第42話  人類の存続に欠かせないのは・・・ダンジョン?。

第1章  初級探索編 

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第42話(その1) 

 混乱する百花とは裏腹に、くすくすと笑っている妖艶な和装の令嬢が「そろそろ始めましょうか」と開始を決め込むのを聞いた百花は、慌ててストップをかける、情報が足りないのだ。 

 「ちょっと待ってください。此処は名古屋にあるダンジョンではないのですか? 私は名古屋支部前ダンジョンの試練の間に転送されるはずなのですが、何故ここに居るのでしょうか?」百花は当然の疑問を口にする。 

 「あら!、 わたくしとした事が説明不足でしたわね。・・・本来であれば、わたくしが管理している迷宮群と他の迷宮間での人の移動は、双方の管理者の承諾が無い限り無理なのです。・・・しかも最下層の攻略なしに此の舞台へと貴方を招待する事は、ほぼ不可能でした。ま~そう言う決まりごとが有ると思ってください。・・・しかし初の迷宮の踏破者が現れて、しかも二つの迷宮群を攻略したと成れば偶然とは考えられ無くなって来ました。そこでわたくし共の盟主様たちは、この波を逃しては為らぬと、禁忌を無視する事としたようです。要は浮かれてしまわれたのですね」とため息交じりに話すユリヤの翔子。 

 雫斗ならダンジョンが地球に出来た経緯を知り得るチャンスとばかりに、情報統制の緩そうなユリヤの翔子に対して論点を追及する対話を持ち掛けるのだが、多少脳筋気味の百花の場合は、本来の手順では無いがダンジョン攻略のチャンスが来たと理解した。 

 「私には、王の称号は無かったはずだけど、どうしてこの場所に招待されたのかしら?」と百花にとって最大の疑問を口にすると。 

 「ふふふ、まだご自分のステータスを確認なさってい無いのですね。先ほど単独で階層主を初見最速で討伐なさった事が、偉業と見なされました。どうぞご自分のステータスをご覧になってください、その間は”試練の儀”を行わないと約束いたします」とにこやかに話す翔子。 

 取り敢えず警戒しながら自分のステータスを確認する百花、確かに称号が増えては居たが《惨殺の王貴妃》には物申したい、確かに刀は百花の大切な武器だ、それで魔物を切り倒すのは当然だが惨殺という言葉は血に飢えた殺戮者のイメージがしてイマイチ頂けなかった。 

 百花がステータスを見て顔を顰めて居るのが可笑しかったのか、翔子が吹き出して尋ねた。 

 「称号が気に入らないのですか?。 わたくしには、貴方の闘う姿を良く表している称号だと思うのですが、・・・その為に貴方の相手は老骨な武人を用意したのですよ」そう言われた百花は甲冑を着たその人物を見つめる。 

 外見的には古代の戦装束でありながら、現代の防具に負けぬ洗練された立ち姿を醸し出している。老練で有りながら力強く、胆力に衰えは全く見え無い、年を得ている様に見えていてそう感じる事が出来るとは、不思議な人物では在る。年齢をある程度重ねていると百花が思った背景には、翔子の《老骨な武人》と言った言葉と、兜の後ろに流した髪の毛が真っ白だったからだが、相当な手練れで有る事には間違いなさそうだと、百花の直感が訴えていた。 

 その甲冑にしても、当然相手の攻撃から身を守る事を課されている関係上、普通なら重くて動き周るには不利な装いでは在る、しかし其処はダンジョンの魔物だ、しかもダンジョン攻略の最終ステージに出て来るほどの強い個体なのだ、決して油断して良い相手では無い。 

 自然体で立つその姿は勇壮で如何にも歴戦の武人を彷彿とさせる、顔を面具で隠しているので表情は読み取れ無いのが残念でならない。 

手に持つ武器は短槍だ、リーチはないが取り回しが良く、剣と対峙しても剣戟についていける敏捷性が在り接近戦で負ける事の無い得物となる、武器の中間地点定を持ち手としている時は小回りが効き、石突をあたりを持てばリーチの長い武器となる厄介な代物だ。 

定番の2本の大小の刀も腰に履いて居る、その事からも、槍と刀の両方に精通していると見ていい。 

 極め付けはチョーデカイ。2メートルを軽く超える身長と横幅のあるガタイの良さが、その魔物の力強さを物語って居た。 

 しかし百花は、対峙したその武人の魔物に対して、微塵も動揺して居なかった、対人を想定した鍛錬なら事欠く事は無かったからだ、敏捷性と奇抜な攻撃で相手を翻弄する雫斗が相手だと、正確で最短確実な太刀筋が求められた。 

