ダンジョンを探索すると、いろいろな事が分かるかも。
第1章 初級探索者編
第13話(その1)
高崎雫斗は、荒ぶる天照大御神の怒りを耐え切った。なんとか襟首をつかまれ揺さぶられる事による首への衝撃を抑えきったのは良いが、頭の中身を揺さぶられた事による、大怪我は拭えず(主に精神的な)これ以上ダンジョンの探索(収納の検証)をする事叶わず、断腸の思いで断念する事にした。
雫斗達は、あれから直ぐにダンジョンを後にした、男女間でのなんとも言えない気まずい雰囲気も、百花のお願い(脅迫)によってだいぶ解消された。
「誰かに言ったらブチコロス」
と言われた雫斗と恭平には、一択しか無かった。
ダンジョン受付前で分かれて、雫斗は今弥生と一緒に歩いている、別にデートをしている訳では無い、負傷(持ち手が折れただけ)した雫斗唯一の武器”トオルハンマー”をどうするか弥生の祖父の麻生京太郎に相談する為である。
弥生は今、祖父母と一緒に暮らしている、母親は早くに病気で亡くなっていて、父親は海上自衛隊で働いているため海上勤務が多く、祖父母に育てられていた、祖父の麻生京太郎は斉賀村で鍛治工房を営んでいる、そこで京太郎に相談する事にして工房へと向かっている訳である。
「だけど、なぜ百花は僕と恭平にだけ釘をさしたんだ?、弥生も見ていたのに!」と雫斗が話しかけた。あんなことがあったから道すがら黙っていると気まずいのである。
「あら!、女の子の友情は相互理解の上に成り立っているのよ、私が裏切って話す事は無いわ」
と当然だと話す弥生。
「ふぅん〜、女の子の友情って物凄く硬いんだね」
と感心して話す雫斗に、弥生から爆弾発言が飛び出した。
「女の子同士だと色んな事を話すの、普段は日常の出来事を大袈裟にして話す事が多いけど、たまに自慢話をしたくなる時がくるの、その一環で逆に失敗談なども話すのよ。つまりお互いがお互いの秘密を共有しているのよね、私が百花の秘密を話すと百花が私の秘密を話しかねないわ、だから私が他人に百花の今日の出来事(鼻から水を大量に噴き出した事)を話をすることはない、そう言うことよ。でも百花の事だから時間が経てば、自虐ネタにするでしょうね」
それを聞いた雫斗は驚愕の表情を浮かべて立ち止まった、”女の子同士って、かつて大国同士が平和を装い手を結んでいるその裏で、お互いがお互いに核兵器を向けあっている事を地でやっているの?、怖えぇぇ〜”。
恐怖に慄いている雫斗を見て弥生が「百花の秘密を一つ教えましょうか?」と悪い顔をして食指が動く様な事を言う。聞きたい!聞きたいが、それを聞くと死刑執行の書類にサインをした事に為りはしないか?、葛藤する雫斗の返事を待たずに弥生が話し出す。
「この間ハイオークと戦ったでしょう?、その後のオーガの咆哮で、百花少しちびっちゃったらしいのよ、探索者協会のトイレで確かめてみたそうよ、少し滲みているぐらいで大した事無かったらしいのだけど、その時履いていた下着、裏返しだったらしいの。後日教室の女子会で”もしその時大怪我をして、病院に搬送されていたら、治療台の上で恥を掻いていたわ”そう言って大笑いしていたわ」
百花の秘密と勿体ぶって言うから、雫斗は聞いたからには生涯誰にも言わず、最後は墓場まで持って行かなければいけない、そう言う重い話だと身構えていたが”寝ていてトイレの夢を見て、慌てて起きたらもう少しでオネショするところだったわ(笑い)! みたいな話と大差ないぞ”とがっくり来た。
そんな雫斗を見て「これが、乙女の秘密よ(ハート)!」と言って歩き出す弥生。
「待て待て待て、なぜ今僕にその話をする?」と雫斗が聞くと。
”ん〜〜” と少し考えた後、弥生が。
「一つは飴玉のお礼かな?、あと一つは雫斗の心のケア?、これを聞いたら少しは百花の今日の仕打ちの(今でも頭がグワングワンしている)、溜飲が下がるでしょう?」と言う。
確かに、その話を知っていれば次、百花に会った時に”プププっ、聞いたぞお前、オーガを見てチビって居たって?、しかもパンツを裏返しで着ていたなんて笑えるぅ~~”、て言う事を想像してせいせいする事も出来る、(現実には絶対に、ぜぇたぁいにやらんけど、殴られるから)。
