第34話  魔法的な通信手段の確立は、ロマンあふれる思いの構築になるのだろうか。

第1章  初級探索者編

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第34話(その1)

 翌日、雫斗達は6階層へとおもむいていた、当然お目付け役の探索者も一緒では在るが、一応雫斗達の実力を認めての事だった。柴咲君達は昨日と同じ5階層でフォレストボアやフォレストウルフの討伐をする事となっていた。 

 流石に雫斗達との実力の差は理解できたみたいで、一緒に行くとは言わなかったが少し不満そうな顔をしていた。 

 荒川さんは、若手の探索者を率いて下の階層を目指している。10日程掛けて15階層迄行くそうで、若手育成のダンジョン踏破訓練を兼ねた此のダンジョンの未踏破層の探索だ。まだ発見されて日が浅いこのダンジョンは7階層迄しか確認されていない、階層毎の地図の作成と魔物の種類と生息域を調べる事も兼ねている。 

 雫斗達には冗談で「一緒に来るかい」。とか言っていたが、本気にした百花が食いついてきたので苦笑いしていた。明日は学校が有るから行けないと分かってはいても、チャンスがあるなら試してみたいらしい。 

 もうすぐ夏休みに入るのだからその時でどうか? と説得されてしぶしぶ承知していた。しかし許可が下りるとも思えないのだが、百花の事だから何とかしそうで多少の不安の残る雫斗だった。 

 雫斗達を引率している人は、壮年の人で荒川さんのパーティーメンバーの一人らしい、名前は吉井 和人さんと言って元自衛官だったそうだ。下からのたたき上げで曹長迄昇進したが年齢的にもそれ以上昇進する事が頭打ちだった事も有り、荒川さんの誘いに乗る形で辞職したようなのだ。 

 長年小隊の実質的な隊長(小隊長は尉官が務める)だった事も有り、パーティーはおろかクランの運営に秀でているそうなのだ、荒川さんに言わせると。 

 「私はお飾りで、本来のクランリーダは彼が担っているよ。吉井さんは認めないがね」。と本人の前で話すものだから、吉井さんが苦虫をかみつぶしたような顔をしていたのが印象的だった。 

 雫斗の父親の海慈とは親しい訳ではないが、何度か訓練で会った事が有るそうで奇抜な戦闘行動で、何度か辛酸をなめさせられたよと笑っていた。 

 「君のお父さんにも驚かされたが、君達も大概常識を逸脱しているね。接触収納や保管倉庫を使った攻撃方法を考えるなんて、私には思いつかない事だよ。しかも連携が素晴らしいねこれなら私達と深層に行っても足手まといになる事は無いね」と5体のオークに挟撃されながら確実に倒していく雫斗達の戦闘をほめていた。 

 窪地に潜んでいたオークだが、雫斗達はその存在を認知していた。空間把握と気配察知でオークの数と脅威の判断をすると、前衛に百花と恭平を置いて雫斗と弥生は後方からの支援に徹しているのだ。 

 飛び出してきた先頭の2匹のオークを礫を使って膝を打ち抜き行動不能にした後、百花と恭平が止めを刺すために飛び出して行く、回り込んで挟撃してくる他のオークを雫斗の礫と弥生の弓矢が牽制している間に、起き上がろうとしている先の2匹のオークの内の一匹の首を、百花が刀で切り飛ばし恭平がもう一匹の頭を錫杖を使って叩き潰す。 

 後は各個撃破で倒していく、有体に言えば雫斗達は手加減しての戦闘である。普通のオークの場合、礫を本気で投げれば頭を一撃で粉砕できるのだが、そこは強敵に遭遇した時の戦闘を模した訓練をしているのだった。その事を瞬時に見抜いた吉井さんが呆れた様に。 

 「いやはや、参ったね。これ程戦い慣れているとは、これでは私の出番はないね。ところで君達・・・何かまだ隠しているね、聞いた話だと雫斗君は光線みたいなものを出せるそうだね。そのうえ物凄い爆発を誘発できるそうじゃ無いか」と聞いているぞと暗に言ってきた。 

 「自衛隊の富士演習場のことですか? あれは事故みたいなもので今は封印しているんです、こんな至近距離で爆発したら大変な事に為りますから」とオークのドロップ品を集めていた雫斗が顔を赤らめながら言うと。 

