第16話  スライムはスライムでしかなく、やはりスライムなのか?  

ダンジョンを探索すると、いろいろな事が分かるかも。

第1章  初級探索者編

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第16話(その1)

 数日後、雫斗は無事”トオルハンマー”を手にする事が出来た。元の大ハンマーからはだいぶ様変わりしていてほとんど作り直されていた、値段もそこそこしたが無事支払う事が出来た。 

 なぜ支払う事が出来たかというと、ダンジョンカードの収納機能を発見した事への報奨金が振り込まれて居た為だ、しかもかなりの大金が振り込まれていたことで、此れで良いのかと気持ち的にかなり引いてしまったが、しかし収納を使ってのパフォーマンスの分は含まれて居ないらしく、まだまだ増えそうだと恐ろしい事を悠美母さんから聞かされた。 

 ”チームSDS”の他のメンバーにしても報奨金の多さにかなり驚愕していたが、一人だけ素直に「これで刀を打ってもらえる」と喜んでいた。百花がせっせっと金策に励んでいたのは武器の調達資金のためだった、これで少しは落ち着くかと思ったが、いつにも増してダンジョンでの鍛錬と魔物の討伐に励み始めた。 

 雫斗は相変わらずスライムの討伐に余念がない、最近では時間の許す限り倒していた。新調したトオルハンマーの使い勝手はすこぶる良い、中間の重りの移動でハンマーヘッドの威力の加減が出来るのが斬新ではあるが、今までよりも倍の威力に感じる。 
 
 変わった事といえば、Dカードの収納の、覚醒の事が探索者協会の発表前に週刊誌にばれた。誰かからのタレコミらしいのだ。探索者協会の職員なのか、ダンジョン庁の上役なのかは分からないが、かなりの騒ぎとなった。 

 当然発見者は誰か?とマスコミの連日の情報開示の要求に、未成年であることを理由に隠し通した、したがって雑賀村はいたって平和である。しかし世間では混乱が生じた、”スライムバスタ”の制作が間に合わず協会は苦し紛れに、本来は数日懸けて徐々に力をつけていき、それからスライムを50匹倒すのが本来のやり方だと、ハンマーなどの鈍器でのスライム討伐を奨励した。 
 
 自力のある深層を探索している人たちが、いとも簡単にスライムを倒してダンジョンカードの収納を開放するのを見て、それなら自分たちもと挑戦する人が増えて、事なきを得たが、暫く雫斗は発見者としてハラハラする日を送っていたのだった。 
 
 もう一つ起こったことは、スライムを倒す花火を、ほかの製作所数社が製造に名乗りを上げたのだ。色々なネーミングが乱立しそうになったので協会が規制を掛けた。最初の花火製作所を入れて5社に限定したのには訳がある。収納を覚醒させると探索者はスライムを倒すことが無くなると協会が予測した為だ、いくら倒してもうまみの無いスライムを倒し続ける探索者は確かにいなさそうだった。 
  
 雫斗達にしても、花火は使わずに収納の攻撃力で倒しているのだから、その収納を使った投擲や打撃が広まると、花火を使う必要が無くなる。ただ最初の会社との商標権の書類と同じものに名前を書くとき、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。需要は有るけれどそれほど必要でもないものを作らなければいけないとは、気の毒に思えたのだ。 
 
 今雫斗達はホームダンジョンを沼ダンジョンに変えている、無いとは思うが週刊誌の記者の無茶な取材を避けるためと、村の人達からうるさいから鍛錬ならほかでやりなさいと釘を刺されたからだ。確かに採集している人達からしたら、近くで岩や壁に大きな音で物を投げているのは迷惑でしかないだろう。 

 今日も雫斗達は沼ダンジョンへと来ていた、入ダン手続きは村のダンジョン前受付で行う。それからここ迄走って来るのだ、準備運動には丁度いいランニングになった。沼ダンジョンも村のダンジョンと同じで入り口にゲートが有る、違いが有るとしたらゲートの中に緊急用の連絡装置が有るくらいだ。 

