ダンジョンを探索すると、色々な事が分かるかも。
第1章 初級探索者編
第30話(その1)
雫斗は雑賀村の二つのダンジョンを管理しているというキリドンテが、行方の知れないクルモを再召喚出来るという事に驚いていた。
あれ程クルモの気配を辿っても実在を掴めずに右往左往していたというのに、簡単に” 再召喚しては?”の問いに呆気に取られていたのだ。そこで雫斗は今までクルモを探す事に苦戦していたのを素直に話した。
「今までクルモの気配を辿っても見つからないのに、再召喚って簡単に出来るの?」。そう話した雫斗に、キリドンテが”あなたはあほですか?”みたいな顔をしながら。
「主殿。隠世では空間という認識が此の世界とは違いまする。まさに無限、不滅の永遠なる理を真とする世界だと言っても過言ではありませぬ。その中で絆を頼りに探すなど、無茶を通り越して無謀と申し上げてもよろしいかと存じまする。まさしく保管倉庫のスキルから弾き飛ばされたとしましたならば、此の世界の距離で言うと数千光年・・・いやもしかしたら数万光年先迄飛ばされていても驚きませぬ」。
雫斗は彼に駄目出しされた事より、クルモが放り込まれた空間の異常性に驚いた、光年って宇宙空間を認識するための単位じゃ無いの?。実際にその数万光年の距離という存在を経験した事のない雫斗には絵空事の様に思えるのだが、その話が本当ならクルモの気配の残滓を辿って見つける事は不可能な事でしかない。
「そうだとしたら、召喚なんて出来るの。距離が酷いんだけど、数万光年って光速でって事だよね、物凄い距離に感じるんだけど」。雫斗が胡散臭そうに聞くと、キリドンテが” チッチッチッ”と効果音付きで顔の前で指を振った後で答える。
「主殿。隠世の世界は此の世界とは違いまする、たとえ数万光年離れて、いえ数百億年離れて居ようとすぐ隣に居るが事し。隣に居ても数百億年離れているが事なりと、まさしく距離や空間に関して無頓着なる世界にて、居る事が分かってはいても絆をもって彼の者を、その隠世で探すとなると不可能かと。しかしながら事、召喚するとなりますれば、その仕様上呼び出すに事には不都合はござりませぬ」。と当然だと答えるキリドンテ。
「えっ! じゃークルモを呼ぶ事ができるってこと?・・・、でもどうやるんだろう?」。と雫斗が独り言のようにつぶやくと。
「では不詳私めが、代わりに召喚してもよろしいですかな?」。とキリドンテが提案する。雫斗がお願いすると、大仰に一礼して。
「うおっふぉん。・・・では!・・・我が主に使えし同胞なるクルモなる者よ。我の呼びかけに答え顕現せしめん。召喚に応えたもう!!」。そう言って両の手を掲げた。
クルモは懸命に本を読んでいた。何もない空間にちょこんと正座して本を読む姿はかなり滑稽では有るが、クルモは必死だった。
本の内容に引き込まれている内は良かったが、ふと気が散じるとクルモの周りは何も無いのだ。全力で不安な気持ちを抑えて正気を保ってはいるが、パニックに陥らないのは流石はゴーレムの精神力だと言える。
しかしその正気を保持する事も時間と共に怪しくなってきていた、主である雫斗がこの状況から助けてくれると信じてはいるが、クルモのいる空間が特殊過ぎたのだ。
今クルモの体は人間の子供の体と同じ姿をしている。知覚の無い不安から、思わずかつて主に見せて貰った、主の子供の頃の写真を思い浮かべると、どういう訳か次第にクルモの体を幼い子供の体に構築してしまっていたのだ。
本を読みながらも、あれやこれやと考え事をしていると、クルモの体の周りに光の粒が漂い始め、魔法陣へと変わって行く。思わず立ち上がり唖然としていると、周りの空間が歪み始めたと思うといつの間にか違う場所へと移動していたのだ。
最初目の前にいる禿げた親父が両手を上に掲げているのを見て、理解が及ばずクルモが硬直していると。
「おおおお~。成功しましたぞ、主殿」。という目の前の御仁の声と、後ろから戸惑いながらも驚いた様に。
