ダンジョンを探索すると、いろいろな事が分かるかも。
第一章 初級探索者編
第5話 (その1)
雫斗達がハイゴブリンとのバトルをしているころ、ダンジョン協会の一室で荒川優子は目の前のウエポンボックスを睨みつけていた。探索者はダンジョンで戦闘をする以上武器や防具が必要だ。しかしその装備を身に付けて街中を歩くのは、かつて平和だった日本において目立つ事この上無い、法律上の観点からも禁止されている。
しかしこのご時世だ、魔物が街中を闊歩していても不思議では無い現在、自衛手段を持ち歩くのは自然の流れだ。 だからと言って、流石に重武装で街中を歩く事は憚られる、そこで深層に入る探索者は普段はウェポンボックスに武器と防具を入れて移動するのだ。
荒川優子は深層を探索する上級探索者だ、しかも最前線で活躍しているクランのリーダをしている、クランというのはいくつかのパーティを集めた組織の名称だ。 深層の攻略には何日もかかる為一つのパーティだけでは無理がある、そこで幾つかのパーティが攻略するパーティを支援する為に一緒に探索するのだ。
しかしダンジョンの深層を攻略する度にパーティを揃えるのは効率が悪かった、いつも気心の知れたパーティを集められるとは限らない。 それならば最初から集めて事にあたれば揉める事もない、しかもその中で切磋琢磨して強い探索者に、強いパーティになる事が出来るのだ。
そのクランリーダーの荒川優子がなぜ探索者協会に居て、ウエポンボックスに納めている武器防具を睨みつけているかというと、一ヶ月間の探索者資格停止処分をうけたためだ、頑丈なテーブルの上に置かれたウエポンボックスを挟んで、探索者協会名古屋支部の支部長、菊村正二と対峙していた。
「分かっているとは思いますが、如何に反社会勢力で武装していたとはいえ、一般人相手に探索者がしかも最前線で攻略している人が暴力を振るったとあっては、協会としても黙って見過ごす訳にはいきません」
支部長が気の毒そうにいうと。
「分かっているさ、承知の上だが。しかし一ヶ月の資格停止は重過ぎないか?」
そう言う優子に、何を言っているのだと呆れた様に菊村が話す。
「いくら死傷者がいないとはいえ、半死半生の人もいたのですよ?上級ポーションを持ち出して示談に持ち込んだとは言っても、精神的な後遺症を負った人もいるのです。ダンジョン庁の方からも・・・嫌がらせでしょうが、きつい処罰をと言われているので仕方ないのです」
と暗に運が悪かったねと言う事らしい。
ダンジョンの深層の攻略には危険が付きまとう、精神的に追い詰められた人間は容易に薬へと逃げ道を作ってしまう、しかしそれは探索者にとって致命的だ。 自分だけならいいがパーティーも危険にさらしてしまう事になる、優子のクランの若手のメンバーの一人が恐怖心に負けて覚せい剤に手を出してしまった。 最初は軽い気持ちだったかもしれないが、薬は徐々に体と精神をむしばんでいった。
深層探索の準備を兼ねて連携を確かめるために、中層での鍛錬とアイテムの取得に挑んでいたその若手のメンバーが、薬の誘惑に負けてあろうことかダンジョンで使ってしまった、ダンジョンでは薬やポーションと言ったものは時に過剰に反応してしまう。
ハイになったその若手の探索者は魔物だまりに突貫していった。当然他のメンバーは助けるために無計画で多くの魔物がひしめく部屋へと入っていく、深層を探索しているメンバーが居たとはいえ気の触れた人間を助け出すには骨が折れる、結局全員帰ってきたとはいえかなりの負傷者を出した。
特にひどかったのはパーティを率いて居た優子の秘蔵っ子の探索者だった、体はポーションで直ったとはいえ精神的なダメージは計り知れなく、そのことを知った優子は切れた。
薬に手を出したメンバーを問い詰めて、販売ルートから元凶の麻薬密売組織を探し出すのに、半日もかからなかった。
そしてその販売組織を統括していた暴力団の事務所ごと壊滅してきたのだった、当然優子は生身だったが相手が武器を持ち出してきたため、お灸の意味で半死半生の憂き目を見て貰ったのだ。 優子にしてみるとこれでも足りないぐらいなのだが、流石に死人を出してはまずいと手加減はしてきたのだった。