 ダンジョンに入ると弥生が雫斗に聞いてきた。

 「またスライムを倒しに行くの?」

 最近では百花も雫斗を3階層に誘わなくなっていた。 

 「もうすぐ10万匹の大台に乗るんだ、ここまで来たらとことん調べたいじゃないか?」

 当然だと雫斗が言うと。 

 「そうね、雫斗がやりたい事をしたらいいわ、でもスライムはやっぱラスライムでしかないと思うわよ」

 と鼻で笑いながら百花が呆れたように言う。 

 「分かっているよ何もなければ適当に切り上げるから」と雫斗は何とか気持ちを奮い立たせてそう言うと。

 ”雫斗って結構頑固よね~”と言いながら百花達はそのまま、2階層へ降りる為の階段に向かって歩いて行った。 
 
 皆と別れた雫斗自身は思い悩んでいた、今までスライムを倒し続けてきて何のリアクションも無いのだ、最初は何かのスライムの属性スキルとかが、発現するかも知れないと思っていていたのだが何もないのだ。確かに誰もスライムだけの討伐をする人がいないわけだ。 

 此の4カ月弱スライムだけを倒し続けて分かった事は、苦痛の連続だったと言う事だけだ。今ではスライムを一撃で倒せることが出来るようになったとはいっても、自分のスペック的に何の変化も自覚できないのだからなおさらである。 

 「取り敢えず、10万匹を目指して倒してみるか」と独り言を残してスライムを倒し始めた。

 スライムを倒すのに手馴れてきた雫斗は、収納の攻撃力を使うことなく、トオルハンマーの破壊力だけで倒していた。

 確かに雫斗自身ダンジョンでスライム相手にハンマーを叩き続けている為、力が付いたわけだがそれだけではない気がする、トオルハンマーにスライム特化のダメージが入っている気がするのだ。 
 
 1万匹を倒した前後で、いきなり変わったのだ。それは雫斗の感覚でしかない為なんとも言えないが、確かに手応えとして残っている。そしてもう一つは、スライムの気配がつかめるようになったのだ。

 スライムを一撃で倒している現在、一番の問題はスライムを探す事にある、広間に居るスライムを殲滅するのに、数分でこなしている今の雫斗には、移動の時間さえ煩わしいのだ。 

 ある日、広間を殲滅して移動して来た雫斗の感覚に、殲滅して来た数個先の広間のスライムがリポップした感覚があった。一瞬何の感覚なのか分からなかったが、それがスライムだと認識出来た瞬間その範囲に居るスライムが知覚できるようになったのだ。 

 その時は小躍りして喜んだ雫斗だったが、それ以外では何の成果も無いまま今に至っているのだ。しかし良い事も有った。そのころから広間のスライムを殲滅するのに5分とかからなくなっていた雫斗にとって、広間から広間への移動がネックになっていた。 

 当然通路としての洞窟を移動していくのだが、その長さが一定では無いのだ。無駄に長い洞窟も有れば短い洞窟もある、そこで雫斗は地図上で短い通路をひとまとめにしたユニットを設定して其処を回って効率化を図る事にした。 

 今では、高速で移動しながら時間当たりの討伐数が400を超えているのだ、流石に動きっぱなしだと疲労がたまるので、時折休憩を兼ねて移動する時は歩いたりしているのだが。それでも最初の頃の時間当たりの討伐数と比べても段違いに良くなっていた。 

  

第16話(その2)  

 高速で移動しながらのスライム討伐の疲労と落胆で、ダンジョンの壁に体を預けて座り込む雫斗。もう10万匹をとうに超えているのだ、もしかしてを繰り返してそこまで倒してきたが、そろそろ限界である。 

 雫斗はずるずると壁から滑り落ちて、とうとうリックを枕に横たわってしまう、余程堪えたようだ。Dカードを取り出してしげしげと見つめる、相変わらず名前とダンジョンの到達階層のレベルだけが表示されている。 

 代わり映えしないDカードを見ていると、思わず涙が眼のふちにたまってきた、今まで自分のしてきたことが無駄だったのかと。

 そう思うと情けなくて泣けてきたのだ、涙越しに見えるDカードの焦点がぼやけダンジョンの天井をカード越しに見てしまう。”ダンジョン1階層の天井”!!!。 
 
 なんだ!!。そう思って慌てて起き上がる、そしてもう一度Dカードを見つめる、やはり名前とレベルだけが表示されている。

 焦点を変えてカード越しにダンジョンの小石を見てみる、”ダンジョンに転がっている小石”、カードの表示が変わっている?。 

 雫斗は小躍りしながら、Dカードでダンジョンの中を見て回る、”ダンジョン1階層の壁”、”ダンジョン1階層の岩”、・・・・確かに表示が変わっているのだ。暫く興奮していた雫斗は落ち着いてきた。

