天空の黄金龍、その伴侶たる者の物語。
第1章 年老いた武人は如何にして余生を過ごすのか?
前 話 Episodeリスト 次 話
第2話 始まりの村 2
(その1)
この村の名は、ハルシカ村という。トルマイヤ王国の中央街道の東のはずれに位置していて、その先には隣国のキュウレイア共和国が有る。
昔はともかく、ここ最近のトルマイヤ王国を取り巻く状況は、キュウレイヤ共和国だけでは無く、近隣の国々と友好的な外交とそれに伴う良心的な交易を行ってきた関係で、この大陸の中では裕福な国の一つと挙げられている。何故良心的と前置きしたのか? それは共に平等な関係にあると言う事だ、どちらかの国の力が増し均衡が破られると途端に高圧的な外交関係を強いて来るのが人の欲望と言うものだ、その点この近辺の国の在り様は、戦いによって国土を増やす事の無意味さを、長い戦乱を過ごしてきた中で痛感してきた反動なのだ。
今現在のトルマイヤ王国と国境を接する国は、東にキュウレイヤ共和国、南にシュレティー王国とマルセイン大公国に囲まれていて平穏な時を過ごしてきている、東には広大な海岸線を有していて海洋貿易でもかなりの利益を生んでいるのが現状だ。
北にあるサムレイト山脈と深い森を挟んで北に位置する強大な軍事国家であるアズール帝国は、武力に物を言わせて次々と隣国を攻め落としている国では在るが、人を寄せ付けぬ険しい山々と深い森が自然の坊壁となっていて、このトルマイヤ王国にまでは帝国のその恐ろしい武力が振るわれる事がないため、この数十年平和を享受してきた。その関係で軍事力、特に防衛に置いてはおざなりと成っていて、国境警備の役目を担っている筈の辺境領の領主に至っては、戦いを経験した事のない若者が大半を占めるていて、最早軍隊と呼べないまでに弱体化しているのが状況なのだ。
キュウレイア共和国とトルマイヤ王国の交易の要の街道を統括しているのは、この一帯を治めているハイレンバルト伯爵である。交易都市のボルトレンに領都を置き、近臨の町や村を統治していた。
隣国との重要な交易路で有るため、国境の要として近くに砦を築いて守りの拠点としてはいるが、長年敵対していないキュウレイヤ共和国との国境の警備は形骸化していて、軍閥としての役割は無いに等しい。それでも交易を主体とした収益が膨大で、この国でも最も栄えている領地の一つである。
ハルシカ村を中心とした近隣の村の今現在の悩みの種は、山間に住み着いたゴロツキ共である。たまに山から下りて来ては因縁をつけて食糧や金銭をむしり取っていく、その事を領主に直訴しているのだが、代替したての若い領主は領内からかき集めた潤沢な資金を使い、王都での権力闘争に余念がなく領内の事はおざなりと成って居た。
其のゴロツキ共であるが、領主が討伐に来ないと見るやだんだんと要求が過酷になって来ていた、仕事にあぶれた若者を中心に人数が膨れ上がり、手が付けられ無く成って居たのだ。
今はまだ、人が死亡する事態にまで発展して居ないとはいえ、搾取してくる要求と暴力がエスカレートしていくのは必須で村としても対抗策を考慮していた時期では在るのだ。
村の規模にしてはかなり広い建物である教会の中で、カルシスは気をもんでいた。この村を襲ってきていた賊との交渉を旅の武人がかって出てきたのは良いが、話が思わぬ方向に行き始めているのだ。
「成る程、事情は理解した。要は貴殿の部隊の有用性を分かってもらう為の行為であって、村を襲って金品や食料の強奪が目的ではないと言うのだな」そう言って納得した様に頷くフォスター。
「聞くに、ここ最近この村と周辺の村々の悩みの種はゴロツキ同然の若者達の暴力と略奪だと言う事だが、人死は出てい無いとはいえ抵抗した村人を寄ってたかって打ち据えたとも聞く、理性のタガが外れる前に何とかせねばならぬのでは無いかな?」と老練な武人の質問にこの村の長であるカムクは目が泳ぐ。
盗賊の襲撃を聞いてからそれ程時間が経っていないのだ、また無理な要求を突き付けて来るであろうゴロツキ共に、どの程度の貢物で手を打って貰うかと考えて居た矢先の出来事で。一人の武人が賊を取り押さえたと聞いて喜んだのも束の間、この話し合いの先が見え無いのだ。
