ダンジョンを探索すると、いろいろな事が分かるかも。
第一章 初級探索者編
第9話(その1)
ダンジョンを出て浩三さんを交えた一行は、ダンジョン入口の受付に来ていた。 カウンターの中には芳野先輩は居なくて、代わりに猫先生が受付カウンターの中で暇そうに欠伸をしていた。
「今晩は、猫先生今日は夜勤ですか?」
と百花が挨拶をする”猫先生”はあだ名でたまに学校で教鞭を執っている、その為子供たちにあだ名を付けられた、本人も気に入っているらしく嫌がるそぶりをしない為、あだ名で呼ぶことが多い、本名は雑賀三太郎、”雑賀”はこの村の名前で役所に籍を置く3番目のゴーレム型アンドロイドとなっている。
「そうにゃ、日曜日の夜勤は誰もやりたがらにゃいニャー、仕方がにゃいからミィーが遣ってヤッテルニャ」
猫先生は一応普通に喋れはする、どうもゴーレム系のアンドロイドはロールプレイが好きな様で、こういう言葉遣いをする事が多い、教壇に立つときの普通に話す猫先生とのギャップに笑いを堪える生徒も多い。
「ご苦労様です、ダンジョンからの退出届と素材の買い取りと換金をお願いします」
百花も笑いを堪えながら要件を話す。
「そうにゃ?、順番に素材を置くにゃ」
といいながらカウンターの上の扉をスライドさせる、百花が素材をまとめてその中に入れる、扉を閉めた猫先生がタイプで操作するとこちらに向いたディスプレイ画面に素材の種類と数、そして買い取った時の金額が映し出されている、”O K”、と”N O”枠が出る、”OK”を選択して多面体の水晶に探索者カードを触れると販売と換金が終了する。
時間もかからず全員が終了すると、帰ろうとする雫斗に浩三さんが声を懸ける。
「雫斗くん、報告することが有るんじゃないか?」
一瞬、雫斗は何だろうと考える、色々な事が有りすぎて思い出せないでいた。
「そうだった!、スライムの討伐手段で新しい方法があります」
「おおおお!!、攻略情報かにゃこの村では初めてだにゃ」
と興奮気味に話す猫先生。
「これです!」
とリックの中から水中花火の箱をドン!とカウンターの上にのせる。
「にゃ!、にゃにかにゃ~~?」目を白黒させる猫先生。
「これは水中花火です。スライムは打撃にめっぽう強いですよね?」
雫斗の説明に相槌をうつ猫先生「そうだにゃ~~、めっぽう強いにゃ~」
「そこでこの花火です、スライムに飲み込ませて破裂させます」と雫斗。
「おおお~、どうにゃるにゃ?」
と猫先生「こうなります」と雫斗がスマホを見せる。
最初にスライムを破裂させた時の映像を見終わった猫先生が「じみだにゃ~~」と小声で言ったのを雫斗は聞き逃さなかった。
「すっごいにゃ~、大発見かもしれにゃいにゃ~~」
と猫先生が大げさに驚いているのを、胡散臭げに見る雫斗。
「えっへん、その映像はこちらに貰ってもいいかにゃ?」と猫先生。
「いいですけど ネットに流さないで下さいね」とくぎを刺す雫斗、映像を加工していないので、本人がバレバレなのだ。
スライムを破裂させた映像を、送信に設定して受信末端の上に置いた、しばらくすると”ピイー”と終了を知らせる合図。
「大丈夫にゃ、この映像は確認用で検証動画は協会がとるにゃ」
と言いながら報告書をタイプしていた猫先生が
「報奨金の受け取りは雫斗さんだけでいいかにゃ?」と聞いてくる。
「えーと、4人で」と言う雫斗の言葉に被せて。
「雫斗だけでいいわよね?」と百花。
「そうね私たちは見ていただけだし、当然ね」と弥生と、恭平が頷く。
「分かったにゃ」と言いながら報告書を完成させた猫先生が「これでいいかにゃ?」と画面に出力させる。
雫斗は画面に表示された内容を確認して、添付された動画に”協会の関係者以外の閲覧禁止”の文字を確かめた後”OK”をタップする。
「これで終了にゃ、ご苦労様でしたにゃ~~」と猫先生。
「ありがとうございました」
3人でお礼を言って受付を離れる、建物を出ると「じゃー、僕たちはこっちだから」と雫斗達とは反対の方向へ歩き始める恭平と浩三さん。
