第24話  無自覚は・・・功績か、それとも罪か?

ダンジョンを探索すると、いろいろな事が分かるかも。

第1章  初級探索者編

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第24話(その1)

 皆でやってきました沼ダンジョン。何時もなら準備運動がてら軽く走って来るのだが、暫く運動を控えていた上級生に配慮してのんびり歩いて来ていた。 

 「ここに来るのも久しぶりです、懐かしいですね」というのはミーニャだ、懐かしいというほど彼女が沼ダンジョンに召喚? されてから日にちは経って居ないのだが、ミーニャにとっては怒涛の一週間だったようだ。今日はクルモに接触収納を取得させる予定なので今朝ミーニャを誘ったのだ、そこで放課後待ち合わせて一緒に来ることに成ったのだが、中学生全員という大所帯に少し戸惑っていたみたいだった。 

 ミーニャは異言語理解のスクロールで日本語に限るが言葉は理解できるし話す事も出来るが、しかしダンジョンを通って地球に来る前の世界で読み書きを習っていないので、必然的に此の世界でも読み書きが出来ないのだ。 

 そこで低学年の子供たちに交じって文字や計算を習っているのだが、知能的には中学生と同じくらいある彼女にとって雫斗達と一緒に学習出来る様になるのも遠い未来ではないらしい。 

 「私がダンジョンに入っても大丈夫でしょうか?物凄く怖いのですが」とダンジョンに入る事に多少の恐怖を感じている様だ。ミーニャの居た世界ではダンジョンは数々の都市や町を壊滅に追い込んだ恐ろしい存在として聞かされていたらしく、此の世界に来る原因となったダンジョンに逃げ込んだのも、捕まらないための決死の覚悟の事だった。 

 雫斗としては、違う世界に来た事は別にしてもその事がミーニャの生還につながったと思っているのだが、習慣的に子供の頃から聞かされていたことは心の残るようだ。 

 「ダンジョンは正しく理解していれば怖くないよ、雑賀村のダンジョンは3層しかないからね、大変なのは10層からでかなり注意が必要なんだ」と雫斗が安心させるように言う。 

 ダンジョンが出来た当初、当然戦闘能力と装備の充実した軍隊がダンジョンの調査に当たったが、外国の歴戦の勇者たる軍人の多くが死亡や行方不明者となり、帰還できずにいた為パニックになりかけた。 

 しかし軍隊としては戦闘を経験した事のない特殊な環境の、日本の自衛隊の隊員や民間の人達が次々階層攻略していく中で、此れはダンジョンの攻略に必要なのは道徳的な物では無いかと言われるようになった。 

 つまり自国の国土と権益の防衛と称して戦闘を生業としている軍人もしくは傭兵といった殺人や町の破壊を平然と行ってきた人達や、罪を侵す事を当然としているマフィアと呼ばれる人たちを、ダンジョンは拒否しているのではないかと思われたのだ。事実、軍政や官僚の腐敗により治安の悪化した国では、一時期、軍人や汚職に染まった警官や官僚もしくは犯罪者が減って治安が回復したほどである。 

 時の権力者やマフィアにとって子飼いの兵隊が使えないとダンジョンからの恩恵に預かれない事に為る。 

 しかしそこは権力とお金に執着する亡者の如き為政者のことだから、ダンジョンの外ではやりたい放題が出来る、つまり武力を背景に搾取する事にしたのである。 

 だが長続きはしなかった、3か月もすると力関係が逆転する事に為ったのは当然と言える。ダンジョンでは身体能力が上がる、しかもスキルという不思議な現象まで付いてくる、また現代の戦闘の主役である遠距離での射撃戦がダンジョンでは役に立たない、5層を超えると拳銃や小銃といった小火器が役に立たなくなる、10層を超えると携帯が困難な重火器やグレネードなどの破壊力の比較的大きな火器でもかすり傷程度になってしまうのだ。 