 「やっぱり、これは鑑定だよな?じゃースライムとか自分を鑑定できるかも?」

 そう思った雫斗は、自分の手をダンジョンカード越しに見てみた。 

 ”出てきましたステータスっぽいの、いやステータスだよなこれ?”、強いのか弱いのかは分からないが、とにかく自分の評価だとはいう事は分かった。 

 最初に、自分の名前と年齢が書かれていて、その下に身長と体重が書かれている、カッコつきで”身長が低い事を、多少気にしている健全な男の子”と書かれているのは余計だとちょっと憤慨したが。 

 その下から自分の状態と評価がアルファベットで綴られていた、状態は良好で、総合力 C・体力 D・ 魔力 C・ 知力 C・ 俊敏 B・ 器用 C・ 運 C、と書かれていた。 

 数値化されている訳じゃないから曖昧だけど、ある程度の目安には成りそうだった。その下には<スキル>。と<称号>の項目が書かれていた。  

 スキルの項目には、何も書かれていないので取得していないのか?と思ったが、意識してみていると、ずらっと出て来た。 
 物理耐性 Ⅳ、 保管倉庫 Ⅰ、 空間把握 Ⅱ、 気配察知 Ⅱ、 毒耐性 Ⅲ, 隠密 Ⅰ、 鑑定 Ⅰ。 

 いつの間にか取得していたスキルだが、物理耐性と空間把握と気配察知そして毒耐性と鑑定以外はグレーアウトしていた。多分使ったことが無いからじゃないかと思った雫斗。隠密は何それ?って感じだし。保管倉庫に至ってはスキルを取得している事さえ分からなかった。いやスキル自体を取得していたなんて驚き以外にない。 

 物理耐性と空間把握と毒耐性それと気配察知のスキルの数字が上がっているのは、ケイブバットとケイブラットを手刀と蹴りで倒していたものだから物理耐性がランクアップしたと予想した、空間把握に至ってはスライムの存在を認知できたことに要因がありそうだ。 

 気配察知もダンジョンで周りに気を付けていたからⅡという数字が付いているのかもしれない、流石に最初からⅡだったわけでは無いだろう、それを考えると毒耐性が上がった訳も予測できる。 

 考えてみると、ケイブスネークの毒対策で毒消しのポーションを使った事が有るのはかなり前のことだ、てっきり強くなって毒を受けることが無くなったのかと思っていたが、毒は受けていて、知らないうちに毒耐性のスキルを使っていてその毒耐性のランクが上がったからなのかも知れない。 
 
 取り敢えず取得している保管倉庫だ、どうやって使うのだろうと考えた。落ちている小石を手に取る、そのまま収納すると何時もの装備収納に入っていく。もう一つの小石を手に持ち、収納する時のイメージで、もう一つの入れ物を頭の中で想像して、その中に収納する事を考えた。 
 
 小石が消えた、装備収納とは別の入れ物にちゃんと入っていた、あっさり出来た事に呆気に撮られるも、小躍りしそうになるのを抑えて今度は触らなくても保管倉庫に仕舞えるかを試す、・・・出来ました!今度は踊りまわって喜びを表現した。誰も見て居ないから構わないのだ。 

 Dカードを出して、もう一度自分自身を鑑定してみた。ステータスには変化はなかった、しかしスキルの項目を見ると。 
 
 物理耐性 Ⅳ、 保管倉庫 Ⅲ、 空間把握 Ⅰ、 気配察知 Ⅱ、 毒耐性 Ⅲ, 隠密 Ⅰ、 鑑定 Ⅰ。 
 
 保管倉庫のレベルが、いきなり二つ上がった!訳が分からずDカードを裏返してみる。そこには、たくさんの文字列が並んでいた、よく見るとログっぽい物が書かれていた、つまり自分の討伐の記録だ。 

