第3話  探索者協会の設立と役割 

ダンジョンを探索すると、いろいろな事が分かるかも

第一章  初級探索者編

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第3話(その1) 

 「この様に探索者協会の設立となった訳では有りますが、設立から4年余り。探索者としてダンジョンに挑まれる皆様の手助けとなる様に、日々頑張ってきた次第で有ります。正直申しますと多々至らない点はございますが、探索者の生命、財産等を守る事を第一として今日まで活動してきました。しかしどうしても未帰還者が出てしまいす・・・」

 今雫斗達は睡魔という強大な敵と戦っていた。早朝村を出て名古屋市に在る探索者協会名古屋支部で、探索者の資格を得るために講習を受けに来ていたのだが、午前中は探索者協会の成り立ちと役割について、協会の職員から講習を受けているのだ。  

 しかし内容が学校で習う社会科と大差なく、すでに学んでいる雫斗達にとって拷問でしかなかった。 

 要約するとダンジョンが出来た当初、各国の政治の中枢がダメージを受けた事と、歴戦の勇者たる軍人が軒並みダンジョンから帰還できなかった事で、初動が遅れる事になる。 

 各国は軍隊を中心とした組織(銃火器を持っている)によって魔物の討伐が行われたが、ダンジョン外ではおおむね討伐出来る魔物だが、事ダンジョンに入ると軍人を中心に未帰者が増えていった。 

 特に顕著なのは、戦闘を経験している古株の軍人の多くが、帰還できていなかった。疑問に思った軍関係者が聞き取りを行ったのだ。 

 しかし帰還できたのは戦闘未経験者と、軍に入りたての新米だけで、脱出してきた当初は錯乱していて、要領を得ない報告ばかりだった為、ダンジョンと未帰還者の関係性を紐づけする情報が少なかった。 

 ただ言える事は、戦闘を経験している軍人の多くが帰還できていない事から、原因は戦争に関わった事による何らかの行為によって、ダンジョンからの生還の是非が問われているのではないかと言われるようになった。 

 戦争とは、どう大義名分で言いつくろっても、その地域を占領するために、あるいは防御するために爆弾やミサイルといった尋常じゃない破壊力で建物や町を壊滅する行為である。 

 そして戦闘とは銃器で人を殺す、傷つける、行為に他ならない。ダンジョンはその行為に否を突き付ける結果になったのだ。 

 この日本は自衛隊を中心にして魔物の駆除をしていたが、自衛隊自体が戦闘を経験した事の無い特殊な軍隊と言って良いので、銃火器を使っているとは言っても、他の国の軍隊よりも未帰還者の数はかなり少なかった。 

 それでもダンジョンの出来る数に対応するには隊員の数が限られているので、首都圏と主要都市に出来たダンジョンの攻略とそのダンジョンから湧き出して来る魔物から、その周辺の人々を守る事で精いっぱいだったのだ。 

 見放された他の市町村は、独自に解決しなければならず警察官や消防士が事に当たる、しかし人員不足は否めず民間人の協力で何とか凌ぐことが出来た。 

 かくして自衛隊といった軍隊を管轄している国の政府と、独自に攻略を進めてきた民間人に分かれて、ダンジョンの探索を行う事となったが、意外や意外、銃火器を使っている軍人の方が階層攻略に躓いていた。 

 民間人の多くは、銃火器に頼ることなく、鈍器や刃物といった得物で魔物と対峙することを余儀なくされた。要するに肉弾戦を得体の知れない魔物に対して行ってきたのだ。 

 日本国内外を問わず、己の肉体だけで魔物に対してきた人達に、次第に変化が訪れる。要するに強くなっていったのだ、力だけではなく、素早さや耐久力、持久力に始まり、観察力や理解力、平常心といった精神面でも向上していったのだ。 

 外国、とりわけ共産主義や独裁者といった強権を是とする国家では、虐げられていた人たちを中心に探索者を保護する組織が生まれ、国家と言う権力に対抗するようになってきた。 

 当然国家権力に反抗してくる組織に対して、国は軍隊という暴力で抑え込みにかかったが、以前の力の無い民衆とは違い、魔物という怪物を相手に大立ち回りを繰り返してきた人達の集まりを、屈服させることが出来なかった。 

