ダンジョンを探索すると、いろいろな事が分かるかも。
第1章 初級探索者編
第12話(その1)
朝起きた雫斗が階下に降りると、居間で父親の海嗣がお茶を飲んでいた、日曜日以外で朝に海嗣が家に居るのは珍しい。
「母さんは?」
いない母親を不審に思い聞いて見ると。
「今日中に終わらせると息巻いて出ていったよ、あんな母さんを久し振りに見たね」
と海嗣が笑って言う、見ていると香澄も居無い。
「こんなに朝早く、香澄を保育園に連れていったの?」
と雫斗が問う、子どもの食事が遅い事を考えると不思議な気がした。
「悠美が午後に香澄を預かって欲しいと電話したら、今から連れていくと爺様が連れに来ていたよ、寝ている香澄を叩き起こして連れていった、朝ご飯も向こうであげるそうだ」
と海慈がおかしそうに笑う、”うわぁ〜”香澄は寝起きは悪くない、が空腹の香澄は機嫌が悪いのだ。
拗ねている香澄の機嫌を取りながら、食事をあげている爺様の姿を想像したら笑えて来た。
「私は食事ィの支度で、香澄おッ嬢様の拉致を防げませェェンでェした、悲しいィィでっスね」
最近の良子さん、ロールプレイを楽しんでいるのか、本気なのか分からなくなってきた。
「そうなんだ」
と雫斗は適当に返事をして洗面所に向かう。
食事を終えて、海慈と放課後の3時半に売店で落ち合うことを決めて家を出る。
教室に入ると恭平がいた、百花と弥生はまだ来ていなかったので、互いに挨拶した後、恭平に聞いてみる。
「昨日ダンジョンから帰るの遅かったんだね?、しばらく待っていたけど遅いから帰っちゃったよ」
まずは当たり障りの無い話から始める雫斗。
「百花がゾーンに入っちゃってね、付き合っていたら遅くなった、でも受付の木島さんは少し前って言っていたよ」
と雫斗とのニアミスをアピールする恭平。
「そうなんだ、ところで、今日もダンジョンに行くのかな?」
と雫斗はさり気無く、何事も無いかの様に聞いてみた。
「そうなると思うよ、最近、弥生が張り切っていて、それに吊られて百花も張り合っちゃってね」
付き合う自分は大変だと恭平がアピールする。
「そうなんだ?珍しいね、百花じゃなくて弥生が張り切るなんて」
大人しい弥生にしては違和感があるので、不思議に思った雫斗が聞いた。
「うちの親父に短弓の連射を教わってね、今習得するのに必死なんだ、参ったよ的役をやらされて」
と珍しく愚痴る恭平。
「的役?、何それ」
と雫斗が不思議に思って聞くと。
「標的の藁を巻いた木の枝を引きずって走るんだ、おかげで持久力が付いたよ」
とそう言う恭平が嫌がって無いので、恭平にとってもいい訓練になっている様だ。
「そうなんだ、今日お願いしたいことが有ったんだけど、ちょっと無理そうだね」
雫斗はまだ、危機の回避をもくろんでいる様だ、いい加減、諦めても良さそうな物だが。
「何を話しているのよ?」
教室に入ってきた百花と弥生が、恭平と雫斗か話しているのを見て、悪だくみでもしていると思ったのか、強い口調で聞いたきた。
動じない恭平が「雫斗が手伝ってほしい事が有るって、・・・ダンジョンだよね?」
ナイス恭平、雫斗が聞くより断然いい。
「あっ、言って無かったけ、そうダンジョンで確かめたい事が有るんだ、でも百花達忙しそうだし(「いいわよ」)今度でもい・・・」意地汚く死刑執行を遅らせたかった雫斗だったが、敢え無く轟沈した、雫斗が言い終わる前に。
「最近、構って無かったし、たまにはいいわ、それに何か隠していそうね」
感の良い子は嫌いだよ。それに構って無かったって保護者じゃないんだから、そう思うが言っていい事といけない事は、今日までの百花との付き合いで、わきまえて居る雫斗だ。
「じっ、じゃあ売店で集合しよう、買って貰いたい物があるんだ、3時半でいいかな?」
と挙動不審になりながら時間を決める雫斗。
やっぱり、何か隠してると確信を持った百花だったが
「いいわよ、皆もそれで良いかしら」