 最後の方には鑑定の覚醒した事の確認と、保管倉庫のランクが二つ上昇して終わっていた。”いつの間に保管倉庫のスキルを所得したのか?”と考えると、いきなりスクロールして、<スライムを1万匹討伐、スライムの固有スキル、物理耐性 Ⅰ、保管倉庫 Ⅰの取得>と出て来た。 
 
 あまりの事にパニックになりかける雫斗は、此処はまだダンジョンの中であることを思い出した。一階層とはいえダンジョンの中でぼんやりしていると危険な為、急ぎダンジョンを出てゲート内のスペースで調べることにした。 

 ゲート内のスぺースには椅子がないので直に座り込みカードのログの検証を始めた。まずは鑑定の発動条件は、<スライムの10万匹の討伐、カード鑑定の発動条件の確保>と出ていた。雫斗が鑑定スキルを発動させたのは10万匹のスライムを倒して、それからかなりのスライムを倒してからだった、つまり10万匹プラス、ダンジョンカードをかざして対象物をカード越しに見てみる事が、鑑定の発動条件みたいだ。

 保管倉庫に至っては、スキルが発現したのが1万匹の討伐で、3万匹の討伐でランクが一つ上がり、6万匹の討伐でランクが3まで上がっていた。ただ10万匹倒してもランクⅣに上がっている気配がない事から、12万匹で上がるのか、それとも打ち止めかは分からなかった。 

 その事から、討伐した数で固有スキルの取得とランクアップができることが分かった。しかもランクⅠ、Ⅱ、Ⅲの取得条件は分かったが、そのスキルに関しての詳細な説明は無く、後は自分で使ってみて検証しないといけない様だ。 
 
 物理耐性が突出してランクが上がっているのは、無意識に使っていたからだと思う、つまり保管倉庫や鑑定も使い続いていればレベルが上がる可能性があった、とはいえスライムを倒せば無条件で保管倉庫のレベルが上がるのだから、これはスライムの討伐ラッシュになりそうだった。 
  
 

第16話(その3)  

 称号はと意識すると。《魔物の討伐者》、に始まり《格上の魔物の討伐者》、《強者にひれ伏さない精神力》、《初の接触収納の使い手》、《初の接触収納の探究者》、《初のスライムの殺戮者》、《初の鑑定取得の功労者》、とズラズラ出て来た。 

 《魔物の討伐者》はなんとなく分かる、魔物を倒したときに得る事の出来る称号なのだ有ろう、つまり誰もが持っている称号なのだと言う事だ。 

 《格上の魔物の討伐者》、《強者にひれ伏さない精神力》も同様だ、雫斗達にとって探索者資格を得た日に遭遇したオークは格上だった、その上オーガの咆哮迄受けたのだ。 

 あの時の敗北感と脱力感は忘れられない、危ういところで意識を保てはしたがぎりぎりだったことは雫斗自身が分かっていた。 

 後の称号の《スライムの殺戮者》は別にして《初の接触収納の使い手》、《初の接触収納の探究者》、《初の鑑定取得の功労者》なのだが”初”と付くからには雫斗が初めてと言う事だろうか? それなら雫斗だけが持っている称号と言う事に為る。 

 それよりも問題は【接触収納】だ雫斗が【装備収納】と呼称していたのだが、正式名称が分かった今変えなければいけない事の方が雫斗的にはダメージが大きい。 

 しかしスライムの殺戮者は無いと思った。鑑定の取得条件にスライムの10万匹の討伐を入れているのは、ダンジョンの意思だと思ったからだ。 

 そうダンジョンは確かに何かの意図を持って動いている。人の、いや人類の覚醒なのか、ただ単にゲーム的な何かなのかは分からないが、確実に意図的なものを感じる雫斗だった。ダンジョン攻略それが己の命を懸ける行為だとしても、遣らなければ成らない事だと感じ始めていた。 
  
 とりあえずログの詳しい検証は置いといて、鑑定でダンジョンの中を見て回ることにした。もう一度ダンジョンに入りスライムのいる広間へと向かう。スライムを見つけて鑑定してみた、”スライムLV1・固有スキル《物理耐性》《保管倉庫》”と出て来た。 

 予測の通りで拍子抜けしたが、取り敢えず倒す。その後でログを見ると”スライムLV1、討伐・ダンジョンポイント0.02取得”と出ていた。ダンジョンポイント?たぶん経験値的な物かと納得する、0.02じゃいくら倒しても強くはなれないな~と、変に納得した。 
  