それでも腕は飛ぶは、足は砕ける、目はつぶれる、顎は使い物にならなくなる。普通は傷害罪と殺人未遂で訴追の憂き目を見るところだが、そこは深層の探索者を率いるクランのリーダーだ、高額な上級ポーションを散らつかせて示談を勝ち取った。
刀や拳銃で武装した暴力団相手でも、素手で簡単に圧倒してしまう深層を探索している優子達は、25層を超えたあたりで行き詰まってしまっていた。 歩く重戦車とか地上を這う爆撃機とか言われている優子だが、最近探索者として何か足りない物が有るような気がしてならない。
今までは、力技でダンジョンを攻略していたが、何か重要な事を置き去りにしている気がしてならなかった。ウエポンボックスを見ながら物思いにふけっていた優子だが、部屋の外ががぜん騒がしくなってきた、不審に思った支部長の菊村が廊下に出て行った。
「荒川さん緊急のクエストです、受けて貰えませんか?」
しばらくして帰ってきた菊村が優子に依頼してきた、そう言われた優子は可笑しなことを言うものだと思った、今の自分は探索者としての資格を停止されたばかりなのだ。
「何を言っているんだ? 今停止処分を受けたばかりだろう」
そう言う優子に切羽詰まったかのように支部長が言う。
「ですから緊急です、この近くでダンジョンが発生しました。ハイゴブリンが出て来たようです、親子連れが襲われて母親がけがをしたようですが、今日講習を受けた探索者がハイゴブリンは討伐したようです」
慌てて菊村はこれまでの内容をかいつまんで話す。
「なに?。今日講習を受けたばかりの探索者?素人と同じじゃないか?」
驚愕して目をむいている優子をしり目に。
「そうですがその子たちは都会の出身ではありません郊外の村で、かなり危機意識が高いのでしょう護身術くらいは身に着けているようです、ですが問題はダンジョンです。まだ魔物が出てくるかもしれません、そこで緊急の要請です探索者の資格の停止処分は取り消します、救助をお願いします」
優子は聞き終わる前にウエポンボックスを開き装備を身に着け始めていた、装着しながら聞いてくる。
「場所は?要救助者の人数は?他に行くメンバーは何人だ?」
矢継ぎ早の質問に臆することなく支部長は答えていく。
「協会の前の遊歩道で300メートルほど先です。人数は11名で一人怪我有り軽傷です。1階で5名の職員が待機中、自衛隊の害獣対策班には出動要請済み15分で周りの封鎖が完了します」
それを聞いていた優子は装備の装着が済むと部屋を飛び出して行った、流石に深層を探索している人間だ動きが尋常ではない、残された支部長は祈る思いで飛び出して行った優子を見ていた、間に合ってくれと。
第5話 (その2)
周りに気を配りながら急ぐ雫斗達のフラグはまだ終わっていなかった。探索者協会に向かう道半ばで左側の山間の木々が不自然に揺れる、気が付いた百花が立ち止まろうとするのをやめさせる。
「百花!!、走れ!!」雫斗が叫ぶ。
怪我人と子供を抱えての戦闘は避けたい、逆に雫斗は立ち止まり百花が使っていた木の枝を片手で構えて、ポケットから石を取り出して構えると。後続が後ろを通り過ぎて行くのを感じながら揺れる木々を見つめる。
林の中から豚顔の巨体のオークがこん棒持って出てきた、オーガじゃないだけマシだが雫斗達にとって強敵には変わりない。 走って行く集団を目で追っていたオークが威嚇の咆哮をあげる。
「グオオオオーガワァン!!」威嚇の咆哮が途中から情けない咆哮へと変わる、雫斗の投げた石が顔面に命中したのだ。鼻から血を流しながら石を投げてきた雫斗を睨む。
「お前の相手は俺だ!!。こい!!」と気合いを入れる雫斗だが倒すことを考えてはいない、皆を逃すための時間稼ぎと、どうやって隙をついて逃げるかを頭をフル回転させて考えている。
「きえ~ぇ~え」。緊張感漂う空気をぶち壊す様に、情けない声を出しながら、強面君が横合いから木の枝でオークに殴りかかる。 大方隙を突いたつもりだろうが人間は勿論人型の魔物は側面に急所はない、あえて言うなら脇腹だろうが太い腕に守られている。 案の定肩口を殴りつけた強面君は、分厚い筋肉と脂肪にはじかれてよろける。
