ダンジョンを探索すると、いろいろな事が分かるかも。
第1章 初級探索者編
第18話(その1)
”パチパチパチ”。弥生はそのパフォーマンスを見て受けたようで、素直に拍手をしているが、桃花と恭平はあんぐりと口を開けて呆けている。我に返った二人が詰め寄って来た。
「今のどうやったの?」と百花が聞くと。
「何だ今の?保管倉庫と収納がつながっているのかい」と恭平が驚く。
雫斗にしても、簡単に出来た訳ではない昨晩自分の部屋で勉強が終わった後、当然保管倉庫の検証をしたのだ。入る量を調べるのは無理なので、何が出来て、何が出来ないのかを検証したのだが、収納に入っている物は重量が有るので、夜にゴソゴソ音を立てるのは不味いと思って、何かないか見回すと机の上で鎮座している2体のパペットの縫いぐるみが目に入った。
香澄をあやすために買ってきた、手にスポッと嵌めて使う手人形だ、両手を使ってコントめいたことをして香澄を喜ばせていたが、最近出番が無くなってきていた。
その1体を使って、初めは収納できる距離はどの位か見るために部屋の端から端で試してみたが、収納することが出来た距離にして4メートル程。これ以上はここでは無理なので、保管倉庫に収納できる条件を考えた。見えていると当然収納できる、では見てなければどうか?。もう一体のパペットに背を向けて収納・・・出来た、今度は見えない様にベッドの上に出して掛け布団を掛けた、収納・・・出来ない?存在は分かる掛け布団が盛り上がっているのだから、でも収納できなかった。
つまり見えている範囲で収納できるが、完全に隠れていると収納できないという事が分かった。後は保管倉庫と接触収納の連携が出来るかだ、
結論から言うと出来ました、ただイメージが結構しづらい、そこで縫いぐるみを使って出し入れを練習する。倉庫から収納へ。収納から倉庫。倉庫から空中へと出して受け止めて壁に向かって投げつける、ぶつかる寸前に倉庫へ格納して手に出す。最初はゆっくりと出し入れしていた雫斗だが、興に乗ってきた雫斗はけん玉を鞭代わりに使って動き回りながら収納、倉庫と出し入れの練習を始めた。
いくら縫いぐるみを使っているとはいえ、激しい動きをしているので階下に響いてしまう。当然様子を見に来た両親に怒られることになる、正座をさせられてしばらくお説教を食らった雫斗だが、保管倉庫と接触収納との連携した攻撃の可能性に手ごたえを感じていたのだった。
詰め寄られた雫斗は倉庫と接触収納の連携で出来る事を話すと、恭平が試してみる。しかし四人の中で一番不器用な恭平が蒼ざめている、未だにイメージの中で保管倉庫との連携が出来ていない様だ。
「恭平の場合は錫杖を使ってみたらどうかな?使い慣れているからイメージしやすいでしょう?」見かねた雫斗がアドバイスをする。
「分かったやってみるよ」。
言われた恭平は少し考えて錫杖を出したり入れたりを繰り返しているが、どうも接触収納のイメージが強すぎる様だ。
「手に持った錫杖を保管倉庫に入れてみて」雫斗に言われてやってみる恭平。
恭平も必死だ雫斗のアドバイスを素直に真剣な表情で行っている、暫くして。
「うん、出来る」と恭平が言う。
何も難しい事ではない、接触収納にしろ保管倉庫にしろ、恭平は使う事が出来るのだ、後は手に持ったものを接触収納ではなく保管倉庫へと入れる事を条件付ければ良いだけなのだ。
「後は交互に保管倉庫と接触収納に入れながら、出来るだけ高速で出し入れするんだ」。
最初はぎこちない出し入れだったが、慣れてきたのか錫杖を高速で出しては消すのを繰り返していた恭平が途中で「あっ!!」と言って固まる。そして”ニタ~”と笑いながら集中している,どうやらイメージの中で保管倉庫と接触収納との間で、出し入れが出来たみたいだ。
「出来た?」雫斗が聞くと。