とここでの追及を避けた、言い逃れの出来ない証拠をつかんで、追及するつもりの様だ、女はいくつになっても怖いものだと、雫斗が思い知るのはまだ先の話だ。
学校が終わって、家に帰った雫斗は着替えて売店へと向かう、流石に3階層の安全なダンジョンだと言っても、学生服のままダンジョンには行けない。一般的な探索者よりは軽装だが、それでもかなり防衛力は有る。
まず靴は頑丈な足首まで覆ったコンバットブーツ、ズボンもポケットの多い厚手の生地と皮を使っている、肘と膝には少し厚手にしているが動かす事には支障がない、しかも衝撃吸収力のあるパッド付きだ、肌着にしても体を覆う部分は多めに取られているこれも防具として考え出されたものだ、ジャケットもその考えで少し厚めではあるが、着心地は悪くない。
ほとんどが、ダンジョン産の取得物で出来ていて、頑丈で通気性がよく着心地までいいなんて、至れり尽くせりの服なのだ。
頭には革製のヘッドキャップ、ヘルメットと違って折り曲げられ、リックサックに入るので重宝している、後着けでフェイスガードも取り付けられる優れモノだ。
集合時間より早めに来た雫斗は、ある秘密兵器を購入した、対百花用の決戦兵器である、支払おうとすると吉川さんが挙動不審な行動をしていた、何か心配事があるようだ、どうしたのかと聞くと。
「今朝早く村長が来たのよ、そうしたらいきなり水中花火が有るのか聞いてきたの、私はてっきり在庫管理の不備を問われると思って覚悟していたの、そうしたらひと箱出してと言うじゃない?小分けされた物かと思ったら、段ボールのひと箱だというから驚いちゃって。そのままこれを渡して持って行ちゃたのよ」
とメモを見せた。
そのメモには”わたくし、高橋悠美はこの水中花火の段ボール一箱を受け取るものである、なお在庫処分品であるため金銭ではなく、相互の意思によって所有権の委譲とする事”と書かれていて、譲渡人の名前に吉川夏美の名前が書いてあった。
それを見て思わず吹き出しそうになったが、深刻そうな吉川さんを見て我慢する
「いきなり言われて考えずに名前を書いたけど、大丈夫かしら」
どうやら同じことが書かれているメモ用紙を悠美母さんが持って行ったらしかった、まるで何かの詐欺にあったような顔をしていたので、”お遊びの一環で気にしなくていいと” 曖昧に誤魔化したが、レジを離れた雫斗は、にやにやが止まらなかった。
誰もいない角みの方へ移動して、陳列棚に秘密兵器を置き、どうぞ効きますようにと拝みながら収納した、しかし隠れたのは収納できることを知られてはいけない為で、しょうがないとはいえ、万引きしている様でドキドキしていた。
商品棚を回りながら皆を待っていると、一人一人と集まって来た、その都度、付箋紙を必ず買う様に言うと、不思議そうな顔をして理由を聞いてくるが、ダンジョンの中で説明するからと言うと、大人しく買っていった、最後に父親の海嗣が来て全員が揃った。
「あら!、海嗣おじ様、今日はお買い物ですか?」
海嗣を見つけた百花が珍しそうに聞いて来た。
「いいや、今日は息子の様子見だよ、最近ダンジョンにばかり入っている様だから。ところでこの付箋紙は何に使うのかな?」
昨日さんざん説明したから知っているのに、何食わぬ顔で聞いてきた、大人ってずるいなと思う雫斗だった。
「ダンジョンで説明するよ、吉川さん今日も水中花火を1箱ずつお願いします」
そう言われた吉川さんは合計5箱の水中花火の箱をバックヤードから持ってきて100本入りの水中花火を1箱ずつ渡していく。
第12話(その2)
「皆んな揃ったから行こうか」と言うと、それぞれ水中花火と購入したものを詰めて、ぞろぞろと歩き出す、そんな雫斗たち一行を吉川さんが不審な顔で見送っていた。
入ダン手続きを終えて、ダンジョンに入ると最初の広間で説明する事にする、もう待ちきれない人が若干名(一人)居るからだ、安全を確保したら皆に向き直り話し始める。
