第31話  ダンジョンの新たなる可能性と、その非現実性。

ダンジョンを探索すると、色々な事が分かるかも。

第1章 初級探索者編

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第31話(その1) 

 斎賀村のダンジョンの受付前での騒ぎが収まり、家路につく雫斗だったが、それは涙ぐましい努力のすえに勝ち取った恩賞だった。 

 3層しかないこの村のダンジョンでは、普通なら多少ダンジョンからの帰還予定時間を超えてもこれ程の騒ぎにはならない、ひとえに雫斗の精神状態が普通ではない事が原因と思われた。 

 クルモが義体を残して本体である魔核が消失した事に、雫斗自身打ちのめされていたのは事実なのだ。その事を知っている村の人達が、”思いつめた雫斗がダンジョンで良からぬことを?”と想像したのはある程度理解は出来る。 

 その結果がこの騒ぎとなったと言う事はうなずけるのだが、しかし此処で今日ダンジョンで起こった事実を今この場で、沢山の人の居るこの場で話す事は、いくら雫斗でもやばいと思ったのだ。 

 百花の叱責を乗り越えて、受付の中で腕を組んで待ち構えている母親の悠美の前へと連行された雫斗は、愛想笑いを浮かべて「どうして母さんがいるの?」。と聞いてみた。 

 「受付をしていた一十華から連絡が有ったのよ、雫斗が帰還予定時刻に成っても帰らないってね。”時間に正確な雫斗君が帰って来ないなんて。・・・大丈夫かしら?”って心配していたわ。おまけに昨日の今日でしょう、”気持ち的に落ち込んでいる様子だったから良からぬことを考えないかしら?”ってかなり本気で心配していたから。・・・後で誤っておきなさい」。と言って後ろを顎でしゃくる。 

 振り返ると、ほほに手を当てて「無事でよかったわ」と安心したような一十華さんが百花と並んで立っていた。百花の強烈な視線に慄きながら、「有難うございます。ご心配をおかけしました」。と答えた雫斗に。 

 「いいのよ。本当に無事でよかったわ、でも大事にしちゃって悪かったわね~~」。と周りを見回しながら困った様に話す一十華。 

 雫斗にしても多少気恥ずかしさはあるが、雫斗を心配して集まって来た人達だ、雫斗は正直に感謝の言葉を伝える、その気持ちに嘘はない。 

 「僕の為にご迷惑をおかけしました。お陰様で無事に帰る事が出来ましたので安心してください」と出来るだけ穏便に済まそうとしたのだが、そうは問屋が卸さなかった。 

 「何すまし顔で終わろうとしているのよ、その子は誰なの?」と百花。”ですよね~~”雫斗の足にしがみ付いて恐る恐る、周りを見回している子供の事を気にかけない人はいない。 

 「この子はクルモだよ。どういう訳か気が付いたらこの格好でダンジョンの中に居たみたいでね、ようやく探し当てて連れて来たんだ。それで遅くなっちゃたんだ」。と言う雫斗の言葉に胡散臭そうな表情の百花とは別に。 

 「あら!、 かわいいわね~~。まるで雫斗君の小さい頃にっそっくり」。と百花の母親の一十華が、屈んでクルモと目線を合わせて話しかける。 

 「えっと。ご心配をおかけして申し訳ありませんでした」とクルモが雫斗に倣って謝ると、チラッと目線を雫斗に向けて。 

 「無事に帰って来られましたので、もう大丈夫です」と主人の意図を汲んで、余計な事は言わない賢さの有る従者に”よくやった”と頭を撫でる。 

 それからは順調に事が運んだ、雫斗は疲れていたし、お腹が減って居たのだ。 

 「もう日も暮れるから解散しましょう」。と言う悠美の言葉に、三々五々帰って行く人たちに悠美親子は頭を下げて見送った後。 

 受付業務の為に来ていた猫先生と、猫先生と交代した一十華さん、それに雫斗のパーティーメンバーの四人と悠美も交えての更なる尋問が始まった。 

 かいつまんで今日の事を話した雫斗だが、信用してもらえず。雫斗自身、今日ダンジョンで経験した事とは言え、理解しているとは言い難く。昼食を抜いた雫斗が腹が減ったと訴えたので、翌日に改めて聞く事でその日は開放されたのだった。 