「うん、出来た!」と恭平が嬉しそうに言う。
未だ保管倉庫を習得できていていない百花と弥生が苛立ち始めたので此処で解散して各自でスライム討伐に行くことにする。
「スライムの討伐する範囲を決めようか?、重なると効率が落ちるしね」昨夜プリントしてきた紙をそれぞれに渡すと。
「其処に書いてあるエリアを決めてね」と雫斗が言う。
その紙には一階層の地図が書かれていて、全部で24ヶ所のエリアごとに色別に囲われていた、そのエリアは雫斗がスライを倒してきた経験から効率よく回れるルートになっている。一つの広間のスライムをすべて倒した後、いくつかの広間を回った後に戻ってきたときにリポップしている計算になる様に調整したものだ。ルートも矢印で書き込まれている雫斗自慢に逸品である。
「エリア別にルートが書かれているのね。何故24ヵ所に分かれているの?」と百花が疑問を口にする。
「そのエリアは最低この位の感覚で回るとスライムがリポップする時間になるんだ、24ケ所になったのは偶然だけど4パーティで回れるからいいんじゃないかな?」と雫斗が言う。
カードで認識できるパーティの最高人数は6人だ。だけど3層ダンジョンの一階層でこの広さであるが、深層ダンジョンの1階層も大きいとはいえ、大きさに大差はないのだ。
スライムを効率よく倒さなければ、一万匹のスライムを討伐するのに何日掛かる事やら見当もつかない。これは鑑定のスキルの取得条件をむやみに発表すればパニックは避けられない事に成りそうだ、雫斗は朧気ながらそのことを感じていた。
各自エリアを決めて歩きだす、スライムを倒すのは一人の方が効率がいいのだ、ただパーティは組んでおく、ダンジョンの中では何が有るか分からないからだ。雫斗は自分の担当するエリア着くと軽いストレッチを始めた、皆にスキルのレクチャーをしていたので体が凝り固まっていたのだ。
体が温まると”さぁーやるか”とスライムめがけてトオルハンマーを振りかぶる。そこで、ハッと気が付いた、そう言えばカードでの検証スキルのランクアップを試すのだった。
カード越しに対象を見て検証するのだけれど、妙に使い勝手が悪い。直に見て検証できないか試してみようと思いついたのだ。トオルハンマーを収納して代わりにカードを持つ、スライムをカード越しに見て検証。”うん普通~のスライムだ”スライムのデーターがカードに浮かび上がる、すかさずカードを下げてスライムを見る。
代り映えしない何時ものスライムの御姿、他に変わった処などない、カード越しに見る、カードにスライムのデーターが浮かび上がる。
暫くカード越しに見たり直に見たりを繰り返すが、変化はない。雫斗自身いきなりランクアップするとは思っていない、多分魔物の討伐回数でレベルが上がるはずだと思ってはいるが、如何せん実例が無い、どっちにしても手探りで試していかないと分からないのだ。何故スライムの検証を繰り返しているかと言うと、毒耐性の例があるように、使った回数によってレベルが上がるかも知れないと思ったからだ。
しかし一個体に対して鑑定が一回だけが有効なら、今雫斗がやっている事は全くの無駄となる、だけどやってみないと始まらないと割り切っている雫斗だった。
スライムを直に見たりカード越しに見たりを数回繰り返して倒す。それを延々繰り返すと、効率は落ちるし精神的に疲れてくる、二つの広間を討伐し終えると疲れて岩に腰を下ろした、当然ベビーゴーレムではない事は確認済みだ。
手を後ろに付き天井を見上げてため息をつく、高い天井だ一般にダンジョンの一階層は洞窟型が多いが真っ暗で見えないと言う事は無い、ほのかに明るい鉱石があちら此方に散りばめられていて、慣れてくると全く問題なく動けるようになる。