一瞬の静寂の後、やばいと雫斗が走り出す。オークに睨まれて硬直している強面君の横からオークのこん棒が振りぬかれる。
誰もがつぶされた強面君を想像したが、強面君が皆が居る方向へと吹き飛ばされてくる、雫斗が強面君の襟首をつかみ、こん棒の振りぬく方向に投げ飛ばしたのだ。 だがさすがに無傷とは行かず咄嗟に庇った腕はひしゃげ、あばら骨を何本か折りながらも、とりあえず強面君の命は助かった。
問題は雫斗だ、自分の体重と同じくらいの人間を無理やり投げ飛ばしたのだ。バランスを崩してオークの前に無防備に立ち尽くしている。 しまったと雫斗は後悔していた、咄嗟に動いたとはいえ体制を崩して、何の策も無しに強力な魔物の前に立つなんて。
見上げるとオークが”ニタ~”と笑いながら両手に持ったこん棒を振り上げていた。(これは死ぬな)と人ごとの様に考えながら、この時雫斗に不思議なことが起こる。
ビタッと時が止まったかの様に静寂が訪れたのだ、空気の流れも周りの気配も雫斗の感覚さえ停止していて、ただ思考だけが雫斗の意識の中で流れている。
その時ある場面がよみがえる村での稽古の一場面だ、さんざん師匠に打ちのめされ倒れこんだ四人に師匠が静かに語り掛ける、疲れ果て意識も途切れがちだったはずなのに不思議と鮮明に思い出す。
「良く覚えておけガキども!、命のやり取りに置いて最も大事なのは、技でも力でもない。それはあらがう心だ、絶対的な力の差、理不尽な暴力、助かる見込みのない状況。それでも生きるために一筋の可能性にしがみつけ、運命にあらがう精神力、それだけが命をつなぐ。忘れるな!!。”あらがえ!!”。運命から生をもぎ取れ、”あらがえ”地獄の門を蹴飛ばしてやれ、”あらがえ”それだけが生き抜く道だ。”あらがえ”!!」。
その時一本の投げナイフが飛んできた弥生の投げナイフだ。雫斗は見て居なかったが、巨漢の恭平が母親を強面君の一行に預けていた。 弥生もオークに対応するために女の子を無理やり預けた、その時リーゼントの強面君が吹き飛ばされてこちらに飛んできた。
思わず飛んできた強面君に駆け寄ったが、「雫斗お!!」と叫んで百花と恭平が走り出したのが見えた。 オークを見ると、こん棒を無防備の雫斗へ振り下ろそうと振りかぶる途中だった、弥生は咄嗟にポシェットの裏に忍ばせているナイフをオークの顔、いやオークの右目をめがけて投げた。
当たるとは思っていなかった、だが地道な鍛錬は嘘をつかない。弥生は接近戦は苦手だが投擲や弓には自信があった、格闘も出来なくは無かったが、護身術程度で遠距離戦と介護に重きを置いていたのだ。
飛んできたナイフがオークの右目に突き刺さる。その時止まっていた時間が少しずつ動き始める、雫斗はこの場面はどこかで見たことがあるなとぼんやり考えていた。
”そうだ、初めて魔物を倒したときの百花の振り下ろされる木の棒だ”。ただ違うのはオークのこん棒をまともに食らうと死んでしまうということは分かる。
加速度的に物事が動き始める中で思考が冴えてくる。
”あらがえ!!”。・・・・後ろはダメだ、こん棒の範囲内だ。
”あらがえ!!”。・・・・左右は?、太い腕が邪魔だ。
”あらがえ!!”。・・・・残りは前しかない!!・・・前?。右目に刺さったナイフの影響か、オークのこん棒が若干左による、そこに隙を見つけた雫斗はオークの股間をめがけて飛び込む。
”ズドォ~~ン”と激しい音とともに叩きつけられたオークのこん棒の衝撃で土煙が舞い上がる。事の成り行きを見ていた百花たちは悲鳴を飲み込む。
「雫斗ぉー!!」。百花がさらに足を運び出していく、こん棒を振り下ろされた後だ、間に合わないのは分かっている、それでも走り出していた。
二歩目を踏み込んで加速しようとしたとき、不思議なことが起こるオークが突然つま先立ちになったのだ、苦悶の表情を浮かべてこん棒を投げだし、股間を抑えて前のめりに倒れていく。
雫斗は膝をつき前のめりに座っているオークの後ろに立っていた、何が起きたのか?。覚えていないと言えば嘘になる、雫斗は右目に刺さったナイフで一瞬オークが止まったのを見逃さなかった。