 翌日の午後の早い時間に、もはや見慣れた村役場の応接室では、雫斗のパーティーメンバーの恭平と百花と弥生、それに雑賀村の長老達の数名が集まっていた。 

 当然村長兼、雑賀村探索者協会の支部長である悠美も居るのだが、その悠美が開口一番異分子を見つけて問い詰める。 

 「一十華。なぜあなたがここに居るの?」。問われた一十華さんが、照れたように答える。 

 「だってねぇ?~~、昨日の事は気になるじゃない。私の娘も無関係ってわけでも無いし」。と言って娘の百花に同意を求める様に“ねぇ~~”と目を向けるが、百花は母親がここに居るとは思わなかったようで、問われてプイッとソッポを向く。 

 「あらあら、困ったわね~~」。とほほに手を当て言うが。雫斗には全然困っている様には見えない。 

 ため息を付いた悠美だが。「まあ~いいわ。これは雫斗から聞いた事をまとめた物よ。読んで頂戴」。とプリントアウトされた紙を皆に渡していく。 

 その内容は昨日雫斗が経験したことを、箇条書きにした物なのだが、改めて見返すと。本当なのかと思えるような事だらけなのだ。悠美は渡された資料をここに居る皆が読み終えた頃を見計らって話す。 

 「その資料を読んでもらってなんだけど、取り敢えずしばらくは他言無用でお願いね。ここ最近の愚息の持ち込む案件に振り回されっぱなしで、息も付けない状態なの。そこで此の事は上の方。・・・・つまり探索者協会の本部にはしばらく上げない方が良いと結論付けたわ。そこで皆さんには、口裏を合わせて貰いたいの」。と淡々と話す悠美に山田洋子、雑賀村の診療所の医師が待ったをかける。 

 「ちょっと、悠美ちゃん。当たり前の様に話しているけれど、此処に書かれている内容は本当なの?。あまりに荒唐無稽すぎて頭の整理が追い付かないのだけれど」。雫斗と悠美の以外の人が山田医師の発言に頷いている。 

 それはそうだ、いきなりダンジョンは1~3個を、多い時で10個ほどを一つの単位でまとめる、ダンジョンマネージャーなる人物がいて管理しているとか。 

 その御仁の試練(バトル)に合格すると、そのダンジョン群のマスターとしてダンジョンのシステムをある程度変える事が出来るとか。 

 マスターとしてダンジョンを掌握出来るようになれば、マスター権限で自分のダンジョン間での移動が出来るようになるとか。 

 話だけを聞いていると”何を馬鹿な”と思える内容だけに、昨夜雫斗の家族で話し合った結果、暫くは斎賀村の中だけの事として、中央に話さないほうが良いのではないかという結論に至ったのだ。 

 「その事だけど、今から皆さんには体験してもらいます。此処から雫斗の拠点空間を通って雑賀村のダンジョンの中迄のツアーですが、何度も言いますが此の事は内密に願います」。と言って雫斗に準備しなさいと促す。 

 雫斗は壁の一画へと近づいて、おもむろに壁へと手を触れる。すると壁の壁面にドア現れた、普通のドアとは違い荘厳な雰囲気を醸し出しているそのドアに、一同若干引いているのだが、雫斗はお構いなしにドアを引き開けた。  

 

第31話(その2) 

