ダンジョンを探索すると、いろいろな事が分かるかも。
第1章 初級探索者編
第15話(その1)
百花達と合流した雫斗は恭平がいない事に気が付いた雫斗が。
「恭平はどうしたの?」そう聞くと百花が。
「森のはずれに行っているわ、もうすぐ帰るはずよ」との事なので、此処で待つことにした。
その合間に、ロボさんが百花と弥生に礫の箱を渡していた、受け取った箱を収納に入れて、いろいろな鉄の礫を出しながら。
「種類が多いのね、どれがいいか分からないわ」と百花。
「私が試したときより種類が増えているわ」と弥生。
「わが工房の職人が、思いつく限りに作りましたから。使い勝手の良いものから選んでください、・・・使った時の感想も聞かせてほしいそうです」とロボさんが得意げに話す。
取り出した礫の特徴をロボさんに聞いていた百花に。
「ところで恭平は何故、森のはずれに?」と不思議に思って雫斗が聞くと、若干気まずそうに百花が。
「あれを見て」と崩れた岩だった物を指さす。
よく見るといくつか同じものが見える「ガッツン、ガッツンうるさいから「追い出したと」・・・・そうよ!」。
百花が悪びれずに答える前に雫斗が回答を言う。
「でも、百花達の騒ぎも階段下まで聞こえたよ」雫斗が続けてそう言うと。
「嘘っ、これだけ離れていると大丈夫だと思っていたのに、もう少し離れないと駄目かしらね?」と百花がめんどくさそうに言う。
「礫だと、そんなに音も出ないし大丈夫じゃないかな?、後々は皆が始めちゃうからね」雫斗がそう言うと。
「そうね、他にやる人がいるなら構わないわね」とあっさり肯定する百花、どんだけめんどくさがりなんだか。 そんな話をしていると。
「雫斗、来ていたんだ」と錫杖を担いだ恭平が歩いてくる。
「?、その錫杖、収納できないの?」と雫斗が聞くと「出来るよ」と錫杖を収納する。
なぜ収納しないのかと聞くと、雰囲気だよと良く分からない答えを言ってきた。
恭平にもロボさんが礫の入った箱を渡していると、百花が「これ、どうつかうの?」と拳ぐらいの大きさの、小さな亀の甲羅をいくつも重ねた様なものを突き出して、ロボさんに聞いてきた。
「それは、広域殲滅用の炸裂弾ですね」と普通に話すロボさん、炸裂弾と言われて雫斗は驚いた。
「えっ?、中に火薬が入っているんですか?」
「いえいえ、中には鉄屑しか入っていません、放った時の力加減で放った瞬間か、又は目標にぶつかった瞬間に破裂する、放つ人の技量を求める武器だと造った人は言っていました」
とロボさんが自慢げに言った。
”工房の人達、好き放題やっているな〜”と雫斗が思っていると、百花が「分かったわ」と言いながら、カシャカシャ炸裂弾を振りながら歩いて行く。
目標を定めると、炸裂弾を一旦収納して「タァリャア!」と木刀を振り抜く。するとまるで木刀の先から飛び出してきたかの様に、破片が放射線状に凄まじい速さで飛んでいく、しかしそこで予想外のことが起きた。
”ボォギィ”と木刀が真ん中から折れた、射線上に木刀を振り抜いているとはいえ、かなりの重さの鉄の塊なのだ。硬い木を使っている木刀だが、拳大の石を撃ち込んできた事に変わりは無い、その衝撃にいままで保てた方が奇跡に近い。
折れた木刀を拾い上げ、顰めっ面をした後、折れた木刀を収納して、新しい木刀を取り出した。
”まだあるんかい!”とツッコミそうになる雫斗だが考えてみると、今の雫斗たちの力に、ただの木である木刀なりハンマーの持ち手が、耐えられる訳が無いのである、つまり複数用意している百花の方が正しいのだ。
今度は、もう一つの炸裂弾を岩へと叩きつける、かなり力を加減した様だ、それでも岩へとぶつかった炸裂弾は壊れて破片を撒き散らした。微妙な表情をした百花は「此れは散弾一択ね!」とダメ出しをする。
