ダンジョンを探索すると、いろいろな事が分かるかも。
第1章 初級探索者編
第2話 (その1)
「はー やっと着いた」
さすがに疲れたのか千佳が両手を膝の上にの乗せてひと息をつく。
ここは村から一山超えた池のほとりにある、通称”沼ダンジョン”。 村の畑の耕作用の農業用水を貯めるために作られた、溜池のすぐ上の崖にいつの間にかできていた、村にある2つのダンジョンの内の1つだ。
何故ため池のほとりにあるのに”ぬま”なのかは謎だが、最初にそう呼ばれているので変えようが無いのだ。 村にある2つのダンジョンはどれも3層しかない、これは調査済みで3層しかないダンジョンは、初心者ダンジョンもしくは3層ダンジョンと呼ばれている。
ちなみに10層までのダンジョンは生産ダンジョンと呼ばれていて、それ以上のダンジョンは攻略ダンジョンと呼ばれている。 10層以上のダンジョンが攻略ダンジョンと呼ばれ由縁は、最下層に必ずダンジョンオーブと呼ばれる物が台座へと鎮座していて、そのダンジョンオーブを守る魔物が確認されているからだ。
その魔物を倒し、ダンジョンオーブを台座から持ち上げるか、使用するとそのダンジョンは一時的に機能を停止する。 全ての魔物がそのダンジョンから消え失せ、取得物も取れなくなることから、ダンジョン内に居た人達は帰還することになるが。
そしてそのダンジョンから出る事は出来ても、入り口が何か光の膜の様なもので覆われて中に入る事が出来なくなるのだ。その事からダンジョンの攻略が出来たと最初は思われていたのだが。 しかしダンジョンが消滅する訳ではなく、しばらくすると再構築されたダンジョンが復活するのだった。つまり今までの攻略情報が全く役に立たなくなるのだ。
ダンジョンオーブというのは力を秘めた不思議な物体で、使用すると不思議な事が起こった。力が強くなったり、素早さや器用さが増加したりと自分の身体能力が上ったり、外国の言葉が分かるようになる言語理解のスキルなど、様々な事が出来る様になったのだ。
ダンジョンの中であれ外であれ魔物を倒すと魔石と呼ばれる物と、たまに素材や魔核、スキルの書かれたスクロールなどがドロップするが、確率はそれ程良いわけでも無かった。
スキルスクロールも同じように不思議な事ができる様には成るが、大きな違いはスキルスクロールは技の単体で、比較的簡単に習得できるが、スキルオーブは体系的な技の総称であったり直接身体能力の強化に繋がったりした。
スキルオーブでの技の習得にはかなりの習熟が必要とされているが、汎用性はスキルスクロールと比べると比較に成らない。スキルオーブ一つで、スキルスクロールの20個分の価値があるという人までいるのだ。 しかし数々のスキルの内一番のインパクトは魔法だと言える、火の玉を飛ばしたり風を巻き上げたり地面を裂いたり盛り上げたり、嘘か本当か奇跡だとし思えない様な事が出来るようになったのだ。
なぜ魔法が使えたり体が強くなったり言葉が分かるようになったのか、その原因はダンジョンだとされている、Dカードを取得した時に何らかの体の変化が起こり、スキルや魔法が使える準備ができたのではないかといわれている。
ちなみに魔法の薬と言われている”毒消し薬”や”体力回復薬”、”気付け薬”などの薬系と、それから裂傷や病気を瞬時に治す”ポーション”などはDカードを持っていないと効果は半減する、つまりダンジョンの恩恵を受けるためには、Dカードの取得が絶対の条件だと言える。
オーブを取得するには最下層を攻略するほかに、5層や10層のボス部屋と呼ばれる怪しい空間に居る魔物か、階層を徘徊している階層主と呼ばれている強い魔物を倒しても手の入るのだがオーブの出現する確率が悪かった。
しかし10層以上のダンジョンを攻略するには余程の実力が無ければ出来ない為、3層から5層までの浅いダンジョンを専門とする初級探索者と、10層までの中層を探索する中級探索者、それ以上の深層を探索する上級探索者とすみ分けられていった。
10層までのダンジョンにはダンジョンオーブがない、つまり攻略? されることがないしダンジョンの再構築もない。 しかも1層2層は洞窟型で鉱石が産出される、3層の草原と森の複合型は食糧や木材、毛皮や織物など、その他諸々の生活に必要な物が取得できた、それ以上の4層から5階層はダンジョン毎に内容が変わり、諸々の取得物が変わって来る、それが生産ダンジョンと呼ばれるゆえんである。