弥生の真意が分からず、びびりながら「もし仮に、もし仮にだよ、僕が誰かに話してしまったら?」と雫斗が聞いてみた。
「お勧めしないわね、百花の怒りは今日の比じゃないわ。貴方絞められるわよ」と即答する弥生。
「それに、私は明日百花に、雫斗に百花がちびったことを話したって言うもの」
訳が分からず戸惑う雫斗に、事も無げに言う弥生。
「百花はね、ああ見えて思いやりがあるの、直情型だから、感情に流されて手が出ちゃうけど、今頃ベッドの上で顔を覆って悶えながら反省しているわ。だから明日、反省して雫斗に負い目があるうちに昨日の事はやり過ぎだって注意するの、そして雫斗が落ち込んでいたから、あなたがチビっていた事を話しちゃった、てへ!と言うと大抵許してくれるわ」
うわぁ〜百花、弥生の手のひらの上で転がされているわ〜。
「で、雫斗が秘密を誰かに話すとだったわね、勘のいい百花は誰が震源かすぐに探し当てるでしょうね。そうしたら百花が怒り狂って貴方に報復する事になるわ、そうしたら私は当事者だし、ヘラヘラ笑う訳にもいかないから、一緒に糾弾するでしょうね」
それを聞いた雫斗は ”うっわ!、まじ半端ねぇ〜、秘密の暴露って地雷じゃ無いか”と身震いするが、つづきがあった。
「その後で、私と百花は貴方のお母様に泣きながら陳情するの、”信じて話したのに、裏切られた”と、お母さん怒るでしょうね〜。どう、私と百花に突き上げられた後にお母様のお説教があるのよ。嬉しいでしょう?」
と満面の笑みで微笑んだ後、歩き出した。
話している内容と、弥生の笑顔のギャップに驚愕している雫斗は、弥生の後ろ姿に悪魔の所業を見出していた、香澄や千佳の小悪魔的な行いは可愛いが、成長した姿を想像してやるせ無い気持ちになる、あの子達もいずれ成長したらそうなるのかと、今雫斗の女の子の幻想が”ガラガラ”・・・いや違う”グワァラン、グワァラン”、と大きな音を立てて崩れていった。
第13話(その2)
家に帰り着いた弥生は、奥にいるお婆さんに帰った旨を伝えると、雫斗と連れだって離れにある工房へと歩いて行く。この辺りは村のはずれに位置している、村自体が農作物と林業を主産業にしている事も有り家同士はかなり離れているが、この工房は鉄を打って成形するため音がうるさいのだ。
必然的に、他の家との距離が離れている事は当然といえる、鍋やフライパンなどの生活必需品は大量生産されるが、こと武器や防具に至っては、一品物が多くこの時代は昔の様な鍛冶屋が重宝されてきているのだ。
なぜ、銃火器全盛のこの時代に、時代錯誤な刀や槍、弓矢などの昔の武器の需要が有るかというと、近接戦闘でないとダンジョンでの経験値の取得に差が出る為だ。数値として認知されてはいないが、5年間の経験則として多くの人が周知している。
しかも銃火器はダンジョン外での魔物の討伐には向いているが、ダンジョン内では誤作動が多くなってくる、雫斗達をオーガから助けた探索者もけん制として小銃を使ってはいたが、最後の止めは大剣だった。
雫斗達がたどり着いた工房では職人達が色々な作業をしていた、その中の一人に弥生が声をかける。
「お爺ちゃん、今いいかな?」
「おお!、弥生か今日は早いな、何かあったのかな?」
弥生が工房に顔を出すのは珍しいらしく、驚いた様に工房の主の麻生京太郎が答える。
麻生京太郎はダンジョンが発生する前は、此の雑賀村で刀鍛冶の工房を開いていた。ダンジョン発生後はダンジョン産の素材や鉱石に興味を持ち、探索者の要望もありダンジョン産の素材で、防具や武器の制作に打ち込んだ。
当初ダンジョンの探索が進んでいない事も有り素材自体が少なく、親友で同郷の、敏郎と共に自ら素材を取りに行っていたほどの猛者である。
「雫斗の武器が壊れちゃって、その相談よ」簡単に説明した弥生の後に「今晩は、お久しぶりです京太郎さん」と雫斗が挨拶する。
「おう!、雫斗か?暫く見ないうちに大きくなったな、丸腰に見えるが何処にあるんだ?」京太郎には一週間前に売店で出くわした、”大きくなったな”は京太郎の常套句みたいなもので、子どもにする挨拶の代わりだ。