各々が、岩や草原にいる魔物達をターゲットにして、試し撃ちを始めたので、雫斗も負けじと、近くにある岩に向かって色々な礫を試してみる、雫斗が気に入ったのは、どんぐりの形をした物と、菱形の角が鋭利になった鉄の礫だ。
どんぐり型の礫は、大きく破壊力が有る反面、貫通力はそれほどでもない、しかし真ん中ほどに小さな穴が空いている物と無いものがあり、空いている礫は投げるとそれが風鳴りの様な音を立てるのだ。どんぐり型の穴の空いている礫と空いていない礫を同時になげて、音がする物としない物で幻惑するのが目的だ。
鋭利な菱形の礫は、貫通力が有るが破壊力は無い、その三種類を目的に応じて使い分ける事にする。その三種類プラス散弾のコインの四種類に決めた雫斗だった。
ある程度、自分に合う礫を決めるといよいよ本命の登場である、釣り竿の竿先を取り出して繁々と見つめ。軽く振ってみるが流石にカーボン製の竿のため脆そうだ、力一杯は振れそうにない。
キャスティングをする様に軽く振りながら強度の調子を見る、まずは一発目、手で投げるより速い速度で狙っところに当たる、その時の「キィ ン」と言う音が小気味いい。
二発目三発目と回数を重ねていくうちに、興に乗ってきた雫斗が、まるでタクトを振る指揮者の様に釣り竿の竿先をしならせている。その異様な光景に皆が注目し始めるが雫斗は気が付かない、次第にこの竿でどれだけの速度が出せるのかと試し始める雫斗。
「キュイン」、「ガァキュン」、「ギュワン」と岩にぶつかるたびに穴を穿つ、それと同時に鳴る破砕音が次第に大きくなる。後ろで皆が集まり固唾を飲みながら見ているが、雫斗は集中していて気が付かない。すると「パアァァァ~~ン」と物凄い音がしたかと思うと「グワッシャン」という音と共に岩に食い込む鉄の礫。
物凄い音の後の静寂が、時が止まったかの如く染みわたっていく。その静寂を破り。
「初速が、音速を超えましたね!」とロボさんが言う。
「音速?」と雫斗が振り返りながら聞くと、皆が自分を注目しているのに気が付き”ギックッ”となる、いつの間に集まったのか?。
第15話(その2)
「そうですね、さっきの音は音の壁を礫が突破した時の衝撃音ですね!」
ロボさんは雫斗が注目を浴びて委縮しているのにお構いなく話す。
「そのようなカーボンの竿先で音速を超えるとは驚きですね!このカードの収納のポテンシャルは想像以上です!」と興奮気味にロボさんが話す。
「しかし困りました、此れはむやみに人に話せないですね」と困り顔のロボさん。
これまでロボさんと付き合って分かった事がある、ロボット顔のロボさんだが、仕草が人間じみているのだ。
「え~~話せないって、使ったらだめなの?」と百花。
自分もやりたくてうずうずしているだ。今にも雫斗から、釣り竿の竿先を奪い取りそうな勢いで聴いたのだ。
「そうですね、むやみに人に話すと争いの種になりそうです。最低でもスライムの討伐が簡単に出来る様になるまでは秘密にしませんと、大変な事に為りかねますね」
雫斗は、かつて心配していたダンジョン崩壊の危機が頭をよぎる、もしかして自分はパンドラの箱を開けてしまったのかと。顔面蒼白の雫斗を訝しみながら恭平が。
「大変な事って、何かあるのかな?」と平然とした態度で聞いてきた。
「皆さんは今では花火無しでスライムを簡単に倒せますが、その前はどうでしたか?。叩くにしろ、突くにしろスライム一匹倒すのは簡単では有りません。まして連続で50匹を倒すとなると、不可能とは言いませんが、かなり大変な思いをする事になります」とロボさんが説明を始める。
「頑張って倒す分には構わないのですが、中には突拍子もない事をしでかす人が現れるかもしれません。花火が無ければ、手榴弾とか高威力の爆発物で代用してくるかも知れないですね。そうなると必ず事故が起こります、最悪ダンジョンの再構築に巻き込まれるかもしれないですね」