「どういう事でしょうか? 皆目検討もつきませぬが」とカムクはカルシスに目配せしながら聞いて来た、暗に交渉を代わってくれと言っている様だ、それを受けて渋々交渉を肩代わりする。
「それはこの人達を雇うと言う事でしょうか? それは私共の一存では決められる事ではありませんが」とカルシスが聞いてみると。
「其方らは村の窮状を領主に訴えて居るのであろう? ならば何もせぬ領主の顔色を窺って居る場合ではあるまい。其れこそ腹を括って現状を変えねば、何れその賊どもに膝を屈してこの村どころか近隣の村すべてがその賊どもの支配下に置かれることに為るぞ。そうなれば村の統制はとれぬであろうな、当然治安が悪くなるのは必定だぞ。それならばいっそ其の方ら自らが、村を守るための武力を持ち合わせれば良いとは思わぬか?」と突拍子もない提案をして来た、領主に無断で武力を持つことは反逆を意味するが、今の現状を打開するには致し方ないのではないかと言っているのだ。
「確かにそのままでは、悪童達の言いなりに為るしか無くなりますが、あなた達を雇う事で、領主様の怒りを買う事に為るのはどうでしょうか?、 私達としてはその事の方が気になりますが?」と煮え切らない村長では在るが、そこは致し方がない事ではある。誰でも厄介ごとは避けたいものなのだ。
「それでは、暫く我らを雇うというのはどうであろうか? 取り敢えずは村々の安全は保障しよう、その問題のゴロツキ共もこちらで対処する、その条件で一月分の食糧をそちらが負担する、その後の事は後程交渉するという事ではどうか?」と破格の条件を出してきた、いつの間にかフォスターを筆頭に村を襲ってきた襲撃者がまるで傭兵団の体をなしているのだが、今更否とはいえないブライアンはおとなしく聞いていた。
近隣の村々から今までゴロツキ共に搾取された量を考えるとその条件は破格どころか将来的にもよさげに聞こえた、村長のカムクとカルシスはお互いに頷き合って承諾を決意する、当分はその条件で十分だと考えた様だ。
「今の私どもには破格の条件ですが、しかし此の後、あなた方を雇うと成れば、それなりの金銭を差し上げねばならないのでは無いですか? 私達にその金銭を賄えるとは思えないのですが」と当然の疑問を聞いて来るカルシス。命のやり取りをする集団を賄うにはそれなりの覚悟とお金がかかる、人の集まる土地を運営する事に置いて、隣接する別の集団との軋轢は、最初は話し合いで解決を模索するが最終的には暴力によって是か非を決める事に為る、要はより強い武力を持ち合わせた方が正義となるのだ。どの様な形であれ武力の維持には金がかかる、軍隊とは金食い虫なのだ。
村や町を守るもしくは治安維持のためだと言い訳をしても争いが有る以上暴力とは切っても切れない事に為る。必要悪だと言っても争う事は必然的に怪我人や最悪死人が出る事に為るのだのだ、人は誰しもその様な事を望みはしない。
しかし例外が有る、それは国を守り他国を侵略するための軍隊だ。他国もしくは隣接する領土を取得するためには当然話し合いで決着する事は無い、略奪という理不尽な暴力がその土地に暮らす人々に降りかかる事に為る。その為に大金を投じて武器を賄い武人を雇うのだ。その筆頭が貴族と呼ばれる人種だ、土地を治めると言う事は必然的に収益を得るという事に為る、強大な権力を持った人間は欲望を抑える事はしない、有益な土地からは膨大な収益がもたらされる、当然権力者はその土地を奪い取る為に戦いを挑む事となる。
しかし侵略するという事は、その土地で戦いが起こる事と同義だ。要するに豊かな収益を求めてその土地で争い、田畑を踏みつぶし村や町を焼き払い人々を殺戮して、その豊かな地域を無残な荒野へと変えるという、なんともバカげた行いをする事に為るのだ。
人と人とが争う以上、お互いが無事で済むことは無い、当然怪我や最悪死人を出す事となる。神という存在を崇拝する教会の経典には怪我を治し、病を癒す奇跡の力が在る、その神の奇跡には驚く事に死んだ人間をも蘇らせることが叶うとまで言われている。しかしそれは読んで字のごとく奇跡でしかない、その行為をまじかで見た人は少ない、しかし其の逸話は良く聞くことがある、頻繁に世に出てくる話なのだから嘘という事は無いのであろう。