「えへん、えー今日皆さんに来て頂いたのは、此れの事を検証する為です!」と言って勿体ぶった物言いで、大袈裟にDカードを実体化させる。
海嗣以外が、不満そうな顔をする。
「Dカードの何を検証するのよ?」
と少し怒り顔で百花が聞いてきた。
「まぁまぁ落ち着いて」
と雫斗が宥めて続けて言う。
「不思議だと思わないかい、このカード、いったいどこに消えているのか?」
カードを出したり消したりしながら雫斗が聞く、恭平と弥生は期待する様な表情に変わったが、まだ百花は何を言っているんだと言う顔をするもう少しだ。
おもむろに雫斗は付箋紙を出して。
「でこれです、この付箋紙を一枚張って消したら、いけそうじゃ無いですか?」
と思わせぶりに言うと、雫斗は付箋紙をDカードに一枚張った。
「皆んな一斉にやろうか」と宣言して張り終わるのを待つ「カウント3で行くよ。1・2・3!」全員でカードを消すと雫斗以外の付箋紙がひらひらと落ちていく。
落胆する恭平と弥生、怒りの声を上げる百花、性格が出るなと思いながら、あえて罵声を受ける雫斗
「何よ出来ないじゃない」
という百花の目の前に、付箋紙の付いたのDカードを突き付ける。
「フフフフフッ、こういう事なのだよ」
と得意げに言う雫斗の顔を見て百花が。
「嘘、・・・信じられない」
と呆けている、消して無かったんじゃないかと疑われる前に、付箋紙の付いたDカードを出し入れして見せる。
昨日説明した海慈は、芝居じみた雫斗の説明に苦笑いをしているが、ほかのメンバーは目を輝かせて”どうやるのか”聞いてきた。
「それをみんなに確かめてほしいのさ、カードの収納の発現条件は検討が付いているんだ」
こらえ性の無い百花が「教えなさいよ!!」というのを無視して三本のひもを突き付ける、ちなみに昨日作ったくじ引きで、別々の条件で試してもらうつもりだ。赤を引いた人には10匹のスライムを倒した後、一旦ダンジョンを出て、時間をおいてから何匹のスライムを倒すと発現するか調べてもらうつもりだ。
黄色を引いた人は、10匹スライムを倒した後、他の魔物数匹倒して、それからカード収納の発現まで、スライムの討伐回数を記録してもらう。青を引けば当たりだ、そのままスライムの討伐回数を数えながら、発現した回数を記録してもらう。
「何よこれ!」と言う百花。
「せっかく三人もいるんだから、条件を変えて調べたくてね、それと発現の条件は多分だけど、ダンジョンに入ってからスライムの50匹以上の討伐だと思うから、そのことを覚えておいてね」
と雫斗がそれぞれの色の条件を説明する、不満顔の百花だったが私が先に引くわと、いっぽんのひもを引く、・・・・見事赤を引き当てた。絶望の表情を浮かべる百花、他は青が弥生、黄色が恭平に決まった。
すると百花に救世主が現れた。
「赤の検証は私がしよう」と海嗣父さんが言い出した。
すると百花は喜びの表情を浮かべて「おじさま、優しい!!、有難う御座います」
と言いながら”キィッ”と雫斗をにらみつける、くじを引いたのは僕じゃ無いのにと、思いながらたじろぐ雫斗だった。
結局、百花と弥生がそのままスライムを倒して、発現した時の回数を調べてもらうことになった「じゃー条件は覚えたね、収納が発現し終わったら報告しに来てね、それからここに来ながらでいいから、小石を拾ってきてね、収納の容量を計るから、僕はここにいるからね、あっ、あと付箋紙は持ち帰ってきてね、そのまま捨てたらだめだよ」
と皆を送り出した。
雫斗は、最初に収納が発現する人は1時間半くらいかかると予測して、1時間でスライムを打撃だけで倒して、どれくらいの数になるか試してみようと思った、スマホのタイマーを1時間にセットしてバイブにセット、再度確認(頭の中で、鳴り響くベルはごめんだ)収納に放り込む。