「ク、クルモだよね?」。と懐かしい声が聞こえてきた。驚いて振り返るとそこには目を大きく見開きながらも、嬉しそうな愛しのご主人様の姿が有った。
「ゴジュジンザマ!!」。涙声でくぐもった声になったが、そのまま雫斗の足へと飛びついた。
雫斗は「うっ!!」。と苦悶の表情を見せる、油断をしていた。・・・香澄の成長と共に勢いよく足に抱き着かれた時の、額の急所攻撃が無くなっていたので、クルモの額をまともに浴びてしまっていた。
暫く、悶絶する雫斗とそれを心配するクルモ、呆れているキリドンテと、感動の再開とは成らなかったが、取り敢えず無事クルモの帰還がなった事に喜びを爆発させる雫斗だった。
痛みが和らぐと、クルモを抱き上げくるくると振り回して嬉しさを表現した後には成ったが、改めて聞いてみる。
「今更だけど、クルモだよね? だいぶ姿が変わっているんだけど、どうしたんだい?」。と戸惑いはしたが、雫斗はこの腕に抱えている子供は自分の分身たるクルモだと確信していた。
「はい。不思議な空間でした、何も無いのに物凄い力の奔流を感じる事の出来る世界でした。最初は何も知覚できない不安からどうする事もできず、思わずご主人様の幼い頃の写真を見た事を思い浮かべると、いつの間にかこの体が出来上がった居のには、驚きましたが・・・・」。どうやらクルモ本人にも体を構築できたことが理解できていない様だった。
その話を聞いた雫斗は”はて?”と思い悩む。隠世という存在に少し興味をひかれたのだ。しかしそれを察したキリドンテが待ったをかける。
「主殿。ご忠告までに申しますれば、そのまま何も構築せずに赴けば、いかに主様とて只では済みませぬぞ。その空間には、主様の命をつなぐ酸素、‥。空気の存在が有りませぬゆえ」。キリドンテにそう言われて、その隠世という存在?・・・空間に行くには一筋縄ではいかない様だ。しかし行けない訳では無いらしい。
「そうなんだ、此の世界に例えると宇宙空間みたいな物かな? でもクルモの体を構築できるとなると、真空と言う訳でも無いか」。と独り言を言いながら、思考の海に浸っていると。
「何を隠そう、主殿の居わす世界も、この迷宮も箱庭として隠世の中に存在しておるのです。生命が生まれ出でたる環境が箱庭の中で、長い時間をかけて形成されるか、意図的に作り込まれるかの違いでしか有りませぬ。・・・おやっ? さすが我が主殿、もうすでに隠世の中に箱庭を形成しておいでとは、このキリドンテ御見それしましたぞ」。何やら宇宙の真理やら、ダンジョンの秘密の一端に触れたようだが、雫斗はキリドンテが言う最後の言葉に驚いていた。
「箱庭? 覚えが無いんだけど、どういうこと?」。雫斗が思わず聞いてみると。どうやら保管倉庫に扉を付けた事が原因らしい、無意識でやった事なのでどうしてそうなったのかは分からないが、取り敢えずそのまま移動するには、その空間を住める環境に構築しなければいけないとの事で。
「どうすればいいか分からない」。と正直に言うと。
「では。主殿の許可がいただけましたならば、不詳この私めがひな形を御作りしますゆえ、後は主殿のお好きなように、山、川、海と御作りに成るがよろしいかと存じまする」。とキリドンテが言うので、承諾すると、暫く虚空を見つめていたかと思うと。
「どうぞこちらへ」。と振り向きながら扉を開ける動作をした。”そんな簡単に出来るんかい”と思いはしたが、言葉にはしない分別が雫斗にはあった。
其処には此の台座の間に来た時の様に、いつの間にか扉が出来ていた。しかしその扉は普通のと言うか、片開の部屋の扉の様だった。雫斗の顔に問いただすような表情を読み取ったのか。
「時間が無かったゆえに、装飾を施せませなんだ。しかし移動するには支障はございませぬゆえ、どうぞお通りくださいませ」。そう言ってキリドンテが開けた扉の傍で頭を下げる。
第30話(その2)
その扉の向こうには、此処に来た時の様に光のカーテンは無く、ただただ広い草原が広がっていた。何も考えずに扉を抜けて歩き出す雫斗、数メートル歩いてみると何か違和感があった。そう空気の流れが無いのだ、風が通り過ぎる時の草木のささやきが。