人は、いや生きとし生きる物全てはいずれ死を迎える、経典には死とは役目を終えた肉体から魂が離別していく行為で、その魂を神と呼ばれる存在が内包へと導いて初めて人という肉体は死を迎え、その魂は神と融合されるのだるのだとされていた。要するにそれ以外で入れ物である肉体が機能を損なっても魂はそのままその肉体に存在するので、損なわれた肉体を修復する事で生き返る事が出来るのだと解釈されていた。
この世界では怪我や病気で亡くなる人は少ない、逸れこそが教会が繁栄している由縁である、怪我や病気を治し、死した人をも蘇らせるともなれば人々が崇拝する事は当然だと言える。そもそも戦争や争い事で命を散らす事はまれなのだ、しかし皆無という事はない、とかく争い事と人の死は切っても切れない関係にある。
人を意思を以て殺めるという行為は普通の人がおいそれと出来る事ではない、普通に生きている人には無理なのだ。不運な事故や過失で死人が出る事とは違い、人が意識的に人を殺める事は余程の覚悟がないと出来はしないのだ。しかしそれでは戦争で新たな土地を搾取する事が出来ない、そこで洗脳まがいの軍事教練で無垢な人々を殺戮者に仕立て上げる行為をする、要するに軍役を課すことに為るのだ。
長い歴史の中で培われて来た戦う事のノウハウは、個対個であれ群対群であれ集得する事の出来る人は限られる、要するに能力的に適しているかどうかという事に為る、子供が後を継ぐ貴族にしても、幼い頃からの教育という鍛錬である程度は習得できても、その子が戦闘の資質を受け継いでいるとは限らないのだ、凡人はどうあがいても英傑には及ばないのだから、そこで貴族として其の一族の繁栄と衰退が分かれることに為るのだ。
しかし常に戦場を意識している人達はその反中に収まらない、騎士団として戦場にて実戦で技量を磨き上げてきた人達は、武略に置いて一味も二味も違ってくるのだ、それは傭兵とて同じことが言える、戦場を転戦して戦う事を生業とする彼らの方が戦場に置いて重宝される所以である、当然優秀な傭兵団ともなると安くで雇えるはずもない、高額な金銭での雇用は常識なのだ。
(その2)
「金500ソルンで3年間の治安の維持と村の自警団の養成は約束しよう、当然この地域の領主は納得し無かろうが、その交渉もこちらが引き受ける。この村と近隣の村々の自治は各々でお任せするが、厄介ごとが有れば相談には乗るので安心してほしい」とかなりの金額を吹っかけてきたフォスターにブライアンは目をむいた。いくら何でもこの村が払える金額ではない、近隣の村々のこの地方の領主に支払う税の5年分に匹敵するのだ。
「お待ちください、その様な高額なお金はこの村には有りません。支払いなど到底無理でございます」と村長のカムクが顔色を変えて否定してきた。フォスターも払える事が出来ない事は重々承知している。
「なに。金500ソルンは領主に事の重大さを分かってもらうための芝居だ。其の金額を近隣の村と共同で賄うために、当然領主への上納金は治める事が出来ない、その理由の為の金額だと思ってくれ。・・・此れからブライアン殿は放棄された村を立て直してそこを拠点に軍閥として活動していくことに為る、村を立て直すには金と人手が居る。要はその手伝いをしてもらう見返りとだと思ってくれていい。村の治安維持と自警団の育成は事のついでだ」とフォスターは簡単に言うが、要はこの地域の搾取と同義だ、戦うことなくこの村とその周辺の村を従える事に為るのだと言っているに等しい。
その事を理解しているのかどうかは分からないが、司祭のカルシスと村長のカムクはこれで暫くは厄介ごとが片付くと思っている様だ。
近い将来領主の軍勢と我らでこの村をかけた戦いが有るのでは無いかと不安を滲ませているブライアンだが、フォスターがどの様に考えているのか皆目見当もつかない中で、村を襲った賊として処分される事は無くなったと少しばかり安心していた。
村の長との話し合いを終えてフォスターは、部屋の隅の長椅子で寝具代わりの厚手の布に包まったまま、寝ているアベルを抱き上げる。
フォスターが打ち据えたブライアンの仲間達は、この教会のシスターと司祭見習い達により治療を受けて居た。そのついでに簡単な食事、パンとスープを提供されたのだ。
村の代表としてカムクとカルシスとの話し合いに、別室に案内されたフォスターとブライアンに、アベルもついて来て居たのだが、流石に3歳のアベルがその協議に参加できる訳ではないが、いっときでもフォスターの側を離れた事のない彼は部屋の隅の長椅子にちょこんと座って何と無く聞き耳を立てて居たのだ。