”さあやるか”と気合を入れて、最初のスライムをターゲット”トオルハンマー”を振り下ろす、26回の振り下ろしで倒せた、呼吸を整えながら次のスライムの狙いをつける、今度は28回、1時間の長丁場を考えて、ペースを抑えているとはいえ、かなりきつい、次のスライム25回・・・。
10匹目を倒したところでへたり込んだ、時間はどうか?とスマホを出すと40分を超えていた、1時間でギリギリ14・5匹か、50匹となると3時間?いや疲労を考えると、4時間下手したら5時間近く掛かるかも、それを考えると、花火を使ったスライム討伐のなんと優秀な事か、ただ歩いて花火を投げるだけで1時間で50匹以上を倒せるのだ。
”これは母さんに頑張って貰うしかないか?”そんな事を考えながら、雫斗は頭の何処かで別の事を考えていた、人間つらい事が有るとどうにかして、楽が出来ないかと考える訳で、収納からいきなり出したらどうだろうと考えた。重い物を振り回すから疲れる訳で、インパクトの瞬間だけ収納から出せばいけそうな気がした、しかも投擲の要領で”加速をつけて収納から出せば威力が上がるかも?”と考えたのだ。
のそりと起きだし、手ごろな岩に向かって構える、その構えは大上段、呼吸を整え気合い込めて振り抜く、・・・まだ収納から出さない、イメージを少しずつ形にしていく、もう一度構える、右手の小指と左手の人差し指が重なるように、呼吸を見て振りぬく!もう一度と大上段に構える、その時雫斗は爺様に言われた事を思い出していた、”わしの教える剣は、竹刀を持って振るうような小手先の技ではない、人をぶった切る力の業だ、持ち手を離すと刀と一体には為れん、持ち手を重ね腕と刀が一体となることを感じながら降り抜くのだ”。
その時の雫斗は、この爺様、人を切ったことがあるのか?と思うほどの気迫で言われた、流石に”人を切ったことがあるの?”とは聞けなかったが、その時の爺様が醸し出す気迫は、今でも覚えている、それを思い出した。
すさまじい緊迫感の中で、弛緩した出来事を事を思い浮かべて、適度な気の張となり、・・・振りぬく、”インパクトおっ!!!”。
振り抜かれた腕の振りと、加速したまま出現したトオルハンマーのヘッドが岩へとぶち当たる「ガアッン!」すさまじい勢いで岩へと当たるが、岩の固さに弾かれてしまう、もう一度・・・・ 振り抜く、インパクト!!。
静寂の中、岩へと打ち下ろす打撃音だけが洞窟に木霊する、しかしその打撃音の前に空気を切り裂く音が混じり始める、それが次第に大きな風鳴りとなっていく。
そんな中雫斗は無我の境地に入っていく、意識しているわけではない。あえて言えばダンジョンがそうさせたのだといえるが、その時の雫斗は集中して気を張っていただけなのだった。
第12話(その3)
無我の境地で岩にハンマーを打ち付けていた雫斗だが、しかし終焉が訪れる。時間を忘れ汗だくになり、ただ一生懸命に振り抜く雫斗の期待に応えて凄まじい勢いでハンマーの打撃が岩に伝わっていく、構えて・振り抜く・インパクト!!。
激しい音と共に岩肌が崩れ、ハンマーヘッドの際から持ち手がへし折れる、ただの木の棒がここまで持ったのが奇跡だが、雫斗にとっては思いがけない事だった、”跳ね返ってくる”と思った雫斗は「あっ!、やべぇ!」と身構える。しかしハンマーヘッドは跳ね返ることもなく、岩煙の中で岩の中に半分程めり込ませて止まっていた、しばしの静寂の後、鈍い音と共に岩が真っ二つに割れていた。
雫斗が考え深げに岩を見ていると、後ろで歓声が上がる、百花達が来ていた。
「すご~~い!!、どうやったの?」と弥生が驚く。
「なにこの破壊力、信じられない!!」と百花。
「うっわ~~!!、雫斗ぉぉ~いつの間にこんな業を覚えたんだ!!」と驚愕する恭平。
それぞれが歓声を上げていたが、冷静な恭平が興奮していたのが可笑しかった「みんな来ていたんだ」岩を砕いた興奮と、皆に見られた気恥ずかしさが混ざりあって、雫斗のテンションは上がっていた。