「浩三叔父様ありがとうございました、大変勉強になりました」
と笑顔で手を振る百花と弥生、色々と教えてもらったようだ。
しばらくして「じゃー、明日学校で。ばいばい」と弥生が畑のあぜ道へと入っていく、道なりに行くより近道なのだ。
「ばいばい」と手を振る百花だったが、歩き出すと換金証明の伝票を見ながら、ニマニマしている。
「そんなに良い素材が手に入ったの?」
と言う雫斗に黙って伝票を見せる、「う!!」雫斗が換金した値段の三倍近い金額を見て落ち込む雫斗、2時間弱でこの差である前半は、収納の検証に充てて居たとはいえ、後半は石を集めながらスライムを破裂させて歩いていたのだ。
「ふっふっふん!今日は有意義な一日だったわ、雫斗はどうだったの?」
と聞いてきたので、収納の発見を思い出して「うん、いい一日だった」と納得した表情で答える。
「小石を集めるのが?」と百花が不思議そうに聞いてくる。
「あ・・あれは、・・世紀の実験なんだ!!りっ、立証されたら世界がひっくり返るんだから」
と苦しい言い訳を言う。
「そうなの?、じゃー明日学校で」
と気にした素振りも無く家へと帰っていく、素気なく扱われて落ち込む雫斗だったが、気を取り直して家路についた。
第9話(その2)
家の玄関で靴を脱ぎながら「ただいまー」と声を掛ける、父親とじゃれて遊んでいた香澄が「お兄ちゃん」と言いながら駆けてきて雫斗の太ももに抱き着いてくる。
香澄の脇腹を”わしゃわしゃ”と擽ると”キャッキャッ”と笑いながら身をよじる香澄、しばらく香澄と戯れていると、落ち込んだ気持ちも晴れてくる。
香澄を抱き上げてリビングに入ると「遅かったわね、お昼は食べたの?」と母親が聞いてきた。
「サンドイッチしか食べていないや、お腹空いた~~」と雫斗が言うと。
「もう少し待っていてね、・・・先にお風呂に入ってきなさい」と悠美お母さん。
「うん、そうする」
と香澄を父親に手渡しながら。
「あっ、そうだ!、母さん今日ダンジョンの攻略情報登録してきたから、明日確認してね」
と報告する雫斗。
「そうなの?、解ったわ明日聞いてみるわね」
と悠美母さん、悠美はダンジョン協会の雑賀村支部の支部長を兼任している、とりあえず報告だけをした雫斗は、自分の部屋へ向かおうとすると。
「何を発見したのかな?」と海慈父さんが聞いてくる。
「はいこれ」と言いながらリックの中から水中花火の箱を取り出して、テーブルの上に置く。
ラベルに書かれている文字を見て「水中花火?」と不思議そうに手に取る。
「そう、それでスライムを破裂させるんだ、簡単だったよ父さんもやってみる?」
そう言う息子を見て。
「そうだな、やってみるか」と気のない返事。
ちらっと香澄を見て、海慈父さんが香澄の手の届かない高い所に、水中花火の箱を片付けるのを見て”そうだよな”と気落ちする雫斗、スライムを倒しても強くなっていく気がしないもんな~~、と考えながら部屋へ戻る。リックサックの中身を片付けて、洗い物と着替えを持って風呂場へと向かう。
脱衣場に入った雫斗は洗い物を洗濯籠に入れて、服を脱ごうとして思い出した”そうだ!、着ている服を収納出来るか試さないと”。収納しようとしてふと周りを気にする、此処ならスッポンポンでもおかしい事は無いのになぜか気恥ずかしい、普段やらない事を試してみる事に、抵抗を感じているのかも知れない。
意を決して着ている服を収納するイメージ(まー、スポンポンになっている自分だけどね)”ぶるるる”地肌に直接外気を感じて、思わず震える、面白いことに頭の中のイメージにはズボンのポケットに入っているハンカチ迄認識出来た、ハンカチを取り出す洗濯籠にポイ、全部の服を収納から取り出そうとして、このままもう一度着け直すことができるのか?と疑問がわいてきた。