「そういえば、百花が変な事を言っていたな」と雫斗が独り言を言う、スライムが天井からポタリ、ポタリと落ちてくると百花が言っていたことを思い出したのだ。雫斗はスライムが天井に張り付いて居ないか見回す、すると視界の隅を何かかよぎった。
その付近を見ると何もいない、”おかしいな~”と思いながらまたスライムを探す、また視界の隅に何かがいる。そこを注視しても見つからない。
その付近にカードをかざして見る、姿は見えないが情報がカードに浮かび上がる”カメレオン・サラマンダー”、固有スキル≪レインボウ迷彩≫≪火魔法≫。
第18話(その2)
「えっ、魔物がいるのか?カメレオン・サラマンダー?」雫斗はブツブツと文句を言う、かなりストレスをため込んでいる様だ。
「カメレオンなのに?サラマンダー・・・?どっちなんだい、レインボウ迷彩?何だこのスキル、光学迷彩じゃないんかい。うっわ火魔法迄持っている」
魔物がいると認識すると気配察知のスキルが仕事を始める、なんとなくそこに何かがいると分かるようになってきた。
カード越しにぼんやりとトカゲ?いや山椒魚の様な輪郭が見えてきた、認識された事を感じたカメレオン・サラマンダーはそろそろと動き出す、カードの視線から外れると途端に位置が分からなくなる。
「クッソ、なんて魔物だ」雫斗は慌てて逃げたカメレオン・サラマンダーを探し始める、攻撃されたことが無いとはいえ魔物には違いないのだ。集中して探す雫斗、カードの鑑定も併用して探すが裸眼とカード越しでは焦点距離が違うためうまくいかな。
火魔法も持っている為、遠距離からの攻撃も警戒しなければいけない、焦りでイラついてくるのを自覚した雫斗は、一旦この広間を出ることにした。
通路を歩きながらも周に最大級の警戒を向ける、つまり無意識に気配察知とカード鑑定のスキルを最大限に活用しながら移動をしているのだ。
最初の広間に戻って来た雫斗は取り合えす落ち着きを取り戻した、一階層で火魔法で攻撃された事が今まで無い事が気持ちに余裕が出来た要因だ。
取り敢えず周りにいるスライムを駆除しようと対象を見ようとした時、なんとなくスライム情報が分かった気がした。気のせいかと思って集中してみる、じ~と見ているとやはり認識できる、集中が途切れると四散しがちになる情報を何とか繋ぎ止めていく。
情報の断片がふらふらと漂いながら形になりそうで崩れる、それを何とか引き戻すのを繰り返すうちある時、”ガァッチ”とかみ合った。
「おおおお~~」思わず雫斗は歓声を上げた。スライムの情報がカード越しに見なくても認識できるのだ、別のスライムを試してみると情報が分かる。
慌てて自分のスキルを確認するといつの間にか”魔物鑑定Ⅰ”が追加されていた、気配察知とカード鑑定を併用した結果ではあるのだが、雫斗自身どうして魔物鑑定のスキルを取得できたのかは分かって居なかった。
小躍りして喜びそうになるのを抑えてダンジョンに落ちている小石を見るが、認識できない、いや見る事は出来るが情報が出てこない、魔物鑑定とスキルに表示されている通り魔物限定なのだろう。取り敢えず魔物の情報が見ただけで認識できるのだ、此れは雫斗にとって、いや探索者にとっても大きな収穫になりそうだった。
問題はカメレオン・サラマンダーだ、二匹の魔物が合わさった様な、キメラみたいな名前の魔物に対して何か対策を講じなければ倒すことが出来ない。そのことを考えながら此処には居ないだろうな?と思わず天井を仰ぎ見る。すると鑑定と競合した気配察知が最大限の仕事をする、何かいそうな気配のする一点を見つめるとカメレオンサ・ラマンダーの情報が認識される。
「げっ、居るのか?」
目を凝らして見ると何となく輪郭が分かってくるから不思議ではあるが、問題はどうやって倒すか?認識らされた事を察知したカメレオン・サラマンダーがコソコソと動き出すが、今度は見失う事がない。