雫斗はおもむろに収納から大ハンマーの持ち手の折れた、ハンマーヘッドを取り出して京太郎に渡した。
「雫斗、こりゃ武器じゃね~、道具だ・・・・・・おい!今どこから出した?」
当たり前に雫斗は収納から出したが、まだ発表前で秘密だった事を思い出した、しかし見られたからには後の祭りだ。それに”トオルハンマー”の改良には、装備収納の機能を説明しなければいけない、今更誤魔化しても無理だと思い直し話す事にした。
「まだ協会が確認しているから詳しく話せないけど、Dカードの機能の一つなんだ。僕は装備収納と呼んでいるけど、自分の持ち物限定で、触れている物全て収納出来るんだ。持てる重さに制限はあるけどね」
そう言う雫斗に目を見開いて色々聞いてくる京太郎さん、詳しく話せないけどって言っているのにお構なしだ。
「なんと!、では儂でも使えるんだな?。どのくらい入る?。大きさは関係ないのか?。全てと言ったか?生きている物も入るのか?」
最後の”生きている”に反応した雫斗は、”そういえば、生き物で試していないや”と、何気なく隣にいる弥生に触れてみる
「あっ、生き物は無理みたい」
と言った後間違いに気がつく、弥生って僕の持ち物じゃ無いやと、しかし遅かった。
収納されそうになった弥生は、憤慨して雫斗に詰め寄る。
「今、私を収納しようとしたわね!、何を考えて居るの。間違えて収納出来ていたらどうする積もりだったのよ?、信じられない!!」
激しく怒る弥生に、流石にあれは不味かったと反省した雫斗だったが、苦しい言い訳を始める。
「えぇ〜と、しゅ収納の定番だから、生き物は無理かな〜と思っていたし、自分の持ち物限定だからまず入らないから、それに多分収納の中の時間は現実世界と一緒だから大丈夫のはず」
「じゃあ〜貴方も試してみましょう!」
そう言った弥生は雫斗の二の腕を両手でガシッと掴み「収納!、収納!、収納!、」と連呼する。
確かに気持ちのいい物ではない、罷り間違って収納されては堪らないと
「やめてよ〜、悪かった!。悪かったってもうしないから!」
喧嘩を始めた二人に焦れた京太郎爺さんが癇癪を起した事により雫斗は救われた。
「ええぃ!!、辞めんかー!痴話喧嘩なぞ始めよって。雫斗!、さっさと儂の質問に答えんかー!」
京太郎爺さんの一括で、弥生の攻撃は止まったが、”ふんっ”と言ってソッポを向いてしまった。仕方がないので雫斗が今日分かった事を説明した、もちろん百花の黒歴史は話さない、まだ死にたくないから。
第13話(その3)
雫斗の話を感心して聞いていた京太郎だったが、花火がない事を聞くと残念がった、「花火が無いのなら仕方ない、悠美ちゃんが仕切っとるんなら時間は掛かるまい、それより収納から出すタイミングで、威力が変わるとはどういう事だ?」。
雫斗は、騒音対策用に壁に積まれた土塁に向かって「やって見せるよ、あそこの土壁にめがけて投げるね」最初は普通に手に持って投げた、当然少し早いだけの投擲だ土壁に当たって跳ね返った。
「今度は収納を使った投擲だよ」雫斗は軽い腕の振りで手首のスナップを効かせて投げた。タイミングが良かったのか、威力が上がったのかは分からないが、すさまじい速度で土塁にぶつかった小石は、土の中にめり込むと同時に、爆音と大量の土砂を吹き上げた。
京太郎と弥生は勿論の事、投げた雫斗も唖然とする中、帰り支度をしていた職人たちが、わらわらと集まってきた。
「まずい!どうしよう」
集まってきた人達に説明できない雫斗がおたおたしていると。
「うるさい!仕事がないなら帰れ!!、邪魔だ!」
京太郎の一括で集まって来た人たちを帰らせてしまった、何事もなく済んだ雫斗がほっとしていると。
「これが収納の力か・・・凄まじい威力だな。・・・誰にでも出来る様に成るというのは本当か?雫斗」京太郎が感心して聞いてきた。
「僕は偶然やり方を見つけたんだ、そんなに難しい事はしていないよ、弥生小石拾っていたでしょうやってみる?」
雫斗が弥生に聞いてみた、少し考えていた弥生だが試してみる事にした様だ。