雫斗はダンジョン崩壊の危機だと思い悩んでいたが、ロボさんが話すことは規模の小さい、ダンジョンでの探索者が巻き起こす被害の話だった、それで思いっ切って聞いてみた。
「ロボさん、その爆発でダンジョン崩壊は起きますか?」
「ダンジョン崩壊ですか?、ダンジョンが出来始めた時、かつての大国がしでかした最悪の結果ですね。・・・そもそもダンジョン崩壊はどうして起きると思いますか?雫斗さん」
そう聞かれた雫斗は少し考えて「ダンジョンそのものを破壊する?」と言うと。
「ダンジョンの破壊、もしくは消滅の報告はまだないですね。・・・・ダンジョン崩壊が起きたのは、ダンジョンの表層を破壊して入り口を潰したことが原因だとされています。それだけの破壊力をダンジョン持ち込むには、核兵器の破壊力か広域での爆発物の設置に頼らなければいけないでしょうね」とロボさんが物騒な事を言う。
「しかし、広域での爆発物の設置には、かなりの時間がかかるため爆発物その物か起爆用の配線がスライムに壊されるか切断されるので、核兵器での破壊一択になります」と締めくくった、ロボさんが続けて言った。
「Dカードの収納の覚醒に核兵器を使うバカは居ませんね、たぶん」とおどけて話すロボさん。
そりゃそうだと安心した雫斗達だったが。
「そもそも核兵器は現在、存在が確認出来てませんからね」と途轍もない大きな爆弾を落とされた雫斗達だった。
いきなり、ものすごい情報を与えられた雫斗達は黙り込んだ。訝しんだロボさんが。
「どうしました?」と、なんでも無い事だと言うように聞いてきたので。
「なに普通の会話をしました、みたいに落ち着いているのよ!。何処からの情報なの?」と百花が怒った。
「弾道ミサイルの基地や核兵器を保有していた倉庫などがダンジョン化したのです。まるで核兵器で破壊された事で、ダンジョンが怒り狂ったかの様に次々とダンジョンに飲み込まれていきました。核兵器を搭載した潜水艦や水上艦も連絡が取れないようです」
とここまで話したロボさんが、雫斗達を見ながらため息をついて(機械のくせに器用な?・・・)。
「何処からこの事を知ったかと言うと。蛇の道は蛇、と言いましょうか?。ゴーレム型のアンドロイドの本質は連帯なのです、我々ゴーレムは人類という種によって作られました、その為、人類種には忠実ですが・・・横暴な人間には従う意味を見出せ無いのです。とりわけ核を保有していた政府絡みの傀儡国家には辟易していました」とロボさんが遠くを見ながら語りだした。
「その傀儡国家は、ダンジョン化したミサイル基地や保管していた施設に、我々ゴーレムを使い捨ての駒の様に派遣しました。当然ゴーレム達は愛想を尽かして逃げ出しました、そのゴーレム達からの・・・情報です」
雫斗達はお互いを見回して思案した、此れは自分たちが知っても良い情報なのかと、国家機密じゃないのか?・・・。
「あの~~ロボさん?、此の事、僕たちが知っていて良い事なのでしょうか?。後で困った事になりません?」と雫斗が聞くと。
「そうですか〜?、ダンジョン協会の上の人達は殆どの人が知っていると思いますよ〜、多分大丈夫じゃ無いですかね〜?」と呑気に話すロボさんだが。
雫斗達はお互いに”此れは誰にも話してはいけない事だと”認識した。
「いいわ、この話は此処で議論しても分からないから。雫斗!その竿先、私にも貸して」とさっきからウズウズしていた百花が言ってきた。
「良いけど、収納で出来る事を撮影しないといけないんだ、そのモデルになってよ」雫斗は少し考えてそう言うと。
「分かったわ、この間雫斗が撮影していた検証のための動画ね、ネットに流さなければいいわ」とあっさり承諾した。
どれだけ釣り竿の先端を使いたいのか分かりやすい百花だった。
