ダンジョンを探索すると、いろいろな事が分かるかも。(サイドストーリー集)
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午前の終わりを迎える時の鐘が、あと半時を待たずにな鳴り響く事になりそうな時間。列車での送迎のピークが過ぎて、行き交う人々の足取りも何処かのんびりとした歩調となる頃、高崎 雫斗はこの迷宮然とした駅の構内を両親と一緒に歩いている。
彼は今、東京駅へと来ていた。母親の悠美は出産を間近に控えていて、彼女の両親のいる雑賀村の実家で、子供を産むために帰省する途中なのだ。
最初の予定では、母親と雫斗の二人だけで帰省するつもりでいたのだが、急遽決まった父親の海慈の休暇と合わせて、家族三人での親子水入らずの旅行となったのだ。乗る予定の新幹線の時間までは、まだ余裕がある事もあり、階下の店舗で食事をする事になった。
最近開通したリニアでも良かったのだが、名古屋までの近距離ではたいして時間の違いはない、それなばと値段の安い新幹線の方を選んだのだった。雫斗にしてみると最近はやりのリニア中央新幹線に、乗れるかもしれないと多少期待はしていたのだが、家族でのお出かけという一大イベントには勝てず落胆の頻度は小さかった。
「雫斗は何が食べたい?、 今日は雫斗の好きなものでお昼にしましょう」悠美が聞いてきたので、躊躇なく中華を希望した雫斗だった。彼の希望した中華料理店を物色しながら歩く親子三人では在るが、雫斗の気持ちはなぜか上向いてこなかった。出産の為の帰省とはいえ、何処か鎮痛な雰囲気をまとって居る両親の事が気がかりで、はしゃぐ気持ちになれなかったのだ。
「ねえねえ、お母さん。今日は中華まん2個食べていい?」それでも久しぶりの家族での外食である、嬉しい気持ちに嘘はない。雫斗は好物の中華まんを一個増やしていいか聞いてみた。
「そうね、今日は特別よ。でも他の料理が食べられ無くなっても知らないわよ」子供の食事の栄養のバランスを考えると、好物だけの摂取は避けたい所なのだが、悠美は特別な日だからと許可を出す。
「残ったら持ち帰りにして貰って、バスの中で食べたらいいさ、おばあちゃんの居る斎賀村までは、新幹線を降りてからが長いからな」と海慈が言うと、すかさず悠美が反論する。
「あら? それは、私に対する嫌味ですの。確かに田舎ではありますが、それなりに良い所は有りますのよ」悠美が捲れた風を装って話す。この夫婦は多少芝居じみた言葉の応酬を愉しむ傾向がある。
幼い雫斗にはそんな事は分からないので、多少ハラハラしながら両親の話を聞く事になるのだ。しかし本来仲睦まじい夫婦の事、最後は必ず笑って終わるので安心ではある。だがまだ幼い雫斗には含み笑いという摩訶不思議な現象がある事を知らないのであった。
「それは知っているさ、時間が止まったかの様な村の生活に、身を置くのは好きだからね。問題はそのあとに、現実の世界に戻った時のギャップが酷すぎてね、感覚を元に戻すのに苦労する事になるからね」そう言って肩をすくめて悠美に笑いかけた海慈の思惑はさておき、郊外の村の過疎化の進む要因の一つに交通の不便さがあるのは事実だ。
道路と言うものは敷設する迄に時間と働力、そして膨大な資金が使われるが、それで終了ではない。保守や維持にもまたお金と働力を割かねばならない金食い虫だ。しかも山間部ともなれば崖崩れや河川の氾濫、挙げ句の果てに土石流など、都市部と山あいの村を結ぶ交通網には困難が待ち受けている。
「あら。その割には、休暇のたびに私の実家に行く事に賛成なさるのは何故かしらね?。 嫌っている割には良くいらしゃいます事?」と悠美は笑顔で聞いてくる、そう海慈は悠美との結婚前から嬉々として彼女の田舎に通って来て、山歩きを楽しんでいた。