 いやそれ以前に、銃火器で脅して来る集団に、素手で立ち向かいボコボコにした後、武装解除の上、下着にひん剥いて開放したり。 

 それならと出て来た戦闘車両を尽く使用不能にされては、国家の威信どころか財政面で厳しくなり、交渉と言う話し合いで解決を図るようになっていった。 

 日本政府も例外ではなく、民間人が階層を攻略していく事に危機感を感じ、当初すべてのダンジョンを政府の管轄とする政策を打ち出したが、政府内外の反対と現実的に不可能だった事も有り断念した。 

 しかし此のままでは不味いと、事態を重く見た日本政府はダンジョン庁を設立して、ダンジョンからもたらされる産出物や攻略情報の囲い込みを図ろうとしたが、民間探索者の強い反発があり右葉曲折の末、探索者協会の設立を認めたのである、要するに保身に走る政府のお偉いさんは信用できないということでもある。 

 法整備をして、なんとかダンジョンからもたらされる利益を、税金として吸い上げたい政府と、命懸けでダンジョンからお宝を持ち帰って来る探索者の利益を守る、政府と探索者協会のせめぎ合いが今日まで続いている。 

 「ダンジョンの中での事は自己責任とは言え、ダンジョンの発生当初、無差別にダンジョンに入る事が出来ていたため、多くの人が犠牲となり甚だ由々しき事態となりました。そこで協会としてはダンジョン入場の際の規律を設けまして、探索者カードの取得から1年間は準備期間とし、3層ダンジョンもしくは攻略ダンジョンの5層までを条件付きで解放する事となりました。くれぐれもこの様な措置に関しましては、皆様のお命を守る為だと言う事をご理解いただきます様お願いいたします。只今からカード制作のための撮影を行います、この後の予定ですが午後からダンジョンの取得物の取り扱いに関しての説明と探索者カードの配布を行いまして終了となります、長い間のご視聴有難う御座いました」。 

 探索者協会の職員の話が終わった様だ。雫斗達は眠気を祓うとともに、凝った筋肉伸ばしながら撮影ブースへ向かうのであった。 

第3話(その2)

  いくつか在る撮影ブースの前に並ぶと、雫斗の前に割り込む一団がいた。「どきな! チビ助」雫斗の歳と大して変わらないリーゼントに眉毛を剃った強面の男が凄んで言い放つ。 

 人の良い雫斗は『チビ助ってあんまり変わらんじゃん』と思いながらも間を開けようとすると、後ろにいる百花に“ガッシ”と肩を掴まれて。 

 「なによ、割り込む気。後ろに並びなさいよ!!」と百花。  

 「なんだと〜!。お前ら僻地の田舎もんじゃねぇーか、地元の俺らに場所を譲りな」と持論を展開する強面くん。 

 「ぷぷぷー、今時そんな事を言うなんていつの時代から来たのかしらねー。顔だけじゃなく頭まで時代遅れなんてお可哀想だこと」

 百花さん、男に・・・いやいや、人として顔のことをとやかく言うのはどうかと思うよ、ほら茹っている茹っている。 

 「うるせー、人の顔に難癖付けやがってテメーの顔も、かおも、・・・・・・顔が良いからって調子に乗るんじゃねぇぞ、大体おまえの様な気の強い女じゃーモテねぇだろ、憂さ晴らしに相手構わず当たり散らすんじゃねぇ〜」

 おお〜言い直した、強面くん案外正直かも。 

 「お生憎様、私はモテてモテてモテまくっているわよ。貴方達良い加減にしなさいよ、並ぶ時は後ろに並ぶこれは常識よ常識、貴方頭悪そうだからもう一度言うわよ! 常識。ほらサッサと後ろに行きなさい、最後になるわよ」

 と百花がうるさいから後に行けと言う。 

 ”うん確かにモテてるね、小学生の低学年の子達に、百花は思いっきり遊んでくれるもんな~、遊んであげているっていうより本気で遊ぶもんな〜”。と割り込まれそうになった当事者の雫斗は我関せずという様に、ぼんやりとあらぬ事を考えている。 

 これだけ騒いでいると協会の職員達に気づかれると思ったのか、(百花の狙いもそこなんだけど)仲間の一人が強面くんの後ろ襟を掴み引きずりながら「いくぞ」と一言。 

 引きずられて行く強面くんと、見えなくなるまで変顔バトルをしていた百花がドヤ顔で振り返る。“アッこれは御礼を期待している顔だ”気付いた雫斗はすかさず「ありがとう」と答えると。 