 「そうなのかね? 確かに映像で見た限りでは,気化爆弾並みの威力があったが制御できなければ使えないね」とさも残念そうに吉井さんが言う。 

 そうなのだ、雫斗が習得している鉄の礫を極限まで圧縮しての投擲は、ダンジョン以外では制御できないのだ。 

 今までダンジョン内で放っていた光線は、ダンジョンの壁に穴を穿つだけで済んでいたが、本来は爆発のエネルギーを伴っている。何故ダンジョン内では爆発しなかったかというと、スキルの特性とダンジョン自身が破壊力の制御をおこなっていたらしいのだ。 

 本来、剣技であれ魔法であれ魔素を使った事象は、初めて使う人が制御するには無理があるそうなのだ。では何故スキルを習得した途端使える様になるかというと、それはスキルとしての制御を含めた範囲で作用しているからだそうで、雫斗が接触収納を使った投擲を極限まで極めた弊害が富士演習場での爆発につながっているとキリドンテに言わわれた。 

 つまり、雫斗が接触収納の性能以上の使い方をして、しかもダンジョンの外で使ったものだから誤作動が生じて制御しきれずにあの爆発につながったのだと、今後ダンジョン以外での使用を控える様にとキリドンテに強い口調で言われたのだった。 

 それでも、今の雫斗達の収納を使った投擲はちょっとしたライフル並みの威力がある、ダンジョンでは銃火器は誤作動をするので使い勝手が悪いが、スキルを使っての投擲なら問題は無かった。当然他の探索者の人達も習得してはいるが、その練度には開きがある。 

 百花や弥生、そして雫斗と恭平ともども、此の階層での戦闘はかなり手加減しているので、これより深い階層でもやっていける自信は付いていた、探索者資格を取ったその日に、ハイオークと遭遇した経験は大きかったようだ。 

 お昼まで魔物を倒して歩いていたが、そろそろ帰る時間になっていた。6階層での戦闘は午前中までにして、午後からはダンジョンを出る予定なので拠点であるD・F(ダンジョン・フォレスト)へと帰り着いた。 

 百花は物足りなさそうではあったが、学校が在るのでそこは渋々帰る事にした様だ。お昼休憩の後、定時連絡と食糧や備品の補給のため、ダンジョンを出る人達と共に付いて行く、当然柴咲君達も一緒だ。 

 地上とD・Fの間で一日に数回行き来しているそうなので、来週親の許可が有ればその人達と一緒に来なさいと言われたので、帰りの百花の機嫌は良かった。 

 

第34話(その2) 

 翌日雫斗は、学校の帰りに京太郎爺さんの鍛冶工房へと来ていた。仕入れてきた共鳴石の粗悪品を粉砕してもらうのだが、粗悪品であるがゆえに安くで仕入れてきたとはいえ、かなりの重量がある。その鉱石を粉砕して、保管倉庫で分別した後、改めて純度の高い鉱物へと造り変える事に挑戦するつもりなのだ。 

 工房では、ロボさんが興味津々で待っていた。雫斗もおぼろげながらの挑戦の為、相談役は歓迎である。 

 「ロボさん、これが共鳴石の鉱石です。粗悪品ですけど、どうですかね? より分ける事が出来ると良いのですが」と雫斗が心配そうに聞くと。 

 「魔鉄鋼石でもやっていますから、より分ける事は出来るでしょうが。どうやって粉砕した共鳴石を鉱物に変えるのですか? 単純にるつぼの中で溶かして型に入れると言う訳ではないでしょうし」とロボさんが聞いて来るので、一応考えてきたことを話してみる。 

 「取り敢えず、僕の拠点で試してみようかと思っています。最終的にはシリコンウェーハみたいな鏡面に仕上げる事が目標ですね。とにかく単結晶のインゴットを作れないかいろいろ試してみて。成功したらデーターをそろえて何処かの企業に丸投げして製造してもらうつもりです、そうすれば時間が節約できますから」と雫斗が言うと。 

 「そうでした、考えてみると雫斗さんの拠点空間は便利ですよね。魔法空間と言ってもいいくらいですから。考えただけで物が作れてしまうのですから」とロボさんは言うが、精密機械の様な構造物はどんなに想像しても作れなかった。 