「そう、これは装備収納と言って可能性を秘めた力なのだ、時に攻撃を防ぎ、時に意外な方向からの打撃を放つ、それが装備収納の威力なのだ」
収納から出した鍋の蓋を構え、折れた木のぼうを振り回している雫斗は他から見れば、子供がチャンバラをしている様にしか見えない。
鍋の蓋は百花達を待っているときに適当な大きさの鍋を購入したものだ、この時の為とはいえ無駄な出費とならなくてよかった、雫斗にとって命がけのプレゼンなのだ。
「すごいのね、他に何が出来るの?」と弥生。
そう聞かれた雫斗は、出来るだけ収納の発見が日曜日だと気ずかれまいと必死だった、礫の威力を披露し、早や着替えの技を見せ、装備収納のすごさをアピールして、発見した日を誤魔化すのに必死だった。
「分かったわ、私もやってみる」と言って固まる百花「そうだ、これ以上持てないんだった、この後どうするの?」。
雫斗は”そうだった”と壁際へより、体重計と籠とタブレットを収納から出した、とっその前にっと「どうだった?」と皆に聞いてみる。百花が不思議そうな顔をするので、”あっコイツ今日の目的忘れているな”と「討伐した数」とボソッと言うと「あっ!私は50匹だったわ」と百花「私も同じ50匹ね」と弥生「僕は最初スライムが10匹、あとバットを2匹とラットを1匹間に入れて、スライム40匹で出来る様になったよ」と恭平。
「分かった」と雫斗が言ってタブレットに書き込んだ後「やっぱり、ダンジョンに入った後スライムを50匹の討伐で収納が使える様になるんだ」と雫斗が言うと「そうね、雫斗が考えた通りだと思うわ」と百花、ほかの二人も同意する、あとは父親の海嗣が帰って来てから討伐数を確認するだけだ。
百花に「この籠に小石を入れて」と百花の収納に入っている小石を入れさせた、「分かったわ」と言った百花は、言われたとおりに籠へと小石を乗せて行く、その籠を体重計で量りタブレットに記録して、ダンジョンの壁際に小石を捨てた後、また籠に入れさせるを繰り返して記録していく。
百花が終わると弥生と恭平の記録をとって集計したあと「百花が103キロ、弥生が92キロ、恭平が192キロだね」と結果を言う。
「だいぶ差があるわね、どういうこと?」と百花が言うので雫斗は「憶測だけど、だいたい体重の2倍強ってとこかな」とあまり考えずに言う。
「私、そんなに太っていないわよ!!」と百花が顔を赤らめて主張する、慌てて雫斗が「だいたいだよ、正確ってわけじゃないし」とフォローすると”そうなの”と顔を背ける。
当たり障りのない会話を恭平達としていると、百花の底冷えのする声が・・・「雫斗ぉ、この小石の山見た事があるわ、・・・・日曜日に」。
雫斗がギクッとして百花を見ると、じ〜と小石の山を見ている、避けられないと悟った雫斗は、苦しい言い訳を言い出す「あ、あの時は・・その〜、まだよく分かって無かったし・・・えぇ〜と、百花ちゃん達3皆層に行っちゃうし」と、苦しい言い訳を言いながら、城壁(海嗣)がいない事に気がつく。
「雫斗〜〜!!」と叫んで鬼の形相で詰め寄ってくる百花!、雫斗は最後の手段と片膝になり、対百花用決戦兵器を繰り出す『ちょ〜甘い、飴玉30個六種類の詰め合わせセット』さぁ〜首を取るか?、飴玉を取るか?。
「いいわ!雫斗、あなた日曜日にはもう収納の事、知っていたのね」
と、一瞬の静寂の後百花が飴の箱を受け取りながら、いくぶん落ち着いた声で問い正す。
勝った!と思った雫斗は、ここは下手な言い訳をせず、正直に話さねばと
「うん、あの時は百花ちゃん達に置いてかれてへこんでいたし、いきなり声をかけられて、言い出せなかったんだ」
百花を見ると、いくぶん顔を緩めて飴玉の箱を見ている、とにかく助かったと思っていると。
「うん、全員揃っているね」
と海嗣父さんが、笑いを堪ながら出て来た、”あっ、隠れて見ていたな?”と思ったが。
「あっ、父さん、ふぅやっと数が分かるよ、どうだった?」
と何事もなかったかの様に聞く。