 結局のところダンジョンの魔物との戦闘においては刃物や鈍器を使った接近しての肉弾戦が重要になってきた、しかしその事が探索者の身体能力の向上に役立った、極端な話火器で武装した小隊や中隊は勿論、戦車や装甲車と言った重武装の車両に対しても身一つで対抗できるようになったのである。 

 そんなわけで搾取される側のダンジョン探索者も徒党を組み対抗してきたのである、今では比較的平和な国のダンジョンを管理する機構が連携するようになり、世界ダンジョン協会としてダンジョンの管理を一元化するようになったのだ。 

 沼ダンジョンにやって来た一行は、取り敢えず最初の広間で雫斗達からスライムの倒し方のレクチャーを受ける、スライムバスターという花火が有るとはいえ接触収納を使った攻撃の方が効率は良いのだ、流石に鉄を使った礫ではオーバーキルだし効率が悪いので、そこら中にあるダンジョンの小石を使って実践して見せる。 

 「接触収納は体に触れているならどこからでも出せます、極端な話、距離に制限はありますがロープの先からさえ出せるんです、ではこのダンジョンの小石で」と言いながら雫斗は手に持った小石を見せる。 

 「普通に投げるとこんな感じですが、収納を使って中での加速をイメージするとこうなります」と最初は普通に壁に向かって投げた後、何も持っていない手で投げたふりの様な事をすると、ものすごい速度でダンジョンの壁に当たり、小石が砕け散る。 

 「その収納の中で加速するイメージをもっと強するとこうなります」と言う。百花達も小石を投げて壁に当たり砕け散るまでは出来る為、最初は”うん、うん”とうなづいていたが、その先が有ると言われて「えっ?」と驚く。 

 何時もの様に空の手で投げた様に見えた瞬間轟音が響き渡る。音速をはるかに超えて飛び出した小石が、収納から出た瞬間に衝撃で砕け散ったのだ。最初の頃の収納を使った投擲とは段違いの威力に百花達も驚愕する。 

 「何よ雫斗。ドウヤッタラ、コンナイリョクニ、ナルワケ」と棒読みの百花、かなりの動揺が伺える。 

 雫斗はただ愚直に収納を使った攻撃の可能性を試していただけに過ぎない、何処まで早く投げられるのかと。その結果がこの様な事態になっているのだが、彼には普通の事なのだ。そう説明する雫斗に他の面々が呆れた表情を見せるが、驚愕するのはこれからだと思い知る。 

 雫斗はクルモ以外の反応に戸惑いながら(驚愕を通り越して呆れているだけ)話を続ける。 

 「でっ。ちょっと面白い現象が出来る様になりました」と言いながら今度は短鞭を取り出す。とはいっても保管倉庫にしまってあるものを取り出したのでいきなり手の中に出てきた様にしか見えない。 

 「普通にやるとこうですが」と言いながら短鞭を軽く振る、すると鉄の礫が音速を突破した時の音を残してダンジョンの壁に穴を穿つ。 

 「次は全力でやります」という雫斗の言葉に皆が期待の眼を向けるが、結果は降り抜いた途端に物凄い轟音と共に煙の固まりが前方に吹き飛んでいく。鉄の匂いがあたりに充満することから、鉄の礫がバラバラに分解されて気化している様なのだ。 

 其れはそれで凄い事なのだが、攻撃力ということでは見劣りする、ただ衝撃に耐えられるように固い素材にすると凄い事に為りそうだがそれだけコストが掛かることになる。 

 面白い現象というよりはっきり言って目くらましぐらいにしか成らないのだが、続きがあるようだ。 

 「ちょっと強い閃光が走るので注意してくださいね」と皆に言葉をかける雫斗、煙幕のイメージが有るので閃光弾みたいなものかと期待しないでいると。 

 一つ息を吐いて集中力を高める雫斗、完全に油断していた面々はしかし、ただ事ではない雰囲気に固唾を飲む。その周りをよそに短鞭を降り抜く雫斗、一瞬の強い閃光の後『ジュゥ~~』と物が焼ける音と共に壁の一ヶ所から煙が上がる。 