 理解の及ばない物を作り出す事が出来ない様に、精密機械の構造が分からないと魔法でもお手上げの様だった。良くて魔高炉を使って温度と圧力の調整をしながら還元していき程良い数値を見出す事ぐらいで、それでも時間の短縮には成る。 

 「ですが、純度の高い共鳴石??・・・名前を考えなければいけませんね、石を省いて共鳴では格好がつきません。それで何に使うつもりですか?」とロボさんが言うのだが、確かに共鳴では呼び名としていまいち迫力がない。 

 「それです、考えたのですが共鳴鋼はどうですかね」と雫斗にしてはまともなネーミングだった。 

 「おおそれは良いですね」とロボさんも賛成したので気を良くして話を続ける雫斗。 

 「使い道は通信の魔道具の代わりに使おうかと思いまして、一応魔法陣の構造は分かっているのです、それで集積回路を作るみたいに転写を使ってマイクロチップのサイズまで小さくできたら、自分たちが使っているスマホに差し込んで電波を使わない通信装置として使えないかと思っているのですがどうですかね」と雫斗が考えていることを言うと。 

 「なるほど、電波を使わない通信手段ですか、共鳴石・・・いや共鳴鋼にしてもどういった原理で共鳴しているのか分かっていませんからね、しかしそれが叶えば通信革命が起きますね、中継基地が要らなくなりますから通信業者の乱立が起きますね」とロボさんに言われて気が付いた、やばい事に為るのではないかと。しかしロボさんに話して始めたからには後戻りはできない。 

 又母親に何か言われそうだが、思いついた事はしょうがない。いずれ誰かが考えつく事なのだからと割り切る事にした。 

 「集積回路関係なら、アマテラスの山田さんに相談してみてはいかがですか? もともとその方面の専門家ですから」とロボさんの助言に従って話してみる事にする、取り敢えず粉砕機にかけている鉱石が粉末の状態まで粉々になるのは二日後というのでそれまで待つ事にした。 

 其のアマテラスの研究所が、村と沼ダンジョンのちょうど中間地点に作られる事になったのだ。村の中は畑と住宅地で土地が無く、広げようにも山間迄開墾している状況なので、研究所と宿舎の規模を考えると村の郊外が理想的だった。 

 しかも沼ダンジョン迄の道は整備されている事も有り、建物を作るのに都合が良かったのだ、その上ヘリポートを作った時に整備した名古屋市から村までの道も使えるとなれば好都合だった。 

 もうすぐアマテラスの研究所の起工式が行われるようなので、アマテラスの関係者がそろう、当然村挙げての祝賀会が開かれるので、その時に聞いてみる事にした。どちらにしても、共鳴石の粉砕が終わってからの話だ。 

 その前に拠点空間に魔高炉を作らなければ話にならない、今日は大人しく家に帰って行く雫斗なのだった。その日からしばらくは拠点空間で魔高炉の構築にいそしむことになる。 

 その二日後、雫斗は純度の低い共鳴石を粉砕して出来た粉末を受け取り、そのまま保管倉庫に放り込むと、急いで拠点空間迄移動して来ていた。  

 其処にはクルモが待っていた、以前のクモ型の小さな義体だと肩や頭に載せて運べていたのだが、今では子供の様な体になって居る事も有り連れ回す事が出来ないのだ。 

 そこでクルモは拠点空間とダンジョンそれから雫斗の自宅と空間移動用の魔道具を使って動き回っていた、最近では魔高炉の製造にも協力してもらっていたのだ。 

 「ご主人様お待ちしていました、魔高炉の準備は出来ています」。クルモが魔高炉の傍で待ちわびていたかのように嬉しそうに話す。 

 その魔高炉だがとても小さい、鉄鋼業の巨大な会社の様な物凄く大きな高炉ではなく、せいぜい15センチから20センチの円柱状の物を作る予定なのでこの位でちょうど良いはずなのだ。とにかく実験的な要素が強いためいろいろ工夫をして作り上げた自慢の一品なのだ。 

 数日後、雫斗は共鳴鋼の単結晶インゴットを作り上げていた。ほとんどの行程はクルモが行ったとはいっても短時間で本当に出来るとは思って居なかった。普通であれば長い時間のかかる生成においても拠点空間では短縮できる、そこは魔法の空間の不思議なところでは在るが結果としては嬉しい誤算だった。 