一度脱いだ?(収納に入れた事を、脱いだと表現していいものか?)下着を又着け直すのに抵抗はあるが、これも検証だと試みる、・・・・できましたあっさりと、何処も可笑しな所が無いか、見まわして見ながら ”アイドルの早や着替えに革命を起こすな”と変な事が思い浮かぶ。
見た目は大丈夫そうだ。可笑しな事をしているな、と思いながらも確認のため脱いでいく、うん後ろ前にも着てないし裏返しても無い大丈夫そうだ、雫斗は安心して風呂場へと消えていく。
リビングでは食事の準備をしながら、悠美と海慈が雫斗の事で話し合っていた。
「あなた、雫斗の事ですけど大丈夫でしょうか?」
探索者カードを取得した早々魔物に襲われるわ、ダンジョンの検証を始めるわ、気が気でない様子だ、さすがに息子の前では表情に出さないが、心配でしょうがないらしい。
「雫斗は慎重な子だよ、臆病だと言ってもいい。私はダンジョン探索では無くては成らない資質だと思っている、いざと成ったら立ち向かう勇気もある雫斗は大丈夫だよ」
と妻に安心させる言葉をかける。
「雫斗坊ちゃんは聡明な方でッス、この世界で一時代を築くオッ人だと確信してまッス、勇者の素質をお持ちでっス」
良子さんが配膳しながら力説する、その前で幼児椅子に座らされた香澄が、目の前を流れて行くご飯を目で追いかけている、お腹が空いている様だ。
「良子さんはラノベ好きだものね、うちの子を評価してくれるのは 正直うれしいけれど、勇者ねぇ?」と悠美が話すと。
「何をオシャイマスかご母堂様、今世の中にはダンジョンという得体のしれない空間が存在しいるのです、魔法という現象も普通になりつつある今、ラノベの世界と何ら変わりは、在りマッセン!」
ふんすと!興奮していた良子さんが普通に話して居たが、言葉の終わりに冷静になりおかしなイントネーションに戻っていた。
「そうね、良子さんの言うとおりね」と悠美が頬に手を当てため息をつく。
「どうしたの?」と風呂場から出て来た雫斗が、タオルで頭をふきながら、自分の席に着いて聞いてきた。
「いや、・・・これからの私たちの世界が、ダンジョンとの関わりで、どう変化をして行くのかと言う事を話していたんだ、さあ食事にしょう」と海嗣父さん。
皆が席に着くのを待って「「「いただきます」」」と食事を始める、良子さんはゴーレムで食事の必要が無いため、香澄の介添えをしている。
雫斗が食事をしながら聞いてきた「ダンジョンと人との関わりってこと?」と箸を止めずに話し出す。
「そうだね、なぜダンジョンが出来たのかは置いといて、ダンジョンが無かった時の世界との違いが大きすぎてね、これからの君たちの未来が予測できない、母さんは其処を心配しているのさ」
海慈がおもむろに悠美を見て話し出す。
「多分だけど、僕たち次第だと思う、歴史の授業でしか知らないけど、ダンジョン誕生前は世界情勢が最悪だったんだって?」
雫斗が箸を止めずに聞く。 食事をしながらの為、会話は途切れがちだが進んでいく。
「そうね、第三次世界大戦の一歩手前だったと言う人もいたわ」
外務省に勤めていた悠美にとって現実に折衝の場にいたのだ、あの頃の絶望感を思い出していた。
「もしそうなっていたなら、僕たちは今頃は生きて居ないかもしれない、そう考えるとダンジョンは救世主だよね」
いきなりの息子の発言に、思わず箸を止めて雫斗を見つめる悠美と海嗣。
第9話(その3)
息子の”救世主”の発言に。「人類の一割が犠牲になってもかね?」と海嗣が動揺を隠しながら雫斗に聞いた。
しばらく上を見て考えていた雫斗が、ゆっくりと考えながら話し出す。
「大勢の人が亡くなったのは知っているよ、問題を起こしている国々の政府と首都を巻き込んで、ダンジョンの崩壊が起こったことはね、悲しいことだとは思うけど文明は残ったよ」
確かにあのまま戦争が起こり、第三次世界大戦になっていれば、核戦争に発展して居たかも知れない、そうなれば人類の文明は終わっていただろう、冷静に先の世界情勢を判断したと褒めればいいのか、人の死をなんだと思っているのかと、叱ればいいのか判断に迷う。