「最初は軽く投げる感じで試して、タイミングを掴んだら収納から勢いよく飛び出して行く小石を想像してみて」
雫斗が試してきた事を教えてみた。
少し瞑想してイメージを確認してから、軽く投げる動作をしていた弥生は、最初はタイミングがつかめず、飛ばなかったり山なりだった小石が。コツをつかむとドゴ~ン、ドゴ~ンと土塁の土を削っていった、投擲や弓矢など遠距離の武器や攻撃を得意としている弥生の、余りにも早い習得に雫斗自身軽いショックを感じていた。
「これ面白いわ~、癖になりそう(^^♪」
と言いながら弥生がもう一度投げようとして京太郎に頭をはたかれていた。
「ばかもん!、もうよさんか!、壁が壊れるわ」
「今更ダンジョンの事では驚かんと思っておったが、Dカードの使い方自体に、これほどの事が出来ようとは思わんかったな。しかし雫斗よ、よく分かったな?」
自分のDカードを取り出して 繁々と見ながら聞いた。
「本当に偶然なんだ、それよりそのハンマーヘッドなんとかならない?、振り抜く度に折れると不味いんだけど」
雫斗の目的を思い出して”おお!、そうだった”と言いながら歩き出した。
「持ち手が木材なら戦闘で使えば折れて当然だが、要は戦鎚として作り直せば良いだけだ」
雫斗にしたら戦いで使っているとは思っていない、確かにスライムを殴るのだから戦闘行為だと言われるとそうなのだが、動かないスライムに対して、ただ大槌を振り抜くだけの作業なのだ。
京太郎は、そのまま工房へと入り奥を目指した、他の職人は皆帰ったと思っていたが奥の方で一人作業をしていた。雫斗はその人物を見て驚いた ロボット然としたゴーレムだった、普通ゴーレムは人や動物の様な生き物の義体を好む、ロボットの格好でいるゴーレムを初めてみた。
そのゴーレムは一心不乱に槌を振るっていた、燃え盛る炉の中の金属の板をやっとこで掴み、金床の上で叩いては形を整え炉の中で熱しまた叩くを繰り返していたが、その槌振るう速さが尋常じゃない。人の2倍以上の速さで叩くのだ、赤く染まった平たい金属を、繁々と眺めたかと思うとおもむろに水の中へと突き入れ、ジュワァという蒸気の立ち込める中、粗方熱の取れたところで引き上げた。
じ~と出来具合を確かめていたそのゴーレムは、カランと今まで作っていたであろう平たい金属の入った箱の中へ投げ入れた「ロボ、そろそろ終いにしなさい」そう言った京太郎は作られた平たい金属を手に取って眺めた。
「ふぅむ、出来はいいが、まだまだムラが在る、もう少し均一に仕上げる事だ」
そう言う京太郎のアドバイスに素直に応じるロボットさん。
「分かりました、マス・・・師匠、ところで後ろの方はどなたですか?」
眼を瞬かせている積もりなのか、目の部分にある電飾を点滅させて聞いてきた。
「そうだな、まずは紹介しよう、こ奴はゴーレムの”ロボナノカ・ソウカネ”フリーのゴーレムだ、ロボと呼んでいる。ロボ、弥生は知っているな、その同級生の高崎雫斗だ、ロボお前に頼みがある、これを使って戦槌に仕上げてくれ、二人で相談しながら作り上げると良い、雫斗も其れで良いか?」
そう言ってハンマーヘッドを、ロボに渡した京太郎爺さんは二人の橋渡しだけで後は任せる様だ、雫斗にしても料金の問題も有るので助かるが、初めての人?ゴーレムに委縮していた。
雫斗とロボがお互い挨拶を交わした後。
「おおおっ!ついに師匠の課題が始まるのですね燃えてきました、雫斗さん頑張りましょう 」
と意気込むロボさんだが、雫斗にしたら本当に良いのかと戸惑っている。
「僕は助かるのですが、お値段はいかほどで?」
と情けない声を上げる雫斗に、大声で笑いながら京太郎爺さんが「それも二人で決めれば良い、いい勉強になるからな、どうせ材料は持ち込みを考えているのだろう?、収納が有れば大量に持ち込めるからな。ついでにここで換金すれば戦槌の代金も出来て、一石二鳥だな」
おう、見透かされている、雫斗もそのつもりでいたのだ。
「収納?、収納スキルが見つかったのですか?、凄いです!大量ってどの位ですか?」
収納の言葉に反応したロボが、矢継ぎ早に聞いてくる、それを聞いた雫斗は確信めいた事を思い立った”そうだよな、たかだか100kgや200kg程度だと資源の運搬として意味がないな、此れはやはり有るな?20tクラスオーバーの収納が”。