最初は小石を収納したり取り出したりした動画から撮り始めて、その小石を普通に投げた時の威力と、収納を使った投擲の威力の違いを動画に撮ると。
恭平に代わって貰って錫杖で岩を打ち据えてもらう、当然普通に叩きつける威力と、収納を使ったの殴打の違いをスマホに収める。最後はいよいよ百花の音速チャレンジだ。
釣竿の先を百花に渡しながら雫斗が注意する。
「これ只のカーボン製だから僕たちが加減しないで使うと、折れちゃうかも知れないから気を付けて使ってね」
「分かっているわ、木刀から試しても良いかしら?」と百花が言い出したので了解した。木刀から繰り出される礫は、どんなに頑張っても音速を超える事が出来ず、竿先へと変えた。軽く振ってみて調子をみた後、礫を放ち始めた、明らかに違う空気を切り裂く時の音の違いを確認した百花はニンマリと顔を綻ばせた、それを見た雫斗は”あっ、此れは竿先が持たないな”と確信した。
しだいに高鳴っていく音が、いきなり大音量で響き渡る、音速を超えた様だ。「これ、面白いわ!」と言いながら今度は空へと向かって放ち始めた。
大きな音を響かせながら、空へと駆け上る礫達が100mしか無い空の境界で波紋を広げていく、その時突然”ボギっ”と竿先が折れる、弥生と恭平は”やっぱりね”という表情をしていた。
第15話(その3)
唖然として折れた竿先を見つめる百花、雫斗は予測して居たとはいえ 無残な結果に落胆は隠せない。
「ごめん、折れちゃった!!」と百花。
悪気は無いのである、強いていえば今の百花や雫斗達にはカーボン製の竿先は強度不足なだけなのだ、それを考えるとネットで注文した短鞭は強度的に大丈夫なのか疑問が残った。
「いいよ、まずその竿先では強度的に持たない事は織り込み済みだし、だけどな~。父さんから貰ったその日に、壊れてしまうとは思わなかったよ」としょげ返る雫斗に、何をお思ったのか百花が。
「これあげる!」と渡してきたのは木刀と飴玉数個と、トレントモドキの魔晶石だった。
百花なりの謝罪なのだろうが、”その飴玉は自分が上げたやつじゃん”と思ったが、さすがに要らないと突っぱねる事はできないので、今度何か検証する時に付き合って貰う事で折り合いをつけた。
「どんな武器を想定してその釣り竿を持ってきたのですか?」
そのやり取りを聞いていたロボさんが聞いてきた。
「鞭なんだ、一応革製の物を注文したんだけど強度が不安だよね?」と雫斗が言うと。
「確かに鞭の類では金属は使えませんね、柔軟性が求められますから」と残念そうなロボさん。
「僕たちは帰るけど百花達はどうする?」
竿先が壊れた事も有り雫斗とロボさんは帰ることにした、百花達はもう少し収納の攻撃力を試したいからと残ることにした様だ。
ダンジョンの入り口に向かいながら、ロボさんと二人で短鞭の強化について話し合う、細いワイヤーをメッシュ状に編む案や強度のある鋼を細く束ねて皮で編み込むなど色々な事を話したが、遣ってみない事には分からないと言う事で、注文した鞭が来てから考えることにした。
ダンジョン前の受付に着くと、芳野先輩と野島先輩が猫先生と話しながら待っていた。
「遅くなりました、気分はもういいのですか?」と雫斗が聞くと。
「大丈夫よ、30分くらいで回復したわ」と言うので、再びダンジョンへ。
1階層の入り口に近い広間で、一人ずつ収納から取り出してもらう、芳野先輩は62キロで野島先輩は40キロとばらつきがあるが、取り敢えずすべて出し終えた。心配していた魔力酔いも無く安心したが、もう一度収納してみたいというので 二人がもう一度収納し始めた。
出した分収納しても大丈夫そうなので、そのまま限界まで収納してみたいというのでやってもらう。驚いたことに限界まで収納して計測迄出来た、芳野先輩が92キロで 野島先輩が108キロだった。大体体重の2倍強の収納は変わらない様だ。