 皆が呆けているのを他所に百花が雫斗の襟をつかみに食って掛かる、百花らしいといえばそうなのだが、「何で礫の投擲が、ビーム兵器になるのよ?」と吠えている。 

 よく見ると壁の煙が立ち上った場所に直径1センチほどの丸い穴が出来ている、星士斗がライトペンを取り出して穴の奥を覗き込んでいる。 

 「すごいな・・・、かなり奥まで続いているぞ、しかしどういった原理で光線が出てくるんだ?」と星士斗が聞いてくるが、雫斗自身良く分かってはいないのだ。 

第24話(その2) 

 ただ雫斗は、煙の塊が投げた方向へ吹き飛んでいくのを見て、その吹き飛んでいく煙の塊を集約出来ないかと考え試行錯誤を始めた。要は空気砲見たいなものが出来ないかと思って接触収納から飛び出す礫の入り口を小さく更に小さくと念じながら投げ続けたのだ。 

 本来、接触収納の中と現実世界とは次元が違うので物を出し入れする時には、その物体の質量分だけの空間が開き出し入れしているのだが、接触収納を取得した全員が意識的に行っているわけでは無い、つまり無意識に使えている機能なわけで、どういう原理かなんて誰も分かりはしないのだ。 

 ただ入り口を小さくと考えた雫斗だが、接触収納はその物体その物を小さくし始めた、要は圧力を加えていったのだ、接触収納では中で加速が出来るのは知っていたが、圧縮することまで出来るとは思ってみなかった雫斗だが、此の事が後に変革を生み出すのは後の話だった。 

 何処の誰かは分からないが、ダンジョンという迷宮と共にスキルという摩訶不思議な現象をもたらした存在がご親切に作った機能に雫斗は意識的に変更を強いたのだった。 

 最初の数日間は変化がなく何百個もの礫を無駄にしたが、三日目に変化が訪れる。吹き出す煙の塊が少しまとまって見えたのだ、しかしそれは偶然というか、そう見えただけで多少まとまってはいるが誤差の範囲だった。 

 諦めかけていた雫斗が効果が出ていると思い込み、俄然張り切って礫を打ち出す事に集中する。何万発と礫を無駄に消費し、7日目を過ぎると根負けしたのは接触収納の機能の方だった。 

 鉄の礫を瞬時に圧縮していく過程で、回数を重ねるごとに徐々に個体から液体へと変わって行く、すると必然的に凄まじい圧力と熱量に耐えきれず気体へと変化していく、結果的に収納の出口が収縮し始める。 

 圧縮された鉄は個体、液体と変わって行く過程で温度が凄まじく上がっていく。すると雫斗の思惑とは別に収納から出ていく過程で圧力から解放された液体の鉄が一瞬で気体となり火炎弾の様な熱の塊を打ち出し始めたのだ。 

 そこでやめて置けば良かったのだが、雫斗は限界を突き止めたくなってそのまま続けていた、12日を過ぎたあたりで発光現象と共に一条の光線がダンジョンの壁に穴を穿つ。 

 そこでようやく雫斗は思いいたる、何か危険な事をして居るのじゃ無いかと。どうして光線が出るのかとヨアヒムに聞いてみると、”シュワルツシルト半径”だの、”マイクロブラックホールの生成”だの、”ホーキング放射”だの良く分からない単語が飛び出し相変わらず要領を得ないのだが、危険なにおいがプンプンしていたので一旦やめて家でネット検索をしたのだ。 

 要約すると、収納内で極限まで押しつぶされた鉄の礫の分子が、圧縮により中心部分の原子のシュワルツシルト半径が押し潰されてブラックホール化し始める。しかし質量の小さいブラックホールはホーキング放射の影響で瞬時に消滅する、つまり極小のマイクロブラックホールの生成と消滅が繰り返し起こる事で、その衝撃で周りの残りの物質を吹き飛ばす事になる。 

 吹き飛ばされる圧力と押し潰そうとする圧力の狭間で鉄の分子が崩壊し物凄いエネルギーとなる、そのエネルギーがナノ単位で開いた現世との入り口から放出される、それが凄まじい閃光とダンジョンの壁に穿った穴の正体の様だった。 