 「どういたしまして、雫斗も気をつけなさい、これから探索者としてやっていくなら、舐められたらだめよ」

 と鼻息も荒く百花が話すと。どう舐められるのかは分からないが「そうだね」と雫斗は気の無い返事をする。 

 彼女からするとこれから探索者として活動していく事に、どうにも気概のない彼に活を入れたかったのだけど、相変わらずの雫斗にため息しか出なかった。 

 雫斗本人は、ただ単純に不思議の巣窟ダンジョンに興味があるだけで、べつにダンジョンを攻略しようとか考えている訳ではないのだ。階層を突破して最前線で活躍したい百花達と雫斗では、ダンジョンに対しての思い入れが違うのは当然の事なのだ。 

 そのうち雫斗達の順番が来て撮影ブースに分かれて入って行く、中には不思議な器械の前に椅子があり職員が器械の後ろから声をかける。 

 「椅子に座ってDカードを前のレンズに掲げて下さい」

 言われたとおりにすると。 

 「高崎雫斗さんですね、Dカードはもうよろしいですよ、ではこれから撮影しますねー、立体的な撮影になります。正面のレンズを見てください、では〜ゆっくり上を見てください、四角の印が見えますね、はい正面に戻して、足元の印を見てゆっくり正面に戻して、次は右でーす四角の印が見えましたらゆっくり戻して、はい〜同じ様に左を見て〜、はい戻して終了です。お疲れ様でした」

 あっけなく終了した時間にして1分も掛からなかった、午後1時に同じ会議室に集まる様に言われて席を立つ。 目の前にある不思議な器械には興味があるが、後から撮影する人達の邪魔になるので、渋々ブースから出て百花達を待つ。 

 この機械もダンジョンからの恩恵の一つらしい、Dカードを掲げたレンズの様なものはダンジョン産で、此れから取得する予定の探索者カードに、Dカードと紐づけされるみたいなのだ。  

 どうやってデーター化出来たのかは詳しい事が分かっておらず、ただ試行錯誤した結果、偶然自分たちが理解できる形のデーターに変換できたことで、自分の手から離す事の出来ないDカードの代わりに、使い勝手の良い自分たちの理解の出来るデーターを使った、探索者カードを使用することにしたのである。 

 「あ~お腹すいたね、何処で食べる?」

 開口一番、百花が腹が減ったと訴える。 

 「探索者協会のフードスペースでいいんじゃない?、美味しいと評判だし」

 弥生がそう言うと、”近いしいいね”ということで、みなで向かうことにした。 

 「だけど僕たちが利用できるのかな?」雫斗がそう言うと。

 「あら聞いていなかったの?撮影の時に渡されたカード、臨時の探索者カードとして使えるみたいよ」と百花が言う。 

 「へーそうなんだ」

 確かに渡されたカードには、数字と協会のロゴマークしか書かれていないが、渡された時出来上がったカードと引き換えになるから無くさない様に言われたっけ。 

 食事を終えた後、割と広い探索者協会のロビーでまったり時間を潰して会議室へと向かった。 

 時間になり午後の講習が始まった、主にダンジョンからの取得物とその取り扱いについての説明だったが要約すると。  

 一つ、三層ダンジョンもしくは生産ダンジョンの一層から三層までの階層から得られた物は、原則自由に売買出来る、ただし10%のダンジョン税と5%の教会への手数料が掛けられる。 

 一つ、三層以降からの取得物に関して、原則すべてダンジョン協会の買い取りもしくは仲介しての販売とし、当然10%のダンジョン税と5%の手数料がかかるが、ダンジョン内での探索者同士での、販売、譲渡、物々交換に関してはその限りではない。 

 つまりダンジョン内での探索者同士のトラブルには、原則協会は原則関知しないが。ただし悪質な場合は、厳正に対処する。  

 一つ、ダンジョンからの取得物を探索者協会を介さず、ダンジョン以外で他者に販売した場合(10%のダンジョン税と5%の手数料を払わないと)、罰則が与えられる。最悪探索者の資格停止もあり得る。などなど要するにダンジョンから持ち出す取得物を販売する時は、税金が掛かりますよと言う事らしい。 最後に各自探索者カードを渡されて、講習を終えた雫斗達は村へ帰る為、探索者協会の建物を後にするのだった。 

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