 遠距離からの攻撃が得意な弥生と対峙した時は、弓や礫を躱したり叩き落とす動きの中で相手の隙を付き、一気に肉薄する術を身に付けた、接近戦では分が悪い弥生にしても黙って近付かせる訳もなく、幻惑した動きの中でいつの間にか距離を取って百花と対峙して居る、要するに逃げるのが上手いのだ。 

 極め付けは恭平だ、身長が高く体格の良い彼のお気に入りの武器は錫杖だ、師匠の物置小屋から探し出して来たその鉄の塊を綺麗に磨き上げて自分の得物として居た。 

 彼との鍛錬で相対した時は、より慎重で正確な太刀筋が要求された、一撃一撃が凄まじいのだ、その攻撃をまともに受けては力負けしてしまう為、受け流す事を重点的に鍛えられた。 

 師匠の武那方 敏郎爺さんは例外だ。鍛錬の為対戦する事は有るが、あのような妖怪を理解するにはまだまだ百花には荷が勝ちすぎる。 

 師匠の中庭で相対しての鍛錬は幼い頃からの日課だ、今まで何千回とこなしてきた百花には、目の前の魔物の武人は恭平対策で行けると確信していた。 

第42話(その2) 

 改めて自分と相手との力の度合いを推し量る百花、自分はその相手に勝てるのかと。そう考えると可笑しさが込み上げて来た、答えは出て居る。試してみたいのだ自分の実力を、刀を武器とする自分の全力を。 

ニヤリと笑った百花の表情で戦う決意を固めた事を感じた翔子が「それでは始めましょうか」と脇へと下がる。 

 すると自然体で微動だにしなかった鎧兜の魔物が、ゆっくりと槍を持ち上げて半身に構えた、それと同時に百花も刀を収納から出して静かに鞘から向き放つ、正眼に構えて相手の出方を伺う事に徹する、守りの体制では在るが見慣れぬ相手に最大限の警戒をするのは当然なのだ。 

 「忘却の武士。富嶽の猛丸、参る」そう高らかに名乗りを上げると腰だめに構えた姿勢から、一足飛びに距離を縮めて短槍を突き込んで来た。 

 「早い」その巨体からは想像もできない神速の出足と突きに、思わずそう感じた百花だが、体が勝手に反応した、日頃の鍛錬の成果だ。 

 右足を軽く引き、上半身を受け流して、刀の峰で槍先の軌道をそらした、と同時に此方から左足を鋭く一歩踏み込んで刀の刃を相手に当てて降り抜く、首を狙った一撃では在るが、兜の首を守って居るひだを切り裂いただけに終わる。 

 互いの位置を入れ替えて改めて対峙すると、自分の切り裂かれた兜のひだを見つめて一言「見事」と称賛する猛丸。 

 今度はお返しとばかりに、百花が飛び込んで刀を降り抜く、先程の猛丸の一撃離脱の飛び込みとは違い、お互いに足を止めての剣撃戦となる。 

 攻守を入れ替えての斬撃と突きの応酬に鋼の刃の高い音寧が木霊していく、体重を活かした突きと払いで畳みかける猛丸に対して、百花は動きの良さと刀さばきで鮮やかにその攻撃を躱していく、その過程で大振りのスキを突き何度か斬撃を相手にお見舞いしているのだが、その重厚な鎧兜に阻まれて致命傷を与えられていなかった。 

 致命傷を貰ってはいないといっても、確実に刀の刃を当てられている身としてはいずれ武具が持ち堪えられ無くなる事は目に見えていた。 

 暫くして、猛丸が引く形でお互いに一旦距離を取った、剣を突き合わせた事で分かる相手の隙を模索する百花。しばらく正眼に構えながら相手の出方を伺っていると、猛丸の半身に構えた槍先が微妙に動いた。 

 咄嗟に横へと走り出す百花、魔法の攻撃だと瞬時に判断したのだ、その回避行動も弥生との対戦で習得した技術だ、魔法と収納を使った攻撃の違いは有るが、予備動作が有る事に変わりは無い。予測道理に槍の先に魔法陣が浮かび上がると同時に、槍の先で炎の塊がはじける。 