沼ダンジョン以外のもう一つのダンジョンは、村の近くの畑のど真ん中に出来た、いくら最弱の魔物とはいえ危険なので、湧き出た魔物はすぐに討伐される事になる。 つまりDカードの取得にはダンジョンに入らなければいけなくなるのだ、いくら最弱のスライムとは言ってもダンジョンの中はでは何があるかわからない。
しかしこの沼ダンジョンは村から離れている事もあり放置しがちで、湧き出す魔物も結構な数がいる、湧きだした魔物はなぜか弱い部類の魔物が多く、同じ魔物でもダンジョン内と外では大きさや強さが変わって来る。ダンジョンの外にいる魔物の方が、Dカードの取得には打って付けなのだ。
ダンジョン内に限らず魔物は必ず魔核と呼ばれる物が体のどこかにある、その魔核を破壊すか動けなくなるまで傷つけると、光の様なものに還元されて消えていくことになる。 その後には魔晶石と呼ばれるものと、極たまに魔物が装備していた物がそのまま残ったり、剣技や魔妓などの技の書かれたスクロールやオーブ、それと牙や爪などの、その魔物の特徴的な部位などの素材が描かれたカードなどがドロップする。
その素材のデフォルトされた絵と素材の名前、あとドロップさせた魔物の名前が書かれたカードの使い方はしばらくは解らなかったが。とあるパーティーが検証と攻略を手探りで進めて、ようやく5階層のボスを倒したときある”石板”がドロップした。
”石板”には不思議な文字が書かれていて、初めてドロップさせたそのパーティーは何か貴重な情報が書かれているのではないかと思い秘匿しようとした。 しかし書かれている内容が分からないので、あれこれ伝手を頼って言語理解のオーブかスクロールを探しているうちに、他のパーティーが同じ”石板”を公開させてしまった。
結局最初に”石板”を公開させた人達は内容は分からなかったが、言語理解を取得した人たちが解読した結果、ダンジョンの攻略情報だったため最初に攻略情報を発見したパーティーとして登録され、大金を手に入れた。 ちなみにダンジョン攻略の情報の報告は早い者勝ちである。
大金をもらい損ねたその人達はのちに「欲をかくもんじゃない・・・あの時、公開していれば」と後悔したとされる、それからである攻略情報やダンジョンから出てくる石板は、いずれ公開されるのであれば、早めに公開した方が得をするとそういう風潮が出来上がっていった。
さてその”石板”だが今では数多くの石板が見つかって居る、その内容だが色々なダンジョンの攻略情報であった。 その階層で見つかる宝箱の中身の情報やドロップしたカードの実体化の仕方、たまに出現するマジックアイテムの使い方などなど、多彩な”石板”がドロップした。
ちなみにカードの実体化は割と簡単で、自分の魔力もしくは魔晶石の魔力を使う方法がある、ただカードを持って素材その物をイメージするだけ。 すると魔晶石もしくは自分の魔力とカードを消費して、カードに書かれた素材が実体化するのである。ただしそのカードの所有者しか実体化も譲渡も出来なかった。
第2話 (その2)
沼ダンジョンから少し離れた広場に集まった一行は、休憩と昼食を済ませると、小学4年生以上の生徒はスライムを倒してのDカードの取得、3年生以下の生徒は、魔物と遭遇した時の対処方法の学習に分かれていく。
雫斗たちは二手に分かれて池のほとりでスライムを探すことにした、雫斗と百花は女の子四4人、恭平と弥生は男の子3人を担当する事になった。
「さてスライムの倒し方は覚えたかな?」
百花が取得することになっている女の子達に聞く。
「はーい!、はーい!」
百花の妹の千佳が元気に手を上げる。
「はい千佳答えて」
百花が千佳を指さすと「水を掛けます」。と千佳が元気に答える、するとすかさず。
「ブッブー、違います!」と言ってダメ出しをする百花。
「えー違うの?」と言う千佳の抗議の声を無視して。
「だれかわかる人?」と他の子に聞いてみる百花。
中学一年の女の子の一人がおずおずと手を上げる。
「はい、すみれちゃん」
指名された園田 すみれが恥ずかしそうに答える。