しかも振り下ろされるこん棒の少しのズレを味方につけた、オークの股間に滑り込んだ雫斗は、こん棒を叩きつけるオークの腰の沈み込みに合わせて”つぶれろ”と念じながら肩をかち上げていた。
”ぐしゃっ”と何かが潰れる感触を感じながらオークの後ろに回り込み、つま先立ちで前のめりになった無防備の姿をさらすオークの膝関節へ抉るように渾身のけりを叩きこむ、この一連の動作を雫斗は思考の外でやっていた、つまり体が自然と動いていたのだ。
まるで現実の出来事では無いかの様に意識の外で自分の行いを見ていた、自分の体なのに自分じゃない不思議な感覚、体が勝手に動くのだまるで他人事のように。
それを村のくそ爺・・・師匠は無我領域の覚醒だという。厳しい鍛錬を得ても到達する事が出来ず、ほとんどの武人が無しえない究極の高みだと。
散々打ちのめされた挙句、土の上にひれ伏し倒れ込んだ雫斗達に、子守歌の様に静かに話して聞かせていた師匠の言葉だが、良く覚えている。
第5話 (その3)
倒れていくオークを見ながらようやく意識と体が重なり合う、雫斗はオークの背中に飛び乗りついでとばかりに延髄を踏み抜いて加速する。 オークの延髄を蹴り砕いたつもりなのに手応えがない、オークの背中を走り抜けながら、”みんな逃げろ”と叫ぼうとして、腰だめに短剣を構えた百花とすれ違う。
「ふぇ!」と変な声を出して雫斗が振り返る。
雫斗とすれ違った百花は苦悶の表情を浮かべて顔を上げたオークに突進していく、狙うは大きく開けた口、いくらオークが脂肪の塊でも口の中までは付いていないはず。
「やあー!!」と気合い一千、突きこんだ短剣は牙の半ばを削って口の中へと消えていく。
しかし刃渡りの半分ほどが牙にさえぎられて止まった、条件反射なのかオークが短剣を咥えて離さない、抜けないと悟った百花が短剣を離して後ろに飛びのく。 距離を取り警戒する百花と雫斗をニヤリと笑ったオークの顔が一瞬勝ち誇ったように見えた。
その時「ぐおおおー!」と雄たけびを上げた恭平がこん棒を短剣の柄頭に渾身の力で叩きこむ、牙を切り飛ばした短剣の刃が口の中へと消えていく。
崩れ落ちるオークの頭。よく見ると首の後ろから剣先が飛び出している、これで動き回られたらオカルトだな~とおかしなことを考えていると、いきなり百花に襟首を捕まえられて思いっきり揺すられる。
「何を考えているの!!、死ぬところだったじゃない!」と泣きながら怒られる雫斗。
「まて百花、首がもげる!、首がもげる!!」
まだ死にたくないので襟首を掴んでいる手を外させる、それでも百花の怒りは止まらない。
「あんな奴のために、なんであなたが命を懸けるのよ。あんなの自業自得よ」
と弥生の治療で(ポーションを飲ますだけ、気付け程度にはなる)意識を取り戻した強面君を指さす、確かに探索者は自己責任だけど 目の前ですりつぶされる命を見殺しにはできなかった。
「いや~、つい体が動いちゃって(^O^)/」
と誤魔化そうとしたら百花が目を吊り上げて、また襟首を捕まえ様として来るので。
「分かった、分かったって!!、今度から見捨てる。腕がもげようと足が飛んでいこうと今度は見捨てるから」
と雫斗が言うと。顔をしかめて「それはちょっといやね」とようやく冷静になる百花。
その二人に山田君が近づいて来てお礼を言ってくる。「ありがとう柴咲を助けてくれて」どうやら強面君は柴咲と言うらしい。 「あんな奴でも親友でな、目の前で死なれるとやりき」途中で言葉が止まり一点を見つめる。
何事かと雫斗と百花が振り返る。今まさに枝をかき分けて赤黒い巨体が出てくるところだ。額に二本の角を生やした筋肉質の巨体、オーガだ!!。
どうやら百花のフラグは、踏み抜かないと気が済まないらしい。どうする? 雫斗はようやく手にした命が指の隙間から零れていくのを感じながら、一筋の生きる道がないか考える。
百花の手放したゴブリンソードは、オーガと雫斗達の丁度中間に居るオークの口の中だ、オークがまだ消えていない事で引き抜くには時間が掛かる。