 飛んでくる炎が百花の後ろで爆音を響かせる、猛丸の狙っている位置が彼女のスピードに追い付いていないのだ、しかし何度も打ち込んでいくうちに百花の走っている予測位置が定まっていく、猛丸の周りを走り抜けながら百花はいずれその爆発に巻き込まれることを感じていた。 

 猛丸も槍の裁きのしやすい短槍とはいえ、接近戦での剣戟では少しばかり遅れをとっている、その事を実感している身としては、もう一度接近戦で戦う事の不利を悟っているのだ。 

 猛丸にとって、不利な状況を変える為の遠距離魔法攻撃なのだが、どう勘付いたのか、その攻撃を尽くかわしていく相手に対して、感嘆と戦慄を覚えていた。 

 しかしそれももうすぐ終わる。走り回る相手の動きに慣れてきて、その動きの予測が出来て来たのだ。 

次の攻撃で決まると思った猛丸だが、いきなり相手が消えた。正確には見えなくなったのだが、そこには人型の構造上の欠点が関係している。 

 目標の横移動に対しては、眼球の移動で対処がし易い、しかし上や下への移動に関しては頭を上下に動かさなければ見失ってしまうのだ、眼球を動かすだけで対処できる横移動を継続された事で、そこに居べき目標を見失っていたのだ。 

 単純に百花は飛び上がっただけなのだが、ダンジョンの活動で身体能力が上って4・5メートルを一気に飛びあがっただけでも、相手にとって百花を見失うには十分なのだ。 

そのうえ雫斗が使った空中移動を実践して相手の真上まで到達する、直上を陣取った彼女は、礫を叩きこむと同時にパイルバンカーを相手の周を取り囲む様に出して動きを封じ込めた、要するに念には念を入れたのである。 

 音速を超える礫には、流石の防具も役には立たない、角度的に幾つかは弾く事も出来たが、ほとんどの礫が体を穿つ、それでも倒れ込まずに百花を見上げて一矢報いようと、槍を投げる動作を敢行する猛丸ではあるが、百花の方が早かった。 

 自分の体を支える為に出した足場を蹴り飛ばして猛丸の居る地面へと加速してきたのだ、槍を投げる為に引いた腕ごと切り飛ばされたその瞬間に喉元に剣を突き付けられては最早動けるものではない。 

 片膝をつき「参った。見事である」と猛丸は潔く負けを認めて大小の刀を鞘ごと引き抜き地面に置いた、百花の完全勝利である。 

 終ってみれば、百花の圧勝に見えるが、内容はぎりぎりの勝利なのは百花自身が分かっていた。相手の力量や攻撃のスキルを知らない事はお互いさまでは在るが、これまでの魔物との戦いで魔物としての相手の魔法や剣戟の特徴を把握できたのは大きかった。しいて言えば百花が対峙していた猛丸は、彼女が接触収納を攻撃の手段として使いこなしている事は勿論のこと、保管倉庫を攻撃の起点となる、物資の保管場所として活用している事を知らずに、戦いに臨んだことが敗因だった。 

 知って居れば、対処も出来たであろうことは、彼女が一番わかっているのだ、しかし勝利には違いない。 

 命のやり取りの後で多少の興奮と嬉しさで舞い上がりかけてはいるが、それでも冷静に対処できていた。 

 刀を引いて距離を取ってはいるが、油断しているわけでは無い。横に移動しながら猛丸と翔子を直線状に置き、彼女に問いただす。 

 「え~~と、ユリヤの翔子さんでしたっけ。私の勝利で構わないのかしら?」 

第42話(その3)

 百花の問いに対して拍手で答えたユリヤの翔子は、此方へと近づいてきた。片膝を突き負けを認めた猛丸の横に並ぶと、同じように跪き光る弾を捧げ持つ。 

 「盟約に従い、迷宮の真核を其方に捧げん。この至極の宝玉は其方のものだ」と言って淡く光る珠を捧げ持つ。 

 そのダンジョンの真核を受け取った途端、自分の中で新たなものが生まれた様な感覚を覚えた百花は深いため息を静かに吐く、闘いの勝利を噛み締めているのだ。 

 頃合いをみて立ち上がった翔子は、背後にドアを構築して百花に向き直る。 

 「此方へどうぞ、台座の間へと御案内致します。その真核を迷宮の中心たる台座へと奉る事で、真なるこの迷宮群の盟主となります」そう言って構築した扉を開けて脇へと下がる、ユリヤの翔子。 