 次々とスライムを鑑定しては倒すのを繰り返すが、水魔法のスキルを持つスライムを見つけた。じっくり観察していた雫斗に、プルプルしていたスライムがいきなり水を掛けてきた、酸か?と飛び退いて躱したが遅かった、かかった水を慌てて払おうとして分かった事が有る。なんともないただの水だった。 

 そういえばスライムを刃先で突いて、刃先が崩れることがあるのは、酸で溶かされているからじゃなくて、保管倉庫に収納する時に魔力が少ないから少しずづだけ入れていたのでは無かろうか、そうしたら刃先が欠けていくこともうなずける。 
 
 雫斗は鑑定で、水魔法を持っているスライムを探し始めた、しかしなかなか見つからない、それはそうだ10万匹以上倒している雫斗だけど、水魔法のスキルを取得していないのだから。 

 歩き回って疲れた雫斗は少し休む事にした。近くにある岩へ座ろうとして、違和感を覚えたので鑑定してみると、”ベビーゴーレムLV1・固有スキル《自己回復》《自己再生》《擬態》”と出ていた。 

 「魔物なんかい?」と雫斗は思わず突っ込んだが。

 考えてみると今まで攻撃された事がない、しかし魔物であることには変わらないので倒すことにした。トオルハンマーを取り出して構えると、若干焦っている様に見えるのは気のせいだろうか。 
 
 振りかぶって叩きつける、少し削れている程度なので収納の力を使う、空の手で振りかぶりインパクトの瞬間に収納からの加速を加える、大きな破砕音と共に大きく削れてひびが入る。もう一度振りかぶる、すると変化が起きる、ひび割れていた岩が少しずつ元に戻ろうとしている。 

 《自己回復》のスキルか?雫斗は振り下ろすペースを上げた。”ガッツン・ガッウン”、物凄い音と共に崩れては、再生していくベビーゴーレムだったが、最後は力尽きて崩れていった。しかし光に還元されない、よくよく見ると魔核が残っていた、そのまま放置していると再生するのか?と自己再生のスキルの恐ろしさに身を震わせながら魔核をトオルハンマーで叩く。 
 
 ようやく、光に還元されていくベビーゴーレム、後には魔晶石と新たに出現した魔核と土属性の魔鉱石のインゴットのカードが残されていた、ゴーレムの魔核は貴重品なので保管倉庫の中へと仕舞おうとして違和感を覚えた。 

 よくよく見ると、かなり小さい、ゴーレムの魔核はビデオでしか見た事が無かったがこれ程小さくはなかった、ゴーレム型のアンドロイドが人の大きさをしているのはその事が関係していると何処かで聞いた事がある。 

 取り敢えず貴重品の様なので慎重に保管倉庫に仕舞う、後で何処に仕舞ったのか分からなく為らない様に何度も確かめた。 

 土属性の魔鉱石は初めてのドロップだ、嬉しさが込み上げてくる。しかし回復系のスキルが1階層で手に入りそうなのだ。これはテンションが上がってくる、他にベビーゴーレムがいないか探し始める雫斗だったが、そんなに多くは無かった、せいぜい広間に2,3匹程度だった。  