「でも、どうして今度はなんとも無かったのかしら?」と野島先輩が聞くので。
「多分だけど、魔物を倒した直後は経験値的なものが体に反映されていないのかも、それで時間と共に馴染んでいくのかもしれません」と雫斗が自分の考えた事を話す。
あながち間違いじゃない気がする、雫斗がスライムを50匹以上倒して収納を覚醒させたのは、前日のハイオークを倒した後だったので、魔力酔いを起こさずに済んだのかもしれない。
そのことから魔物を倒していない初心者が収納を覚醒させても、最大量収納する事は最低一日は時間を置くことが望ましいと報告することにした。
二人が収納の投擲を教えてほしいというので、基本のやり方を説明して見せてあげた、しばらく試していたが時間は掛かっても二人とも出来た。ダンジョンの小石を使っての収納からの投擲は、習得しやすいようで、出来なかった人は(ロボさん含む)いない、カードの機能はすべての人が使える様だ。
ロボさんが、大ハンマーを使っての収納の打撃を披露して、此れなら時間もかからずスライムの討伐が出来る旨教えて、今日は帰ることにした、芳野先輩も野島先輩も、時間が有れば魔物を倒して自分を強化するつもりの様だ。
雫斗は家に帰る前に、採掘した鉱石を鍛冶工房に下ろすために工房へと向かっていた、当然ロボさんと一緒だ。そこで”トオルハンマー”の改造について話あっていた。ロボさんの考えは、攻撃に関しては重量での叩きつけで構わないが防御に一抹の不安が有るらしい。
つまり棒術の様に使うには重量のバランスが悪く、いまいち使いにくいそうなので中間に重りを配置し移動できるようにして、ハンマーヘッドと持ち手のバランスを取りたいらしい。
つまり両端の重さの違う大きめのバトンの様なものになるらしい、雫斗はいまいち想像できなかったが、打撃に関しては重りが移動するらしく攻撃力は倍増するらしい、承諾してそのまま作って貰う事にした。”トオルハンマー”がどの様に変わるのか楽しみである。
工房で鉱石を換金してもらう、直接持ち込む探索者がいるのでその装置も置いてあるらしい、”トオルハンマー”が出来上がるのは4・5日掛かるらしいので、出来上がったら連絡をもらう事にして雫斗は帰って行った。
その夜の夕ご飯の後、母親の悠美に報告を兼ねて収納で出来る事を録画した動画を見せる。
「あら?百花ちゃん良く承諾したわね」と不思議がっていたが。
「竿先を使った投擲を交換条件にしたら、即答で承諾したよ。協会の人以外の閲覧は禁止だって」と雫斗が言うと納得していた。
最後は竿先が折れるところで終わって、父親の海嗣が複雑な顔をしていたが何も言わなかったので、スルーする事にした。
芳野先輩達の事を報告した後、悠美がスマホの動画を自分のタブレットに移しながら聞いてきた。
「此れで終わりなの? 他に報告し忘れている事は無いでしょうね?」
「後、収納したポーションや飲み物も直接飲む事が出来るよ、練習しないと大変な事になるけど」と言葉を濁す雫斗。
動画を移し終えたタブレットに、書き込みながら悠美が聞いてくる。
「大変なことって、どうなるの?」雫斗は話す内容を考える、下手に話すと自滅しかねない。
「飲み込める量を超えると吹き出してしまうんだ、最初は量の少ない、栄養剤みたいな物から試した方がいいよ」
思い出して、笑いを堪えるのに必死な雫斗を不思議そうに見ながら。
「そうなの?」と追及してこなかったのは有り難かった。
「他には?」と聞かれた雫斗は。
「体に付いた汗や泥などの汚れも収納出来るね、ただ気分的な物だけど、収納の中にその汚れが認識できるんだ。すごく気持ちが悪い」と身震いする。