 「すると何かい、収納の中ではブラックホールを生成できるって事かい?」と雫斗の話を聞いた美樹本陸玖は目を輝かせて聞いてきた。星士斗と姉の瑠璃と共に来年、探索者養成学校を受験する予定なのだが瑠璃の双子の陸玖も本来頭が良い。探索者というより研究者肌の雰囲気が強いのだが、どちらかと言えばマッドサイエンティスト的な思考の持ち主で、多少独善的な言動をするときが有る。 

 「今の所排出時限定ですが。・・・ただヨアヒムがそう話しているだけなので、確認し様にもどうやって調べたら良いかも分かりませんけどね」と雫斗が自分で話しておいて、眉唾的な事を言うものだから、頭の中でヨアヒムが盛大に抗議の声を上げる、そのうるさい事うるさい事、叡智の書としての矜持なのか嘘つき呼ばわりは禁句の様だった。 

 「驚いたな、収納内の排出時限定とはいえ加速と圧力が尋常じゃ無いな。・・・しかし接触収納の可能性の底が見えないな」と陸玖がワクワクしながら話すと。 

 「先輩、陸玖先輩。そんなでたらめな事をやるのは雫斗ぐらいのものですよ」と弥生が身の蓋も無いことを言うと。 

 「其処は雫斗の長所だよ、何にでも挑戦してみて限界を探る。いいじゃ無いか逸れこそ研究者・・ゲフン。探索者の真の姿だ、君たちも見習うと良いよ、深層に赴くことが必ずしも正解ではない事を、雫斗は証明して見せたからね。」と陸玖とが感心して言うと。 

 「しかしその事を発表すると世界が変わるな、今まで膨大な予算で加速器を設置していたが、雫斗一人で賄えてしまう、しかも分子レベルで高圧力と加速が出来るとは。待てよそうなると核融合も出来るんじゃ無いか?ふふふっ夢が広がるな。・・・これは秘匿して秘密裏に実験した方が良いのか?」と多少顔をニヤ付かせて続けてブツブツと何か話し始める。 

 「いい加減に現実に戻りなさい、他に注意することがあるでしょう?」と瑠璃に頭を小突かれて我に返る陸玖。 

 「そうだった。雫斗、原子が崩壊してブラックホール化するとなると放射線が心配だな、多分スキルだから大丈夫だとは思うが調べるまではその圧縮は禁止だ。今日この後協会に報告しておかないといけないしね」と陸玖とが収納の物質に対しての加圧の禁止を宣言すると、「え~~~」と周りが不満を言い始める、出来るとなると試してみたいのは人情というものだ、居合わせている全員が習得したがっているのは当然といえる。 

 「安全を確かめるまでだ、そんなに時間は掛からないよ。ま~~一日二日で出来る様になるとは思えないから、試してみる分には良いだろう、ただし火炎弾迄だ」と試みる分には良い事になった。 

 「他に何か無いだろうね?」と陸玖から多少非難じみた口調で聞かれた雫斗は、こころの中では恐慌状態になっていた。 

 最初は雫斗も放射線の事を考えてこれはやばいと思っていたが、ヨアヒムが「スキルも万全ではない、使用者によっては万能にもなるが。無知は身を亡ぼす、その為その身に危険が及ぶことを良しとせん。安心せよ主よ、接触収納や保管倉庫からその身に害が及ぶものなど出はせん」と言われたことで安心して、報告をしていなかったのだ。 

 そして陸玖が核融合とほのめかしたことで思い至った事がある。雫斗の核融合のイメージは発電で平和的な発想だったのだが、確か人類最大威力の核爆弾は水爆で、起爆に核分裂反応を使いはするが、本体は重水素を使った核融合だったはずじゃ無かったかと。 

 もしかすると,雫斗は意図せずにダンジョンを熱核爆弾で崩壊させてしまっていた事に思い至りガクブルしていたのだ。 声を震わせて「イイエ、ナニモ、アリマセン」と棒読みで答える雫斗の動揺は全員に伝わっていた。 