 それでも一万匹?の討伐で《自己回復》のスキルが使えるのであれば、探す価値はある。倒していけば何時かはスキルを使えるようになるかもしれないのだから。 

 ベビーゴーレムと水魔法のスキルを持つスライムを探しながら倒していた雫斗だったが、時間になり帰る準備を始めた。 
 
 ダンジョンの出口で百花達と出会った雫斗は。

 「やあ~~、どうだった?」と上機嫌で話しかけた。

 機嫌の良い雫斗に得体の知れない違和感を覚えながら。

 「まあまあね、何時もどおりよ。そっちはどうだったの?」と聞いてきた百花に。

 待っていましたと雫斗が答えた。 

 「ふふふ・・、大発見があったんだ!」ともったいぶって言う雫斗。

 こういう時の雫斗は何も言わなくても自慢してくるので、みな黙って聞いている。

 「スライム10万匹討伐で、あるスキルが使えるようになるのだ。でもその前に」

 雫斗は少し離れて、ダンジョンの小石を収納から出して皆の前にいくつか転がす。 
 
 そんな事なら出来る百花達が呆れてしまう。

 「そんなことが大発見なの?」と百花が苛立って聞いてくる。

 そうなることは想定済みの雫斗は落ち着いた風を装って。

 「ま~~、見ていてよ」と言いながら、出した小石を保管倉庫へと入れ始めた。

 触ってもいないのに消えていく小石達、驚愕の表情を浮かべて見つめる百花達。 

 その顔を見ながら優越感に浸る雫斗、今までさんざん”無駄だ。建設的じゃない。倒しても意味がないから”と、言われ続けてきたのだ、今日発見した事は大いに自慢したいのだ。 

 「どうやら魔物には、固有スキルというものが有るみたいでね、そのスキルはある程度の討伐で取得できるらしくてね。だけど取得はしていても、使う意思を示さないと発現しないスキルも有るみたいなんだ」とここで一旦言葉を止める。 
 
 「じゃー私たちも、もしかしたら何かのスキルを習得しているかも知れないって事?」

 弥生が驚いて聞いてきた。 

 「そうのはずだけど、スライムに関しては1万匹の討伐で物理耐性と保管倉庫スキルが取得できるんだ。そして3万匹,6万匹、の討伐で無条件で物理耐性と保管倉庫スキルが、ランクアップするみたいなんだ」そう答えて。

 「そして10万匹のスライムを倒すとカードの鑑定のスキルが発現するのさ」と自慢げにカードを出した。 
 
 

第16話(その4)  

 しかしそこでふと雫斗は考えた、果たして鑑定した後のカードの文字が他の人に読めるものなのかと。ダンジョンは所有者を明確に識別する、自分のステータスを他人が認識出来なければ、ただのほら吹きに成りかね無かった。 

 カードを百花達に見せながら自分を鑑定してみる。

 「書かれていることが分かるかな?」

 若干引きつりながらそう言うと、百花達が雫斗のDカードを覗き込みながら驚愕するのが分かった。 
 
 「驚いたな。・・・Dカードで名前とレベル以外の文字を始めてみたよ、このアルファベットって強さの指標かな?」と恭平が雫斗に聞くと。

 「下に書かれているスキルと称号って何なの?」と弥生が同時に聞いてきた。 

 別々の質問された雫斗が答えようとしたが、ブルブル震えている百花に危険を感じた。いきなり百花が雫斗の襟を襟をつかみ叫ぶ。

 「なんで雫斗だけがこんな事を見つけるのよ」今回は首を揺することなく訴えてきた。 
 
 身構えていた雫斗が拍子抜けしていると。

 「雫斗は人と違う視点で物事を見ているからね、そのせいだと思うよ」と恭平が平然と言うと。 

 「そうね、スライムを10万匹なんて誰も倒そうなんて思わないわよ」と弥生。

 ”何かディスられている気がしないでもないが、褒められているよね?”と雫斗は前向きに考えることにした。恭平と弥生に説得された形で落ち着いた百花は。

 「そうね雫斗だし仕方ないわね」と変に納得していた。

 どういうことだ?と思わなくもないが、取り敢えず恭平と弥生の質問に答える雫斗だった。 
 
 「恭平が言っていたアルファベットだけど、たぶん強さのパラメーターだと思うよ。僕の鑑定結果だけだと良く分からないけどね。・・・あとスキルはこんな感じで表示されるんだ」

 雫斗がスキルを表示させのだが、恭平たちには見えない様だった、称号も同じで、どうやらステータスだけが見えている様なのだ。ちなみにだがDカードを裏替えして見せても彼らには討伐ログは見えていない様だった。 