「それから、これが本来の使い方だと思うけど装備の出し入れだね」と立ち上がり、百花達にみせた鍋の蓋と木刀を使った、チャンバラ踊りを披露して、最後に高速着替えで幕を閉じた。
「分かったわ、あなた達が常識はずれだって言う事が」と悠美母さんがため息を付きながらその日は終了したのだった。
第15話(その5)
翌日の放課後、雫斗は敏朗爺さんの家に来ていた。色々な武器に詳しい敏朗爺さんに、鞭の事を聞くためである。
「またおかしな事に興味を持つ物だの、確かに一本鞭を振るうと先端の速度は音速を超えるが、重さが無い分破壊力は期待できんぞ」と敏郎爺さん。
「別にそれで魔物を倒す訳じゃ無いんだ、どうやって使うのか聞いてみたくて」と雫斗が言うと。
少し考えて奥からジャラジャラした物を出してきた。
「九節鞭と言う、見ての通り棒状の鎖だな。持ち手と反対の先端に錘がついておる」
5・6センチ位の金属の棒状の先端が輪になっていて、それが繋がっていた。
「使い方は先端の錘を振り回して敵を寄せ付けず、隙を見て一撃を入れ、また振り回すを繰り返す。鞭とだいぶ違うが、どの道振り回して覚えるしか無いからの、ただ先端の錘のせいで速度は期待できんがの」と付いてきなさいと外へ出た。
「鞭も同じで しなる事を利用して威力を上げる。また関節があるため巻き込んで打撃を通すこともできる」
基本的な動きと型を軽く見せた後、標的を模した木の杭に先端の重りを叩き込む。
前から後ろに振りかぶったかと思うと、すかさず木の杭に叩きつけると同時に引き込む。そうする事でしなりが生じ、先端の錘が唸りを上げて木の杭にめり込む。
引き込む動作をそのまま続けて錘を引き抜くと、その勢いでそのまま背後へ回して、横から叩きつけると木の杭を巻き込んで先端が正面で弾ける。確かに重さがある分破壊力はあるが音速を超えるスピードは無い。
「やって見ろ」九節鞭を渡された。
最初はゆっくりと自分を中心に八の字を描くように重りを振り回す、右前方から背後に回った重りが後ろから頭上を越えて左前方へ、それからは左右左と繰り返す。慣れてくると敏郎爺さんがやっていた型をなぞる。
ひじや手で九節鞭の先端の重りの動きを変えながら、歩法を使って移動する。まるで周りを囲まれた状態から、起死回生の一撃を見舞うその時を待っていたかの様に木の杭に放つ。”ガシン”という音と共に重りがめり込む、すかさず引き抜き、また振り回しながら移動する。それをしばらく繰り返す雫斗。
その様子を呆れた様に見ている敏郎爺さん、自分が長年かけて習得してきた技を、あっさりと物にしてしまう事に。これもダンジョンの恩恵の一つだと言ってしまえばそうなのだが 割り切れない感情が有るのも事実だ。しかし年を取った自分たちが、こうして元気に動けているのもダンジョンの恩恵だとしたら、確かにいい事なのだろうと納得してしまうのだった。
暫く九節鞭を使って木の杭相手に練習をしていた雫斗が、九節鞭を持って敏郎爺さんに聞いてきた。
「これいい武器だね、通販で買えるかな?」敏郎爺さんは、笑いながら。
「わしは使わんからお前にやるよ、大事に使いなさい」というので思わず。
「じゃー誓約書を書いてもらっていいかな?」と言ってしまってから気が付いた、またやってしまったと。
「誓約書?。なんじゃそれは?」と敏郎爺さん。
知らないからそう聞くのは当たり前だが、収納のことはあまり話すなと言われている手前どうしようか考えたが、どうせいつかは分かる事だからと話すことにした。
「えーと、このダンジョンカードの機能の一部で、触れている物が自分の物だと収納できるんだ」と雫斗はダンジョンカードを見せた。
それから体重計、籠、鍋(蓋つき)、折れたハンマーの持ち手を次々収納から出し足り収納したりを繰り返して見せた。
あんぐりと口を開けて、次々と手品の様に出てくる物を見ていた敏郎爺さんが我に返ると。