「自衛隊の訓練の殆どは行軍だよ、レンジャーの訓練なんて、故意に山で遭難してのサバイバルと大差ないからね、君の実家の山なんて歩きやすくて、ちょっとしたトレッキングみたいなものさ」海慈は悠美に揶揄われるたびに、自衛隊の訓練に託けて自分の事を正当化する。
しかし悠美が海外の赴任先で海慈と知り合ってから半年を待たずに、悠美の実家の村に出没し始めたのには驚いた。しかも、悠美の知らないうちに父親の武那方 敏郎と意気投合していて、海慈の休暇のたびに武那方家に泊まり込み格闘談議に華を咲かせていた。
村の噂の伝達速度は光より速い、最初気にも留めていなかった男性が、村人達の認識では悠美の思い人だとなれば意識もする。良い人ではあるが結婚相手となると物足りなさのあった悠美にすれば、知らずに既成事実を作られた格好なのだ。
海慈との結婚を決めたのも、適齢期を過ぎて何となく周りの状況から、まあ良いかと半分諦めの気持ちがあったのかも知れなかった。
決め手となったのは、母親の「一緒になってみて、気に入らなければ別れたら良いのよ」と無責任な物言いに“ああ、そんなものか”と思った事が大きかった。
それでも、内情はどうあれ連れ添って10年を超えてしまえば、周りからはおしどり夫婦として認識される事になる。含みのある言葉の応酬ではあるが、両親が笑顔で話している為、和やかな会話だと雫斗は思っていた。
今までの鎮痛な雰囲気は何だったんだろうと思ってはいたが、ようやく楽しい旅行になると期待に胸を膨らませていたその時。
正午の鐘の音が鳴り止まぬ内に辺りが暗くなる。停電の様な急な暗闇とは違い、辺りに帷が降りて来たかの様な薄暗さが徐々に増していき、暗闇が際立って来た。
雫斗の。いや、今その空間を共有している全員が、得体の知れない胸騒ぎと共に言葉がざわめきとなって広がっていったその時。
いきなり”ガクン”と衝撃が来た。まるで走っている電車が急ブレーキをかけた様な凄まじい力に構内に居る全員が倒れ込んだ。
地震とは明らかに違う揺れに不安の波が人知れず広がっていく。その不安の波がピークを迎えた時、一人の人が出口へと向かった事がきっかけで、我勝ちにとに人の流れができていく。
パニックになった集団の恐ろしさを目の当たりにして青ざめていく雫斗と悠美を連れて壁際へと避難する海慈。
狭い出入り口に殺到した群衆に巻き込まれないための措置だが、チラホラと同じ事を考えていた人たちが壁際へと集まって来た。
「くそっ、携帯電話が使えない!。 悠美のスマホはどうだい?」今頃は地上へと上がる階段近辺は悲惨な事に成って居るかも知れないと、警察と消防へ緊急連絡したのだが、そもそもスマホのアンテナ表示が圏外を示して居た。
「私のスマホも繋がりません、職場の緊急連絡網まで落ちているなんて初めてです」悠美が途方に暮れた様に話す、外務省の上級職員である悠美の携帯は特別制なのだ。回線の使用権は上位にある、それが使えないとなると、全ての回線が使えないという事になる。
「しかし、あの揺れは何だったんでしょうか? この暗闇も停電とは違う様な気がするのですが?」悠美が不安を隠しきれず、雫斗を抱き抱えて聞いてきた、安心するのか無意識に海慈の服の袖を握ったままではあったが。
「さっきの衝撃も地震ではないね、何かわからないが嫌な予感がするよ」そう言いながらも職業柄なのか、これから起こるであろう想定外の事態に、何が起こるのかと警戒している様にも、期待に胸を高鳴らせている様にも見える。
海慈自身はそのように思っていないのだが、周りから見ればそのように映ってしまうのは、いささか心外ではある。
しばらく、壁際で様子を窺っていたが先程とは違う動きがあった。出口へと向かう階段へ殺到していた人並みが、まるで何かから逃げて居る様に血相を変えて戻ってきて居るのだ。
其れこそ先程の狂乱が可愛く見えるほどの慌てぶりで、戻ってきた群衆を唖然として見送って居ると、その後ろで何やら蠢いて居る物がいた。