第24話(その3) 

 「雫斗、貴方何か隠しているでしょう。話してしまいなさい」と辛らつに問いただす百花。「まだ何かあるのかい?」ともうお腹いっぱいだと星士斗が呆れて言うと。 

 「陸玖先輩、核融合ってそんなに簡単にはできませんよね?」と不安そうに聞いてくる雫斗、しかし容赦のない陸玖の言葉に絶望に打ちのめされる。 

 「マーそう簡単にはできないね。・・・普通で有れば、しかし極小とはいえブラックホールを生成できるのだから、ふふふっ楽勝だね」とのほほんと宣う陸玖とは対照的に蒼ざめる雫斗。 

 「間違えて、熱核爆弾を作っちゃうとか。あり得ます?・・・・ははは」とおどけて誤魔化そうとするが、雫斗の心配をよそに陸玖はさらなる構想をぶち上げる。 

 「何を言っている雫斗よ。核兵器なんてショボい類の話じゃないぞ、仮に収納外でブラックホールが生成できるのなら、重力消滅攻撃も夢ではないぞ。ふむっ、問題は生成した後そのまま居座ると厄介だな、・・・・どうやって消すか?、・・・そうか!!保管倉庫にそのまま収納できれば、いつでもどこでも消滅兵器の出来上がりだな。くっふふふ夢が広がいてっ」自分の妄想に酔っていた陸玖の頭を叩き姉の瑠璃が締めくくる。 

 「いい加減に現実に戻ってきなさい!!。とにかく取り敢えず安全が確認できるまでは収納を使った投擲の限界を模索するのは禁止よ。特に雫斗、あなたの場合は常識から外れてくるから特に注意しなさい、今までは攻撃スキルで放った本人がダメージを負ったって言う話は聞かないけれど、あなたが初めてで最後の人になるかも知れないわね」と雫斗にとって恐ろしい事を言ってきた、おそらく雫斗がやりすぎない様に注意する意味でそう言ったのだろうが、雫斗には自覚があるだけに笑い事ではない。 

 その後は、百花と弥生の保管倉庫を使ったコンクリートパイルを使った重力武器のお披露目も、雫斗のブラックホールビームに霞んでしまったが、その後は各自でスライムを倒し討伐数を増やしていく事になった。 

 クルモとミーニャを連れて割り当てられた広間へと来た雫斗達は、どんよりとした雰囲気に包まれていた。 

 主に落ち込んだ雫斗を気遣って二人が黙って居るのもあるが、雫斗の元気の無さは深刻だった。雫斗の肩に乗っているクルモが意を決して聞いてみる。 

 「大丈夫ですか、ご主人様?」。聞かれた雫斗が我に返ると、心配そうに見つめているミーニャが居た。最近人化が進んできて直立で歩くことに不便が無い骨格になってきているのだが、依然顔はクロヒョウの顔で直立で歩き出したミーニャに、女の子たちが裸ではまずいと(毛皮を纏って要るので裸では無いと思うが)服を持ち寄って着せ始めたのだ。 

 結果、クロヒョウの被り物をしている女の子の様になってしまっているが、精悍な顔立ちで凛々しいのは変わりがない。 

 不安げなミーニャの表情を目の当たりにして気を引き締める雫斗。どの道報告した後確認を取るまではすることが限られてくるので、此処はのんびりクルモとミーニャの覚醒の手伝いをするのも良いやと、気持ちを切り替える。 

 「大丈夫だよ、心配かけてごめんね。・・・さて今日は接触収納の取得までして、明日から収納を使った攻撃の練習を始めようか」と雫斗が此れからの予定を言うと、「はい!」と二人とも元気な声で答える。 

 それからはのんびり歩きながら、スライムバスター(花火)を使ってスライムを倒していく、簡単に倒せるとは言っても一人50匹のノルマは結構な時間が掛かる。 

 その間ミーニャと取り留めも無い話をする、スライムの討伐とは言ってもスライムを見つけてスライムバスターという花火を飲み込ませて爆発させて倒すという簡単なお仕事だ、とはいってもここはダンジョンだ天井からスライムが落ちてきて纏わり付かれると厄介だが、雫斗が危険察知のスキルを使って気にかけているので危険はない。 