 この扉の向こうに台座間が在り、その台座に此の迷宮の真核とやらを置く事で名実ともに此のダンジョン群のマスターになる事が出来る。斗から聞いてはいたが、実際にその扉を前にしてみると、少し震えがくる百花だった。 

 その扉に向かいながら、平伏する年老いた片腕の武人にどうぞと言って高級ポーションを手渡した、初級・中級・高級・最高級と四段階に分かれているポーションだが、高級であれば切断された腕であろうと元に戻せる効果がある、SDSのメンバーにとっても貴重なポーションでは在るが、自分がヤラカシタ行為を気にする辺りはうぶな探索者だと言って良い。 

 「かたじけない」と一言礼を言いきり飛ばされた腕を取りに向かう、そういう所は魔物と人との違いが浮き彫りになる、人であれば今頃痛みで気を失っていても不思議ではない、片腕を失っていても平然と動き回れるその体の作りが、魔物由縁だといえばそれ迄なのだがこと戦闘においては強みとなる。 

 開け放たれた扉の壁面には中国風の水墨画の様な様式で、野山の風景が綺麗な色彩で描かれている。描かれていると表現しはしたが、現実世界の空間と水墨画が融合した不思議な世界をそのまま扉にしたかの様な実際には在り得ない存在感が有った。 

 その扉を潜り抜けると、のどかな田園風景が広がっている、中世や東洋のではない日本の、昔の田舎の田んぼの風景だ、斜面に造られた段々畑や、曲がりくねった作りの田んぼの数々、ご丁寧に農作業に必要な道具の保管場所や休憩場所としての華奢な作りの作業小屋迄ある、くねくねしたあぜ道の突き当りに巨大な鳥居の姿が見受けられた。 

 しかし違和感が半端ない、作業している筈の人の姿が見えないのだ、気配さえも皆無でまるで一つの絵画の中に佇んでいる様な感覚をおぼえている百花は、唖然として立ち尽くしていた。 

 その百花の感情を知ってか知らずかひょうひょうと脇を進んで先導し始めるユリヤの翔子、仕方なく付いて行く百花の後ろから護衛を買って出たかの如く、先ほど命がけで対峙した武人が付いて来る、腕は無事くっ付いたようで自分の得物の短槍を担いでいる様は馴染んでいて不自然さがない。 

 「此処は、わたくしの記憶の中にある風景をそのまま構築した物です、見た目は収穫間直の稲ですが食する事は出来ません、枯れもせず朽ち果てる事も無いこの思い出の造形だけがわたくしの記憶の底に眠っているのです。もしかすると遠い昔に、わたくし自身はかつて人として生を受けて居たのかもしれません」と歩く道すがら話し始めた翔子、百花にしても生まれ変わりと言うのは信じられないが、その様な感覚が時たま出てくる事は有る、まるでその情景がかつて見た事が有る様な感覚だ、 

 気の迷いだと言う人もいるが、人の精神とはたぶん複雑なのだろう、こうだという決まり事には当然当てはまらない、百億の人がいれば百億の人格が、千億の人がいれば千億の人格が在るのは当然なのだ、常識という社会の都合で縛っていいものではない。 

 鳥居を抜けて緩い階段を登りきると、こぢんまりとした社がぽつんと立っていた、扉は開かれていて、中には人が入れるほどの神棚が設られていてその中に供物台が置かれていた。その上に宝珠を保護する座布団の様な物が置かれている、要するにそこに置けと言っている様なものだ。 

 「ささっ!。 迷宮の真核をその台座へとお置き下され、さすればあなた様は我らの主と成られる事に為ります」二人だけしか居ない観客を意識しながら、言われるがまま真核を据えて振り返ると、いつの間にか観客が増えていた。 

第42話(その4) 

 その少し前、名古屋ダンジョン協会の支部長からの報告を聞き終えた雫斗は斎賀村干支帰る事にした。自分の拠点空間とその副産物である、何処からでも移動が出来る機能を秘匿しているために、わざわざ名古屋支部前ダンジョンから雑賀村へと帰る事にしたのだ。 