視力の良い海慈がその光景を目の当たりにして顔面が蒼白になる。慌てて食事をする予定の店舗へと避難した、その時群衆に巻き込まれる事の無かった人達も一緒に付いて来ていた。
「信じられん話だが、・・・蟻が人を襲っていた。体長1メートルは有ろうかという大きさだった、あんな物に襲われては助からん、ここで凌ぎ切るしかない」 店舗の中で他の人達と協力しながら、入口をテーブルで塞ぎ出した海慈が青ざめた顔で話す。
「本当ですか!。 現実世界にそんな化け物が居るとはしんじられませんが?」雫斗と変わらない歳の女の子を連れた壮年夫婦の男の方が聞いてきた。確かにいきなりそう言われても、普通は信じはしない。しかし状況が信じ得るだけの雰囲気を醸し出して居た。
海慈は店舗の入り口のある壁一面にバリケードを築き上げたあと、バックパックから愛用のサバイバルナイフを腰の後ろに装着して、いつも演習で使って居るグローブを着けながらその壮年の男に答えた。
「もう直ぐ目の前に来ますよ。私も信じたく無いが、これは現実です。あんな物とは戦いたく無いですね、正直な話」海慈達の居る店舗前を2匹の蟻が通り過ぎていく。その巨大さに圧倒される、蟻は自分の体重の何倍もの重さのものを軽々と運んで行ける、強いて言えば小型の重機並みのパワーと敏捷性を併せ持つ化け物だ。
その蟻が体長1メートルとはいえ巨大化したのだ。其れと戦うとなると脅威以外の何者でも無い。
蟻達を無事見送ってホッとして居た海慈達だが、後ろの方で悲鳴が上がる。通路側だけに注意を払っていたことが裏目に出た、当然バリケードから離れた所には、か弱い女、子供を潜まして居たのだ。
慌てて駆けつけた海慈の目に体長30センチは有ろうかと言うダンゴムシが数匹、奥の厨房から出てくる所だった、海慈は咄嗟に備えてあった消化器で叩き潰す。
硬い甲皮に覆われているとはいえ、消化器の重量を力の限り振り下ろせば、かなりの衝撃になる。叩き潰されたダンゴムシは暫くすると光の粒となって消えていった。
後に残ったのは、宝石と言うには濁った色をした鉱物と何かの液体の入った小瓶が、現れた。他のダンゴムシは壮年の男が元はモップであった木の棒を突き込んで倒して居た。
もう1匹は若い女性が頑丈そうな大きな花瓶を振り下ろして居た、その花瓶と共に潰れたダンゴムシの化け物は、同じ様に暫くすると綺麗さっぱり消えていった。
取り敢えず脅威は無くなって一安心したが、ダンゴムシが出て来た店の奥の安全を確認しに海慈は向かった。
「ふむ!。面白い現象だね、まるで昔やっていたゲームの様に魔物を倒すと何某かのドロップ品が出てくるわけか。これは何かの宝石かな?、おおおスクロールの様なものまであるとは」そう言って壮年の男が、自分の倒したダンゴムシが落とした戦利品の中の巻物の様なものを拾い上げて、繁々と眺めて居たが、おもむろに紐を解いて開き始めた。
するとその羊皮紙で出来た巻物の様な物が弾けて光の粒となり、その男にまとわり付く。
「おおお〜、何とファイヤーボールが撃てるとな? 魔法のスクロール? 成程、怪物を倒すと報酬が貰えるわけか。・・・ステータスオープン」丁度海慈が奥の部屋から出てきたタイミングで、そう言った男が手の中に出てきたカードの様なものを見て顔を顰めた、
「どうしました?」おかしな事をしているなと気になった海慈が聞いてみる。
「見たまえ。名前とレベルしか書かれておらん、それをステータスと言っていいものかどうか」と言いながら海慈にカードを見せてきた。 確かにカードには田中 浩平と書かれて居てレベルは10となって居た。
「田中さんとおっしゃるのですか? 私は高崎と言います、取り敢えず奥の部屋の安全は確認してきました。其れから、これからの事を相談したいのですがよろしいですか?」海慈は田中の出したカードを、手品か何かで出した出来の良い名刺と勘違いして居た、しかしそれは仕方のない事ではある、そういう動画はたくさん出回っているのだから。