しかし気を利かせたシスターの一人が、厚手の毛布と食事を彼に手渡すと俄然空腹には勝てず、あっという間に平らげてしまって居た。当然腹の虫が朽ちてしまうと睡魔という魔物が幼いアベルにも襲って来る訳で、意味のわから無いまでも大人達の話を聞き逃すまいとして起きていようと頑張っては見たものの、長い馬上の旅の後では疲れているアベルの抵抗も虚しく、彼はいつの間にか夢の中へと旅立って行った。
翌朝いつの間にかベッドで寝ていたアベルは気持ちよく目覚めた、久方ぶりの寝具での寝起きに気持ちがすっきりして居たのだ。昨日の夜は長椅子でうつらうつらしていた事は何となう覚えているが、いつの間にか寝具の中へと移動している事については深く考えない事にした、それほど気持ちの良い目覚めだったのだ。
「ようやく起きたか、もうすぐ出発するぞ。食堂に朝食が用意されているから顔を洗って食べて来なさい」ベッドの中で思いっきり背伸びをして呆けているアベルを、いきなり部屋へと入ってきたフォスターが見咎めて、呆れた様にそう言ってアベルの支度を促す、なかなか起きて来ないアベルを起こしに来たようだ。
「おはようございます父上」と言って飛び起きたアベルは窓から零れてくる光を見て、日が昇ってから、かなりの時間が経って居る事に気が付いた。慌ててベッドから降りて寝台の傍に置いてある水桶で顔を洗って身支度を整える。
普通の3歳児には自分で身支度を整える事など出来はしないのだが、そこは育児の常識というのを知らないフォスターが育てた結果だと言える。アベルが素直だった事にも関係しているが、とかく常識を逸脱している二人なのだ。顔を洗い終えたアベルがフォスターについて行きながら聞いてみる。
「これから領都に向かうのですか?」フォスターは幼いアベルに旅の行程を事細かく話していた、好奇心旺盛な子供の質問に対して面倒くさがらずに説明していたのだ。子供だから話しても理解できないと決めつけずに、聞かれたことを丁寧に説明して来た事で、当然アベル本人も話された内容を子供ながらに一生懸命に理解しようと努力する事に為る。結果的に子供の柔軟性と感受性の高さが発揮されて理解力が向上する結果となった。しかしその事で子供らしくない子供が出来上がったのは、この子にとっていささか不憫ではある。
「いや、暫くはブライアン殿の手伝いをすることに為るな。今日は彼に付いて行って放棄された村の視察だ。復興するにしても見て見ない事には始まらん。それに私が関わった事で結果的に彼の思惑を防いでしまった事に為るのでな、多少は手を貸さねばなるまいよ。いずれは古い友人を訪ねはするが、国を興す手伝いと言うのも面白そうだ」と満面の笑みで3歳児に話すフォスター、この子が理解できるかどうかは分からないが、彼なりの決意表明なのだ。
(その3)
アベルは急いで朝食をたいらげると外へ出て驚いた、教会の前は村の祭りや集会、月に何回かの露天市などに使われている、かなり広い空間が有り、その場所は村の広場となっていた。
村の広場には3頭の馬と2頭のロバに荷を満載してその周りを完全武装した小隊然とした集団が出発の時を待って居たのだ。
言わずと知れたブライアン率いる武装集団だ、よく見ると彼らも何某かの荷物を持っていた、大量の荷を運ぶのに何故荷馬車を使わないかというと、街道を行き来する訳では無いからだ、街道の途中から森へと分け入り道なき道を進まなければ成らない為である。
荷物を大量に運べる便利な荷馬車とは言っても進む事のできる道がなければ無用の長物以下となる、馬であれば多少の悪路でも歩く事が出来る。
2頭の馬はブライアンとキルシスの持ち馬でこの村を襲撃した際の食糧の運搬の為に連れてきた馬だ。当然もう1頭は言わずと知れたのフォスターの愛馬エクセレントで、鞍の後ろに荷物を積んでいる、多少不満が有るのか落ち着きのない様子で足を踏み鳴らしていた。
しかしアベルが驚いたのは、広場に村のほとんどの人が集まっていて、その集団を固唾を呑んで見守っていたのだ。どうやら昨日の今日で決まった事を、ブライアン達が出立するタイミングで説明する事にした様で、その為に村の人達は広場に集っていたのだ。