 その道すがら着信のチャイムが鳴る、スマホを取り出して相手を確認すると、名古屋市全域のダンジョンを管理統括しているキャサリンからのものだった。 

 「もしもしキャサリン、どうしたんだい?。 君がスマホで連絡してくるなんて珍しいね」と雫斗が呑気に話していると。 

 「主よ、のほほんとしている場合ではないぞ!!、 そなたのパーティーメンバーの一人が連れ去られた。どうやら”昇華の儀”を強制的に受けさせられている様じゃ、取り敢えず急いでこちらに来てくれ」とのんびり話す雫斗に対して呆れた様にキャサリンが話す。 

 ダンジョンから拉致された?、 こんなことは聞いた事がない。迷路に迷い込んで出る事が出来なくなる事はよくある事で、戦闘で負けそうになり逃げ出して出口を見失う探索者もいるには居るが、ダンジョンから連れ去られたとは、しかも管理者の眼を掻い潜って?。 意味が分からないながらも、人気の無い所から拠点空間を経由して名古屋支部前ダンジョンの最深部へと転移する。 

 そこではキャサリンが空間に投影された映像を見ながら雫斗を迎えていた、その映像には和装の令嬢と武者姿の大男が居いてその二人と対峙する百花の姿が映っていた。本当に百花が迷宮の試練に挑戦している様だ。 

 「うわ~~本当なんだ。他のメンバーは無事なの?」雫斗は恭平と弥生の安否を確認すると、それぞれ”試練の間”を終えて帰るところだというので、連絡してキャサリンにこの部屋へ転送してもらった。ちなみに録画しているかとキャサリンに聞いたら、スマホを掲げて満面の笑みを見せていた、どうやら支度は万全である様だ。 

 転移して来た恭平たちに事の次第を説明していると、戦闘が始まった。突っ込む武者の姿を見て。 

 「ああ、それ恭平が得意な奴。百花も余裕で躱しているね」と弥生の解説で、百花の初昇華の儀の観戦が始まった。 

 武者との接近戦では恭平が百花と雫斗の短剣を使った双剣での剣戟を比較して、「あの重い太刀では百花の動きについて来れないね、せめて雫斗の短剣でないと対応できないかな」と武者のダメだしをする。 

 勘の良い百花に対して遠距離からの魔法攻撃の初動の動きに弥生が「百花に遠距離からの攻撃はすぐばれちゃうのよね、せめて初動を隠蔽できないと勘付かれてしまうわ」とまともに魔法攻撃に移った武者に辛辣な評価をする。 

 いきなり飛び上がる百花、その空中機動に雫斗が賞賛の言葉をかける。 

 「その空中機動法を習得したのは百花が一番早かったね、ほんと器用だよね、今では僕よりうまく使っているよね。・・・うっゎ~、飛び込んで決めちゃったよ。どうやら終わったみたいだね」と雫斗の解説で締めくくると、いきなり後ろからキリドンテの声がした。 

 「さすがは我が主殿のご友人でが座りまする。無事勝利した事ですし、これから迷宮の試練に打ち勝った彼女を祝福しに向かわねばなりますまい、ささっこちらに転移門を構築して在りますればどうぞお通りください」と雫斗達がその声に驚いて振り向くと門の前に一礼しているキリドンテの姿が有った。 

 「驚いた!!。何時の間に来てたの?。 そりゃ~~百花に勝利の”おめでとう”を言いたいのは山々だけど、勝手に他のダンジョンに転移で出向いて構わないの?」と雫斗が皆の疑問を代表して聞くと。 

 「普段であれば、迷宮の管理者はお互いに不干渉を貫くのでございまするが。今日の出来事はイレギュラーが成したこと、つまり盟約を少しばかり捻じ曲げた結果でございまする。ただいま転移門を構築できたことは、盟主方とユリヤの翔子殿の許可を得て居ますれば、ご安心の程を」としれっとユリヤの翔子が、百花を拉致った事に少しばかり関与してますと白状した。 

 どうやらその事にキャサリンは関与していない様で、ぶすっとした表情が新鮮だった。詳しく聞きたいが今は時間が惜しい、文句を言って百花の晴れ舞台に遅れる訳には行かない、納得は出来ないが、渋々皆で転移門を括る事にした。 

 無事台座へと迷宮の真核を治めた百花が振り向くと、ユリヤの翔子と富嶽の猛丸の他に、自分のパーティーメンバーと雫斗のダンジョン管理者であるキャサリンとキリドンテが居て、人数がいきなり増えている事に戸惑う百花。 