「水を掛けて水たまりを作るんだと思います」
「はい正解。皆もよく覚えていてね、スライムは水を掛けても倒せないからね水たまりにつけるものだと覚えていてね。じゃー水溜りができないときはどうするのかなー、だれかわかる人!」
「えーあってるじゃん」
抗議の声を上げている妹を無視して、他の子に質問している百花。
妹に対してなかなかの塩対応である。 スライムの倒し方を聞いている百花に、おずおずと手を上げる女の子が自信なさげに小声で話す。
「タオルをかける?」
二人いるの中学一年女の子の、山下 かおりが答える。
「半分正解かなー、かおりちゃん。正解はびしょびしょに濡れたタオルをかけてしずーかに水を掛けてくの、そうしたら魔核が出てくるからその魔核を叩いて壊せばおしまい、簡単でしょう?」
百花が簡単そうに話すが、聞いた事をやってみるとなると一筋縄ではいかないのが現実で、話の中の魔物と実物の魔物では雲泥の差がある。 実物を見てさあ倒してごらんとなったとき、さすがに女の子たちはプチパニックになっていた。
プニョッ、プニョッと動く丸い物体に。
「きゃ~~気もち悪い~~」と、しり込みし。
ズリッズリッと近ずいてくる芋虫のような動きのスライムに。
「ちかづいてくる~~」と、後ずさりし。
微動だにしない物置の様なスライムと睨めっこをしていた女の子が。
「なんか、目が合った~~」と訳の分からないことを言い放ち。
水を掛けるという簡単なことができないでいる。 それでも手助けできない為。
「大丈夫だよぶにょぶにょしているだけだから」と慰め。
「ゆっくり、ゆっくりだから。襲い掛からないからよく見て」と助言して。
「目はない!目はない!スライムには目はないから」と諭して。
何とか全員が無事スライムを倒して、Dカードを取得することができた。
最後に全員が集まって帰る準備をする、点呼も終わり最後に引率の先生が話をする。
「全員揃いましたね。それでは帰る前におさらいです、皆さんが倒したスライムや蝙蝠、ネズミなどは、ダンジョンの外では何もしなければ近づいてきません、村の中ではないと思いますが見つけても近づかないように、すぐに大人の人に知らせてください。決して自分たちで倒そうなどと考えない様に。それでは皆さん怪我の無いように帰りましょう」
今日の遠足の目的の一つにDカードの取得があるが、本当の目的は年少の子たちに遠目ではあるが、魔物と魔物を倒しているところを見せるというのがある。見ると聞くとでは大きな違いがあることは実際に去年の終わりに雫斗たちが体験している。
引率してくれる探索者協会の職員がいるとはいえ、いきなりダンジョンの2階層でケイブバットとケイブラットを倒せとは、中学1年には荷が勝ちすぎた。取り敢えず一人一匹ずつという最初の予定は予定でしかなく、いきなり十匹程のケイブバットとケイブラットに襲われた。 パニックた4人は「落ち着きなさい」と言う職員の声をBGMに、全員で戦うという愚策に出た。
要は目の前に来たケイブバットを持っている”木の棒”で叩き落としたり、ケイブラットを蹴り飛ばしたり踏みつけるだけなのだが、当然連携など出来るわけもなく、でたらめに振り回す仲間たちの木の棒を避けながら、襲ってくるケイブバットやケイブラットを倒すことになった。
雫斗が最後に覚えているのは、渾身の力で振り下ろす百花の木の棒を、ひらりとかわすケイブバットと、自分の頭に落ちてくる木の棒で、なぜかコマ送りで近づいて来る棒の先端を見ながら衝撃とともに意識を手放した。
気が付いたのは村のダンジョンに隣接した建物の医務室だ、大きなたんこぶの上に冷やしたタオルを乗せて「ごめんね~^^」とウソ泣きしながらしがみついて謝る百花と、後で笑いをかみ殺しているその他その面々。
はいはい分かりました。結局ダンジョンで大きなたんこぶをこさえて気を失ったのは雫斗だけで、他はちょっとした擦り傷と打ち身で済んだらしい。
しかしダンジョンに入る前に、しなりのある木の棒では魔物は倒せないと百花が木刀を主張していたのを、ケイブバットではオーバーキルだからと説得した職員に感謝だよね。 木刀だと今頃お墓の中だったかもしれない。取り敢えずDカードは全員取得できたけど、雫斗はしばらくダンジョンの2階層に軽いトラウマを抱えることになる。