悠美を見ると怒らないでと小さく首を振っていた。
「でもこれからも、同じことが起こるかも知れないわ、ダンジョンからもたらされる技術は凄まじいもの」
食事を終えた雫斗が、お茶を飲みながら静かに。
「そこだよ、だから僕たち次第なんだ、・・・・母さん僕たちがダンジョン生成に巻き込まれた時の事覚えてる?」
いきなりの質問に、面喰いながら悠美が答える。
「覚えているわ、香澄がお腹に居るときね、東京の駅の構内で大きな揺れがあったわ、その時魔物に襲われたの、覚えているの?」
「覚えているよ、その時僕は九つだよ、父さんはお腹の大きな母さんと小さな僕を抱えて、身動きが取れなかった、そうでしょう?」
その時の雫斗は幼くて状況が分からなかった、でもその時のことは鮮明に覚えていた。
今になって思い返してみると、その時何が起こっていたのか? 朧気ながら分かってきた。沢山の人がいた地下鉄の構内で、大きな揺れとその後の空間が変異して大量の魔物が出現し始めたのだ。
人々は大混乱にい陥いり、我先にと逃げ出す人々、何の抵抗もせず魔物に食い殺される人々。その中で雫斗の母親をはじめ女性や子供、年老いた人など逃げる事が出来ずにいる人たちを、守る人々の中心に雫斗の父親海慈がいたのだ。
早々に逃げ出す事を諦め、店舗の一角にバリケードを築き、戦えない女性や子供を囲い戦い抜いた、最後まで残って戦い抜いた人たちは多少のけがを負ったとはいえ、全員無事に生還出来た、最終的に魔物に抗い続けた集団が助かったのだ。
「そうだ、今なら正直に言うが死を覚悟した、守る人々が多すぎることもそうだが、戦おうと気概を見せる人もいたが、ずぶの素人だ。逃げ出す事も出来ないぎりぎりの状況で、せめて雫斗と悠美だけは守ろうと必死だった」
海慈はその時、死んでもおかしくない程の大怪我を負った。
バリケードの外で、魔物と死闘を繰り広げていた海慈達だったが、最後に残ったカマキリの化け物を海慈が相打つ形で仕留めた。しかし右腕は食いちぎられ、左足も粉々に砕かれ、右胸を鎌で貫かれて、誰が見ても致命傷だと思った、しかしカマキリの化け物から金色に輝く液体の入った瓶がドロップした。
その時の事を悠美は、神の啓示だったと言っていた、大怪我を負った夫を見て呆然としていたが、光り輝く液体の入った瓶を見て、此れを掛ければ夫は助かる、此れを飲ませれば、夫は死なないと確信したそうだ。
悠美は、落ちていた瓶を引っ掴むと、すかさず海慈にかけた、そして残った液体を海慈に飲ませた、すると海慈は輝きだし眩しい光に包まれた。
光が収まると、そこには何処にも傷のない海慈が横たわっていた、寝ている様に浅い呼吸をして死ぬほどのけがを負ったことなど噓の様に何事もなく横たわっていたのだ。ただ右腕と、左足の服はボロボロで、ジャケットの右胸には大きな穴と血がこびり付いていた。
その後、救助に来た海慈の同僚達に助けられて、地上へと帰還出来たのだった。
「でも生きて帰ってきた?、そうでしょう」。そう言う雫斗に、海慈はあの時の事がよみがえったのか「そうだな」と深いため息とともに答える。
「その時の記録を見たけど、浅い階はともかく僕たちのいた中層で自力で帰る事が出来たのは少数だったて書かれていた」と雫斗が続ける。
「今でもそうだけど、記録には中層で置いて行かれた、見捨てられた、モンスターを押し付けられた人達の、ダンジョンからの帰還の報告は有るけど。見捨てた人、押し付けた人たちの帰還の報告は無いんだ」と雫斗。
「そうなの?、でも押し付けた側は、報告なんてしないんじゃないの?」と悠美は言う。
「それも考えたけど、帰還した人たちは殺され掛けたんだから、必死で犯人を捜すでしょう?、それが皆無っておかしいよ」と雫斗は反論。
「だから僕たち次第なんだ、ダンジョンは僕たちの資質を見ているんじゃ無いかと思えてくるよ、まー僕の憶測だけどね」と締めくくる雫斗。