そう雫斗が感じた途端、雫斗を中心にさざ波が広がっていき、いつもの感覚になっていった、そう風が吹いているのだ。さらに見渡す限りの草原に違和感が”木々が一本も生えていない”、そう思った途端近くに遠くに近くにと見覚えのある木々が出現しだした。「えっ? えっ?」。と驚く雫斗に、後ろから声がかかる。
「思い描くすべてを実現できまするが、今はまだ此の風景は幻にすぎませぬ。しかしマナにも限りがございますれば、好みの箱庭とする事には時間をかけて戴かなくてはなりませぬ」。と済まなさそうに扉を閉めながらキリドンテが言う。
雫斗が振り向くと、今まさに扉を閉めようとしているキリドンテなのだが、その扉の異様さがこの草原では際立っていた。
ダンジョン内の洞窟では気に為らなかったが、此の草原では扉が何の支えも無くぽつんと置かれているのだ、ふちさえない。閉まる寸前のその扉の向こうに今までいた台座の間の星雲や銀河のきらめきの一端が見える事の異常さに言葉が出てこない。
音も無く閉じた扉は光の粒となって消えていった。後には広い草原にクルモを抱えた雫斗と雫斗の肩に乗っている小さくなったジャイアント・キングスライム、・・・いやもうジャイアントが無くなって、小さなキングスライムとキリドンテが居た。
『壮観ではあるな。主よ、ここ迄、空間認識を極めれば空間転移も出来るのではないか?』とヨアヒムが念話で話しかけてきた。忘れていた、こいつを手に持ったままだった。
「おおおっ。わが同胞でございますかな? ご挨拶が遅れまして申し訳ございませぬ、キリドンテ・マリクルソンと申しまする、以後お見知りおきくださいませ」。と言って頭を下げる。
『うむ!。本に取り込まれておる故、顕現できぬが、モルア・スマアセント・ド・ピニエラルソン・ヨアヒム と申す、ヨアヒムと呼ぶことを許そうぞ」。と偉そうにヨアヒムが言うと。
「クルモです」。と雫斗の腕に抱えられたままクルモが頭を下げる、するとペシペシと小さなキングスライムが雫斗の頭を叩く。
「ああ!名前を付けていなかったね。・・・う~ん。・・・よしっ! スラちゃんでどうかな?」。と安直な名前を雫斗が付けると、名前を付けられてうれしかったのか、キングスライムが飛び降りて跳ねまわりだした。それを見たクルモがもそもそと動き出したので、下ろしてやるとキングスライムと鬼ごっこを始めてしまった。
その光景を見て微笑ましく思いながら、ヨアヒムが言った言葉の意味を考える。”空間転移”・・・雫斗でなくても厨二心を揺さぶるフレーズではあるが、出来るのか?。
「空間転移ね。確かに雑賀村に在る入り口から沼ダンジョンへと入る事が転移と言えなくはないけど、どうなんだいキリドンテ」。雫斗の問いに。
「主殿の居られる世界において、我が迷宮は入り口という座標で繋がっておりますれば、新たに座標を構築できればこの箱庭を介して移動もかないましょう。それを転移と称しても良いのであれば叶うと申し上げねばなりませぬな」。というキリドンテの言葉に考え込む雫斗。
要するに雫斗の部屋と学校に座標を作れば、雫斗の部屋からこの箱庭を通って学校に行けるって事か、しかし距離はどうなんだ、地球上なら問題ないのかな?。
「どのくらいの距離までなら可能かな? 取り敢えず自分の部屋とここを繋げて見たいのだけれどどうやるの?」。と雫斗はただの興味本位で聞いたのだけれど、帰ってきた答えに頭を抱える事になる。
「距離で言えば、今の所この星系内であれば辛うじて出来ましょうがお勧めいたしませぬ。人の住める環境がこの惑星上しか存在いたしませぬゆえ、しかしこの星の上であれば座標を構築する事さえできれば問題ありませぬ」。雫斗にしてみると、単純にここら辺一帯、せめてここから近い大都市の、名古屋市の何処かと繋がると良いなぐらいの気持で考えていたが、地球上どこでも”OK”とは恐れ入った。