 実は昨晩、夕食の後家族に質問攻めを受けた雫斗は、”百聞は一見に如かず”を体験してもらおうと家のリビングと雫斗の拠点空間とをつないで連れて行ったのだ。 

 そこでキリドンテを呼び出して両親との質疑応答で雫斗の負担は軽くなったのだ、此れはいいと気を良くした雫斗は。 

 「明日の午後にも数名の人を招待するから、説明をお願いね」。とキリドンテに話すと。 

 「お任せください、今宵は急だった事も有り、御もてなしをする準備が出来ませんでしたが。明日は最低限のお世話ができます様に、完璧に準備をいたしますれば」。と気合いを入れていたのが気になるが、まあ大丈夫だろうと高をくくって居たのが悔やまれる。 

 ドアを開けた瞬間雫斗が目にしたのは、昨日までは何もないただの草原だった所に、きれいに整理された庭園とその奥に重厚な館が鎮座していたのだ。 

 一瞬無かった事にしてドアを閉めようかとも思ったが、そうする事も出来ずに、後ろで待っている人達を通す羽目になってしまったのだった。 

 最初にドアを潜った悠美の、”なにこれ?”の無言の視線に、雫斗はただ”知らない!!”と首を振る事でしか返答する事が出来なかった。 

 「わあ~~凄いのね~!!、きれいな庭園とお屋敷なんて。まるでおとぎの国に迷い込んだみたいだわ」。と感嘆の言葉を話す一十華と。 

 「うっわ~~。ひろ~い。此処はぜんぶ雫斗が作った空間なの?。遠くに山々迄ある」。と弥生が感想を述べると。 

 「なにこれ!?。ドウヤッタラ、コンナクウカンヲ、ツクレルワケ」。と言って片言の日本語で、棒読みする百花。 

 素直に感動を表現している斎藤母娘と弥生とは対照的に、あんぐりと口を開けて周りを見回している恭平と長老の面々。 

 取り敢えず此処に居ても仕方がないので、雫斗の知らない館へと皆を誘う。十中八九キリドンテの仕業だろうけれど、そこは当然ですとすまし顔で先頭を歩いていく。 

 館へと庭園を進んでいく雫斗だけれど、今更ながらに感心する。昨日の今日でこの空間を構築してのけたキリドンテの手腕と、きれいに作り込まれた庭園と前方に見える館の荘厳な仕様に、”何でもありだな”と呆れていたのは内緒の話だ。 

 此処で立ち止まってしまうと、質問攻めにあうのは目に見えているので、此処は当然の顔をして通り過ぎていく。隣を見ると、顔を若干引きつらせて母親の悠美も無言で歩いている。 

 屋敷の入り口で重厚な扉を前に”さてどうしたものか?”と雫斗が立ち止まると、時を絶たずに両開きの扉が開き始めた。 

 扉の向こうには、メイド服に身を包んだきれいなお姉様方と、燕尾服を着こなしたダンリ~なおじさまが、お辞儀をして雫斗達を出迎えた。当然雫斗も初対面だ、顔をひきつらせた雫斗が何か言う前に、ダンリ~なおじさまが口を開く。 

 「お待ちしておりました、ご主人様。ささどうぞ、・・・奥でキリドンテ様がお待ちでございます」。と言って先導し始める。つられて歩き出す雫斗について来る他のメンバーだが、建物の中が物珍しいらしく、雫斗の焦りは伝わらなかったようだ。 

 後ろで頭を下げてお見送りをしている美人のメイドさん達を見ながら、たまらず雫斗は念話でキリドンテに文句を言う。 

 『聞いていないんだけどキリドンテ!!。どういうことなの?』。怒り心頭の雫斗に済まして返すキリドンテ。 

 『おおお~。喜んでいただけました様で執着至極にございます』。”喜んでいるんじゃないやい、驚いているんだい!!”と叫びたいが顔に出るので此処は我慢。 

 『この人たちはなんなの?、初対面なんだけれど』。雫斗の疑問にさも当然とキリドンテが言う。 

 『これ程の館を構えました手前、無人とはいきませぬ。それゆえ特別ではありますがインキュバスとサキュバスを使用人として、召喚いたしましたしたいでございまする。この私キリドンテの配下ではありまするが、主殿が主人として君臨しておりますれば、いかようにもお使いくださいませ』。”いや、どう使って良いのかわからね~~よ”と多少のプンプン丸の、おこちゃま雫斗とキリドンテの会話のドツキ合いの間に、目的の部屋へと到着する。 