「ああ、スライムを10匹倒したあと、ダンジョンを出てしばらく待ってから、再入ダンをしてスライム50匹の討伐で、収納が出来る用になったよ」
と海嗣が言うと、雫斗はタブレットに記録しながら。
「スライム50匹で間違い無さそうだね、あっ父さん!小石を拾ってきた?」と海嗣に聞いた。
「拾ってきたよ」と言う海嗣の小石の重さを量り。
「父さんの持てる量は、156キロだね」と海嗣に伝える。
「概ね検証はこれで終わりかは?、私は帰るが君達はどうするね?」
と海嗣が言う。
「まだ時間があるし、収納で何が出来るか試してみるよ」
と雫斗の他、全員がそうすると言うと。
「そうかね、ダンジョンでは気を付けて行動するんだよ、あと無茶はしない様にな」
と言って海嗣は帰っていった。
海嗣の姿が見えなくなると、飴玉の箱を後ろに隠して挙動不審だった百花が、箱を雫斗の前に突き出して。
「収納出来ないじゃない!、どういうことよ!!」
とおかんむりの百花。
”そりゃ、自分が買ったんだから当然だと”雫斗は思いながら。
「ん?僕が買ったものだからね、他人の物は収納出来ないんだ、ちなみに自分のバッグに、他人の物が在っても、収納出来なくなるよ」
と収納に関してレクチャーし始める。
雫斗は勘違いしていた、百花の怒りが収まったと、百花にしてみると 雫斗からもらった飴玉の箱が、自分の物ではないと言われて怒り心頭なのだ、それを知らずに雫斗は続ける。
「でっ、他人の物を収納に、どうやって自分の物だと認識させるか?。同等の物との物物交換か、適正な価格での売買みたいなんだ」
と得意げに話す雫斗に百花の怒りが炸裂する。
「私にお金を払えっていうの!」
ともう一度飴玉の箱を雫斗の前に突き出す、ようやく百花の怒りを知った雫斗が慌てて
「ちょっと待って」
と雫斗がメモ帳を取り出して、何やら書いたかと思うと”はい”とメモ用紙を一枚百花に渡す。
第12話(その4)
雫斗から渡されたメモの内容を読んだ百花は「馬鹿にしているの?」と声を上げる。
メモ用紙には ”私、高崎雫斗は、斎藤百花嬢に対して、親愛と謝罪を込めて飴玉の詰め合わせを譲渡する。”と芝居がかって書かれていた。
慌てて雫斗が「違うよ!収納してみて」と言うと。
百花は”今、他人の物は収納出来ないって言ったばかりなのに”と思いながら収納してみる、・・・・メモの用紙を。
百花は収納できたメモ用紙を、頭の中で認識していて、どうして?と疑問に思いながら、雫斗を見る。
頭の上に、疑問符をたくさん浮かべて雫斗を見ている百花に。
「違うよ、収納するのは、飴玉の箱!」
と雫斗は苦笑いを浮かべて間違っている事を伝えた、”さっきは、収納出来なかったのに”と思いながらも素直に収納すると、飴玉の箱を収納出来た事に、さらに疑問符を重ねて雫斗を見つめる。
アホみたいに、目を見開いて雫斗を見つめる百花に、確信できた事を得意げに話す雫斗。
「契約?、いや成約が必要なんだ」
「成約?」とおうむの様に繰り返す百花に分かりやすく話す雫斗。
「同等の物との物々交換、適正な価格での金銭での取引は、そのまま成約として、成立するんだ。だけど口約束での取引は成立しないんだ、言った言わないってなるから当たり前だけどね。でっどうするか?単純な事だったよ証拠を残すんだ」
「さっきの、紙に書いた事?」
と弥生が雫斗の言葉に返す。
「そうだよ 百花、さっきのメモ弥生に見せてみて」
と言う雫斗のお願いに、ブスッと表情を歪めて渋々従う百花、渡された弥生がメモを見て。
「何、これ」とクスッと笑って百花にメモを返す。
「何でも良いんだよ、相手に言いたい事が伝われば」
そう言いながらメモ用紙に何事か書いて、収納からもう一つの飴玉の詰め合わせの箱を出して「はい」とメモと一緒に弥生に渡す。
「あら!、私にも貰えるの嬉しいわ」。
と言いながら受け取ると収納に飴玉の詰め合わせの箱を入れて。