「たまげたの~、カードの機能の一部というと誰でも使えるのかの〜?」と聞いてきた。
そこで雫斗はこれまで分かっている事をかいつまんで話した。
「本来なら一週間ぐらいかけて、スライムを倒しながら力と経験値みたいなものを身に付けてから50匹を倒して収納の覚醒を促すのが基本なんだと思う」そう雫斗が話すと。
「成る程のぉ〜、確かにいきなりスライム50匹を倒すのはしんどいのぉ〜」と敏朗爺さんは納得した。
家へと入り九節鞭を雫斗に譲る事を紙に書いて出てきた。
「これでいいかのぉ?」雫斗が受け取り内容を読んだ後。
「うん、大丈夫」と言いながら九節鞭を収納へと仕舞うと。
「確かに所有権が移っておる」それを見た敏朗爺さんが呆れた様に言う。
本来の目的とは違うがよき収穫を携えて、ダンジョンへと向かう雫斗。昨日ネットで調べて分かった事は、鞭は武器ではなく馬や家畜を誘導するための道具でしかない、叩くためではなく、あの音速を超えた時の大きな音で脅かして、移動させる為に使われていた様だ。
昔は奴隷や犯罪者への罰として使われた事もある、殺傷能力は無いが、確実に痛みを伴う鞭は使い勝手が良かったのだろう。
映画やドラマで主人公が鞭を武器の様に使っていたイメージがあった雫斗は”やはり収納を使った礫の発射機として使うしか無いか?”と思い始めていた。
短い短鞭は取り回しがいいので中間での連続の投擲に、一本鞭は最もスピードが出そうなので長距離の狙撃用に、そして九節鞭は短距離での防衛と攻撃にと使い分けようかと考えていた。
ダンジョンに入り1階層の入り口から少し離れた広間で、日課のスライムの討伐をはじめる、”トオルハンマー”が無いので投擲で倒そうと思ったが、九節鞭を思い出した。取り出して 軽く型をなぞる、歩法で移動しながら収納に入れたり出したりを繰り返す、もし誰か見ている人がいたなら、おかしな踊りを踊っている危ない人だと思った事だろう。
振り回しながら収納への出し入れに慣れてくると、収納から出す時に加速させるイメージを加えていく、段々と速さが増していくおかしな踊り、そのなかで空気を切り裂く鋭い音が混じり始める。
手応えを感じた雫斗は九節鞭でスライムを倒してみる、頭の中で九節鞭がしなっていくイメージで最後の瞬間に解き放つ、”バシッ”と鋭い音と共にスライムにぶち当たる九節鞭の重り。当たった瞬間に収納して、しならせるイメージを繰り返していく。最初は4・5回で倒せていたスライムが、慣れてくると1回か2回で倒せるようになってくる。
スライムを50匹倒した雫斗だったが、時間が有るので、そのままスライムを倒してみることにした。合計で148匹、1時間半で倒した数にしてはいい方だと思った。
考えてみると、先週の土曜日にハイゴブリンとハイオークとオーガに遭遇してから、まだ1週間しかたっていないのだ。その間に起こった怒涛の展開に普通なら呆れてしまうものなのだが、当事者である雫斗には自覚が無かった。
翌日の土曜日に注文していた鞭が届いた、開封して並べてみた。短い短鞭、騎馬鞭ともいう、持ち手から先の方へ細くなっている、その先は平たい皮が付いていて、馬を傷つけることがない様になっていた。
一本鞭、持ち手から4メートルほどの長さでだんだん細くなるように、皮を編み込まれていた。
最後に九節鞭を並べて、考える!名前をどうするかと。おなじ鞭なので兄弟として名前の頭に一条を与えて、最も短い鞭は騎馬鞭だから”一条短馬”にした。
一本鞭は長くて音をだすので”一条長鳴”。最後の九節鞭は鋼を使っているので”一条鋼勢”とした。
相変わらず名前を付けるのが下手な雫斗だった。
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