「おお、そうであった。ダンジョン攻略の基本は安全の確保であったな」と納得したように言って田中さんは海慈と向き合った。
全員を前に海慈は絶望に似た感情を隠して居た、顔には出さなかったがこれから未知の怪物を倒しながら、脱出をするとなると女性や子供、お年寄りが多すぎるのだ。
確かにダンゴムシを倒した女性や田中さんなどは期待できるのだが、他に数人の男性がいるだけだった。
この人数で、移動中にさっきの蟻の化け物と遭遇したとしたら、悲惨な事になるのは目に見えている。
「私は陸上自衛隊に勤務している高崎と言います、私としては、走る事のできない妊婦やお年寄り、子供などが居ますので、此処で先程の蟻の怪物から隠れながら救助を待つ事を進言します。他に意見がある方はいますか?」海慈が、此処を拠点に救助を待つ案を提示したのだが、否を唱える人が出て来た。親子には見えない年配の男性と若い女性のカップルと。若い学生のグループのリーダをして居た男性が同じ様な事を言って来たのだ。
「待ちたまえ。救助と言うが当てはあるのか?、 この様な状況下で悠長に救助を待つと言うのは納得出来ん。そもそも君に命令される謂れはないぞ」と得体の知れないカップルの男性が言うと。
「そうです。僕達のことは僕達で決めます、貴方にとやかく言われる筋合いはありません」と学生のリーダーの様な青年が追従する。
海慈は別に自分の意見を強要している訳ではない、状況から見てベストな選択をして、他に良い案は無いかと聞いているだけなのだが、如何やら自衛隊の名前で命令されたと勘違いしている様だ。
「落ち着いて下さい。高崎さんも別に意見を言っているだけで、君達をどうこうする訳ではあるまい。しかし怪物が徘徊している今の現状では、全員で動き回るのは愚策だと素人でもわかる。私は、此処で救助を待つ事に賛成するね」 そう言ったのは、先程海慈にカードの様なものを見せた壮年の男だ。結局此処で救助を待つ派と、今すぐ脱出する派で分かれた。
海慈も強要する訳では無いので、出て行く人達を見送る事になる。面白いのは、歳の離れたカップルは当然出て行くのだが、若いグループの中からダンゴムシを花瓶で叩き潰した女性とその友達は残る事にした様だ。
「良いのかね、一緒に行かなくて」海慈が残った女の子に聞いてみた、大学生だと予想はして居ても確信はない、ただ雰囲気が大学のサークルの仲間の様な感じがしたので聞いてみたのだ。
「別に仲間という訳でもないですし、此の状況は命の選択ですよね? なら勝率の良い方に賭けた方が良い気がしただけですから、気にしないで下さい」と花瓶でダンゴムシを倒した子が言う。
「優ちゃんはこういう時、頼りになるもんねー、この状況で優ちゃんと一緒に行動しないなんて考えられないわ」とその友達が当然だと言う。
優ちゃんと言う子はだいぶ信頼されている様だ、しかし名前が分からなければどうにも不便だ、改めて海慈が名前を聞いてみた。
「あっ!。 ごめんなさい。私は荒川 優子と言います、この子は友達の坂倉 美奈子。小学校からの腐れ縁ですが親友です」と荒川さんが、自己紹介と友達の紹介を一言で済ませた。
「腐れた縁なんて今にも繋がりが無くなりそうな言い方はやめて。私は墓場までまとわり付く気でいるんだから」坂倉さんが荒川さんに生涯に渡って寄生する事を宣言した、しかし底抜けに明るいからなのか、人徳なのか悪びれた感が全く無い、不思議な人ではある。
「私は、田中 浩平と言う。ところで君達こういうカードを持ち合わせて居ないかな?」そう言って板倉さんの補足説明に、多少苦笑しながら田中さんが、先程海慈に見せたカードを手に持って示した。
「何か作りの良い名刺かと思いましたが、それが何か?」と海慈が勘違いしたのも頷ける、本当にどこにでもある様な名刺大のカードなのだ。