「かなり、いい加減なのね」
とメモ用紙を見ながら言う。メモ用紙には”親愛なる弥生に感謝を込めて”としか書かれていない[誰が]、[何を]、渡すのかさえ書いていない。
「流石に百花だけっていうのもね、黙っていたお詫びのつもりだし、恭平はいいよね」
と雫斗が言うと「俺は甘い物はちょとな、その代わりさっきの岩を砕いたやり方教えてよ」
流石、武闘家、食い物より戦い方が気になる様だ。
「良いけど、かなり難しいよ、だけどコツを掴めばいけるかも?」
「へぇーそうなんだ、でも凄い破壊力だったよね?普通ああはいかないよ、やっぱりダンジョンのせい」
などなど収納を使っての戦い方談義に花を咲かせる男子をよそに。
収納した飴玉の話に夢中の女子二人。
「へぇー、箱の中身が分かるんだ、これ便利ねー、あっこれ美味しそう」とか。
「これなんか、ちょと酸っぱそうだけど、可愛いわ」
と飴玉の美味しそうやら、かわいい談義に花を咲かせる女子二人。
色々な飴玉を出したり、入れたりして食べる飴玉を選んでいた百花が 一つの飴玉の袋を破こうとするのを見て。
「百花、袋を破かなくても収納から直接口の中に入れられるよ、多分ポーションなんかも直接飲めると思う」と雫斗がアドバイスをする。
そう、雫斗は確かめた事が有るのだ、小さめの栄養ドリンクだったが 直接口の中に液体だけを入れる事ができたのだ。ただ何も考えず収納から中身だけを、直接口の中へ移動するイメージをしたため、ドリンクの中身全部がいきなり口の中へと流れ込んだ、幸いだったのは量が少なかったため、むせ返ることなく飲み込めたが、適量ずつ飲むのにかなりの練習が必要だった。
百花は、破こうとした飴玉を収納し直して試してみた。
「ほんろらー れきら」
大きな飴玉を頬張って嬉しそうに話す、弥生も出来たみたいだ 弥生は話す事はせず、嬉しそうにうんうん頷いている。
しばらく飴玉を舐めていた百花だったが、喉が渇いたのかペットボトルを取り出して水を飲もうとした。蓋を開けようとして、飴玉みたいに収納から直接飲めるのでは?と思い付いた、さっき雫斗がポーションも飲めると言っていたし、やってみよう。
ペットボトルを持って、考え込んでいる百花を見た雫斗は、嫌な予感がして。
「百花?」と呼びかけた。呼ばれた百花は何かに集中していて気付かなかったが、他の皆んなは聴こえていたため、百花をみていた。
いきなりペットボトルを収納した百花が、何を試み様としているのか分かった雫斗が止めようとして。
「ダメだ!!、百花」
と言う間もなく、水を飲むために収納の中にあるペットボトルから口の中へ水を移動した!、・・・ペットボトルの中の水を全部。
当然、小さなお口には入り切れず、穴という穴から溢れ出す、見てはいけない物を見た男性陣は驚愕して固まった。弥生は驚いて暫く対応出来ずにいたが、慌ててタオルを百花の顔に被せて、むせて咳き込む百花の背中を叩いていた。
タオルで隠しているとはいえ、その一瞬の出来事は脳裏に焼き付いていて、フラッシュバックしている。吹き出た水をタオルでふき、何とかせきを止めた百花が、なんとも言えない顔をしている雫斗を睨み付けた。
確かに雫斗は収納から直接飴玉を食べる事が出来ると言った、ポーションも直接飲めると言ったが、大量の水を飲むことが出来るとは一言もいっていない。
そう百花に言っても、聞く耳は持ち合わせて居ないだろう、此処は甘んじて制裁を受けよう!!、だが一言、言いたい。・・・”理不尽だと”。
「雫斗お!!、あなた、何てこと教えてくれるのよ~~~~!」
そう叫ぶや否や、雫斗の襟首をつかみ思いっきり揺すってくる。雫斗は今まで 百花の怒りを鎮めるため、獅子奮迅の努力をしてきた。しかし無駄な努力であった、もはや荒れ狂う百花が鎮まることを願う事しか出来なかった。
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