それよりも果たしてその短剣で倒せるのか?。 雫斗は短剣を拾ってオーガに投げて注意を引き付けて、ダンジョン協会とは反対の道へオーガを誘導することを考える。
”オーガと鬼ごっこかシャレにならん”と考えながらタイミングを計る。すると(何をやっても無駄だぞ~)と言うようにオーガが腕を振り上げて咆哮する。
威圧が半端ない、”身がすくむとはこのことか”と思いながら雫斗は気力を振り絞る。
すると緑色をした塊が、オーガの脇腹へものすごい速さで突っ込んでいく、不意打ち食らったオーガがたまらず吹き飛んでいく、起き上がろうとするオーガの胸に足を置き顔目がけて至近距離から小銃をぶっばなす。
さすがのオーガも至近距離からの銃弾の雨は堪えるらしく両手で顔を庇おうとする、肉を裂き指を引きちぎり目をつぶしてようやく全弾打ち尽くすと。 その人は小銃を投げ捨て、背中の大剣を引き抜くと同時に振り下ろす、庇った両腕ごと切り飛ばして頭蓋骨の半場まで剣をめり込ませた、当然オーガは動きを止める。
オーガが出てきてから1分もたっていない、凄まじい戦闘力を見せつけたその人は女性だった。雫斗より少しだけ背の高いその女性が合図をすると、いつの間にいたのか二人一組 四名の迷彩服を着た人たちが、林の中に分け入っていく。
あっけにとられている雫斗達の周りがざわつき始める、どうやら救援が来たみたいだ、命拾いしたことを実感した雫斗達は気が抜けた様に崩れ落ちる。
オーガを倒した後どこかへ連絡していた女性が、座り込んだ雫斗達に近づいて来て。「救助要請をしたのは君たちで間違いないかね」とその女性が聞いてくる。
「はい、僕が要請しました」と恭平が答えると。
「これで全員かね、落伍者はいるかね?」と女性の人。「いえ落伍者はいません、これで全員です」と恭平。
「信じられん、ハイゴブリン、ハイオーク、それにオーガにまで遭遇してけが人で済むとは、君たち今日探索者カードを受け取ったばかりの初心者とはほんとかね?」
と首を振りながらと女性の人が言う。
「はい、今日の講習で受け取りました。あのーハイオークってさっきのオークのことですか?」と雫斗が尋ねると。
「なんだ気付いていなかったのか?、 ほれ」
と女性がオークにとどめを刺した短剣と魔晶石それとドロップしたカードを渡してきた。
魔晶石はハイゴブリンと思われる物より濃い紫色をしていた。カード3枚の内は2枚はデザインの違う肉の絵と、それぞれ高級豚バラ肉と高級豚霜降り肩ロース肉と書かれている、もう一枚には中級ポーション×3と書かれていて、いずれのカードにも素材主として”ハイオーク”と名前が載っていた。
道理で強いはずだ、15階層以上で出てくる魔物で、普通であれば雫斗達が挑んでも、10回やって10回は死んで居るほどの魔物なのだ。最初の邂逅で倒せたのは、運が良いというには言い過ぎるほどの怪物だ。
「いずれにしても命があるならいくらでもやり直せる、死んでしまえば其れ迄だからな。とにかく歩けるかね?ここはまだ危険だ、早めに探索者協会に帰らねばならない」
とその女性が気づかいながら言う。 雫斗達は初めての命を懸けた戦闘と、助かったことで気が抜けてしまっていたが、歩けないほどではない。
「あっ!、助けてくれてありがとうございました。えーとお姉さんが来てくれなければオーガに殺されていたかもしれません。本当にありがとうございました」
立ち上がりながらお礼を言っていないことに気が付いた雫斗が、雫斗がお礼を言うと。
「おお、私としたことが荒川優子だ。君たちを助けたのは、緊急依頼のクエストだから礼には及ばん」
と荒川さん、この後雫斗達は荒川さんとダンジョン対策課の職員に守られて、探索者協会まで帰り着くことができた。
この後が大変だった、事情聴取と魔晶石の鑑定とドロップ品の売却が行われたが、そこでもひと悶着があった。
探索者カードを取得したばかりの子供(14歳)がハイゴブリンとハイオークを倒した事を疑問視されて再度の事情聴取受けた、荒川さんの取り成しで事なきを得たが、結構な時間を費やして結局村へ帰れたのは夜中のことだった。
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