「落ち着けロボ、それはスキルじゃない、Dカードの機能の一つだ」
そう京太郎爺さんが言うと「機能?、このカードの?」とゴーレムのロボさんさんがカードを出して不思議そうに言った。
「えええ~、ロボさんDカードを持っているんですか?、驚きました」
雫斗が驚愕して聞くと。
「ええ、一般には伝えられていませんが ゴーレム系アンドロイドは、魔物を倒すとDカードが出現するんです、私たちが社会の一員として認められた要因の一つです」
とロボさんがしみじみと話す。
ゴーレムは作られた当初、単純に知恵のある動労力として扱われた、しかし初期のゴーレムが奮起した、”我々は奴隷ではない、人と共に歩む隣人である。ゴーレムの権利を認めよ”と、羽陽曲折の末現在ではゴーレムの人権?(ゴーレム権?)を法律で認める事と成ったのだ。
雫斗は、魔物が、いや元魔物がⅮカードを取得できることについて、また検証することが増えたとげんなりしていると。
「雫斗さんは、どの様な戦闘スタイルなのですか?」
と呆けている雫斗にロボさんが聞いてきた。
「決まってはいないけどスピードを生かした近接格闘かな?、でも遠距離からの高威力の大ダメージがいいかも、接近戦は怖いから」
ロボは手渡されたハンマーヘッドを見て不思議そうに聞いてきた。
「どれにも当てはまらないのですが、此れはどう使うのですか?」
そうに聞かれた雫斗は、恥ずかしそうに。
「あっ、それはスライム対策で、単純に叩いて倒そうかと思っただけで、戦闘スタイルと関係ないです」
と、しどろもどろに答えた。
「おおおっ、それは奇特な方です打撃に強いスライムを打ち倒そうとは、考えませんでした。ちなみに何回ぐらいで倒せましたか?」
とロボさん、雫斗は少しばかにされたのかな?とは思いはしたが。
「25回から30回の殴打で倒せました、頑張れば1時間で10匹は倒せそうです」
と此処は素直にと答えた。
第13話(その4)
その後 ロボさんに今まで分かった事を話すと。
「なるほど、これは誰もが試さないですね、そんな事。この世界のゲームやら物語が悪影響を及ぼしています、スライムを倒して強くなれるなんて考える人、一人もいないですね。しかし雫斗はさんは良く思いつきましたね」
なんだかリスられている様な気がしないでもないが。
「たまたまだよ、それより京太郎さん、裏に積まれている廃材の中にコインが有ったんだけど、少し分けて貰えませんか?」
「何に使うんだ?そんなもん」
と怪訝な顔で京太郎爺さんが聞いてきた。
「礫の代わりにしようかと思って」
そういう雫斗に残念そうに。
「ニッケルの合金だから脆いし、それに平たいからまっすぐは飛ばんぞ」
とダメ出しをする。
「うん、その脆さで投げた時にバラバラに為らないかと思って、散弾の代わりに出来ないか試したくて」そう言う雫斗の言葉に少し考え込んで。
「なるほど、要は素材の使い方か?、あれほどの威力だからな、礫で何か他に思いつくことは有るかね?」
と京太郎爺さんが何気に聞いてきた。
雫斗は 今まで考えていた事をつらつらと話し始めた。
「石だと脆いので固い出来たら鍛造の鉄かな?でも使い捨てだから値段的に安い方がいいかもしれないですね、後大きさを変えて打撃用と貫通用で分けたいです、貫通用は音の出るものと出ないものに分けたいかも、感の良い魔物だと音だけで躱してしまいそうで、けん制の意味で同時に放つと効果があるかも知れないですね・・・・」。
語り始めた雫斗が三人の呆れた視線の中で言葉に詰まると。
「良くこれだけの事を考え付くものだ、一度お前さんの頭の中を見て見てみたいわ?良し、まずは試作だな。お前達は今度ダンジョンにいつ潜る?」。
聞かれた雫斗は 気まずそうに弥生と見合わせて話す。
「4日連続はきついかも、明日は休んで休養かな?」
と弥生に言うと、弥生は少し考えて、百花のことが有るから明日は不味いし。
「そうね、一日は開けた方が無難ね」と意味深げに返す。
訳の分からない京太郎爺さんは、怪訝な顔をしていたが。