座標を決めてしまえばこの地球上の何処へでもいけると言う事が、どういった騒動になるのかを考えてみるが、恐ろしい事になりそうなのでその考えを放棄する事にした。もう慣れっこなので報告して後は母親とダンジョン協会のお偉いさんに丸投げだ。・・・雫斗の不安を他所に話し続けるキリドンテ。
「座標の構築ですが、当然ですが水や空気など状態が不安定な物には座標の構築は出来ませぬ、出来ましたら崩れる恐れの無い塀や部屋の壁などと言った物が良いかと存じまする。何分座標を決めた場所が崩れますれば、移動できませぬゆえ」そう言われてふと疑問がわいてきた。動かない物体でないと座標の構築が出来ないのかと、その事を聞いてみる。
「動かないものとなると、移動する車や飛行機には無理って事?」。そう聞いた雫斗に応えたキリドンテの返事がぶっ飛んでいた。
「主殿、どの世界においても不動不変の座標など存在いたしませぬ。この星の表面においてもこの星の表面の一点を基準に座標を決めて居りまするが、星は自転しているうえ太陽の周りを公転致して居ります。この星系でさえ銀河系の周りを、その銀河系でさえ膨大な宇宙空間を移動致して居りますれば、不動の座標など存在いたしませぬ」。
そう言われた雫斗は考え込む、では何が基準になるのかと。確かに此処から移動するにあたって基準は此処と言う事には成るが、何を以ってここから移動するべき座標を決めるのか? 考え込んでいる雫斗にキリドンテが話す。
「不動不変ではありませぬが、構築された物は現世において確実に存在致して居りますればそこを基準にして移動が可能となりまする。極端な話、道端にある石ころに出口の座標を構築することも出来ますが、お勧めいたしませぬ」。”ええええ~~、石ころにも出来るんかい”と驚いていたが、何故いかんのかと聞くと。
「石ころは何方でも動かす事が出来まする、座標を構築した石ころを何方かが面白半分に川へと投げ入れましたならば、それを知らぬ主殿は水の中へと移動してしまう事になりますれば、出口の座標の構築はめったに動かせぬ物に成された方がよろしいかと存じ上げまする」。そう言われた雫斗は、そうとは知らずに移動した先が水の中で、溺れている自分を想像してしかめっ面をしていると。
「ご主人様、僕たちは此処にいつでも来ることが出来ると言う事でしょうか?」とクルモが聞いてきた。キングスライムと鬼ごっこをしていても、雫斗達の会話を聞いていた様だ。
「どうだろう? 此処には他の人も来ることが出来るのかな?・・・どうしたスラちゃん?」キリドンテに此の箱庭の仕様を聞くついでにクルモ達に視線を向けると、デカくなったジャイアント・キングスライムと”すごい、すごい”と感心するクルモの姿が有った。
「ゴーレムのクルモです、と自己紹介したら。ジャイアント・キングスライムのスラちゃんだよ、と答えたので、僕が”ジャイアント? 小さいね”と言ったら、大きくなりました」。と嬉しそうにクルモが振り向きながら答えると。さらにスライムを召喚しようと上下運動を始めるスラちゃん。
第30話(その3)
「これ、連れていけないけど、どうしよう」。と雫斗が困ってつぶやくと。一瞬で固まるスラちゃん。どうやら連れていけないと雫斗が言った事にショックを受けたようだ。
「ここに住まわせておけばよろしゅうございまする。何処にでもいつでも転移召喚して呼び出す事ができますれば、お連れになる必要はございませぬ」。とキリドンテの辛辣な言葉にますますショックを受けてビタ~~と沈んでいくジャイアント・キングスライムのスラちゃん。
「そうだね・・・。仕方ないか、ところでさっきの質問だけどどうなの」。雫斗の催促に、キリドンテが答える。
「主殿とご一緒かこの箱庭に移動できる許可を施した証文をお渡しに為ればこの箱庭にご招待できまするが、人選にはご配慮の程よろしくお願いいたしまする。まあ敵意のある者が入り込んだとて、此の箱庭の番人たるジャイアント・キングスライムめが居りますれば御心配には及びませぬ」。と落ち込んでいるスラちゃんのフォローも万全だ、さすがダンジョンを任されるだけはある。