 突き当りの部屋のドアを優雅に開けるダンディーな叔父様に誘われて、部屋の中へと入っていくと、巨大なテーブルと造りの良い椅子が目に入って来た。その前にはキリドンテが陣取っていて。 

 「お待ち申し上げておりました。ささどうぞお座りくださいませ」。と着席を促す、全員が呆気に取られていて、言われるがままに座っていくが気を抜いているわけではない。 

 全員が着席して程なく、不自然極まりない現れ方をしたメイドが、ティーワゴンを押して現れて全員分の紅茶を用意すると後ろに控える。 

 「改めまして、私、此の102迷宮群を統括管理いたしておりまする、キリドンテ・マリクルソンと申しまする。この程我が主より皆様のご接待の大役を承りましたる所、僭越ではございますが、このキリドンテ全力で当たらせてもらう所存でございまする」。そう言って一礼すると。 

 「ご質問の前に、御口汚しではありますが、紅茶などをご用意させて戴きましたので、お召し上がりになりながらでも、お気軽にご質問くださいませ」。と言いながら周りを見回すが、胡散臭そうな視線を浴びて”ピタッ”と額を叩き。 

 「おおおお!。私めと致しましたことが。お体に良くない物など入れてはいませぬが、証明しなければいけませぬな。・・・ではお毒見を」。と言いながら自分の分の紅茶を”ズズズ~”と飲み干した。 

 「キリドンテ。一人コントはもういいよ。ところで此の館と後ろで控えている人達は何なの?。聞いていないんだけど」。げんなりした雫斗がこのままでは話が終わらないと、先に進める事にした。 

 「主様より、皆様の接待と質疑に応える事を承りましたが。さすがに野っぱらでは、主様と私めの沽券にかかわりますれば、お屋敷を構築いたしまして、最低限の威厳を保つためにご用意させていただきました。使用人に関しましては、流石に人様を使用人として雇えませんので、知性の有る人型の魔物を召喚いたしました次第にございます」。 

 確かに現代の日本で”異空間の御屋敷で働きませんか?”と求人しても胡散臭がられるだけだと思うが、その代わりにと魔物を使うと言う発想は雫斗には無かった。 

 「この人たちは魔物なの? 普通の人間に見えるんだけれど」。と悠美が代表して聞いてみた、他の人達も興味深げに周りで控えているメイドを見ているが、人との違いが分からない。 

 「男性はインキュバス、女性はサキュバスという魔物でございます。どちらかと言えばナイトメア、夢魔と称される存在でして実在している訳では有りませぬ。覚醒している間は無害ですのでお気になさらず御用をお申し付けください」。とキリドンテが事も無げにいうが、実態は無いのに見えているし、ドアを開けたり紅茶を入れたり出来るのはなぜか。その事を問い詰める悠美。 

 「実在していないって? 見えているし、先ほどは紅茶を入れていたんだけど?」。 

 「見えておりますのは、存在が強調された蜃気楼の様なものでございます、茶器の扱いやドアを開け締め出来ましたのは、ポルターガイスト現象の応用でございます。彼女たちに触れて見ますれば分かりますが実体は有りませぬ」。と言われて、遠慮のない百花が近くのメイドへと近付いていく。 

 「ごめんね」。と断って彼女の肩に触れてみる、すると百花の手が肩を素通りして胸から出て来た。そのメイドは意に介さないのか微動だにせず、手が通り抜けた百花の方が蒼ざめて後ずさる。それを見ていた他の人達は”おお~~”と感嘆の声を上げる。 

 その後のキリドンテに対する質疑応答は、メイドに対するインパクトが大きかったのか滞りなく終り、終了する事と成ったのだ。結論からいうと今まで知りえた情報と何ら変わりが無かったのだ、キリドンテもこれ以上の情報の開示は禁止されているらしく、頑として答えを話す事は無かった。 