 後は薄くカットして、簡単な鏡面処理の後、魔法陣を転写して、通話の魔道具を作ってみた。手作りの為さすがにマイクロチップとまではいかなかったが、市販されているいインカム程度には小型化出来た。問題は、通話の魔道具に使われている魔法陣では一つのインゴットから切り出されたすべての個体に同じ信号を発信する事だった。 

 此のままでは、一つの個体からすべての個体に信号を送る放送局の様な機能になってしまう。雫斗は今、何とか魔法陣ごとにナンバリングを振り分けて個別化を図るために魔法陣の変更を模索しているところだった。 

  なかなかうまく行かず、雫斗が学校の休み時間に紙に書いた魔法陣を見てうなっていた所を美樹本陸玖に見られてしまった。 

 「ほう、 面白い事をしているね。通話の魔法陣かい? 少しばかり違うようだが何をしているのかな」そう聞かれた雫斗は驚いた。一目見て通話の魔法陣と言い当てるとは。 

 

第34話(その3) 

 「分かるのですか? ちょっと個別化出来ないかと思って色々試しているのですが、うまく行かなくて」と雫斗が言い淀む。 

 「個別化? なぜにそうする? 通話の魔道具は多くても三つ一組だろう普通は二つが主流のはずだが。・・・・何か隠しているね。なんだい?」と雫斗の肩に手を置いてのぞき込む。 

 そこまで話したのなら仕方ないと、共鳴鋼の単結晶インゴットが出来た事とその使い道と問題点をあらかた話すと、陸玖は俄然興味を持ちだした。 

 「君は相変わらずびっくり箱だね。ふむ、見た感じだと複雑な曲線の模様に言葉と思しき文字の羅列で構成されているみたいだが、言葉の意味が分からなければお手上げだね。残念だが僕は力になる事が出来ない様だ」と陸玖が残念そうに言う。確かに魔法陣に書かれている魔法文字は特徴的で分かりにくいのだが、しかし雫斗には強力な武器がある。 

 「陸玖先輩、魔法陣に興味があるんですか?」と答えの分かり切った質問で聞いてみる、べつに駆け引きとかではなく単純に、受験勉強で赤信号からようやく黄色の点滅になりかけている星士斗先輩より、余裕のある陸玖先輩なら相談しても良いような気がしたためだ。 

 「そりゃ~興味が無いとは言わないが、書かれている文字の意味が分からない僕にはお手上げだね」という陸玖に異言語理解のスクロールを保管倉庫から取り出して見せる雫斗。 

 「受験勉強の合間で良いので、手伝って戴けるならこのスクロールを差し上げますよ」と交換条件を出して見る。 

 「心惹かれるお誘いだね、しかも生きのいい餌迄ある。これは食いつかない訳にはいかないね」と言いながらスクロールを受け取る。そのスクロールをしげしげと見ながら。 

 「しかし良いのかい、そこそこの値段がするスクロールだったはずなのだが?」と陸玖が言う。 

 「今はそうですが、何れは巷にあふれかえるスキルスクロールですから構いません、それより受験勉強の邪魔にはなりませんか?」と雫斗が心配すると。 

 「魔法関係はダンジョンを探索する上で必要な知識だよ、そのダンジョンの探索者を育てようとする学校の入学に、プラスとなる事は有ってもマイナスにはならないさ、いざとなったらレポートを作って探索者協会に提出して協会のお墨付きを貰うという手もある」と強気の発言をする陸玖先輩。雫斗も陸玖先輩の成績なら探索者養成校の受験も余裕だろうと思ってのお誘いでは在るのだが、本人がやる気になっているので良い事にする。 

 その日から、昼間は放課後に陸玖先輩と協力して魔法陣を幾つかくみ上げて、雫斗の拠点空間で試してみて問題点を洗い出すという作業が始まった。時間の短縮という事で言えばそうなのだが、数日である程度の及第点の有る機能を持たせることが出来たのは上々だった。流石にナノ単位の極細の魔法陣を作る技術には程遠いがスマホのオプション機能的な機械として作り上げる事は出来たのだから良しとした。 

 本来であれば、スマホの空いたマイクロSIMスロットに差し込める形にしたかったのだが、そのマイクロSIMを作るための機械が無いので、仕方なしにスマホを充電するための給電口を活用する事にしたのだ。そこは充電だけでなくデーターのやり取りも出来るので使わない手は無かった。 