 「ちょっと悔しいわね、見えない物が在るといわれると。雫斗を信じない訳じゃ無いけれど、ほんとかなと思うわ」と百花。 

 「まー頑張ってスライムを10万匹倒すんだね、先達者として言うけど。・・・とぉーっても大変だよ」

 雫斗が悪い顔でニコニコと言い放つ。 

 「分かっているわよ!!」とぶぜんと言う百花だが。

 スライムを倒せば習得できると分かっているスキルなのだ、やらない訳にはいかない。 

 しかし雫斗にはやらねばならない事が有る、自分やスライム、ダンジョンの天井や小石は鑑定出来たのだが、果たして探索者、つまり他人は鑑定できるのか?。 

 憤慨している百花にお願いしたいのだが、引き受けてくれるのだろうか? しかし雫斗は確信している、百花だって自分のステータスは知りたいはずだ。 


 雫斗はニヘラ~~と笑って、「百花も知りたくはない、自分のステータスを」と振ってみる。 

  
 百花は少し考えて「いいわよ、でも他の人に話したら駄目だからね!」と念押しされた。

 やっぱりと、思惑どおりに承諾した百花にカードを向けて鑑定してみると、カードには百花のステータスが表示された。 
 
 雫斗は、その内容に愕然とした。

 「どうしたのよ?早く言いなさいよ」と催促する百花。

 内容を話したとき起きるであろう出来事を想像して、冷や汗をかき始めた雫斗を不思議そうに見つめる恭平と弥生”。

 ええい!言ってしまえ”そう決心してカードに書かれている内容を話す。 
  
 「斎藤百花14歳、身長153cm、体重48kg、バスト70、ウエスト55、ヒップ76、多少胸の発育ぐふっ」雫斗は、最後まで言えずに崩れ落ちた。 
  
 カードに書かれている内容を読みあげている雫斗を黙って聞いていた百花が、体重のあたりから顔を赤らめてスリーサイズを聞いた時、残りの言葉を雫斗が言い終わる前に、眼にも止まらぬ早業で一歩を踏み込んで、ショートアッパーを雫斗の顎に繰り出していた。 

 膝から崩れ落ちた雫斗を、腕を組んで鬼の形相で睨み付けている百花が。

 「なんであなたが、私の体重とスリーサイズを知っているのよ?」と容赦なく聞いてきた。 
 
 雫斗は『聞いてきたのは百花で、知っているのは鑑定した結果で、それを読みあげただけなんだ』と訴えたかったが。

 きれいにヒットした百花のアッパーに脳を揺さぶられて、話す事も立つ事も出来ず、ただダンジョンカードを振り回す事しかできなかった。 

 馬鹿正直に書かれている事を読みあげた雫斗を、同情の眼で見ていた弥生が助け舟を出した。

 「百花やめなさいよ、あなたが自分を鑑定してって言ったんでしょう?雫斗はその結果を話しただけだから」

 弥生の言葉に雫斗は大きくうなずくことで肯定した。 
 
 弥生に言われて多少落ち着きを取り戻した百花が。

 「そうなの?解ったわ、でもあなたも悪いからね、いきなり私の体のサイズを言い出したんだから。反省しなさいよね」と強気の百花。

 思春期の女の子に理不尽と言う言葉は通用しないのだと、その時雫斗は心底実感した瞬間である。 
 
 体の自由を取り戻した雫斗は、これ以上言葉に出すと命を落とす危険を本気で心配しないといけないので、百花にカードの内容をそのまま見せた「総合でC+っていうのは、雫斗よりは強いって事かしら?」と機嫌よさげに聞いてきた百花。 

 「多分そうじゃないかな?百花達は3階層で魔物を狩っていたからね。魔物一匹当たりのダンジョンポイントも高そうだし」そう言った雫斗に恭平が興味を示す。 

 「ダンジョンポイントって、何だい?」そう聞いてきた恭平に。

 「多分経験値だと思う、1階層のスライムで0.01~0.02ポイントが入るんだ、2階層のケイブバットとケイブラットで0.04から0.05ポイントだから、3階層のモンスターだと0.08か0.09ぐらいは入るかも」 
 
 「そのダンジョンポイントって、ステータスにどう割り振られるの?」と弥生が聞いてきたので。

 「まだ分からないよ、カードのログにも載っていないし。ただ予想として各々がして来た事が反映されるんだと思う」と雫斗がそう言うと。

 「じゃー僕が錫杖を振り回してきたことが、力として体力に割り振られているっていう事?」恭平が聞いてきたので、雫斗は一瞬考えて。

 「あながちそれだけって訳でもないかもしれない、さっき僕は百花から顎を殴られたけど、ダメージはそれほどでもないんだ。頭を揺さぶられて立てなかったぐらいで顎が腫れてもいない、百花も拳はなんともないでしょう?」 
 