取り敢えず礫を使ってみる(飛び道具はこれしか無い)、短鞭を収納から取り出し礫を投擲する、カメレオン・サラマンダーは器用にか身をくねらせて礫を躱すと、ギロっと飛び出た大きな目を雫斗に向けた。
視線を向けられた雫斗は、背中にゾックと寒気が来る嫌な予感というやつだ。その刹那、火の玉が雫斗に向かってくる、慌てて避ける雫斗、しかし二発、三発と打ち出すカメレオン・サラマンダー。
パニックになり掛けるが、火の玉を避けて居る事で冷静になってくる、”何だ、遅いじゃん。これなら避けられる”その事が余裕を生み冷静になってくる。
避けながら観察していた雫斗はある程度カメレオン・サラマンダーの攻撃パターンが分かってきた、動きが止まると数発の火の玉を打ち出す、それから動き出している。しかも移動するパターンが同じなのだ、時計回りに3刻きざみで移動している。つまり4回の火の玉での攻撃で元の場所に戻って来る。
それが分かると、何故かカメレオン・サラマンダーが気の毒になってきた、しかし此処はダンジョンで今は魔物と戦っているのだ。
カメレオン。・サラマンダーが移動した予測位置に、今度は散弾のコインを数枚まとめて投擲する。手傷を負わせる事が出来たようで“ギェ〜”と叫び声をあげながらカメレオン・サラマンダーが背中から落ちてきた、背中を打ち付けてひっくり返ってもがいているカメレオン・サラマンダーに、素早く近づきトオルハンマーで頭に一撃。
終わってみれば、余裕の勝利であった。光に還元されていくカメレオン・サラマンダーを見つめながら溜め息をつく。
残された戦利品は、魔石とスキルスクロールのカードとポーションのカードがドロップした。一階層では破格の落とし物だ、特に一階層でスキルスクロールがドロップするなんてダンジョンが出来た当初の記事でしかみた記憶がない。
もしかすると、最初に倒したボーナス的なポイントが有るのかもしれない、カードのログで見ても討伐した記録だけで他には何も書かれていなかった。
何のスキルスクロールかな?と見てみると、案の定"ファイヤーボール"だった、割と定番の魔法のスキルスクロールで中層ではよくドロップする。しかし魔法系に限らずスキルオーブは取得しても技を習得するのに時間と努力とセンスが必要なのに対して、簡単に技を使えるようになるスキルスクロールは人気のドロップ品だ、此れは高く売れるかな?と雫斗は売る気満々である、自分で使わないのか?と疑問に思うかも知れないが、魔物を倒すと固有スキルが手に入る事が分かった事と、雫斗のお爺さんである武那方 敏郎の影響が大きい。
敏郎爺さんが言うには、スキルを使った剣技は躱しやすいと言うのだ。始点と終点が同じ軌道を描くスキルの斬撃はどんなに早くても見切る事が出来る。いや予測がつく、もし使うなら予測されない工夫をするかフェイントを使う。もしくは斬撃自体の軌道を変えるかしなければ使えないとの事だ。
つまり鍛錬をして身につけなければ意味がないと言うのだ。どのみち鍛錬するなら技の単体のスクロールより体系を覚えられる剣技や魔法のオーブの方が後々お得だと考えているのだ。うまくいけば自分のオリジナルの剣技や魔法が使えるかもしれないのだから。
カメレオン・サラマンダーの倒し方を確立したことで最初のカメレオン・サラマンダーを倒しに行く、当然途中のスライムを倒しながら行くが、ついでに壁や小石、天井に注意を向ける。雫斗は”ダンジョンの壁”や”ダンジョンの小石” などのカードに表示される認識と直接見て認識されない情報のギャップが気になるようだ、その様子がカードをスマートホンに見立てて周りを撮影している変な人になっているが、誰も見ていないので良しとする事にした。そんな見方によっては奇妙な事をしながら進むと、おかしな壁が目に入った、一見普通の壁だがカード越しに見ると”ダンジョンの壁。何か変だ”の表示に戸惑う雫斗。ペタペタ触ってみても変な所は無い、暫く考えた雫斗はハンマーで殴ってみることにした。