 其処に陸玖先輩と作り上げた共鳴鋼を使った電波を使わない通信装置を繋いだのだ、スマホと通信装置の筐体をコードでつなぐというお粗末な作りでは在るが、ある程度は上手くいった。まずすべての筐体にナンバーを振り個別化する事で一つの筐体からすべての筐体への音声を送信するといった事を防ぐことが出来た、要するに放送局の様な扱いには成らずに済む様になったのだ。 

 雑賀村の中学生9名分の通信装置を作り、機能の検証をしてもらったがおおむね良好だった。ただ不格好だとの指摘が多いのは仕方が無かったが、機能的にはほぼ及第点で当然電波の繋がらないダンジョンからでもクリアーな通話が出来るようになったのは大きかった。 

 しかもデーター通信技術を使っているので、トランシーバーの様な不明瞭な音声ではなくクリアーな音声通話とインターネットとのデーターのやり取りがダンジョンの中からでも出来る様になったのだ。一応、インターネットへの入り口は許可を貰って村役場のサーバーを使わせてもらったのだが、とにかくダンジョンの中からでもネットへと繋がる事が出来るようになったのは大きかった。 

 後は、共鳴鋼の単結晶インゴットの製造方法と、共鳴鋼を使った通信装置の内部構造(魔法陣を含めた)を探索者協会に報告して、何処かの企業の努力でマイクロSIM並みの大きさまで小さくできれば、不格好な仕様も解決できる、そう雫斗は思っていたのだが。 

 その機械の存在を嗅ぎつけた村の人達が自分の分も作ってくれと言い出したので、暫くは雫斗とクルモは拠点空間に籠って通信装置を作る破目になってしまったのは仕方が無かった。今の所その装置を作る事が出来るのは雫斗の拠点空間の中で、雫斗とクルモだけしか作る事が出来なかったのだ。 

 

第34話(その4) 

 アマテラスの研究所の起工式の当日、雫斗は山田さん達と面会していた。かつてのクルモの体だった蜘蛛の筐体の受け取りと、以前お願いしていた機械の購入が出来そうなのか聞いてみる事にしたのだ。 

 起工式も終わり、ささやかな立食パーティーの後、村の会議室で会う事にした。流石にアルコールの出るパーティーの会場では、中学生の雫斗と5歳くらいの子供の姿をしたクルモがうろつくのは不味いと思ったのでそうなったのだ。 

 「お久しぶりです山田さん、池田さん。その節は色々と力になっていただき有難う御座いました」と雫斗が頭を下げてお礼を言うと。 

 「いやいや、結局私達では力になる事が出来なかったからね。その子かね? クルモが見つかったとは聞いていたのだが、ほとんど人間と見分けがつかないのだが」と目の前にいるクルモを見ても、聞いた事が信じられないというのだ。 

 「自分が言うのもなんですが、クルモで間違いありません。体の方は、村の診療所で検査したところ外見は人間の子供のようですが、中身は良子さんみたいな人間の体を模様したゴーレム型のアンドロイドと似ているとの事でした、完全にそうだとは言い切れないと山田医師は言っていましたが」と雫斗。

 流石に体を切り開いて確かめる訳にもいかず、レントゲンと超音波を使ったスキャンで中身を確かめただけでは在るが、ゴーレム型のアンドロイドの特徴がみられるとの事で、大筋では間違いなさそうだった。 

 「そうですか、しかしこれ程、人の体と見分けのつかない体だとは思いませんでした。一体どうなっているのか調べて見たいところでは有りますが」そう言った義体制作担当の池田さんの言葉で、クルモが蒼ざめて雫斗の腕をヒシっと掴んだのを見て、アマテラスの代表の山田さんが残念そうな顔を池田さんに向けながらため息を付き。 

 「しばらくは無理そうですね。・・・さて雫斗さんから要望のあった機械類ですが中古から最新式を含めて揃える事が出来そうです。しかし一体何に使うのですか? 町工場4・5軒分は出来てしまいそうな量ですよ? それに結構なお値段がしますが?」と呆れた様に聞いてきた、自動溶接機械から、精密加工の出来る自動旋盤幾に始まり、考え得る自動工作機械をある程度リストアップして、データ化したマニュアル事探してもらったのだ。 