 「あれ~~。何故雫斗達が居るの?」と百花の疑問に。 

 「キャサリンの管理する迷宮から百花がいきなり消えたから、彼女が僕に報告してきてね、詳しく聞くと別の迷宮で”昇華の儀“をやっているって言うじゃない、心底驚いたよ。そこでみんなを呼んで、百花のダンジョン攻略の状況を見てたのさ。・・・取り敢えず、攻略おめでとう、これでダンジョン攻略者が二人になったね、肩の荷が下りた気分だよ」とこれまでの自分たちの経緯と祝福を雫斗が述べると、我先に言われる”おめでとう”の合唱に照れていた百花だが、ふと真顔になる。どうしたのかと皆が訝しんでいると。 

 「私が、戦っていた映像をみんなで見て居たのよね?」と百花。「そうだけど」と弥生。 

 「もしかしてだけど。・・・録画しているの?」と百花が恐る恐る聞いてきた。 

 満面の笑みでスマホを軽く振る雫斗が一言。「ばっちり」 

 「消しなさい、今すぐ消しなさい」と雫斗のスマホを奪い取りに来る百花、雫斗も奪われまいと応戦する、ちょっとした争奪戦に呑気に弥生が「元気よね」と呆れて底なしのスタミナを称賛する。 

 暫く雫斗と百花の壮絶な鬼ごっこを見ていた恭平が言葉をかける。 

 「百花のダンジョン攻略の映像は、教科書に為るよ、お手本としては優秀だからね。・・・言い換えれば雫斗の攻略法は次元が違うから僕たちには無理だね」と静かに百花を説得する。雫斗からのスマホの奪取を諦めた百花が、多少顔を赤らめながら答える。 

 「そうかな?、 でも派手さがいまいちじゃない、もっとゴウジャスに行きたかったわ。・・・まっ初めてじゃしょうがないか」とケロッとして答える、どの道、攻略映像が有るのなら、協会に提出してダンジョンを攻略した事の証拠にする事は理解している百花なのだ。 

 「だけど、どうしていきなり決まり事を変えたの?、 本来なら最下層の攻略者が対象でしょう?。 最下層を攻略していない僕が言うのもなんだけど」と言いよどむ雫斗にユリヤが答える。 

 「わたくし達は基本、地上の理には不干渉です、しかし前に進もうとする者を、己の利益のために蔑ろにする者達に加担する事に為るのももどかしいので、此方の理念を優先する事としました。要は最下層を単独で攻略できる実力と意欲が有れば何処からでも”昇華の儀”に挑戦できる事としたにすぎません。王の称号を取得した者という条件は変わりませんが」 

 どうやら迷宮管理者のダンジョン関連の情報統制が緩くなったようだ、薄々感じていた疑問を雫斗が聞いてみる。 

 「今まで考えて居た事なんだけど、ダンジョンが地球に出現した事って、僕たち人類の救済が目的なの」 

 「キリドンテが言って居た様に、なかなか聡明な御仁ですね。・・・分かりましたお話ししましょう。本来は話す事は禁忌とされていましたが、ここに至っては無意味だと我が盟主達は理解しました。・・・すべての生命という特殊な恩恵を得た種は、長い時間の中でいくつかの生活環境の激変によって、滅亡するか生き延びるかの究極の選択をしなければいけな時期が必ず訪れます。事実人類という種も何度か滅亡の危機を乗りこえてここ迄発展してきました。しかし高度な知性を得て、自らの環境を作り変える力を得ると、ほぼ100%の確立で滅亡してしまうのです。そこで唯一滅亡を逃れた我らが盟主たちは考えました、救済をしてはどうかと。しかし闇雲に恩恵を与えてもその事に胡坐をかき滅亡を早める結果となりました、要するに精神が未熟な知性には無理な事だと結論付けた様です。そこで試練を与えて種の精神を鍛える事にしたのです、その一環がダンジョンの攻略です。努力の果てに掴んだ力の使い方を間違ってはいけません、破壊の力をむやみに顕現したならば、それは己を自戒へと導く過程となる事を忘れてはなりません」そう言ったユリヤは口を閉ざした、これ以上は話す事は無いという事なのだろう。 

 しかしこれからが大変だ。その事を協会に報告したなら、狂乱する事は間違いない、政府の思惑道理には行かないと言われたに等しいのだ。これからはダンジョン攻略者が多数現れる事に為るはずだ、ダンジョン自身が選別する探索者が挑むことに為るのだから。 

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