ダンジョンの魔物は中と外では性質が異なる。中では弱い魔物でも人に対して鬼の様に襲ってくるが、ダンジョンの外では身の危険に敏感になる。 ケイブバットやケイブラットは夜だけ活動するようになるし、スライムなど動きの遅い魔物は隠れる様になり、人を避けているようにも見える。 しかしダンジョンから離れることは無く、その近くで生息しているのだ、何か法則でもあるのかもしれない。
雫斗は下級生にせがまれて、嬉しそうにDカードを出し入れしている子たちを、何気なく見ていたが、”そういえばこれも不思議の一つなんだよな~” と自分のカードを手に出して改めてみて見る、するといきなり背中に衝撃を受けて転びそうになる。
「何ぼんやり歩いているのよ!!、転ぶわよ」
悪びれないセリフを吐きながら百花が背中をどついてくる、女の子離れしたバカ力に耐えて何とか転倒を免れた雫斗がジト目を百花に向けると。
「何よ!」と警戒する百花。
今ここで『今どついたから、転びそうになったんだよ~』とすごく言いたい、言いたいがここは我慢だ、言えば口喧嘩になる口喧嘩で勝てないのは分かっているので戦略的撤退だ。
「僕らの時は大変だったなーと思って」
雫斗がカードを見せながら話すと、さすがに気まずいのか。
「なっ何よ!!ちゃんと謝ったじゃない。たんこぶの分は誤ったわよ」とのたまう、(たんこぶは、余計じゃ~)。
くすくす笑いながら弥生が助け舟を出す。
「百花ちゃんも必死だったもんね~、泣いているのか笑いを堪えているのかわからない肩の震え方だったけどね~」
と笑いながら、弥生がからかうと。
「裏切り者~~、違うのよ誠心誠意謝ったのよ、ほんとよ。でもねたんこぶを見ちゃうとね、なぜか肩が震えるのよ^^」
こいつ、笑っているのを白状しやがった。
「はいはい分かりました、いや分かっていました、僕の存在なんてそんなもんだったんだね」
雫斗が拗ねて言うと。
「いや~ね~。そんなんじゃないわよ額が割れて血がどばーとなったらさすがに慌てるけど、プププたんこぶじゃ~ね~^^」
開きなおって鼻で笑う百花。
「うるさいやい、血がどばーってなったら傷が残るかもしれないじゃか?」
冗談じゃないと雫斗。
「あら男の子が顔の傷の一つや二つ気にするもんじゃないわ、笑われるわよ」
さも当然と百花。
「なんてことを言うんだ、人の顔を傷ものにするつもりか」
と憤慨する雫斗、そんな漫才を始めた二人を生暖かい目で見る弥生。
「ところで明日の講習、みんなはどうするんだい?」
突然天から声が、降りてくる。・・・ぎょっとして三人で声の主を見上げる。そうだった、こいつがいた。
立花恭平 1メートル80を超える長身で筋肉質、存在感はあるが滅多に喋らない為、居る事自体が自然な、空気の様な安心感のある存在。
「わ、私は行くわよ資格を取っていて損はないし、雫斗は?」
百花が当然だと答える。
「僕も行くよ、明日の講習を逃せば三か月後になっちゃうからね」
そう雫斗が話すと。
「私も行く」と弥生が答える。
「それじゃー全員行くとして、集合場所はヘリポートで朝の7時集合でいいかな?」
恭平が時間と場所を聞いてくる。
「そうねそれでいいわ、それにしても不便よねこの村、資格を取るのにも買い物をするのにも、町まで出かけなきゃいけないなんて面倒だわ」
百花が不満げにいつぶやくと。
「仕方ないさ政府はこんな過疎っている村に、税金をつぎ込むだけ無駄だと思っているのさ、まーヘリドローンを飛ばしてくれるだけでもよしとしなきゃ」
恭平が肩を竦めてそう言う。
この村は愛知県の県庁所在地である名古屋市からの距離はそれほど遠くはないが、間に山々が連なっているため陸路では往復に6時間程かかる、その解決策としてヘリコプターとドローンの合いの子みたいなヘリドローンがヘリポートとともに整備されることとなった。
自動運転の発達とともに空を飛ぶドローンの自動化も進んでいく。その進化とともに、重い荷物は陸上輸送、人の移動と軽い荷物はヘリポートからヘリホートへのヘリドローンによる航空輸送とすみ分けられていたったのだ。
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