 ただ雫斗には、ひそかな野望が有った。ミーニャを故郷に返すという思いがだんだん強くなっていたのだ。 

 この世界にきて何事も無い様にふるまってはいても、たまに遠くを見ているミーニャを見ていると、故郷を思って哀愁に浸っている様に見えて雫斗にはいたたまれないのだ。 

 単に雫斗の思い過ごしだとはしても、何れはミーニャの居た世界との開口部を探し当てて、ミーニャを彼女の両親の元へと送り届ける事を模索し始めていたのだ。 

 その一環でミーニャの居た世界の事を聞いているのだが、如何せんミーニャは幼過ぎて自分の周りの事だけしか良く分からない様なのだ。 

 多少落胆しつつも雫斗は”まーどうにかなるだろうと”淡い期待を抱きつつ嬉々としてスライムを倒しているクルモとミーニャを見ていた。 

 割り当てられた3つの広間を2周してクルモとミーニャが50匹ずづのスライムを倒した後、接触収納の覚醒を促す。要は事前に売店で購入していた付箋紙をダンジョンカードに張り付けて一緒に消して収納のコツをつかんでいく事なのだが、当然の様に二人とも無事接触収納を使う事が出来る様になった。後は帰るだけなのだが、どうせならと帰る道すがらダンジョンの小石を使って収納を使った投擲の練習がしたいと二人にねだられたので、コツを伝授する。 

 「まずはイメージが大事だね、投擲する時は手に持った礫の、今はダンジョンの小石だけど、その位置が移動する距離と速さで礫のスピードが決まる。収納を使う時は投げる瞬間に収納から加速した礫の速さを加える事でかさ上げすることが出来る、後は練習あるのみだね」と言いながら軽く小石を投げて見せる。 

 軽く投げただけで、ありえないスピードでダンジョンの壁に当たる小石を見て、俄然張り切る二人だが、簡単そうに見えるがタイミングが難しく、かなりの鍛錬が必要なのだ。 

 ミーニャが握れるぐらいの小石を集める横でクルモも同じような小石を集めているのを見て、疑問に思う。接触収納は重量制限がある、自分の体重の約二倍なのだが、クルモを見ているとミーニャが拾っている同じ大きさの小石をいくつも収納していた。 

 「クルモ、かなりの小石を収納しているけれど、大丈夫なの?」クルモは雫斗の肩に乗るくらい小さいのだが、見ていると十個以上の小石をもうすでに収納しているクルモに驚愕していたのだ、同じゴーレム型アンドロイドの”ロボさん”も多少人よりは多いとはいえ体重の2倍程度は変わらなかったのだが、クルモはもうすでに自分の体重の5倍以上は収納している。 

 「はい、まだ入りそうです」と雫斗の心配をよそに集めまくるクルモ。ミーニャももうすでに体重分は集めているはずで、此れ以上はやばいと止めに入る雫斗。 

 「あまり入れすぎるとMPが枯渇するよ、収納に出し入れするごとに消費しているみたいなんだ」と忠告する。 

第24話(その4) 

 芳野 冬美と野島 京子が接触収納を取得した時に居合わせていた雫斗だが、限界までダンジョンの小石を収納させたことで、MPの枯渇を起こして二人が倒れたという苦い経験があるのだ。 

 「まだ行けそうですけど、此れ位にしておきますね」とミーニャが不満そうに言っていたが、どうやら獣人は身体能力だけでなく、MPの量も人よりは多そうだった。 

 問題はクルモだ。接触収納の収容量は体重の2倍程度だと思っていたが、どうやら違う事が判明した。もともとクルモもゴーレム型のアンドロイドとして義体を制作するのに通常の義体でもよかったのだが、如何せんベビーゴレムの魔核が小さすぎて、義体制作者の池田 隼人が俄然張り切ってしまった、何処まで小さくできるのかと。 