それを聞いたスラちゃんががぜんやる気になって跳ねまわって居る。小さいスライムだと可愛いのだろうが、此れだけデカいとちょっと恐怖を感じてしまう。
「僕と一緒だと此処に来る事が出来るのは、なんとなく分かるけど。許可証って何なのかな?」。当然分からない事は聞くに限る。
「指輪やペンダントなどの装飾品でもなんでも構いませぬが、それにこの箱庭に転移出来る魔法陣か、扉を形成できる魔法陣を組み込んだ魔道具でございまする。本人以外には使う事が出来ぬようにすることが出来ますればそれをお渡しに為ればよろしいかと思いまする。ただ御懸念がおひとつ、転移であればお渡しになったご本人様だけがお越しに為れますが、扉となると意図せぬお人がお越しになるやもしれませぬゆえ、扉の構築を施した魔道具をお渡しになるときには、ご人選は慎重になさます様おねがいいたしまする」。だいぶ身内以外の人間に警戒心が強いようだ、ま~~ダンジョンを管理していた影響かも知れないと雫斗は軽く考えていた。どの道ここに招待するのは家族とパーティーメンバーぐらいのものだからと、その時は軽く考えていたが、その事は後に大きな問題となるのだが今の雫斗には分からなかった。
「魔法陣を組み込んだ魔道具なんて作った事が無いんだけど、どうやるんだい?」。そうキリドンテに聞くと。
「魔道具の制作の仕方など不詳私めにも分かりかねまする、それは主殿の此れからのご精進次第にございますれば、ご健闘をお祈りいたしまする」。と取り付く島もなく突き放された雫斗。
「あっ。今その本を読んでいました。”魔道具制作の初歩”」。と言って本を収納から取り出してクルモが言う。雫斗はありがとうと言って、また勉強かとつぶやき顔を引きつらせてその本を受け取った。
「なかなか面白そうな内容でしたよ」とクルモが言う。どうやらクルモは魔道具の制作に興味があるようだ。
「そうか~~、じゃ~~一緒に番強だね~~」と雫斗は半分呆けた物言いでクルモに言葉を返すと。
「はいっ!!。がんばります」と元気に答えるクルモ。やる事が何であれ、主人である雫斗と一緒に出来るとなれば、頑張るのは当然と言える。
それにしても。そう言えば鍛冶屋で働いているゴーレムのロボさんも、家にいる家政婦の良子さんも畑を手伝っているし、ゴーレムって何か製造することに興味が在るのかな? 後で聞いてみようと考える雫斗だった。
それからは、クルモ、ヨアヒム、キリドンテを交えて、此の箱庭とダンジョンの仕様と此れからの活用方法などを話し合っていたのだが、雫斗のお腹が鳴った事を皮切りに後日話し合う事になった。
「あっヤバイ!。帰還予定時間が大幅に遅れている、早く帰らないと」と慌てる雫斗に。
「それでしたらば、元の沼の迷宮に戻るのではなく、村の迷宮へと移動なされてはいかがかな? そうしましたならば、転移移動の実感が出来ましょう程に」。とキリドンテが言うので、確かに沼ダンジョンから帰るより村のダンジョンの方が近いが、しかしどうしたらいいのか分からない。
「そういえばダンジョン内なら何処へでも移動できるっていていたね、どうやるのかな?」やり方の分からない雫斗が聞くと。
「何をおっしゃるかと思えば、主殿は迷宮の心核を台座へと収めた折に、すでにこの迷宮群の権能は織り込まれておりますれば、思い描くだけでよろしゅうございまする。しかしながら主殿はその前にすでに扉の形成を覚えておいででしたが」というキリドンテ。台座に迷宮の心核を置く前となると、保管倉庫に扉を付けた事かなと思いいたる。
それならと、村に有るダンジョンと沼ダンジョンの構造なら細部まで分かる、村に有るダンジョンの入り口に一番近い広間の一画に扉を思い描く。
簡単に出来ました、扉の構造も使い慣れた自分の部屋の扉と酷似しているのはご愛敬ではあるが、キリドンテにまた後でと断ってここから出ようとすると、キリドンテの後ろでジャイアント・キングスライムが連れて行ってくれと騒ぎ始める。