 それらの機械の使い方をマスターするのは雫斗ではない、マニュアルのデーターを瞬時にダウンロードしてインストール出来るアンドロイドの特性を生かして、クルモが使ってみたいとお願いされたのだ。 

 通信の魔道具の制作を通して物作りに目覚めたクルモが、マイクロSIMの制作と自分の多重思考のスキルを活かした複数の筐体の同時使用に挑戦したいと言い出したのがきっかけで、それならと雫斗も主としてやらなければと、変な対抗心を燃やしてしまったのだ。 

 今の雫斗には、その機械類を即金で購入できるだけのお金はあるのだ、数々のダンジョン関連の発見で(まだ発表して居ない物も有るが)、一般の庶民である雫斗を始め村の人達も、目が飛び出るほどの金額が雫斗やパーティーメンバーである恭平たちの口座に振り込まれていたのだ。あまりにも大きな数字の羅列はお金として認識できず、ただ”凄いね”の感想しか持ち合わせ居なかったのだが。 

 ただ雫斗やクルモの遣りたいことが出来るのだからと、これ幸いと購入の許可を両親に打診したところ、呆れられはしたが、贅沢するわけでも無いので”だめだ”と言わない所は流石は出来た二親と言うしかなかった。 

 数々の機械類の他にも、富士演習場でダンジョン攻略群の人達が評価試験していた多脚型移動戦闘車両が保管倉庫の発見でお蔵入りしそうだと言っていたので、購入の打診をしたところ、銃火器を取り外しての購入ならと、良い返事がもらえたのは嬉しい誤算だった。 

 後は複数の筐体や通信の魔道具を識別して接続するには、既存の自動電子交換機を使おうと思い立ち、最新の交換機に据え置かれた旧式の電子交換機が無いか探してもらっていたのだ。 

 使い道としては、自動電子交換機を雫斗の拠点に設置して雫斗の関係者だけで使うつもりなので、数万単位での接続数が出来るものを探してもらったのだが、払い下げの中古品だけあってお手軽なお値段で購入できたのだ。 

 共鳴鋼の単結晶インゴットと通信の魔道具を見せながら、その構想を山田さんと池田さんに話すと、二人はお互いに目を合わせて何かを確認した後、勢い込んで雫斗に質問を浴びせて来た。 

 「その単結晶インゴットは、切り分けた全てのチップに同じ信号を送るというのですか?」。池田さんの物凄い剣幕に慄きながら。 

 「ええそうです、それだと防災無線と変わらないので、一つ一つのチップを識別できるように魔法陣を組んで転写して作った物がこの通話の魔道具です、今はスマホを介して識別していますが、自分たちの交換機を使って個別につなごうかと思って今は模索中なんです」と雫斗が今考えている構想を言うと。 

 「では、十数個程度の個体であれば交換機も単純に成るし小型化出来ますね、しかも通信の妨害も出来ない」と山田さんが興奮しながら確認する。 

 確かにその数であれば、そんなに難しいシステムは要らない、いやもしかするとそのチップ内の魔法陣で出来てしまうかもしれない。雫斗はスマホの様な通信装置の事を念頭にしているので、億単位の交換機から頭が離れていないが、どうやらこの叔父さん達は別の用途を考えているらしい。 

 「小型化は出来るでしょうが。・・・山田さん何を考えているんです?」興奮している大人を他所に、冷めた雫斗が問いただすと、ばつが悪そうに照れながら山田さんが話し始めた。 

 「いやなにね、個別に個体を制御できるとなると、昔見たアニメの様な事が出来るんじゃ無いかと思ってね」と顔を赤らめながらも話す山田さんと池田さんの情熱に、気圧されながらも興味を持つ雫斗とクルモの主従。 

 例えば宇通空間で主機であるロボットの周りで子機のポッドが敵機に四方から攻撃するとか。ファンタジー小説で剣を使う主人公の周りで複数の剣が飛びながら敵を切り刻むとかの話を目を輝かせて言うものだから、クルモが興味を持ちだした。 

 確かに、データを妨害なくやり取りできるとなれば個別に動かす事は出来そうだが、それで攻撃や防御に使おうとは、雫斗は考えて居なかった。単純に一人で作業するよりは複数で作業をする方が効率が良いくらいに考えていたのだが。こういう使い方も有るのかと感心していた雫斗であった。 

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