 「御知りになりたければ、御自らお探しに為られませ。それが迷宮のあるべき姿でありますれば」。と言われては何も言えないのである。しかしダンジョンを攻略すればそのダンジョンの仕様をある程度変える事が出来のは、上々の情報だと言える、しかも交通機関として使えるとなればなおさらである。 

 斎賀村のダンジョン同士をつなぐ処置は、ダンジョンを三日ほど閉じなければ出来ないらしく、いきなり始めては混乱するとして、暫くは現状維持とする事にした。その間に村の人達に口裏・・・連絡して歩くことにしたのである。文字どおりに口頭での回覧板である、一応村に訪れる人は少ないとはいえ皆無ではないので、隠し事をするときの雑賀村の決まり事みたいなものである。 

第31話(その3) 

 そのころクルモとミーニャは沼ダンジョンでスライム狩りにいそしんでいた。二人も雫斗と一緒に会議に出席したかったのだが、人数が多いと面倒だし最終的に沼ダンジョンに転移することになるのなら、クルモを目標に転移出来るかの検証をしてみたいと雫斗に言われては頷く事しか出来なかったのだ。ちなみにミーニャはそのとばっちりでクルモのお供をしているのだが。 

 「みんな遅いね~」。と言いながらミーニャがスライムを倒していく。武器は雫斗が愛用している”トオルハンマー”を小さくしたバトルハンマーだ。最近では雑賀村のほとんどの人が接触収納を取得していて、ダンジョンからの鉱石や食料、その他もろもろの取得物の運搬が容易になっているのだ。

しかもスライムを倒し続けて行くと、保管倉庫のスキル迄取得できるとあってはスライム討伐ラッシュに成る事は当然の結果なのだ。その結果、雑賀村で唯一武具の制作をしている、麻生京太郎の工房は大忙しなのだ。 

 ミーニャがバトルハンマーを欲しがったので雫斗は工房のロボさんにお願いして作って貰ったのだが、スライム討伐の定番と化しているハンマーの制作で経験値を積んでいる工房の作品は、もはや芸術の域の達していた。しかも素材は純ダンジョン産の魔鉱石を使いハンマーヘッドには打撃特化の魔法陣まで刻まれているのだ。 

 その武器に”イカズチちゃん”と命名して「そ~りゃ!」”ドゴ~ン”。「へいや~!」”ドゴ~ン”。とスライムを一撃で粉砕しているミーニャの近くで、小さな義体の蜘蛛から人の姿へと変貌しているクルモが「そうですね」。と相槌を打ちながら、雫斗から譲り受けた予備の短鞭で石の礫を高速で打ち出してスライムを倒していた。 

 実はもう一人(一匹?)おまけが付いていた。ジャイアントキングスライムが雫斗のお供にと召喚した虹色のスライムだ。昨日雫斗が鑑定すると”レインボースライム”となっていたのだが、同族のスライムを嬉々として捕食しているのだ。 

 ダンジョン内において魔物同士で戦う事は日常茶飯事ではあるが、純水な弱肉強食を目の当たりにして若干引いている二人なのは内緒の話だ。 

 マンネリとスライムを狩っていた二人と一匹だが、いきなり壁の一画が淡い光を放ち始めて魔法陣を描きだしていく。クルモが魔法陣を知覚した刹那、魔法陣と入れ替わるようにドアが出現した。そのドアがおもむろに開きぞろぞろと雫斗達が出てくる、すると虹色のスライムがピョンピョン跳ねて雫斗の顔に張り付く、完全に油断していた雫斗は「うっ!!」。とうめいて張り付いたスライムをむんずと掴み顔から引きはがす。 

 「駄目だよ。”ななちゃん”! 顔に張り付いたら息が出来なくなっちゃうから」。どうやら雫斗は、七色のスライムを”なな”と命名したようだ。安直にレインボースライムから”レイ”とか”レイスラ”にせず若干ひねって、虹色から”なな”にした事で多少優越感に浸っていた雫斗だが、”あまり変わらないね”と家族全員思っていた。 