「確かにそうだな、・・・・しかしよく調べたな?」と感心した様に海慈が言うと。
「ダンジョンは怖いからね、調べる事は怠らないよ、だからまずは一階層を徹底的に調べるんだ」とこぶしを握る雫斗。
「ふむ、まだ2階層の蝙蝠は苦手かな?」と海慈が言うと。
「ゲッ!、苦手じゃないけど・・・ちょっとね」と誤魔化す雫斗。
「あら!、早く克服しないと、百花ちゃん達において行かれるわよ」と雫斗をからかう悠美。
第9話(その4)
自分のトラウマをからかわれた雫斗はヤバイと思い早々に立ち去る事にした、雫斗が1階層に執着しているのにはDカードを取得した時に2階層で蝙蝠との格闘したこと、百花の木の棒の一撃だったとはいえ気を失った事が後を引いているのだと、本人は勿論、周りでも薄々は感じている様なのだ。
周りに仲間がいたとはいえ、ダンジョンでしかも戦闘中に意識を手放したことが雫斗自身に軽い自責の念が在るのだ。その時は2階層で弱い魔物だったとしても、次はそうだとは限らない。その事が無意識の中で、自分の探索者としての資質に疑いを感じているのかもしれなかった。
雫斗は「ごちそうさま」と一言いうと食器を持って流しへと向かう。
食器を片付ける雫斗を見送りながら、海嗣は子供の成長は早いなと感じていた。最近までは、身長は伸びてもどことなく幼さを残していたのに、もうそんな事まで考えている様になったのかと、親馬鹿ではないが頼もしく思っていた。
目の前では良子さんの手を借りながら、夢中でご飯をかき込む幼い香澄の姿があった、この子も直ぐに成長して行くんだろうなと、漠然とした寂しさを感じていた海嗣だった。
雫斗は、流しに食器を置いて部屋へと上がる前に、悠美に話しかけた「母さん、余っているタブレット無いかな?、無かったら買ってもいい?」。
悠美は少し考えて「あるわよ、何に使うの?」。
「う〜ん、ダンジョンでのメモがわり?スマホだとまとめるのが面倒で」雫斗が自信なさそうに話す、メモ帳でも良いのだが濡れると使えなくなる。
「明日の朝でも良いかしら?、充電していないから使えるかどうか分からないから、でも三世代前の型落ちよ」と悠美が確認する。
「何でもいいんだ、これも検証の対象だから、じゃー香澄お休み」とご飯に夢中の香澄の頭をなでる。
頭を撫でられた香澄は、横目で見上げて雫斗を確認すると、咥えていたスプーンを振り上げて「おっすみ!!」と一言いうと、直ぐに目の前のご飯と格闘する。
クスと笑いながら「良子さん、父さん、母さんおやすみなさい」と良子さんと、両親に挨拶して自室のある二階へと向かった。
「ああ、お休み」。「おやすみなさい」。「坊ちゃま お休みナッサイです」。
それぞれ挨拶を返すと、階上に上った長男の事を思って皆が目を交わしあう、”ふ~~”とため息をついて悠美が話す。
「子供の成長は早いわね、あんなことを考えていたなんて」とまさに海慈が思っていた事を言う。
「雫斗は、思慮深い所はあるが、中々人前で自分の意見を言う事が無なかったからね、やはり昨日の魔物との関りがそうさせたのかも知れないね」と感慨深げに海慈が話す。
「あら?貴方も経験がお有りなの」と悠美が、からかいながら聴いてきた。
「おいおい忘れたのかい?、私は死にかけた事が有るのだよ、その後で人生観が変わったよ」と海慈が話す。
「あら!、雫斗の場合は多少男らしく成りましたけれど、貴方はだいぶガサツに成りましたものね!」と言いながら鼻で笑う悠美。
「おいおい!、ガサツは無いだろう、懐が深いとかワイルドとか色々言い方が有るだろう」と多少怒ったふりを海慈がすると。
「何を、夫婦喧嘩に発展させて〜いるのでっスか?、ここは息子の成長を喜ぶ所でしッょう」と嗜める良子さん。
”そうだな”と笑い合う海慈夫婦と良子さん、その中で我関せずと相変わらず、ご飯を食べている香澄の四人の夜は、静かに更けていくのである。
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