第18話(その3)
別にダンジョンの壁は壊せない訳ではない、ただ壊しても暫くすると元に戻るだけだ。それが不破壊属性と言われている所以ではある、ある採掘を専門にしている探索者が洞窟の広間と広間をつないでみようと考えた。つまり近道を作ることを思いついたのだ、採掘場所から採掘場所までの時間短縮のつもりだったのだが、思わぬ無駄骨に終わった。
仲間を募り測量した結果、隣の広間迄約5メートル。その壁を壊し始めた、仲間と削岩機で掘り進めて数時間後、5メートルを掘ってもつながらない。意地になってもう5メートル掘ったがつながる気配がない、不審に思った仲間たちと繋がる予定の広間に向かう、その広間の壁には傷一つない、不思議に思いながらも元の掘り進めた場所に戻ると壁が元の状態に戻っていたのだ。その探索者は落胆しながらも、協会へと此の事を報告して報奨金をゲットしたのだった。
ハンマーの様な武器は、穴を掘る道具では無い、しかし今日はたまたま採掘で使うツルハシを持ってきていない。仕方がないのでハンマーで殴る、「グヮシン」。おかしな手応えがある、”もう一回”「グヮシン」壁にひびが入る、何かあると確信した雫斗は勢いづく。
「グヮシン」「グヮシン」「グワガラララ」最後はものすごい音を立てて壁が崩れ落ちた。土煙が晴れると壁の向こうに通路が伸びていた。
「隠し通路か?」
雫斗は驚きを隠しきれずにいた、この5年間1階層で隠し通路なんて聞いたことがない、罠の匂いがプンプンするが、好奇心を抑えきれずに足を踏み出していた。 しばらく歩くと重厚なドアの有る部屋へ出た、何か文字らしき文様が浮かんでは消えを繰り返している。
「どうしよう?やばそうなドアの前まで来てしまった。・・・そのまま帰るか?」
緊張してまるで誰かに相談するように声に出して独り言を言う、だけどそのドアは取っても無いどうやって開けるのかも分からない、探索者心をくすぐるドアなのだ。
気が付くと雫斗はドアの前に立っていた、そして浮かんでは消える文字を眺めていたのだその文字に興味をひかれた瞬間、天地が逆転した。落ちている様な浮かんでいる様な不思議な感覚の中、一瞬でもとに戻る、上下感覚は戻ったが目の前のドアが消えて広い空間が目の前に広がっていた。
見慣れない広間に怖気づいて後ずさると何かにぶつかった、振り向くと先ほど目の前にあったドアが鎮座している、その表面には先ほどと違って一つの文字列が浮かび上がっていた。それを何気なく眺めているとまた天地が逆転して、今度は通路が目の前にある。驚いて振り返るとさっきのドアが悠然と其処にたたずんでいる。雫斗はようやく理解したそのドアはワープゲートを兼ねているのだ、消えては浮かぶ文字の様なものは読めないから分からないが、もしかしたら行き先が変わるのかもしれない。
一応帰って来られたので、気持ちが大きくなって今度は違う文字の時にドアの前に立つ。一瞬の浮遊感の後、目の前にさっきとは違う小じんまりとした空間があった、その中央付近に箱の様なものが鎮座している。
「何だ?宝箱か?」
雫斗は半信半疑で警戒しながら近ずいていく、宝箱は10層以降のボス部屋以外では見つかっていない。「罠か?」雫斗は最大限、気を付けながら蓋を開けた。
そこにはスキルオーブと、2つのスキルスクロール、そして革製の豪勢な装飾が施された本が収められていた、おっかなびっくりしながら蓋を開けた雫斗は苦笑いしながら、宝箱から品物を取り出す。