「ふむ、一日あれば色々と試作が出来るな、丁度試技(テスト)の出来る人物を確保できたしな」
どうやら弥生は試作のメンバーに組み込まれた様だ。
「え~~、私が試すの?」
と愚痴る弥生に。
「何を言うとる、あれだけ土塁を破壊しおって!少しは手伝わんか!!」
とすごい剣幕の京太郎爺さんに弥生は仕方ないと諦めて。
「分かったわ、その代わり短弓に使う矢じりを都合して頂戴」
流石は弥生だ、転んでも絶対にただでは起き上がらない。
「まーそれぐらいならよかろう」
孫には甘い京太郎爺さんだった。
炉の火を落として帰り支度をしていたロボさんが重し予想に言う。
「外の爆音の犯人は お嬢さんでしたか?これは帰りに土塁を見るのが楽しみです」
真顔で(ロボット顔なので変わらないが、多少眉毛が上がっているような気がする)そう話すと、弥生が顔を赤らめて。
「私だけじゃないわ、雫斗もその一人よ」
と自分だけでは無いとアピールする。
「僕は一回だけで、残りは弥生がやったんだけどね」
とすかさず真実を話すと、裏切り者という目を弥生が向けるが雫斗は気にしない事にした。
翌々日の午後3時半に売店で落ち合う事をロボさんと決めて、帰宅する事にした。工房を閉めて土塁を見たロボさんの感嘆の声に見送られて、家路に着く雫斗だった。
家にたどり着くと、悠美母さんは帰っておらず、代わりに香澄が出迎えてくれた。良子さんが敏郎爺様の邸宅からの奪還に成功した様だ、元々香澄は寝床を変えたがらない、どのみち家に帰る事になるのだが、敏朗爺様は、香澄が成長すれば時勢も変わり、お泊まりも実現するかも知れないと、涙ぐましい努力を惜しまないのだ。
香澄と戯れて、今日一日の傷を癒した雫斗は香澄を連れてリビングへと向かった、そこでは父親の海慈が書類と格闘していた。どうやら配送関係の書類の様だ、良子さんと書類の仕分けをしていた海慈に母親の不在の理由を聞いてみた。
「ただいま父さん。母さんは、今日は戻らないの?」
雫斗の帰りを確認した海慈が渋い顔で。
「お帰り雫斗。終わりがけに厄介な案件が舞い込んだらしい」
と言う。「厄介な案件?」と聞き返す雫斗に説明する海慈。
「例の水中花火の製造元が、そのままの名前だとインパクトに欠けると、名前の変更を打診してきたらしい。スライム討伐特化の名前らしいんだが、それだと発案者の利権と絡んでくるから、その利益の分配で揉めたらしい」
と説明する海慈に「ふぅん そうなんだ」と吞気に生返事をする雫斗へ怪訝な顔で言い放つ。
「他人事だと思っている様だが、お前の事だぞ雫斗!」
目をぱちくりさせて驚く雫斗に。
「悠美も息子の為だから、引くに引けなかった様だ、最後は泣き落としに来た社長に”それなら無かったことにするから諦めろ”と突っぱねたらしい、花火にしても使い古された技術だから特許も無いらしいし、後は名前の商標権で優位に立ちたかったらしいんだが、相手が悪かったな、悠美だし」
最後の”悠美だし”のところは、相手を思ってか悲壮感が漂っていた。
「でっ、最終的に純利益の売り上げから2%を協会が、1%を雫斗が受け取る事で合意したらしい、良かったなうれしいぞ父さんは、息子が億万長者になれて」
と冗談めかして海慈が話す。
雫斗は億万長者とか商標権とかの言葉の意味が分かりかねて、呆けた顔をしていたが、それがおかしかったのか笑いながら
「商標権の期間は10年らしいからな その間はお金持ちだな、まあ悠美にしたら息子の稼いだ金の住民税と所得税で、雑賀村が潤うと息巻いていたがな」
話の内容が理解できるにしたがって、あまりの展開に震えていると。
「良かったェ~ですね、此れでェダンジョン攻略もぉ~はッかどりまっスね」。
と良子さんは事も無げに、何時もの事です見たいな口調で言う。
「サアさあ、おッ風呂に入ってぇ~きてくだッさいな、晩ッ御飯の支度ッをしますから」
ご飯の言葉を聞いた香澄が、とことこと自分の椅子へと歩いていくのを見届けながら、風呂場へと向かった雫斗だった。
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