「ええええ~~、その大きさでは連れていけないよ。小さくなれる?」。そう聞くと懸命に分裂を始めるが、どうしても人を余裕で飲み込めそうな大きさまでしか小さくなれない様だ。
そんな大きさのスライムを連れて歩けるわけも無く、キリドンテと一緒にお留守番をお願いしてそこから出ようとすると、激しく上下運動を繰り返して一匹のスライムを召喚した。
どうやら、その子を連れて行けと言っている様だ。そのスライムは普通のスライムと違い、ピョンピョン跳ねながら雫斗の胸に飛び込んできた。よくよく見ると色々な色が混ざった様なグラデーションをしていて、不思議なスライムだった。
その子を抱えながらクルモと一緒に扉を潜ると、いつものダンジョンの広間で安心する。扉が閉じる瞬間まで頭を下げてお辞儀をしているキリドンテの後ろでプルプル震えている巨大なスライムが印象的なのだが、そこはスルーしてドアを閉じる。
扉が閉じた途端光の粒と成って消えていくそのドアを不思議そうに眺めた後は、いつものダンジョンの一階層で、今まであった事が夢では無いかと錯覚させる程いつもと変わらない光景なのだ。
ただ一つ違うのはスライムを抱えている事なのだ、その事が今まであった事は現実なのだと訴えていた。
「さあ帰ろうかと」とクルモを従えて村のダンジョンの入り口にある探索者協会の入ダン受付まで行こうとするが、ダンジョンから出る時にひと騒動が有った。どういう訳か出る為に探索者協会のカードをチェカーに通すのだが受け付けて貰えずに扉が開かないのだ。
その時は分からなかったが、雫斗が入った沼ダンジョンからではなく、村のダンジョンから出て来た事で誤作動を起こしてしまったらしかった。
雫斗は出る為にカードを数回潜らせたがその都度エラーが出るので仕方なく、初めて緊急の開口措置を取った。どのダンジョンでもいえる事だが、決まった暗証番号を入力すると強制的に扉が開く仕組みなのだ。
ダンジョンの外へと出て来た雫斗達は、受付前がかなり騒がしい事になっているのには驚いた。数人の人が中を覗きこんでいて、中にもかなりの人数が詰めている様子だった。
雫斗は大勢の人に阻まれて中に入れないので、最後尾で中を覗きこんで隣の人と話し込んでいる人に聞いてみた。その人達は雑賀村の住人ではなく、ヘリポートの整備と管理のために、運輸省から出向してきている人達だった、一応雫斗も顔は知ってはいるが話したことは無い。
「どうしたんですか?」。の雫斗の問いに、ちらっと話しかけてきた雫斗を見るが、子供が話しかけてきた程度にしか思っていなかったのだろう。
「いや、なにかね。この村の子供がダンジョンから帰って来ていないみたいでね。捜索隊を出そうかって話らしいね」。とこともなげに言うものだから、”はて?”と雫斗は考える。3層ダンジョンしかないこの村で行方不明?、珍しい事も有るものだと思いながらも重ねて聞いてみる。
「行方不明ってただ事じゃ無いですね。どういう事ですか?」雫斗の質問に律儀に答えるが、どうやら意識の大半は中の話し合いを聞いているみたいで、その人がうわの空で答える。
「どうやらその子は思い詰めていたみたいでね、ダンジョンで自殺でもするんじゃ無いかとご両親が心配して居てね」というものだから。驚いた雫斗が問いただす。
「えっっ!!。誰が行方不明なんですか?」雫斗が声高に聞くと、ちょっと驚いた様に雫斗の顔を見つめて、不思議そうに答えた。
「高崎 雫斗と言うらしいんだがね。若い身空で何を思い詰めているんだか・・・・・」。どうやら見知っている顔だけど名前が思い出せないという様子だった。
「高橋 雫斗は僕ですけど」と言う雫斗を見つめて、「えっ!」とその人は呆けて言う。
つられて雫斗も「えっ!」と呆けて答えると。
「ああ」と顔と名前が一致して安心した、と言うような声を出すその人。
その騒ぎを中から目ざとく見つけた百花が雫斗の名前を叫びながら突進してきた。後はお決まりである。
雫斗は襟首をつかまれて揺さぶられながら、百花の言葉の洗礼を受ける事になる。
「雫斗~~~!。今まで何処に行っていたのよ~~~!!」。
コメント