スキルオーブは"異言語習得"となっていた、2つのスキルスクロールも"異言語習得(1)"だった。多分違いはスキルオーブが全ての言語を習得出来るのに対して、スキルスクロールは一つの言語を習得する事が出来るのかも知れない1の数字がそれを物語っていた。で、本命の豪勢な表紙の分厚い本だが、読めませんでした。まー表紙に書かれた文字を見て予想はしていたが、見たこともない文字の列にこれは読めないと諦めた。しかし完全敗北したわけでは無い、雫斗はスキルオーブを使う気満々である。
使い方はオーブを使用した事の有る人のブログに載っていた、要はそのスキルを自分に取り込むことを考える(願う?)だけである。それだけしか書かれていない為詳しい事は分からないが、今は試してみるだけだ。
オーブを両手に持ち厳かに掲げる雫斗、いちいち芝居じみた事をしないと気が済まないらしい(中二だから)。「さぁ~~、我を受け入れ、我の糧となり、我の力と成るがよい。共に困難を打倒すべし」と何処かの魔王が言いそうな台詞を宣う、ちなみに雫斗は誰も見ていないと思っているから、この様な事をして居る訳で、もし入り口で百花辺りが隠れて見て居たら赤面物である。部屋に閉じこもって出て来られなくなるほどの行いなのだが、そこは過ちを恐れない若さだと言える。
厳かに台詞を放ちスキルを取り込もうとした雫斗だったが、”使用する。YES・NO”と頭の中で事務的に響いてくる言葉に「ふぇ?」と呆けた声を出す。戸惑いながら何が起こったのか考えているともう一度、”使用する。YES・NO”と頭の中で声がする「えええええ~?、スキルオーブって意思疎通ができるの?・・・今日はオーブさん、おかっげんはいかかげすか?」とパニックになって見当違いのことを言う、若干ろれつが可笑しくなってはいるが、それは仕方が無かろう。
”使用する。YES・NO”。三回目ともなると切れている様に聞こえるのは気のせいかも知れないが、ようやく雫斗は使用するかしないかの確認の意味だと気が付いた「使います、使います。YESです」と慌てて言うと。「パリン」と小気味いい音と共に弾けたオーブはその破片がスローモションの様に漂いながら光の粒へと変わって行き、雫斗の体に纏わりだし静かに雫斗の中へと入って行った。
スキルを取り込んだ雫斗は戸惑っていた、呆気ないほど簡単で自分自身に変化が見られなかったのだ、本当に使える様になったのか不安になった雫斗はカードで自分を鑑定して確かめた。確かに”異言語習得”のスキルが書かれていた、良しこれで読めると勢い込んで本の表紙を見る。・・・・読めません・・・。落胆して何故だと考えながらも、あきらめきれずに何度も表紙の文字をなぞって意味を掴もうと努力すると、その文字が意味のある形と成って理解できるようになる。
「EITINOSYO」・・・「えいちのしょ?」。【叡智の書】、「叡智の書おぉぉ?」何か凄い本を手に入れたと喜び勇んだその時、雫斗の足元で魔方陣が浮かび上がる。やはり罠だったのかと恐怖に硬直していると、浮遊感と共に見慣れた通路へと移動していた。
辺りを見回して、此処が隠し通路を見つけたダンジョンの壁だと確認すると「くそ~~、何気に高性能なシステムじゃないか。事が終われば排泄物扱いかよ」先ほどの恐怖で引きつった顔で強気な言葉を言う。水で流され無かっただけましかと思い直して、手に入れた【叡智の書】を見つめる。中を確かめてみたいがここで見る訳にはいかな、ダンジョンの中だと言い聞かせて修復された壁を見る。
普通のダンジョンの壁へと戻った隠し通路の壁を見つめて”隠し通路は他にもあるのか?もしかしてこれで打ち止め?”。と此れからやらなければいけない事が多すぎて目眩がしそうになるが、【叡智の書】で此れからのダンジョン攻略が進んでいく事に期待を寄せる雫斗だった。
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