いざ説明を始めようとした時に、何やら村の入り口あたりが騒がしくなって居た、どうやらキルシスが揺動のため襲う素振りを見せた近隣の村に応援として出て居た村の守り手達が、慌てて帰って来た様だ。
幾らこの辺りの地理に詳しいとは言っても、夜に出歩くのは危険な行為に他なら無い、その為に出先の村で一泊した後に夜明けを待って急いで帰って来た様子だった、その証拠にだいぶ疲れている様で、総勢20名からなる自警団の殆どが倒れ込んでいる。
この集団を率いて居るであろう男が村長のカムクと司祭のカルシスに伴われてフォスターとブライアンの元にやって来た、此れから出立というタイミングでの面会では在るが、この村を守る自警団を率いて居る自負が在るのだろう、昨日のフォスターの提案を承諾した村長と司祭の決定に不承知の表情が見て取れた。
「フォスター殿。この村の自警団を預かるケビンと言う者ですが、あなたにお話があるそうです。聞いてやってはくれませんか?」と多少あきれ顔で話しかけてきた、本来であれば自警団の長を拝命しているとはいえ、村の行く末を決めた村長たちに対して、苦情を言える立場ではない。
小さなころから体が大きくて力が強いことから、誰よりも喧嘩に強く若い者のまとめ役をしていた事で自警団を立ち上げたのだが、自薦とはいえ自警団のトップになった事で仲間内から持ち上げられて浮かれているのだ。
「しばらく待ってもらおうか、悪いが納得できない。何故盗賊の言いなりに成り、大事な食糧を持ち出させるのか聞かせてもたい、しかもその盗賊を雇うとは前代未聞だ、聞いた事がないぞ」と自分より体格の良い老人に対して虚勢を張っているのが見え見えでは在るのだが、取り敢えずは言いたいことは言えた様だ。
「ふむ。ところで其方は自警団を纏めていると言う事だが、この村の長が決めた事に対して、否を言える立場に在るのかな?、 であればこの村の行政は破綻しておると見る事が出来るのだがどうであろうかカムク殿?」とフォスターは盗賊と言われて気色ばむブライアンを制して、落ち着き払ってカムクに問いかける。フォスターに問われたカムクは慌て言い募る。
「とんでもございません。いくら自警団の責任者と言っても、私どもが決めた事に口を出せる事など出来はしないのですが、・・・実はこの者は孫でしてな、言い出したら聞く耳を持たぬものでして、フォスター殿に世間と言うものを教えていただければと思いまして」と言い訳がましく答えると、カルシスに何やら目配せする、食糧の引渡しと廃村の復興の手伝いをする見返りに、この村の防衛と治安の維持をお願いした事に賛同したのだから何か言ってくれと言うのだろう。
「確かに約束は致しましたが、これから集落の人達に説明して納得してもらえねばならぬのです、取り敢えず主だった者達を集めて話をしましたが、この者の様に納得してい無い者も居まして、出来ましたらフォスター様かブライアン様からからご説明してもらえると助かりますが」とカルシスが申し訳なさそうに話す。
目の前でイキリ立つケビンは別にして、遠巻きにめ見ている村の人達に理解してもらうには、当事者が話したほうが良さそうだ。
昨夜、ブライアンがフォスターの部屋へ訪ねて来て、事の成り行きの礼と此れからの事を話した取り決め通りにブライアンが説明を引き継ぐ事にした、彼は教会の入り口の高台に登ると高々と声を張り上げる。
「私の名はブライアン・マイレールと申す。・・・まずは昨日騒がせた事を詫びる、我らの力の程を知って貰うには、見てもらったほうが速かろうと近隣の村を襲う芝居をしたまで、フォスター殿の横槍で我らの思惑とは多少違う運びとなったが、この村の実情を見るに早急に対処する事にしたあなた方の決定に対して我らに依存はない。・・・安心して欲しい、これからはこの村含め近隣の人々に、危害を加える輩は我らが討伐致す事を、我が名にかけて誓う。詳細は後程村長のカムク殿とカルシス殿に尋ねるがよろしかろう」と簡単に挨拶がてらに事の次第を話すと、いきり立つケビン。
「だから待てと言っているだろう、俺は納得していないぞ。皆もそうだろう? 大事な食料と大工を持って行かれて、そうですかと納得できる訳がない、しかも魔の森の中にある廃村跡だと言うじゃねーか、そんな危険な場所に村人を通わせるわけにはいかねぇ~よ」と吠える。無視しても良いが後々村人を扇動すると為ると厄介な事に為ると感じたフォスターは対策を講じる事にした。