「いや何ね、このカードが出て来たのは先程倒したダンゴムシの影響の様な気がしてね、其れならば君達にも出す事が出来るのでは無いかと思ってね」そう言って手に持つカードを出したり消したりして見せる田中さん。
それを見た荒川さんが「面白そうですね」と言いながらカードを手に持つ仕草をするとあっさりカードくが出て来て、カードを出した本人が驚いて居た。
海慈も半分は疑いながらも手の中にカードを連想すると、あっさり出て来て驚く事になる。
「どういう事なんでしょうか?」と海慈は山田さんに聞いてみる。
「私もハッキリした事は言えないが、どうやら世界のルールが変わって来ていのかも知れない。・・・これを見たまえ」そう言って青いガラスの容器に入っている液体の様なものを2本と、淡い紫色のした鉱石の様なものを見せて来た。
「液体の入っているこの瓶はポーションと認識できる。しかし同じ造りのこの瓶は何なのか分からないときている。この鉱石も魔昌石だと分かるしかしもう一つはさっぱり分から無い、不思議に思って居たが合点がいったよ。認識出来ないこの瓶と魔昌石は君が倒したダンゴムシのドロップ品なんだ」そう言って認識できないと言っていた鉱物と液体の入った瓶を海慈に渡した。受けとった海慈は不思議な感覚に眉をひそめた。
「確かに、この鉱物が魔晶石だと認識できますね。しかもポーション? 傷や体力の回復に効果がある? 何故知らない物の効能を知ることが出来るのでしょうか?」海慈の疑問はもっともだ、知りえない筈の物質を触っただけで認知してしまう感覚に、戸惑っていると山田さんが予測をたてる。
「怪物が徘徊している事や、その怪物を倒すと褒美として何某かのドロップ品が出る事といい、まるでひと昔前のゲームやファンタジー小説の物語の世界観が、そのまま現生に顕現したかの様な有様でね、死傷者が出ている事を思えば悪い事だとは思うが、若い頃の様に胸が高鳴っている事は事実だよ」そう言って、剣を模したようにマップの棒を掲げて見せる田中さん。
「そうはいっても、無事脱出できればの話だがね。 勝算はどの程度だとみているかね高梨さん」そう聞かれてもこの様な事態を経験した事がない、この後の展開なんて予測など出来ようはずも無い。しかし、周りを見渡せば不安そうな顔をしたご婦人方の視線に晒される。何らかの見通しを立てなければ、この先不安が募り、精神的に持ち堪える事などできそうに無。
「私にも如何なるかの予測はできません。しかし取り敢えず怪物も常時徘徊している訳ではなさそうなので、交代で食事と休息を取りましょう。救助が来るまで時間が掛かると思われます、あまり思い詰めずに気長にいきましょう」海慈はそう言って、出来るだけ横になって身体を休める様にとアドバイスをする、長丁場の戦闘や行軍では休息が肝になる、幾ら命懸けとは言っても絶えず緊張の糸を張り詰めていては神経が参ってしまうのだ。
中華料理の店舗を使っての、籠城生活が始まった。救助を期待して待つ間、魔物から隠れて過ごさなければならないのだが、食事処の此の店舗には食糧や水の心配は無かった。調理済みのパッケージを解凍して温めて提供するだけのお店では在るが、冷凍庫や調理器具がそのまま使えたのには驚いた。
飲み物に関してもペットボトルがそのまま冷蔵庫に保管されていて、数日とは言え生活する分には十分すぎた物資が供えられていた。しかも薄暗いとはいえ見る分には十分な明かりも確保できていた。
極めつけはトイレ事情だ。何と水洗式のトイレが使えるのには驚いた、普通は災害の発生時ライフラインが寸断されることは常識なのだが、此処では事情が違うらしかった。
とにもかくにも、助けが来ると信じて戦う事の出来ないお年寄りやご婦人、子供や幼児を守るための戦いが始まったのだった。
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