 雫斗に怒られてへこんで伸びているレインボウ・スライムを見て。「キャ~~~カワイイ!!。どうしたのその子?」。と百花と弥生が食い気味に聞いてきた。 

 「昨日ジャイアントキングスライムが大きすぎて、連れて歩けないからお留守番を頼んだら、この子を召喚して連れて行けと押し付けたんだよ」。と言われて弥生が納得したように。 

 「ああ! あの大っきなスライムの」とため息を付いた。 

 沼ダンジョンに来る前に、会談していた屋敷の部屋で雫斗が、ジャイアントキングスライムはどうしたのかとキリドンテに聞くと「その大きな体でお迎えすると驚かれる故、屋敷の裏で控える様に言うと、すねて伸びておりまする」。と言うので、部屋のバルコニーから覗くと、デ~~ンと伸びたジャイアントキングスライムが居たのには笑ってしまったのだ。 

 雫斗以外の人達は、あまりにも大きい姿に引いていたのだが、危害を加える事はないと知ると「いや~~大きいね」。とか「すご~~い、このお屋敷を飲み込めるんじゃ無いの?」。とか「雫斗。こんな怪物と戦って良く勝てたな」。と思い思いに感想を言っていたのだった。 

 「ねえねえ雫斗。この子昨日も居たの? 見えなかったんだけど」。と百花が伸びているレインボウスライムの”なな”をのぞき込むように見ながら聞いてきた。”なな”を鷲づかみにしている雫斗の姿は、まるでクラゲの傘を捕まえてぶら下げている様で、滑稽極まりないのだがそこはお構いなしの様だ。 

 「昨日も居たよ。この子は特別な様で、体の大きさを自由に変えられる上に姿を消せるんだ。・・・小さく成ってごらん」と雫斗が頼むと。するすると体が小さくなりピョンピョンと雫斗の腕を跳ね上り、スポンと胸ポケットへ入り込む。その後そぉ~~とのぞき込むように顔を出した”ななちゃん”に。 

 「キャ~~!! その子頂戴」と百花。「私も~~」と弥生が合わせて言う。その剣幕に恐れをなしてポケットの奥へと逃げ込むスラちゃん。 

 「待て待て待て!。 この子はダメだよ。・・・もう一度召喚できるかスラちゃんには一応聞いてみるけど、あまり期待しないでね」と雫斗が二人を落ち着かせる。 

 雫斗の使役しているジャイアントキングスライムが召喚したスライムだ、他の人が使役できるとは思えないのだが、そうでも言わなければ納得しそうにない二人の舞い上がり方なのだ。 

  

 ドアから出て来た他の人達は、見知っている場所なので、納得したように辺りを見回している。 

 「聞いて理解はしていても、実際に目の当たりにするといささか信じられないものだな。確かに沼ダンジョンに居る」。と感慨深げに麻生京太郎が言うと。 

 「そうですね。現実的にダンジョンの中の不連続性を知ってはいても、ダンジョン内では感覚的に受け入れているものですが、こう非現実を経験すると理解が追い付きませんね」。と山田医師が愚痴る。 

 そうなのだ、ダンジョン内を移動していても違和感はない。しかしダンジョンで測量した結果と地上で確認したダンジョンの大きさにかなりの齟齬が出てくると、ダンジョンそのものは異空間に存在していると認識しない訳にはいかなくなるのだ。 

 「在るがままを受け容れるしかあるまい。どの道儂らには選ぶ事など出来んのじゃからのぅ」と達観したかのようにため息つく敏郎 爺さん。 

 その後は、村役場の会議室に転移して解散となったのだが、クルモとミーニャを会議室に連れて行くと、ダンジョン入り口のチェカーを通らずに出てくる事になるので、連れていく事が出来なった。置いて行かれる事にミーニャがむくれたので、後で雫斗も合流する事で納得してもらったのだった。 

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