「ほう~~、気概は認めるが周りは良く見た方が良いぞ、そなた一人で此の人数を抑えるのかな? 後ろでへばっている者たちは使い物に為らないと思うのだが?」言われたケビンは自分の率いて居た自警団の面々が行軍の疲労からまだ立ち直って居ない事に今更ながらに気が付いた、とてもじゃないが一人で此の人数を抑える事など出来はしない。自警団が万全な状態でも抑えるには無理そうでは在るが、そこは村人達が見ている手前意地が在るのだろう、引く気配を見せない。
「其の方やこの村の方々にとっての世間は此の村やこの国近辺で止まっているのであろう?。 丁度良い機会だ、何れ訪れるであろう世界の脅威を教えて進ぜよう。・・・ブライアン殿は先に行かれるがよい、時間がおしいのでな。おおーそうだ、従者の一人トマクをお借りしても良いかな?、 事が済めば道案内が必要となるであろうからな」名前を呼ばれたトマクは驚いた。フォスターが自分の名前を覚えていた事もそうだが、残るように言われた事にも疑問が残る。彼は騎士見習い以前の従者にしか過ぎないのだから。
彼にしても、フォスターは驚異の存在なのだ。彼との接点と言えば、この村を襲撃したさい後ろからの挟撃に有ったことぐらいなのだ、その時対峙したが一合も当てる事ができ出来ずに打ち据えられて気を失ってしまっていて。気が付けば村の教会で負傷した我らに、打倒したことを謝りながら教会のシスターや司祭見習たちに交じって治療をしていたことぐらいなのだ。
その時治癒魔法を使っていたので、その魔法は神職でないと使えないのではないかと質問した時、彼は驚いた様な顔をして「魔法とは本来全ての人に平等に与えられている神からの祝福なのだ、使う意思と努力が有れば程度の差はあれ誰でも使う事が出来るのだよ」と言って。悪戯仔の様な顔をして、「私が使っている魔法も神聖魔法も根っこは同じなら、回復魔法も使う事が出来る。そう考えると不思議では無かろう?」と内緒話をする様に話していた。ただ隣で聞いていた司祭見習の青年が苦笑いしていた事が印象的だった。
ブライアン一行が出立した後、残ったフォスターとアベル、それにトマクは村人の見つめる中ケビンと対峙していた。キルシスと数十名の兵士が連絡係兼この村を守るための護衛に数名残って居るとはいえ数百人の村人達からの圧力は相当なものだった。
「いったい何を仕様ってんだい?、 世界とか言いてもここら辺と大して違いが有る訳じゃ無いだろう。大仰に言って雇い料を吊り上げる気じゃねえ~だろうな」ケビンは周りの村人に囲まれて強気の言葉を紡いでいるが、内心ではビビって居た。これ程村人に注目された事が此れまで無かったのだ、いや村人の注意を惹く為にあえて乱暴な口調で話していた事も有るのだが、実際に村人達からこれ程の注目を集めてしまうと、気持ち的に舞い上がってしまっていた。
「いや簡単な事だ、其方腕っぷしを買われて自警団の長をしているのだろうが、その様な物、いざ戦場での命のやり取りに置いて何の足しにもならない事を教えて進ぜようと思ってのう。このトマクは騎士見習いでさえない、従者として雑用をこなす為の人材では在るが、徒歩として戦場に赴くときも有る、つまり戦う事は出来る、そのように鍛錬しているのだ。其処で其方と模擬戦をしてどれ程の違いが有るのか分かってもらおう思っているのだ。村の人々もそうした方が分かりやすかろうと思ってのう」と淡々と話すフォスターだが、それを聞いていたキルシスと残った兵士は理解した。つまりフォスターは村人に戦場で戦う事の出来る本当の兵士と、ただの力自慢の一般人の違いを分かってもらおうとしているのだ。これは村に残って治安と防衛を任されたキルシス達にとっては、此れから事を運ぶことに対してやり易くなる。キルシスという古参の騎士団長経験者が残って居るのには訳が有る、表向きは野党対策では在るが、本当の目的はいずれこの周辺を統治している領主との交渉の為だ。いきなり武力行使とは成らないだろうが、この近辺の村の統治に不備が出来ては、この一帯を支配している領主として黙って居る訳が無いのだから。
前 話 Episodeリスト 次 話
コメント