見つけた雫斗はスライムバスターを一本出してミーニャに渡す、器用に二本足で立ってスライムバスタ(花火)を手に持ったミーニャに”あらっ、かわゅい”とハートマークをまき散らす百花を無視して。 

 「今から火をつけるからびっくりしちゃだめだよ。最初にシユウーって音がして炎が出るけど、しばらくして黄色い煙が出たらスライムの上に落としてね」と此れからやることを説明する。 

 「これにひがつくの?その丸っこいのがづライム?煙が出てきたらその子の上に置くの?」と自信なさげにミーニャが話す。 

 「まだたくさんあるから、一回や二回の失敗は大丈夫だよ」と雫斗。

 他の面々は後ろで黙ってみている。 

 「うん、わかった。やってみる」とけなげに承諾するミーニャ。

 雫斗はスライムバスターの先に指先を近付けると指先からライターの様な火が出る。ちなみに雫斗はカメレオンサラマンダーの群体を倒して火魔法のスキルを習得済みだ。試練の間の死闘のおかげとはいえ、その時は勘弁してくれと思ったのは内緒だ。 

 火の付いたスライムバスターを頃合いを見てスライムの上に落とすミーニャ、暫くすると飲み込んだスライムが破裂して光に還元されていく。 後には小さな魔石とミーニャの手にはDカードが現れる。雫斗は小さくガッツポーズをする。 

 保管倉庫からスキルスクロールを取り出して、ミーニャに手渡す。

 「使うって強く思って御覧」

 スクロールを持ちながら「異言語理解?」と聞いてくるミーニャ。スキルはスクロールに限らずオーブでも触るとどんなスキルか認識できる。 

 「そう、帰れるようになるまで、暫くはこっちで暮らすことに成るからね。言葉が分からないと不便だし」とほほ笑む雫斗。

 ミーニャが持つスキルスクロールが光へと還元されてミーニャに取り込まれていく。 

 「どう?変わったことは無い?気分はどう?」と雫斗が日本語で話かける。

 最初は不安そうにしていたミーニャが「ううん大丈夫、変なとこは無いよ」と日本語で答えた。どうやら成功したみたいだ。 

 「どう?終わった」と成り行きを見守っていた百花が聞いてきた。

 雫斗の意図を組んで終わるまで我慢していたみたいだ。 

 「ななな、言葉が分かる」と驚くミーニャ。

 「そういうスキルだからね。さあ~、お互いに自己紹介しょう」と百花達を促す。 

 「私は百花。ミーニャっていうの?よろしくね」といいながら百花が近づいてくる。 

 「百花。ペットじゃないんだから、むやみに触っちゃだめだよ」

 手をワシャワシャさせながら近づく百花にくぎを刺す。

 「うっ!」百花が正気を取り戻して止まると。 

 「私は弥生、雫斗の友達よ。よろしくね」と何気に無害をアピールする弥生。

 「ミーニャです、よろしくお願いします」とミーニャはすくっと立ち上がりお辞儀をして可愛げに挨拶する。 

 ”く~~かわいい”と肩を抱いて悶える百花を無視して。

 「僕は恭平、雫斗のパーティーメンバーだよろしくね」と恭平。 

 一通り挨拶を済ませると百花と弥生がミーニャを囲んで女子会を始める、ミーニャの仕草から女の子と決めている雫斗だが確信は無い。後で男の子だったら謝って置こうと、あたふたと百花と弥生の質問攻めに対応しているミーニャを眺めていると 

 「どうしたんだい?あの子。ダンジョンに居たみたいだけど、モンスターって訳でも無さそうだし」と恭平が聞いてきた。 

 「さっきの地震は覚えている?」と雫斗が聞くと。

 「ああ、凄い揺れだったね。まるでダンジョンが震えているみたいだった」と恭平が思い出しながら答えた。 

 「彼女が原因で揺れたのか?揺れが原因で彼女が現れたのかは分からないけれど。別の世界とつながったみたいだね、ミーニャは別世界の住人だよ」とこともなげに言う雫斗。 

 「おいおい、平気な顔で言うけど、大事じゃ無いか?」と恭平。 

 「どっちにしても今日はもう調べようがないよ。報告だけして明日は皆で相談だね」ともう帰る気でいる雫斗だが、恭平は心配で聞いてきた。

 「ダンジョンのゲートは大丈夫かい?」

 「ダンジョンの入り口から魔物が出て来たことは無いからそれは心配していないよ、問題はダンジョンの中で別の世界と繋がっている事だけど。そんな事今まで聞いた事が無いよ。どっちにしても僕たちだけでは対処できないし、大人に丸投げだね」

 そう言った雫斗は、恭平の心配をよそに僕たちは関係ないと主張する様だ。 

 「あの子はどうするんだい?」と恭平が聞いてくると。

 「決まっているよ、僕たちの家でしばらく面倒を見るよ。ミーニャのお兄ちゃんになったからね」とニマニマして雫斗が言う。 

 恭平は百花と変わらないじゃんと思いながらも、少しうらやましい気持ちが湧き出ていた恭平だった。 

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