 ばつが悪そうに自分の拳を見て「そうね、なんともないわ」と百花が言う。

 「ほんの半年前まで、僕は百花の木の棒の一撃で気を失うほどだったんだよ、それが今の百花のアッパーをまともに顎に受けて無事でいられるはずがないんだ」言われた百花が。

 「悪かったって言っているのに」とボソッと言った。 

 「じゃー何かほかの要因が有るってこと?」弥生が聞いてきた。

 「物理耐性もその要因の一つだけど、鑑定のスキルのレベルはまだ1なんだ、まだ見えていない事が有るかも知れない」そう結論づけた雫斗。 

第16話(その5)  

 「ふう~ん、一つ疑問が解決すると倍の疑問が出てくるのね?それより雫斗、私が持っているスキルって何なのよ?」と百花、自分のスキルを知りたいらしい。 

 雫斗は、カードを向けながら鑑定してみたが表示できなかった。

 「百花、無意識に拒否しているでしょう?鑑定できない」そう言われた百花が。

 「そうね、もう見られるのは嫌かも」そう言って弥生を見た。 

  「私も嫌よ」弥生がそう言って恭平を見た。恭平はため息をついて。

 「いいよ鑑定してくれ」と雫斗に向き直る。 
 
 ダンジョンカードを恭平に向け鑑定する、出て来た結果は。名前は当然、立花 恭平と書かれていて隣に(14歳)と年齢が付いてくる。その下には身長 197cm、体重 92kgで”自分の強さを追及するタフガイ”とかっこいい言葉が綴られていた、状態は良好でステータスは。総合力 B-、体力 A、魔力 D+、知力 C-、敏捷 D、器用 B、運 Bとなっていた 

 なかなかよさげなステータスだ、総合力では百花よりはいい。

 「さすが恭平だね、でもスキルも称号も討伐の記録も表示されないな」

 そ言った雫斗に不満げに百花が。

 「ええ~、じゃ私たちのスキルは分からないってこと?」 
 
 「そうなるね、まー頑張ってスライムを討伐するんだね」

 雫斗が得意げに言うと、悔しさをにじませる百花。

 「あっ、でも保管倉庫のスキルは使えるかもしれないよ?」 

  雫斗にそう言われた百花が食いついてきた。

 「どうやるの?」

 雫斗は小石を拾うと。

 「僕が遣ってみたとおりでいいかい?」そう言うと保管倉庫を発現させた手順を説明した。 

 言われた通りに再現してみたが、保管倉庫のスキルは恭平しか発現できなかった。打撃の武器を持っていない百花と弥生はスライムの討伐が1万匹に達していない様なのだ。その事でまた爆発しそうになった百花だが自業自得なので辛うじて自重したのだった。 

 今日はもう帰ることにして明日からは百花達もスライムの討伐に参加することにした様だ。 
 
 帰りの道すがら、雫斗は話すことを思い出した。

 「そうだ、1階層に”ベビーゴーレム”っていう魔物がいるんだ」

 いきなり言われて皆が振り返る。

 「何の話、見たことがないんだけど?」

 百花が何を言っているのか?と聞いてきた。 

 「一階層の広間に、この位の岩が有るでしょう?その中にベビーゴーレムが紛れ込んでいるんだ、その魔物動かないし攻撃してこないけど、自己回復と自己再生それと擬態のスキルを持っているんだ、見つけたら倒すと良いよ」

 雫斗はひざ丈位に手をかざして簡単に言うが、百花達は鑑定スキルを持っていないのだ。 
 
 「私たちは鑑定スキルを持っていないのよ、あれだけの数の岩を手当たり次第に壊せないわよ」と百花、

 「大丈夫だよ、たぶん気配察知のスキルで分かると思うよ、僕もそのスキルで感じたんだ」 

 「でも私と弥生はその岩の魔物は倒せないわよ、恭平なら出来るでしょうけど」

 そう言う百花に、雫斗はトオルハンマーを自慢げに見せて。

 「やっぱり一つは打撃武器が必要でしょう。作って貰ったら?」そう言ってぶんぶん振り回す雫斗。 

 悔しさに顔を赤らめながら「分かったわ、考えておくわ」と百花は今に見てろと思うのだった。 


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