 その結果出来たのがクルモとモカの、小さいが普通のゴーレム型アンドロイドとそん色の無い知性を持つ個体なのだ。ロボさんや良子さんの元になった魔核の持ち主であるゴーレムの魔物は岩石で出来ている為、重量は本来人間の5~10倍はある、それを覚醒させてアンドロイドとして使役(言う事を聞くとは限らないが)して使うために義体という体を作ったのだが、本来あるべき姿とは別物に変わってしまった事が原因かもしれないと雫斗は思ったのだった。 

 移動しながら、投擲の練習をするミーニャとクルモ、壊滅的なのはミーニャだ、最近になって人化が出来る様になった事で、体格的には物を投げる事に支障はないとは言っても今まで投げた事が無いので、ぎこちない投げ方になるのは仕方がない。 

 どちらにしても投げて体に覚えさせないとどうしようも無いので、今は収納を使わずに普通に投げる事から始めている様だ。 

 クルモは雫斗の肩の上では投げづらいのか、ピョンピョン飛び跳ねながら移動して投擲の練習をしている。 

 構造的に投げるのは不得意な様で、初めは収納を使って投げていたが、どうしても投げるという感覚が分からず、取り敢えずそのまま普通に投げて見る事にした様だ。 

 体長20センチほどの蜘蛛が自分の四分の一ほどの小石を、短い前足で持ち上げているのはかなりシュールな光景だ。 

 普通の蜘蛛とは違い、前足が物をつかめる構造をして居るとはいえ、握るというにはクルモには大きすぎる小石を振り回して居る事に疑問を感じて雫斗が聞いてみる。 

 「クルモ、どうやってにぎっているの?」呼ばれたクルモが雫斗の手のひらに乗って来た。 

 「これですか?」とクルモがビヨ~ンビヨ~ンと小石をヨーヨーの様にぶら下げる。 

 「ああ~!、蜘蛛の糸で絡めているのか」。クルモが移動に使っている糸を小石に絡めて固定しているのだ、確かに小さな手では握るという行為は出来そうに無いのだが、自分でいろいろ考えて工夫しているのはいい事だ。 

 「糸が使えるのなら、こういう使い方も出来るよ」。と一本鞭を取り出して軽く振ると鞭の様にしなる、鞭なので当たり前なのだが。 

 軽く素振りをした後に、「見て居てね」と言うと二人が期待を込める視線を浴びながら気負うことなく軽く振る、降り抜いた鞭の先から物凄い勢いで飛び出した小石がダンジョンの壁に当たり砕け散る。 

 加減なくやると鞭から出た途端爆発して消えて無くなるので、かなり力をセーブして射なければいけないが、今回は上手くいったみたいだ。 

 それを見たクルモが糸を振り回すが、力なく揺れるだけで鞭の様にしなるわけでは無い、七節鞭を使う事の有る雫斗は原因を知っているのでアドバイスをする。 

 「先端の重さが足りないみたいだね、小さな小石でも括り付けると良いよ」。言われたクルモが糸の先端に小石を括り付けると、いい具合にしなりが出て降り抜く糸の勢いが増していく。 

 すると収納から飛び出して行く小石の勢いが増していくのだが。ふと視線を感じて振り向くとミーニャが物欲しそうに雫斗の持っている一本鞭を見ていた。 

 「使ってみる?」と差し出すと。「いいんですか!!」とミーニャが嬉々として受け取ると、鞭を振り回し始めた。 

 最初はぎこちなかった鞭の軌道が、回数を追うごとに様になって来る。どうやら鞭とミーニャの相性はいい様だ。 

 黒豹の精悍な顔立ちと、鞭を一心不乱に振り回す姿を見ていると、仮面舞踏会につける様な金キラのアイマスクをつけているご令嬢を思い浮かべてしまい、いつか何かに目覚めてしまいそうだが、ここは幼い雫斗とミーニャのことだから大丈夫だと思いたい。 

 ・・・・節にそう思う・・・。  

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